表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影魔法使いの冒険者  作者: 日没です
6章 砂とサイの国のCランク冒険者
118/163

111話 シャルラの英雄

「お姉ちゃん!!!」


 すぐにフィナが飛び出していき、回復魔法をかける。ガルラは結構ヤバそうだったけど、これで大丈夫だろう。火竜は死んでいる事は分かるけど、念の為警戒しながら近づき死体を影に収納する。


「フィナ、ガルラはどうだ?」

「うん、多分大丈夫。今は疲れたのか眠ってる。それで、お姉ちゃんを家で寝かせてあげたいんだけどいいかな?」


 フィナの提案に断る理由もなく『自室』で家に入り、ガルラを寝かせてから街に戻った。街に戻るとあれだけ大量にいた魔物は既に全滅していた。ガルラの様子を見ているフィナと街に残った3人と『念話』で話したので状況は各自理解しているが、それにしても凄い数の魔物の死体だ。そして街の住人総出でやってるんじゃなかいかってぐらいの人数で解体作業をしている。よくみると解体しているのは主に街の格好をした人で冒険者や兵士は周りを警戒しているようだ。




「ギンジ~」


 街の入口近くまでくると、残っていた3人が近づいてくる。後ろには冒険者ギルドにいたお偉いさん達が見えるのでさっきまで話をしていたんだろうか。


「ギンジ!ガルは?大丈夫なの?」


 レイが走って詰め寄ってきてガルラの心配する。何度も説明したがレイは自分の目で見ないと安心できないみたいだ。


「今はゆっくり休んでるよ。寝ているから起こしたら可哀そうだろ、今はフィナがついてるから大丈夫だ」

「分かってるけど、心配なのよ」


 そう言って焦ったように答えるレイ。特にレイは回復魔法使えるから、他の二人より心配になる気持ちも分かる。ヒトミと水谷も心配そうにしているけど、回復魔法を使えないから、何も力になれないので黙っている。


(あ、主殿、済まない。手間をかけたみたいだ)

(ガル!大丈夫なの?)

(ガルちゃん!どこか痛い所とかない?)

(ガルラ、心配したわよ)


 ガルラから『念話』で呼び出しがあったので繋ぐと3人が矢継ぎ早に話始める。


(すまない。みんなにも心配かけた。もう大丈夫だ・・・分かったフィナ。・・・フィナが五月蠅いからもう少しだけ休ませてくれ。主殿、すまないが後で改めて謝らせてもらう)

(謝る必要はない。ガルラが無事ならそれでいい。ただ、少し反省会はしないとな、あとどれぐらい強かったか教えてくれよ)


 そう言って『念話』を切ると、丁度いいタイミングでお偉いさんがこちらにやってきた。


「『カークスの底』の皆、今回は危ない所を助けてもらい感謝の言葉もない。あと、こちらはリーダーに確認だが、外の魔物の死体は我が街で好きにしていいと仲間が言っているが、本当にいいのか?」


 領主が俺達に頭を下げたので、少し驚く。この街の領主様は身分差を気にしない良い人っぽいな。チラリとレイたちに視線を向けると、みんな頷いたので、それなら俺から何も言う事はない。


「頭を上げて下さい。偶々通りかかっただけですから。魔物の死体についてはウチのパーティルールでは倒した人が好きにしていいってルールですから、3人がそう言ったならそれでいいですよ」

「あっ!ただ、取り合いになって喧嘩とかにはならないようにして下さいね」

「分かっておる。その為に冒険者や兵士に見張りをさせているからな。黙って懐に入れても大丈夫なように街に入るにはボディチェックをしてから戻るようにしている」


 まあ、それでも悪い事をするやつはいそうだけど、俺が心配しても仕方ない。この後は一度全ての素材を領主と各ギルドが買い上げて街の修理費用に回し、余った金を街の農地開拓費用に充てるらしい。





「それで今回の騒動の原因は何だったんだ?」


 師匠やギースさんを思い出させるぐらいの悪人顔のギルマスのバーツが俺に聞いてくる。水谷は慣れていないのか怖がって俺の背中に隠れているけど、レイとヒトミは冒険者歴が長いから普通にしている。


