117話 ガルラの婚約者
「本当に一人で火竜を倒したのか・・・ガルフォード様の再来だな。フィナといい、お前達どうしたらそんなに強くなった。あと賢さもだ」
今は村の広場に全員招待されて歓迎されている。そりゃあ、新村長が俺達を歓迎するって言うんだもん、当然村人は全員その言葉に従った。周りではガルラの仕留めた火竜や俺達が提供したオーク肉を村人全員で調理している。俺も好感度を上げる為、肉以外にもワインを出している。フィナはフィナで今まで仕留めた魔物の肉や素材を村に大量に振舞っている。特にフィナがダークトロルを出した事で村全体のテンションがMAXになった。
「奴隷として捕まっていた所を主殿に買われてな。そこから訓練するようになってからだな。強いぞ、主殿達は、本気を出せば私でも勝てん」
「いや、ガルちゃんそれはいいすぎだよ。訓練で勝てた事ないよ」
「そうよ、毎回ボロ負けじゃない」
「それは魔法抜きで勝負してるからだろ。レイ達が魔法を使えば私は瞬殺されるぞ」
確かにガルラの言う通りだな。俺でも魔法有りでやれば二人には多分負ける。ヒトミは白い炎纏えば武器も影も燃やすから手の打ちようがない。レイには魔力を込めた『光』で俺の影無効化して、魔法連発されたら負ける。水谷はまだ経験が少ないから俺とガルラでも何とかなると思うけど、多分1年もしないうちに抜かれるだろう。それだけ『属性魔法』は極めると強すぎる。
「そ、そんなにか・・・賢さについてはどうだ?俺の知ってるガルラは10まで数を数えられなかったんだぞ。それが俺よりも賢くなっているのはどう言う事だ?」
ガルラって俺と会った時はそんなレベルだったかな?勉強はヒトミに任せていたから『生活魔法』が全く使えなかった事しか覚えてない。
それが今や村長より賢くなったんだもんな。・・・村長レベルでも賢いのか?
「ヒトミに毎日勉強させられた。しないと肉無しのご飯になるし、次の日の勉強時間が加算される。おまけにガルフォード様に誓いを立てさせられた」
ガルラが当時を思い出してしみじみと言うが。毎日30分の勉強をものすごい嫌がったからどんどん時間を減らしていって今では1日10分になっているから、そこまで厳しくはない。ないのだが、それを聞いた周りからは、
「あのガルラが毎日勉強するとは、セクターさん泣いてるぞ」
「『生活魔法』も覚えないってセクターさん嘆いていたもんな」
「『たくさん』か『少し』しか理解してくれなかったガルラが、計算まで出来るとは・・・」
「これ、ファルも驚くんじゃね?あいつは・・・また籠ってるのか。誰か呼んで来い」
驚きの声があがる。ガルラの頭の悪さは村でも有名だったらしい。そして村人の言葉を聞いて何故か途端にソワソワし始めるガルラ。
「うむ。よし今日はこれぐらいでいいだろう。私は部屋で休む。主殿、扉を出してくれ」
何かに怯えるようにガルラが俺に言ってくる。少し様子がおかしいがどうしたんだろう。
「ガルラ、お前の家ここだろ?久しぶりの帰郷だし、実家がどうなってるのか見に行って来いよ」
「おお、ガルラの家はファルが使っておるぞ。別に許嫁同士だし構わんよな?お前もセクターもいないから誰か家の面倒を見てないとすぐに家がダメになるからな」
ハハハと笑う族長の答えに絶望した顔でガルラが俺に縋り付いてくる。
「主殿!頼む!扉を出してくれ!もう私の実家は主殿が出す家だけだ!い・・急げ」
「どうしたのよ、あんた?」
ガルラの異常な様子に気付いた水谷が不思議そうに聞いてくる。ヒトミとレイも少し心配そうな目でガルラをみているけど、フィナだけはいつもと変わらないというより少し呆れた様子だな。
!!
