114話 大森林へ
翌日
「世話になった」
真剣な顔でお礼を言ってくる女王様だったけど、両手一杯にシャンプーのボトルや美容の容器を持っているので威厳の欠片もない。
「ガルラ、フィナ、お主達は気に入った。何かあればいつでも頼ってこい。力になってやる」
「分かった。フラン」
「フラン。またね」
女王は解体を教えてくれたガルラとフィナを気に入ったらしく、昨日はレイ含めて4人で寝た。そしていつの間にか愛称で呼ぶぐらい仲良くなっているようだ。ヒトミは何故か水谷の所で寝たので、俺は本当に久しぶりに一人で寝た。もしかしたら俺一人だけ移動させたからゆっくり眠らせてやろうって考えかもしれない。そうして召喚組と女王とで城に戻った。ガルラ達はやっぱりああいう所は苦手だと言って家で待機してもらっている。無いとは思うけど万が一戦闘になったら呼ぶ手筈にはなっている。
「陛下!」
俺達が昨日と同じ謁見の間に戻ると、すぐに女官の一人が大声で叫んで駆け寄ってきた。周りには何人か女官や兵士が立っている。
「おう、帰ったのだ。かなり楽しかったぞ。ほれ、これはお姉様達から貰った土産だ」
駆け寄ってきた兵士や女官に手に持ったお土産を持たせて、別の女官には自分の髪を触らせて恐る恐る触った女官が驚いて固まっているのを見て女王は大笑いしている。
「さて、お姉様、勇者様。本当にお世話になりました。久しぶりに楽しい時間を過ごせました。お姉様達がフェイ様に会えるように私の方からでも手紙を用意しておきました。どこまで効果があるか分かりませんが、少なくとも門前払いになる事はないと思います。そしてお姉様が火の国と戦う時はいつでもお声掛け下さい。我が『砂の国』微力ではありますが、可能な限り兵を出しお助け致します」
「フフフ。ありがとう。フラン。でも私達よりあなたはこの国の事を第1に考えなさい。あ~、ただ、手紙だけは貰っておくね。流石にこれが無いと話すら聞いて貰えないかもしれないから」
改めて畏まった言葉で俺達に感謝の言葉告げる女王。最初の頃よりか緊張が取れて年相応に見えるようになった。
「フラン。この手紙を狭山さんに渡しておいてね。私達が知っているだけの勇者の情報が書いてあるから。多分狭山さんには辛い事も書かれているけど、絶対読むように言っておいて、内容は私達の国の言葉で書いてあるから気になるなら狭山さんから聞いて」
レイが女王に注意しながら手紙を渡しているのを聞いて、そう言えばこの国にも勇者がいる事を思い出した。すっかり忘れていたけど、向こうも顔出してこないな。
「なあ、水谷、狭山ってのがこの国に召喚された勇者なんだろ?昨日いたか?」
「いないわよ。何でクラスメイトの顔覚えてないのよ。狭山は今、城の兵士を連れて遠征しているらしいからすぐに帰ってこれないって事で手紙を書いておいたの。仲良かった真澄の事も書いてあるから読んだらショック受けるだろうけど、現在どういう状況なのか分かってくれるでしょ。フランが言うには結構真面目にやっているみたいだけど、最上級の土魔法は使えるけど詠唱長くてカバーが絶対必要なレベルだって」
う~ん。それならあんまり戦力になりそうにないな。うちは基本みんな無詠唱だもんな。俺達みたいに国に裏切られたり滅ぼされたりした訳じゃないから無理にパーティに入れる必要もないか。
「それで、あれから考えたの」
『湖都』を出て再び大森林へ向かう途中、抱っこした水谷が俺に話しかけてきた。ちなみに今は午後で午前中はレイを抱っこして移動していた。