「北の山に火竜がいました。多分若い個体だと思うけど、山の辺りまでいくと魔物が全くいなかったから多分、そいつが原因だと思います」

「・・・・か、火竜か」

「マズいな」

「どうする?今回の素材を売った金で『湖都』のAランクを雇うか?」

「いや、『ギョク』のギルド本部に頼んだ方が確実だろう」

「だが、そうすると、『湖都』の連中が五月蠅いぞ」


 俺の返事に何やら相談を始めるお偉いさん達。ただ、何か勘違いをしているようなので注意をしておこう。


「相談している所悪いですが、火竜なら俺の仲間が討伐しましたよ」


・・・・・・


 俺の言葉にお偉いさんはピタリと相談止める。信じられないかもしれないけど本当なんだよな。


「ほ、本当か?本当にあの火竜を討伐したのか?・・・いや、お前等確か3人だけで向かったんだろ?無いな」

「そうだ、街を助けてくれた事は感謝するが、流石に嘘は良くないぞ。多分、お前達が近づいた所で偶々餌でも探しに行ったんだろ」

「ちょっと待て、俺の仲間と言ったな?お前は何もしなかったのか?一緒に行った獣人二人で倒したというのか?」


 信じてくれない領主ともう一人の偉い人だけど、ギルマスだけは何か疑問を持ったのか恐る恐る聞いてきた。多分俺達の噂を思い出したんだろう。


「いえ、俺の仲間が一人で倒しました。何か獣人の中だと火竜討伐って栄誉中の栄誉だから手を出すなって」


・・・・うん、あんまり覚えていないが、確かフィナがそんな事言ってたはず。


「おい、おい、マジかよ。火竜ソロって獣神様じゃねえか。・・・証拠!証拠はどうした?口だけなら何とでも言えるぞ」


 話を聞いている3人は未だに信じて貰えないようなので、火竜の死体を取り出してみる。いきなり馬鹿でかい火竜の死体が出てきた事で、周りの冒険者や住人がパニックになった。


「なあ、ギン。これをソロとか噓だろ?ホントは3人で・・・ってこれでも有り得ねえな」


 なんか気安くなったギルマスがまだ信じてくれない。


「し、信じられん。まだ若い個体だが、これをソロとか・・・」

「ちょ、ちょっと待ってください。倒したって事が重要です。それでギン!この死体はどうするんだ?我がギルドに売ってくれないか?これだけ状態の良い死体は初めて見た」


 ここで俺はようやくもう一人のお偉いさんが商業ギルドのギルマスだと分かった。ただ売ってくれって言われてもな。倒したのガルラだし、俺が勝手に売る事は出来ない。


(ガルラ、火竜を売ってくれって言われてるんだけど、どうする?)

(うむ、もう大丈夫だから、そっちに行こう)


 あれ?珍しく俺の好きにして良いって言われなかった。何か欲しい素材があるんだろうか?とか考えながら扉を出すと、ガルラ達が出てきた。すぐにレイ達に取り囲まれて心配されるが、大丈夫と言ってからこちらに来た。