心配を余所にすぐにガルラとフィナが何かに反応した。『探索』では敵はいないが、それに気付いた俺達はさり気なく戦闘態勢に入る。
「あ、主殿!急げ!早く!間に合わなくなる!」
尋常じゃないガルラの様子だけど、他の獣人がほのぼのした様子でガルラを見ているのが気になるし、フィナが心底疲れた顔をしているのも気になる。気にはなるが、ガルラの言う通り扉を出してやると、ガルラは慌てて駆け込もうとする。
ビシッ!!!!
扉に駆け込もうとするガルラの足が止まった。・・・これは影拘束?睨みつけてくるガルラに慌てて俺じゃないと手を振る。すると、すぐにレイを挟んだ所で座っている真犯人のフィナを睨みつける。
「フィナアアアア!貴様!許さんぞおおお!」
今まで見た事がないぐらいフィナにマジギレしているガルラ。え~っと何してんの?何でそんな険悪な空気になってんの?
「ふ~んだ。さっきお姉ちゃんも私をお父さんに突き出したじゃない!お返し!それにファル兄の相手は婚約者のお姉ちゃんの仕事でしょ」
ツーンとした感じで答えるフィナに、今にも掴みかかっていこうとするガルラだが、影で拘束されて全く動けずバタバタしている。だから『光』っていうか『生活魔法』は全部覚えろって言ったんだ。
「ガルラ!!フィナ!!」
状況が理解できない所に一人の獣人が飛び込んできた。髪はボサボサ、服はよれよれ。顔立ちはフィナに似ているが、やつれて目の下に隈が出来ている。これで眼鏡があれば徹夜続きの研究者って所だろ。
「・・・ファル」
「ファル兄・・・」
2人の様子からこれがフィナの兄貴でガルラの婚約者だと理解した。そしていつの間にかフィナがガルラの斜め後ろぐらいに移動していた。
「うわあああああああ!二人とも無事だったか!よく帰って来た!心配したぞ!」
「ぎゃああああああ!何をする!ファル!やめろ!落ち着け!私達は無事だ!」
フィナの兄貴・・・ファルが二人を目に止めると涙をボロボロ流しながら、こちらに向かって走ってきて二人を抱きかかえるように飛びついてきた。抱きしめられたガルラは今まで聞いた事が無いような悲鳴をあげる。ガルラの尻尾が3倍ぐらいに大きくなったのを見るのはこれが初めてだ。フィナは抱き着かれないようにさり気に場所をガルラの真後ろに移動しているし。
「ううっ。良かった。心配したんだぞ。ううっ。ただよく無事に帰ってきた。嬉しいよ~。うわあああん」
「大人が声を上げて泣くな!みっともない!私の婚約者ならもっと堂々としていろ!」
「あ~、おにいちゃん。ただいま~わたしはげんきだからしんぱいしないでだいじょうぶ~」
大声を上げて泣くフィナの兄貴と叱っているのか宥めているか分からないガルラ、感情の無い棒読みで兄に答えるフィナ。何となく二人が今まで言葉を濁して教えてくれなかった理由が分かった。
「私はヤクモ村村長ガルオリーグの息子でガルフィナの兄、ガルファル―ドと言います。気軽にファルとお呼び下さい。そして、ガルラとフィナを無事連れて帰って頂き、本当に有難うございます。この恩は一生忘れません。大した役に立ちませんが、ご命令頂ければ矢除けぐらいには活躍させて頂きます」
・・・いや、矢除けとかしないから。それで死んだりしたら、ガルラ未亡人になるぞ。心の中でツッコみを入れつつ、こちらもしっかりとお礼を返す。しばらくは話をしてみたがファルは人に対して偏見がないのか、ものすごい礼儀正しく接してくれる。唯一気になるのは、隙あらばガルラの手を握ろうとしたり、尻尾を絡ませようとしたりイチャつこうとする所だ。・・・まあ悉くガルラから拒否られている。
「私は力が無いので魔道具を趣味で研究しています。あんまり役に立っていないんですけどね」
力無く笑うファルだったけど、俺達はファルの持って来たその魔道具に食いついた。
「こ、これって懐中電灯じゃないか?」
「これは火の調整が出来ればコンロになるんじゃない?」
「これも魔石があれば水道みたいに水が出てくる」
召喚組4人はファルの作ったと言う魔道具を見ながら、どういうものか理解し驚いている。まさかフィナの兄貴って天才か?本人があんまり価値を感じていないのは『生活魔法』で全て代用できるからだろう。但し組み合わせればかなり有用だ。
「そう言えばファル、お前も捕まってなかったのか?」
4人が宴会そっちのけで騒いでいる中、ガルラ達はガルラ達で話をしている。
「ああ、こいつは見限ったって言っても少しは鍛えないといけないからな。あの襲撃のあった日は俺達の狩りに連れていっていた」
村長の答えが聞こえた俺は何か違和感を感じた。村長達がいない時を狙った襲撃?