「何がだ?」
「あんた達の異常な強さよ。フランから狭山の話を聞いたけど、『風の国』にいた頃の私達とあんまり変わらないぐらいの強さだと思うの。それでも勇者の成長速度は速すぎるって色んな人から言われていたわ」
そうかなって思ったけど、よく考えれば俺も師匠達からランクアップが早すぎるって言われたな。でも明らかに強くなったのはレイとヒトミ、ガルラ、フィナと出会ってからだよな。特にガルラだ、あいつは訓練で手を全く抜かずにマジで骨まで折ってきやがる。訓練だからそこで終わりかと思いきやそこから更に追撃してくるヤバい奴だ。ガルラ曰く、骨が折れても魔物が止まる訳ないから、そこから対処する練習だとか言ってくるんだもの。しかもフィナに聞いた話だと俺だけじゃなくてみんなやられているらしい。しかもレイとフィナの回復ですぐに全快するから1日に何度も同じ事を繰り返させられる。そりゃあ強くなる。
「私もあんた達のパーティで鍛えられたから何となく分かるんだけど、勇者ってのは成長速度が普通の人より早い。それで、どれだけ厳しい訓練をしたかで成長速度が変わってくると思うの。これは比較できないから想像になるんだけど、でも毎回ガルラから殺されそうな訓練してもすぐに回復されて、またガルラに挑むのよ。普通じゃ有り得ない訓練だから更に成長が早くて強くなるんだと思うわ」
なんか死にかけると更に強くなるって言う、どこかの野菜の国の人みたいだ。そうすると、俺もいずれ超サイヤ人とかになったりするんだろうか。
「そしてフィナよ。あの子、獣人だからと言っても成長速度が異常よ。私達は勇者って言い訳できるけどフィナは出来ない。そう考えると私達勇者パーティにいると成長が早くなるんじゃないかしら」
「いや、でもそんなスキル誰もついてないぞ」
俺は師匠の教えでほぼ毎日自分のスキルの確認はしているし、仲間のスキルも頻繁に確認しているので『成長促進』みたいなスキルがあれば別に隠す必要もないし、すぐに教えてくれるはずだ。
「もしかしたらそれが勇者の特性かもしれないし、只単にフィナが才能があるってだけかもしれない。まあ結局は新しいメンバー増やしたりして母数を増やさないと何とも言えないわ」
そう言う水谷だが、俺はフィナに才能があるって方に一票だな。フィナは出会った頃にはゴブリンの巣を潰せるぐらい強かったし、教えたら火、影、回復の魔法使えるようになったからな。ガルラは・・・・あいつは最初から強かったから考えなくていいな。
そうして数日間移動すると、ようやく砂地から荒野っぽくなったので、抱き抱えての移動が必要なくなったのだが、これまでずっと除け者にされていたヒトミがかなりご機嫌斜めだったので、大森林の入口『サンドディオラ』に着くまでの2日程は抱っこして移動した。結局ずっと誰かを抱っこして運んでたな。
◇◇◇
「『カークスの底』の皆様、ようこそディオラへ」
そう言って頭を下げる美しい女性はこの街の領主シャルロット・ディオラだ。何故領主が俺達に頭を下げているかと言うと、全てはフランの持たせた手紙が原因だ。街に着いたら門番に渡す様に言われていた手紙を指示通り渡すと、そこからは住人専用入口から街に入れられ、兵士達に囲まれ目立ちながら領主の館まで案内された。そして俺達が案内された部屋に入ると領主が膝をついて待っていたというこれまた有り得ない光景だった。後で教えて貰ったがフランと先代女王二人の名で俺達を国賓として扱うように書かれていたと聞いた。ちなみにこの街の領主は先代女王の妹で、公爵らしい。この街は世界で唯一大森林と交易できる街なのでその重要性は『湖都』と同等。当然そこの領主も元王族やそれに近い血筋の人が治めていてここの領主は代々『大森林の番人』と言われるらしい。
