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影魔法使いの冒険者  作者: 日没です
6章 砂とサイの国のCランク冒険者
117/163

110話 包囲された街

翌日、 俺達は王様から手紙を受け取ると再び砂の国に向かった。




「ねえ、何か魔物の数多くない?」


 『光矢』で魔物を蹴散らしながらレイが疑問を口にする。レイが不思議に感じるように砂の国に入り、国境都市サンドシーマを抜けて、もう少しで次の街に近づくと言う頃になって魔物の数が多くなってきた。最初はお供としてついてきていたガルラやフィナに任せていたが、雑魚ばっかり数が多く面白くないと言われたので、家にいた3人を呼んで蹴散らしてもらっている。今レイが蹴散らしたのはもう何回目になるか分からないゴブリンの集団だ。


「あっ!また来た」


ヒトミが言うように前方に砂埃が見える。またゴブリンの集団がこっちに向かって走ってきている。


「次は私ね、さっきは溺れさせたから、次は打ち抜くわ。狙いは体の中の魔石。レイには負けないわ」


 水谷は何故かレイに対抗しているが、別に競争ではない。正確に当てる事だけ気をつけろとは言っているが俺の言う事聞いているだろうか。案の定何発か外したが、ゴブリンの集団がこちらに来るまでには処理を終えた。と思ったら、また向こうから砂埃が・・・今度はオークの集団だ。


「ほんと、どうしたんだろ?サイ国周辺は魔物は多くて強いって聞いた事あるけど砂の国も多いのかな?」


 向かってくるオークを軽く処理しながらヒトミが疑問を口にする。


「魔物が多いのはサイ国と同じで大森林に隣接しているからだろう。ただ、それにしては多すぎるから、何か異常があったんだろう」

「異常って何が考えられるんだ?」

「強い魔物がこの辺を縄張りにしたとか、逆にいなくなったとかだな、何かしらこの辺の縄張りに大きな変化があったんだろう」


 ガルラと話している間にも次は灰狼の群れが襲ってきたが、それをレイが処理していく。街道もそんな状態だからか、誰ともすれ違わないまま次の街サンドシャルラに辿り着いた。ホントはもう1つ先の街まで行きたかったけど、あのエンカウント率だと仕方がない。





「囲まれてるな」

「これどうやって入るの?」

「これは水谷の水で溺れさせるとか俺達近接組が倒して門までの道を開くしかないだろ。レイとヒトミの魔法は街の壁まで壊しそうだから使うの無しな」


 サンドシャルラに着いたら街が魔物に囲まれていた。文字通り囲まれていて外壁の上から兵士や冒険者が弓や石等を投げて応戦しているが、あの数だと焼石に水って感じだ。それに動きも緩慢でかなり疲弊しているんだろう。


「お、お兄ちゃん。一つ目鬼いるよ。あれだけ倒してきていい?」

「主殿、私はあの巨人をやらせてくれ」


 左右にいるでかい魔物をそれぞれ目標とした二人が俺の肩を揺すって聞いてくる。いや、もう疲れたから街に入りたいんだけど・・・なんてキラキラした目をした二人に言える訳ないので、許可を出すと二人は大喜びで魔物に向かって走っていった。仕方が無いので様子を見る事にする。






「ただいま~」

「待たせたな」


 しばらく待つと危なげなく目的の魔物を倒した二人が戻ってきた。一つ目鬼は3m以上、巨人は5mぐらいあったから少しは手こずるかと思ったけど、そんな事は無く余裕で倒していた。


「あのデカいの力は良かったが、速さがダメだな、あれでは1匹だけ相手にしてもつまらん。今回は周りの魔物がいい感じに邪魔してくるから久々に楽しい戦いだったがな。ハハハ」

「私の方はあれだけ弱点晒してるから、最初に狙ったのが間違いだったな。目をやられたら相手にもならなかったよ。次は目を狙わないようにして相手しないと」


 2人から戦いの感想を言われるけど、あんまり興味がない。ただ、あのデカいのを倒した余波で魔物の数が減っているので、今が街に入るチャンスだ。って事でまだまだ元気な獣人に邪魔な魔物を蹴散らしてもらいながら街の門までたどり着いた。


「おい!開けてくれ!」

「開けても大丈夫か?」


 俺の呼びかけに鉄格子の向こうで兵士が怯えながら確認してくる。俺達の背後には殺気立った無数の魔物がいるが、レイの『光壁』に阻まれ近づけない。


「大丈夫だ。何ならもう少し離そうか?」


 そう言ってレイにお願いすると、『光壁』が大きくなり魔物が更に押し返されてかなり距離が開いた。


「ほら、これでいいだろ?開けてくれ」


 安心してくれたのかすぐに門を開けて俺達を中に入れるとすぐに門が閉められた。門が閉められるとレイが『光壁』を消したので魔物が門に殺到する。


「水谷、門の所の魔物倒しておいてくれ」

「何で、私が・・・・もう!分かったわよ!」


 毎回水谷は文句を言いつつも俺のお願いを聞いてくれるから、文句については聞き流す事にしている。そして水谷が手を振ると門の前にドーム型の水の塊が現れる。多分『水壁』の応用だと思う水の塊に入った魔物達は当たり前だが溺れて死んでいく。水谷は、これを1時間ぐらい設置しておいてくれるらしいので、ここは大丈夫だろう。