「ギン、今のは何だ?扉が出てきてそこから獣人が出てきたぞ」


 驚く領主やギルマス達。・・・ヤバい、何も考えずに『自室』使っちゃった。


「す、スキルですよ。詳しくは言えませんが俺のスキルなんで気にしないで下さい」


 慌てて誤魔化すが、スキルならって事で相変わらず、すぐに納得してくれた。毎回思うけど、何だろう、このスキル言い訳万能説。


「まあ、ギンのスキルは置いておいてだ。銀髪のお前が『金棒』のガルラで、金髪の嬢ちゃんが『金影』のガルフィナで合ってるか?」


 バーツが確認するのでガルラはコクリと頷く。フィナは顔が怖いのかガルラの後ろに隠れているが、多分フィナの方がバーツの何倍も強いと思うぞ。


「それで、ギンの奴が仲間の獣人が火竜をソロで倒したとか言ってるんだが本当か?」

「本当だ。私が一人で倒した。情けないが倒した後、気を失ってこの死体を見るまで本当だと実感がわかなかったがな」


 ガルラの答えに困惑した顔をしつつもバーツは、今度はフィナを見て尋ねてくる。


「嬢ちゃん。本当にガルラの奴が一人で火竜を倒したのか?嬢ちゃんやギンが手伝わなかったか?」


 そう聞くバーツに首をブンブン振って否定するフィナ。


「それなら嬢ちゃん。ガルラが一人で火竜を倒したってガルフォード様に誓えるか?」


 そうバーツから言われると、怯えていた表情のフィナの顔付きが変わった。


「ここにいるガルセクターの娘ガルラが火竜をソロで討伐しました。この事は『ヤクモ』村、村長ガルオリーグの娘ガルフィナが獣神ガルフォード様の名にかけて誓います」


「・・・ま、マジか、ここまで正式にガルフォード様に誓われると信じざるをえないな」


 多分俺よりも獣人の掟に詳しそうなバーツが言うから、フィナの今の言い方は相当な事なんだろう。


「そ、それでガルラよ!火竜の死体はどうするんじゃ?」

「ヒトミとフィナの装備を作ってもらう。頭以外の余った素材はいらんから主殿に任せる」


 ガルラの中ではいつの間にか素材についてはそう決まっていたらしい。頭は村に持って帰るそうだ。俺はそこから肉を少し貰ってから、後は全部商業ギルドに売った。ヒトミとフィナの装備は作って貰っている内に『湖都』まで行って用事を済ませて来よう。そして今からは街をあげて宴が始まる、一番の手柄の俺達も当然の如く参加させられた。




「いやあ、お前はこのサンドシャルラの救世主だ」

「火竜ソロとかすげえな。やっぱり獣人ってとんでもないな」

「獣神と同じ事できるとか、お前生まれ変わりとかじゃねえのか」


 当たり前だけど今回の宴の主役はガルラだった。宴の始まりの挨拶で領主からガルラに直々に頭を下げてお礼を言われたので、ガルラが火竜をソロで倒したと知られる事になったのだ。今は冒険者や住民が入れ替わりガルラに酒を注ぎに来ている。一応俺達もお礼を言われているが、それ以上にガルラが絡まれているのでガルラのやった事はとんでもない事らしい。


「はあ~。いいな~ガル。『シャルラの英雄』だって」

「ガルちゃんの渾名格好いいな~」


 二つ名持ちがガルラに嫉妬している。今回領主からガルラに与えられた『シャルラの英雄』の称号はこの街で有効なだけで他の街では全く効力がない。『撲殺』『切り裂き』は世界中で効力があるので、普通は二つ名持ちが嫉妬する事はない。ただ、そんな事二人には関係ないみたいだ。


「いいな~ガル。私のと交換しない?」

「私が行けば良かったな~。多分白い『隕石』なら倒せただろうし、称号も貰えただろうし」


 ガルラを挟んで二人が酒を手に持ち愚痴っている。ガルラは困った顔で俺を見てくるが、俺は視線を合わさないようにしている。下手に口出して今のあの二人に絡まれたくない。


「フィナ!あんたもいつの間にか『金影』なんて渾名持ってるし、ずるいわよ」

「ええ??これ私が名乗った訳じゃないよ。勝手につけられてたんだよ」

「私達も勝手につけられたの知ってるでしょ~。それなのに何でフィナちゃんとガルちゃんはカッコいいの貰えたのかな?何かズルでもしたの?」


 ヒトミの質問にガルラもフィナも首をブンブン振っている。う~ん。二人とも普段はあんまり飲まないけど飲むと酒癖悪いな。隣に座る水谷は師匠のワインをチビチビ飲んでいる。最近ようやく酒を飲み始めるようになった水谷だが、まだアルコールに慣れていないのかビールとかは飲めない。まあ、レイもヒトミも付き合いでビール飲むけど基本はワインだしな。ビールを飲むのは俺とガルラぐらいだろう。フィナは未成年だから葡萄ジュースだ。


「ギンジは・・・・まあいいか私達より酷いもんね。あとはアユムか」


 おっと、二人がガルラとフィナに絡み飽きたのかこっちに標的を変えてきた。


「アユムちゃんか。何だろう?・・・溺れさせていたから『窒息』とか?」

「いいじゃない!『窒息』のアユム。うん、これいいわね!代理にこれにしておくように言っておこう」

「何で私がそんな渾名付けられないといけないのよ!全然可愛くないじゃない、要らないわよ」

「ふふ~ん。残念でした~。これは勝手に付けられるから要らないとか言っても無駄なんです~」

「そうそう、付けられたら最後、世界中に広められて一生背負って行く事になるわ」


・・・・・・


「「はあ~」」


 レイの言葉が自分達に突き刺さったのか大きく溜め息を吐く二人。そうして飲み過ぎの二人だったが案の定翌日二日酔いだったので、水谷に面倒を任せて『湖都』への移動を開始した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 「おい、おい、マジかよ。火竜ソロって獣神様じゃねえか。・・・証拠!証拠はどうした?口だけなら何とでも言えるぞ」 街を救って貰っておいて、嘘つき呼ばわりとは、礼儀を知らないにも程があるんじゃ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