「今はあんまり友好的とは言えません。特に獣人は例の事件以来私達の前に姿を見せた事はないです」
取り合えず、国賓扱いはしなくていいとお願いしてから、別室で領主と大森林の状況の話を聞いている。分かってはいたがあんまり良い状況じゃないみたいだ。
「それでもエルフ達とは交流があるんですよね?」
「あるにはあるのですが昔程話をしなくなり、どこか警戒した雰囲気になったと聞いています。元々向こうは私達が交易をお願いしているから、応じているだけというスタンスです。これで次大森林で何かあれば向こうは完全に森を閉ざしてしまうでしょう。こちらも色々手を打っているのですが、人族があれだけの問題をしでかしたので、すぐに元通りという訳にはいかないのが現状です。それにエルフの寿命は長いですから100年単位で考えないと駄目かもしれません」
そう言いながらチラチラとガルラとフィナを見ながら領主が話をしてくれる。その問題の被害者2人がいるから領主としても気にはなるんだろう。さっきは領主直々に二人に謝罪もしたからな、二人には俺達以上に気を使っているのが分かる。そして人族が起こした問題というのは、まずはガルラ達の村の襲撃、そして『教国』からの不法侵入の二つだ。村の襲撃は獣人の奴隷目当てと分かっているが、『教国』の方は目的が分かっていない。
「ガルラ、どう思う?一応今まで捕まってる獣人を解放はしてきたけどそれだけで許してくれると思うか?」
「う~む。・・・私達が解放してきた人数でもまだ2割ぐらいだからな、他にどれぐらい村に戻ってきているか分からんし、氏族としてどういう考えなのかも分からんからな。・・・村に行って聞くのが確実だな」
捕まってからずっと村に帰ってないからガルラ達に分かる訳もなかった。ちょうどいい機会だし里帰りして、ついでに情報も仕入れてこよう。
「ま、まさか、あなた様達が『獣人の解放者』」
俺達の会話に驚く領主様。バレたけどまあいいか。何か言われたらレイからフランにお願いして助けてもらおう。
「結局どうなったの?」
「取り合えず明日ガル達の故郷に行くみたいよ」
「良かったわねフィナ。ようやく帰れるわよ」
「う~ん。嬉しいんだけど嬉しくないような。いや、友達には会いたいんだよ。でもな~」
フィナは明日里帰りできるって言うのに何故か浮かない顔だ。何故だ?
翌日
「ええ!領主様もついてくるんですか?」
出発しようとした門を出た俺達の前に豪華な馬車に乗った領主様が待っていた。聞けば領主自ら行く事で少しは話を聞いて貰えるかもしれないと言う事だった。仕事は大丈夫なのか?と思ったが、出発して30分程で交易の場に着いた。思っていた以上に森の浅い場所までしか入れないみたいだ。
「ほんの少し前はここから更に奥の方で取引できていたんですが、例の問題以降、森のこんな浅い場所に変えられてしまったのです」
少し疲れた顔で領主が教えてくれる。この問題は領主にとってかなり頭の痛い問題らしい。
「お久しぶりです。エルフの皆様、ここ最近の大森林での人族の「それで?領主自ら何の用だ?今日は交易の日ではないぞ」
領主は馬車から降りると、謝罪の言葉を述べるがそれを目の前の奴が遮り質問してくる。貴族、それも公爵の言葉を遮るとは、エルフの方が立場が上なんだろうか?
