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影魔法使いの冒険者  作者: 日没です
7章 大森林のBランク冒険者
122/163

115話 ヤクモ村

 大森林に入ってからは、いつもの移動だと早すぎて向こうも警戒するからという理由で、ガルラとフィナに案内されながら全員徒歩で村に向かった。そうして森の中を2時間程進んだ所で、マップに俺達を取り囲むように移動してくる赤丸の反応が近づいてきた。


 一応どうするかガルラに『念話』で確認すると、ヤクモ村の奴等だから手出し無用でこのまま声を掛けられるまで進むと指示があったので、その通りに進む。


「止まれ!・・・無事だったか、ガルラ、ガルフィナ。・・・そこの人族!何故森に入ってきた!許可なく入ると殺されても文句は言えんぞ!まあ我らも人族に思う所があるから逃がしはしないがな」


 しばらく歩くと痺れを切らしたのか一人の体格の良い男の獣人が、声を掛けながら森から姿を現した。ガルラとフィナの顔を見ると心底安堵したような表情を見せるが、次に俺達に向けた視線は殺気が篭っていた。さて、どうしたもんか。・・・ガルラとフィナに任せておけばいいか。


「待て、主殿達は我らヤクモ村の恩人だ。手を出せばお前達だろうと容赦しない。お前たちの中にも二人ほど主殿に助けられた奴がいるから分かるな」


 ガルラが殺気を纏い周囲に言うと、隠れて俺達を囲んでいた獣人が二人飛び出してきた。


「みんな、待て!ガルラの言う通りだ、この人が捕まっている俺を助けてくれた!もう駄目だと思っていた所を助けて貰って、そこから体調が万全になるまで面倒を見てもらった」

「俺の方は体力が戻ると既に解放されていたチビを連れて村に戻るように頼まれたんだ。何も見返りを求められなかったし、チビも何もされなかったどころか毎日美味いもん食わして貰ったと言っていた。」


 以前捕まっていた所を助けた二人が、俺達に背中を向けて膝をついて森の中にいる仲間に向かって大声で叫ぶ。マップでは何人か赤丸じゃなくなったから戸惑っているんだろう。


「し、しかし・・・お前等がそう言っても・・・村長が・・・」

「お父さんには私から話をして責任は私が取ります。前みたいな奇襲が怖いならすぐに誰か報告に行っても構いません。これ以上ここで私達の主様達の足止めするなら私もガルラお姉ちゃんも村の敵として押し通ります!」


 しっかりと背を伸ばして大柄な獣人に真っ向から言い放つフィナ。最初に奴隷商で会った時の雰囲気は消え去って、年不相応に立派になっている。


「・・・し、しかし・・・でも・・・はあ、分かりました。但し念の為、村長に先触れは出させてもらいます。・・・・あとは、お前等に言っておくが少しでもおかしな動きをしたら殺すからな。周りは囲まれているから逃げ出そうとしても無駄だぞ」


 リーダーの人がフィナの強い視線に観念したのか諦めるように言うが、俺達には相変わらず厳しい口調で殺気の籠った視線を投げてくる。そして周囲からも似たような視線を感じる。俺は『探索』があるから囲まれている事は分かるけどみんなはどうなんだろうと思い聞いてみた。


(分かるよ。数は分かんないけど、囲まれているのは分かるわ。これなら攻撃してきても対処可能ね)

(私もレイちゃんと一緒かな)

(マジで?私何となく周りから嫌な感じするかなぐらいなのに・・・。本当にあんた達どれだけ強いのよ!)


 レイとヒトミは正直な答えだろうから、これなら大丈夫そうだ。問題は水谷だ。これはもう少し訓練が必要だな。今度からは魔物の巣で鍛えていくか。






「ガルフィナ!!ガルラ!」


 ガルラ達の故郷に着くと見るからに攻撃特化型装備をした獣人が20人ばかり村の入口で待ち構えていた。防具装備しないのは獣人族共通みたいだ。その中で一番豪華な武器を持つ強そうな奴が俺達の姿を見つけると、手に持つ武器を投げ捨て大声で叫びこちらに土煙を上げながら猛ダッシュで走って来た。


ヒョイ、ヒョイ。・・・ドガッシャーン!!!