「そう言えばその襲撃の時、ガルラもいたのに敵の接近に気付かなかったのか?」
「その日は誰かが間違えてディーロの実を燃やしたんだ。臭い袋の原料の実だから主殿なら分かるだろ。辺り一面に臭いが充満して接近に気が付くのが遅れた」
臭い袋の原料か・・・基本は魔物から逃げる時に臭いで追われないようにする道具だけど、俺は師匠から他の便利な使い方も教えてもらった。ガルラとフィナからはこれを使うと烈火の如く怒られるから、最近は使っていない。
「偶然にしては少しタイミング良すぎるね」
フィナがそう言って少し考え込む。ガルラはファルのスキンシップを拒否するのに忙しそうだ。まあ、こういう時はガルラは自分の担当じゃないから考える事すらしないもんな。
「フィナちゃんそれは考え過ぎだろう。間違えてディーロの実を燃やすなんて珍しくもない。大体1~2ヶ月に1回ぐらいで誰かが間違えて燃やすじゃないか」
村長はあんまり気にならないのか。これが獣人の普通の反応なのかもしれないが、みんなには俺が師匠やギルマスに教えられた注意を聞き飽きるぐらい言っているので、当然フィナは色々考えてくれる。ガルラは・・・まあ、あいつはいい。
「そう言えばあの日って珍しく『イクモ』村の人達がいたけど、あの人達はどうなったの?」
「そりゃあ、客人だからな。セクター達が最優先で逃がしたらしいぞ。だから無事だ」
「ガル。『イクモ』村って?」
「大森林に獣人の村は8つあってな。そのうちの一つで族長が暮らす一番大きな村だな。村長会議もそこで行われる」
結構重要というより獣人族の国の首都って感じなんだろう。
「確か、大森林の外側に4つ村があって真ん中に3つ深部に1つの村があるって読んだ事あるよ」
「ヒトミの言う通りだ。その中でも私達の村は街道や交易場と一番近い。だから狙われたんだろう」
「それで?あと何人ぐらい帰ってきてないの?」
「主殿のお願いをサイ国は守ったみたいで、少し前に結構な数が戻ってきたそうだ。それで今も戻ってきていないのは12人だそうだ。で、戻って来た奴等に聞いたが、男はどうも鉱山送りになった奴等もいるみたいだ」
鉱山か。そっちは注意してなかったな。これからは街や村だけじゃなくて鉱山も調べるか。あとは、どこか大きな開拓団とか工事してる所とかだな。
「ガルラ、僕たちはそろそろ・・・」
「ふぇ?!・・・い、いやちょっと待て。私は今日は家に帰るぞ」
しばらく飲み食いしてまったりしてきた所で、ファルがガルラを誘うと、ガルラは大慌てとなった。家に帰るってお前の実家ここじゃねえか。
「そうそう、聞いたかもしれないけど、ガルラの家は僕が住んでるよ。じゃあ、帰ろうか」
「ち、違う・・・私の言っている家は主殿が・・・・」
「フフフ。久しぶりの実家よ、のんびりしてきなさい」
「ガルちゃん、頑張ってね」
「ヒヒヒ、ガルラ、明日詳しく話を聞かせてもらうからね」
3人とも今日何が起こるか分かってて言ってるな。すごい笑顔でガルラを送り出しているし。
「言っとくが、今日はしないぞ」
「何で?次の発情期って約束だったじゃないか?」
「その時は捕まっていたから仕方ないだろう」
「二人でガルフォード様に誓ったじゃないか、ガルラはそれを破るのかい?お義父さんとも約束したよね?」
「ぐ・・・・だ、だが」
中々具体的な話をしながらガルラとファルが実家に歩いていった。ガルラも諦めたのかファルが手を繋いでも拒否していない。しかしそんな事までガルフォード様に誓わないと駄目なのか。