「今日は皆さまに会って頂きたい人達をお連れ致しました。皆様どうぞ」
領主の指示に従い馬車を護衛していた俺以外はゾロゾロ馬車から降りてくる。目の前にはエルフ・・・そう絵に描いたような美形のエルフが3人、不機嫌そうな顔をして立っている。ただ森の中には複数反応があり隠れて見張られている事が分かる。そして、最後にガルラとフィナが馬車から降りた瞬間、
「お、お前は・・・ガ・・・ガルラか?」
「うん?お前はジークか?久しぶりだな」
どうやらエルフの一人とガルラが知り合いみたいで他のエルフもいきなり出てきた獣人二人にかなり動揺している。
「何故、ガルラが領主と一緒に・・・そうか、奴隷になっていたガルラを目の前で解放する事で、俺達の印象を良くしようとでも考えたか?馬鹿め!元々お前等人族が原因だろうが!捕まえた獣人を解放するのは当たり前の事だ!」
ジークってのが盛大に勘違いしているけど、他の奴等もジークの話を聞いてなんか納得した顔になっているな。まあ、俺が訂正しなくてもガルラ達に任せておけばいいだろ。
「違うぞ。今日は村の様子見と一族の考えを聞きに来ただけだ。通して貰うぞ」
「あ、ああ。別に構わないが、それにしてはよく無事だったな」
「良い主に出会えたからな。・・・ほら主殿達も行くぞ」
「ちょっと待て!!!!ガルラ!何で人族を森に入れようとしてるんだ!」
ガルラの誘いで俺達も後を付いて行こうとしたが、すかさずジークが大声で止める。まあ当たり前だけど止められるよな。
「駄目か?主殿達はヤクモ村の恩人と言ってもいい人達なんだが?」
「駄目に決まってるだろ!」
「確かエルフの村の事はエルフの兵が獣人の村の事は獣人の兵が判断すると言う事だったはずだ。ヤクモ村に主殿を連れて行くのにエルフのお前が止める権利はないぞ」
「な!・・・だ、駄目だ!獣人は森を閉ざした!勝手に入れる訳にはいかない」
「だからお前にそれを言う権利はないぞ。獣人の兵がいればいいが、森を閉ざしてこの辺にはいないみたいだしな。村まで連れていって聞いてみるさ」
「だ・・・駄目だ!・・・首輪・・・そうお前達奴隷の首輪付けてるじゃないか。獣人の村まで案内しろとか命令されてるんだろ」
ガルラがどう言おうがジークは引き下がらない。そこに奴隷の首輪を二人が付けてるもんだからそこをついてきた。やっぱり前から外しておけば良かったけど、外そうとするとフィナがすごい嫌がるんだよな。
「違うな。これは人の街でトラブルに巻き込まれないようにするただの飾りだ。ああ、もう面倒くさい!フィナ、お前が説明しろ」
ガルラさん、面倒くさくなって説明ぶん投げた。フィナは呆れながらもジークの前に立つ。
「初めまして、私はヤクモ村村長ガルオリーグの娘、ガルフィナです」
「初めまして・・・って村長の娘!」
「それはどうでもいいです。それよりも、お兄ちゃん!私にしばらく嘘を吐くなって命令して!」
村長の娘ってどうでもいいのか・・・そして命令か。フィナの意図が分かったので、命令するけど何気にこれが初めての命令になる。
「フィナ。しばらくの間、嘘を吐く事を禁止する」
俺がそう命令すると、奴隷の首輪が淡く光る。へえ~命令するとこんな風になるんだ。
「はい、これで私は嘘が吐けません。何でも質問していいですよ」
ジークに向かって何故かドヤ顔するフィナ。そこからはジークが色々質問するが、全て望んだ答えと逆を答えるフィナ。そして、
「もういいですよね?ホントは最初の2~3個の質問で分かったはずです」
ある程度質問した所で、質問する事が無くなったが、何とか質問をひねり出そうとするジークにフィナが冷静に答えた所で終了となった。
「それじゃあな。ジーク。何心配するな、問題があったら私が責任をとる。ああ、そうそう一つ言い忘れていたが私達の里帰りはついでだ。本当はハイエルフ様に会いにきたんだが、まあそれは村長に報告が終わってからだな」
「ハハハ。ガルラでも冗談が言えるようになったんだな。同族の俺でさえ会った事もないハイエルフ様が人族に会う訳ないだろう」
「主殿達は勇者だからな。ハイエルフ様は絶対に会うはずだ。まあ断られても力づくでも会わせるけどな」
「・・・・はっ?ゆ・・・勇者?」
ガルラの答えにポカンと口を開けているジークをそのままにして俺達は大森林へ足を踏み入れた。領主様は当然お帰りになった。