 両手を広げて走ってきた獣人を二人は軽く躱して、あろう事かフィナがトンッと背中を押すもんだから、その勢いのまま派手な音を立てて転がっていった。感動の再会とは程遠い出来事が目の前で起こっている。・・・ガルラもフィナも二人とも結構酷くないか?と思ったが倒れた獣人は何事もなく立ち上がって、再び同じように向かってきた。


「戻ったぞ!村長」

「お父さん。ただいま」


 今度は躱すことなくガルラがその突進をこん棒で受け止めてしっかりと帰還の挨拶をする。この人がフィナの親父さんか。村長は村一番の強さの人が任命されるって話の通り、かなり強そうだ。


「おお!本当に!本当に!よくぞ二人とも戻った!!」

「きゃあああああ!!!やめて!お父さん!顔近づけないで!!!放して!」


 村長の勢いが止まるとガルラがフィナの襟首を掴んで村長に渡す。受け取った村長がフィナを抱きしめてキスしようとするが、それを必死で叫びながらフィナが阻止する。なんともほのぼのした光景が広がっているが、当のフィナはガチで嫌がっているな。反抗期かな?


「ど、どうしたんだ?フィナ?パパのお嫁さんになるんじゃなかったのか?」

「そ、そんな昔の話いつまで言ってるの!!いつまでも子供扱いしないで!!それにお兄ちゃん達もいるんだから、村長としてしっかり対応してよ、恥ずかしい!」


 フィナにそう言われると、抱き上げていたフィナを渋々下ろし俺達を振り返る。その顔はさっきまでと違い、しっかり村長の顔になっていた。


「・・・あー、ここまでガルラとフィナを連れてきてくれた事、村の住人を解放してくれた事については先に礼を言っておく」


 感情がまるで籠っていない声で村長がお礼の言葉を俺達に向かって述べる。ガルラとフィナが何か言いたそうに村長を見ているが、村長は気付いていないのか顔を向けない。


「それで?誰がフィナとガルラの主なんだ?二人を買い上げてここまで連れてきてくれたお礼を言いたい」


 今度は先程と違いにこやかな顔で聞いてくるので、俺は特に警戒する事もなくに普通に手を挙げた。その瞬間、


ピシッ!!!

ガキン!!!!!


 俺が手を挙げた瞬間村長からの拳が飛んできたが、レイが気を利かせて壁を作ったので俺まで届かなかった。殴りかかってきたのに反応して俺は自分の武器で反撃する所だった。。既に剣の柄に手を掛けていたのであと一瞬遅かったら村長の腕を切り落としていただろう。危ね~。


「村長!!」

「お父さん!!??」


 当然ガルラとフィナから抗議の声があがるが、村長は聞こえていないのか二人には何も答えず俺を親の仇のような目で睨みつけてくる。


「どういうつもりか聞いてもいいか?」

「貴様がフィナを好き勝手弄んだのかあああ!殺してやる!!!!」


 うわ!勘違いされてる。村長さん目を血走らせて顔が偉い事になってる。正直怖い。


「ちょっと!お父さん!何か勘違いしてるよ!弄ぶって何?お兄ちゃん私に何もしてないよ!!」


 フィナが大声で叫んで止めに入るが、そんな事お構いなくレイの『光壁』をガンガン殴ってくる。


「今のもフィナに命令したのか!!こんなに幼い子にまで奴隷の首輪をつけやがって!!俺の村を襲うだけじゃなくて大事な娘までこんな風にしやがって!!!!」


ああ・・・・、これは村長の、親の気持ちを考えたらこれだけ怒るのも納得だな。娘に奴隷の首輪をつけた奴だ、何でも命令できるから、これまで何をされたか考えると俺が憎くて仕方ないだろう。俺もガルラとフィナの首輪付けたままで、ここまで来たのは失敗だった。


 仕方が無いので覚悟を決めてレイに『光壁』を解除するように言う。


バキッ!!!!!!!


「ギンジ!!」「ギンジ君!!!」「土屋!!!!」「主殿!!」「お父さん(怒)!!!」


 解除した瞬間、村長に殴られて吹き飛ばされる。日頃の訓練で同じような痛みがあるし覚悟していたと言っても痛いもんは痛い。と思ったらすぐに痛みが和らいできた。レイが回復魔法使ったな。回復した俺が顔を上げると、村長の周りに無数の『光矢』、『火矢』、『水矢』が出現している。そしてガルラとフィナが村長の首にナイフを押し当てていた。みんなの尋常じゃない殺気に、周りの獣人はおろか村長でさえ動きが止まっている。ちょっとみんな怒り過ぎじゃね?