「ガルラの奴は諦めが悪かったからな、まあガルラの扱いが村で一番上手いのはファルだからな。なし崩し的にガルフォード様に誓わせたんだよ。じゃなきゃいつまで経っても先に進まんからな」
村長が聞いてもいないのに教えてくれた。フィナは別の場所で同じ年ぐらいの子達と楽しそうに話しているからこの会話は聞こえていないはずだ。
「そう言えばガルラの奴、よく結婚する気になったな?あいつの事だから自分より強い奴じゃないと結婚しないって言いそうだけど・・・」
「その通りだよ。あいつはそう言って結婚しなかったから、各村からも強者を集めて勝負させたんだよ。あいつの強さは獣人族の中でも有名だったからな。強さを求める獣人族にはあいつは人気があってな、結構な数が集まったんだが、悉く倒しやがったんだ。俺もセクターも頭を抱えたぞ」
ああ、その時の光景が簡単に想像できる。そして笑いながら相手を殴り倒しているガルラも・・・
「それじゃあ、ファルってガルラより強いの?」
「いや、フィナちゃんがお兄ちゃん弱すぎるとか言ってなかった?」
「あんまり強そうじゃなかったわよ」
だよなあ。水谷の言う通りあんまり強そうじゃなかったよな。だけどガルラはやけにビクビクしていたのは何でだろう。
「それはな、その勝負の時にファルの奴も参加してガルラにボコボコにされたんだよ。で、最後はガルラに向かって、自分がどれぐらいガルラの事を思っているか大声で叫び出したんだ。あれは聞いていてこっちも恥ずかしかった。ガルラ本人なんて尚更だろう、最後は顔を真っ赤にしたガルラが『もうやめて』と縋り付きながら負けを認めたんだよ」
・・・あのガルラが・・・どんな状況だよ。すごい見てみたかった。あっ、レイ達の目がキラキラしている。これは明日揶揄う気まんまんだな。
「で、約束だからそのままファルと婚約させた。ついでにファルへ暴力を振るわないとガルフォード様に誓わせたな。発情期の事もその時にだ。」
それでファルが抱き着いても嫌がる素振りは見せても殴ったりしなかったんだな。あと、下手な事すると、また愛を叫ばれるとでも思ってるのかな。
「な、なんで??族長は何を考えているの!!」
村長とガルラの昔話を肴に酒を飲んでまったりしていると、村の獣人と話をしていたフィナが大声をあげた。
「お父さん!大ケガした人達を治して貰えないって本当なの?順番を待っているとかじゃなくて?」
「あ、ああ、こっちも何回もお願いしているんだが、族長が必要ないと言っていてな」
「な、何で?今回は獣人同士の喧嘩とかじゃないから、エルフに頼んでも問題ないはずだよね」
エルフへの治療をお願いするのも色々あるみたいだ。まあ種族が違うし、仲がいいと言っても獣人は獣人、エルフはエルフで別れて暮らしているみたいだし。
「俺からもそう言ってるんだが、族長は何故か首を縦に振らんのだ。こっちとしても勝手にエルフに頼む訳にもいかんし、困っているんだよ」
「・・・分かった。族長の事は一旦置いておいて、今は治療を行うのが先だね。お父さん、私が治すから、けが人を全員連れてきて」
「いや、連れてきてもフィナちゃんにはどうにも「いいから!連れてきて!命令!」
村長の言葉を遮り指示を出すフィナ。そう言えば村長は気絶してたからフィナが回復魔法使えるの知らないのか。そうして集められた怪我人達。結構いるけど集まった所でケガの酷い人から順番に並ばせ、フィナが回復魔法で治療を始める。
「え?ええ!!フィナちゃん回復魔法使えるの??」
「お父さん。五月蠅い。みんなも集中してるから黙ってて」
フィナが回復魔法を使うと獣人から驚きの声があがるが、フィナの言葉にみんなすぐに口を塞ぎ。目だけで会話をし始めた。