「みんな、落ち着け。今回の件は俺が全面的に悪い。レイ達は魔法を消すんだ。ガルラ達も離れるんだ」


 俺が慌てて声を掛けると分かってくれたのか、みんな渋々ながら言う通りにしてくれる。そして俺は未だに固まって動けない村長の前に立つ。


「村長、今回の件、勘違いさせて悪かった。二人とも首輪を付けさせているけど、トラブルに巻き込まれない為だった。信じて貰えないかもしれないけど、二人に手を出した事はないから、その事は二人に後で確認してもらってもいい」


 まずはきちんと頭を下げて謝る。ただし、これだけでは多分納得はしてくれないだろう事も想像できるし、次に向こうがどう言ってくるか予想もできる。


「ぐ・・・・ぐ・・それならフィナとガルラを今すぐ奴隷から解放しろ!」


 殴られても俺が意外に素直に謝った事と、みんなの殺気がいまだに収まっていない事に混乱しつつ俺に怒鳴りつけてくる村長。


「ガルラ、フィナ、今まで色々俺の無茶に付き合わせて悪かった。お前たちは今から自由だ。好きに生きろって言いたいけどガルラは犯罪奴隷だからな、期間が終わるまでは大森林から出るなよ。出たらお前だけじゃなくて俺まで捕まるからな」

「え??」

「あ、主殿?」


 そう言って二人の首に手を当てて影で首輪を回収する。首輪の無くなった二人は何か違和感を感じるが気のせいだろう。それよりもガルラとフィナの抜けた穴を考えないと、と考え出そうとすると、


「うわあああああああああ!!!!く、首輪があああああああああ!!!」


 フィナが首をさすりながら大声で泣き始めたので、俺達もヤクモ村の連中も驚いた顔でフィナに注目している。


「首輪!!私の・・ヒック!大事な・・ヒック!・・・家族の証。うわあああん。お兄ちゃんが取ったああああ」


 号泣しているフィナにどうしていいか誰も分からず固まっていたが、ようやくフィナの号泣の意味を理解した村長が再び俺に殴りかかってくる。


ガキン!


「貴様ああああ!!フィナちゃんの首輪取りやがったな!!返せ!!」


 今度は驚いてたレイも『壁』が間に合わず俺が武器でガードする。解放しろって言われたから隷属の首輪外したのに、怒って殴りかかってくるなんてこのオッサン滅茶苦茶だ!


「それだと、フィナが奴隷になるって事だぞ!いいのかよ!」

「駄目に決まってるだろ!何でウチのフィナちゃんを奴隷にさせないといけないんだよ!」


・・・くそっ!ならどうすればいいんだよ。


「じゃあ、どうすればいいか考えろ!」

「首輪だ!奴隷の首輪じゃなくて他の首輪をつけていればフィナも俺も文句はない!」

「そ、そうか。フィナこれとかどうだ?これなんて多分白金貨1枚いくぞ!」


 村長の提案に乗り、ここ最近の野盗から奪った宝を取り出して、その中から一番高そうな首輪を出してフィナに勧める。


「うわ~。また私達が知らない間に『野盗狩り』に行ってるよ。駄目だって言わなかった?言ったよね?」

「ホント、いつの間にこんなに集めたんだろうね。どうせガルちゃんも一緒についていったんでしょ。ギンジ君を止めてくれるって約束したよね?これは後で話し合いだな」


 彼女二人から危険だから許可なく『野盗狩り』に行く事を最近は禁止されていたが、これで夜中黙って抜け出して狩っていた事がバレてしまった。後でお説教を食らう事になるが、今はフィナの事が大事だから後回しだ。


「フィナちゃん!これはどうだ?パパの宝物!何とガルフォード様が使っていたって言う武器の欠片が入ってるんだよ!」


 村長も慌てながらも自分の首輪をフィナに渡しながら、近くの獣人に指示して村の宝を持ってこさせる。だが俺達二人に何も答えず更に泣き声を大きくするフィナ。慌てる俺と村長。


 そしてその後、何もやっても泣き止んでくれなかったフィナ。手持ちの野盗の全ての宝でも、ヤクモ村の宝物庫の中の全ての宝でも駄目だった。


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