「ハァ!ハァ!ごめん。ちょっと魔力切れみたいです。ごめんなさい」
結構な数を回復し、残り10数人と言った所でフィナが遂に魔力切れとなった。これは俺達パーティメンバーでも初めての事だ。今まで誰も魔力切れなんか起こした事なかったから考えた事もなかった。そう言えば師匠から魔力切れはかなり辛いって教えてもらったな。
「村長。魔力切れはかなり辛いみたいだから、フィナはこのまま家に連れて帰ってくれ。残りの治療はレイ、頼んでいいか?」
「当たり前じゃない。元からそのつもりよ」
「お姉ちゃん、ありが・・・とう」
村長に抱きかかえられながらレイにお礼を言うとそのまま目を閉じた。微かに寝息が聞こえるので疲れて眠ったみたいだ。
「はい、じゃあ、どんどん行くわよ。回復魔法は私がフィナに教えたから心配しなくても大丈夫よ」
そうして村長がフィナを家に寝かせて戻って来る頃には治療は全て終わっていた。
「お前達は・・・本当に何者だ・・・いや、それよりも村人の治療助かった。有難う」
戻って来た村長が既に治療が終わっている事に驚きながらも俺達に頭を下げる。
「別にお礼はいりません。フィナとガルラの村ですから、私達はいくらでも手伝いますよ」
レイが代表して答える。その言葉に俺も異論はない。
「ハハハ・・・この村の為にここまでしてくれるとは、本当にあいつらいい主に買われたんだな。それで?あんた達はハイエルフ様に会いに来たと言ったな?」
村長の質問にみんなして頷く。そう言えば会いに来たと言ってもどうやって会うかは考えてなかった。ガルラが任せておけとか言ったけどどうするつもりなんだろ。
「多分、会う事は出来ないから諦めた方がいい」
「何でよ!」
村長の答えに水谷が噛みつく。
「別にお前等だからと言っている訳ではない。あのお方は大森林の最深部で黒龍様と静かに暮らしている。お会いになるのはエルフの中でも身内だけだ。我々獣人は族長が就任の挨拶に行く時だけ最深部へ立ち入るのを認められている。それ以外の獣人、エルフでさえも最深部への立ち入りは禁止されている」
「無理やり入ると?」
「ハイエルフ様が声を掛ければ、エルフ、獣人全てが敵になる。そしてお二方ともだ。つい最近人族の集団が無理やり侵入しようとしたが、あの方達が撃退した」
別に喧嘩に行く訳でもないし、無理やりは無しだな。
「そう言えばハイエルフって強いのか?」
集団を撃退って強いんだとは思うけど、どれぐらい強いのか気になる。
「さあな、見た事がないから強いと聞いたとしか言えん。ただ建国王様達と『皇帝』を倒したし、『大頭領』、『教祖』もあのお方達が倒したんだ、その強さは計り知れん」
「・・・・はっ?」
この日一番マヌケな声が出た。俺が聞いていた話と違う。
「ちょ、ちょっと待て。『皇帝』は分かるが、『大頭領』と『教祖』は人が倒したって聞いてるぞ」
「人族ではそう伝わっているのか・・・何て恥知らずな・・・だが違うぞ、『大頭領』と『教祖』を倒したのはあの方達だ。あの方達は『影魔法』使いとの闘い方を唯一知っているからな。その時だけは森から出たんだ。言い伝えでは建国王様が死ぬ前に出した命令だと聞いている」
ま・・・マジか、それが本当なら対『影魔法』使いのエキスパートじゃねえか。俺が使えるって知って襲って来ないよな。いや、友好的に行けば大丈夫だろ。『大頭領』や『教祖』は悪い事してたから倒されたんだ。少し不安になりつつも何でハイエルフが倒した事が伝わっていないのか、人が倒した事になっているのか不思議だったけど、結局考えても答えは出る事はなかった。