 街に入ると、すぐに門を守っていた兵士に囲まれたけど、まずはこの状況、何が起こっているか確認したい。


「この街って普段からこんなに魔物がいる・・・・わけないよな」


 途中まで口にしてそんな馬鹿な事があるばずないと思い言い直す。


「当たり前だろ。3日前から魔物が攻めてきたんだ。北の山から魔物が向かってくるから何か強い魔物が居着いたんだろうって話だ。それにしてもあんたの連れてる獣人強いな。一つ目鬼と巨人をあんなに軽々倒すなんて。これで南門は何とか持ちこたえられそうだ」


・・・・南門はって事は他の門はまだまだヤバい状況なんだろうな。俺達はこのまま一晩宿をとって明日には出発・・・って訳にはいかないよな。みんな無言で俺を見ている。若干2名は目をキラキラさせている。さっきの一つ目鬼と巨人で満足してたよな?


「通りがかったのも何かの縁だ。協力するぞ、どうしたらいい?」


 皆の視線に耐えきれず協力を申し出ると、兵士の顔が明るくなった。仲間も安心した顔をしている。俺の言葉に、すぐにでも駆け出していきそうな二人の首根っこを押さえて、まずは現状を確認する。


「それなら街の中心の冒険者ギルドに行ってくれ。そこが作戦本部になっている」


 そうして俺達は冒険者ギルドまで向かう。状況報告の為さっきの兵士の部下が一緒について説明してくれたから、俺達はすぐにギルドの中に通された。中では多分領主と思われる貴族風の服を着た老人と多分その息子だろうオッサン。あとはこの街のギルマスとか商業ギルドの連中とかが真ん中のデカい机に地図を広げて話をしている。


「このままでは門が突破される。さっさと住人を避難させないと」

「どうやってだ!街の入口は全て囲まれているぞ!一番手薄な南門もあのデカいのが2匹いてはどうにもならん!」

「今北門にいるDランク冒険者を使って何とか排除できないのか?」

「そんな事をすれば北門が突破される。それに一つ目鬼と巨人はどちらもBランクモンスターだ。Dランクでは5パーティぐらい集めないと勝負にならん。それに南門にいる他の魔物の排除も考えると最低10パーティは集めないと無理だ」


 会議の様子は、既に撤退方法を考えているぐらいだから街がヤバいんだろう。領主相手でもギルマス達は遠慮なく意見をぶつけているから、この街の領主は中々話が分かる人みたいだ。


「会議中すみません。南門の一つ目鬼と巨人ですが、街を訪れたこちらのパーティが討伐しました」


俺達と一緒について来てくれた兵士が激しく言い合っているお偉いさんに報告すると、みんな言い合いをやめて静かになった。


「・・・は?この緊急事態にアホな事を言うな。この状況で街を訪れる馬鹿がいるはずないだろう」


 いるんだよなあ。そんな馬鹿が。何か魔物多いななんて言いながら普通に街道歩いていたけど、良く考えればゴブリンやオークの群れが何回も襲ってきてるから普通は引き返すレベルだよな。


「えっと、すみません。その馬鹿です。一応Bランク冒険者ですが、何か手伝える事があれば手伝いますけど・・・」


 俺が恐る恐る会議に割って入ると全員俺達に注目する。いつものようにすぐに俺達が誰か分かったのかヒソヒソ話を始める会議の出席者達。そして代表して顔に傷のある中々の悪人顔のオッサンが話しかけてきた。


「俺はこの街の冒険者ギルドのマスターのバーツだ。お前等もしかして『カークスの底』か?」


 そこからは、自己紹介をしてから協力を申し出た。この状況なら俺達が『カークスの底』の偽物だろうが本物だろうが、戦力になりさえすればどっちでもいいんだろう。ギルドカードを確認される事も無く話が進められ、俺達は一番激戦となっている北門に向かう事になった。





「うわあ。凄いな。魔物だらけだ~」


 そうして北門に案内され門の上にから外を見ると、ヒトミの言う通り北門の周りが南門の倍以上だと思われる魔物で埋め尽くされていた。壁の上には兵士の他に冒険者もいて弓や投石で攻撃しているが、疲労の色が濃い。


「また岩持って来たぞ。あそこの巨人を狙えええええ」


 門の上では司令官が騒ぎだしたので、指さす方を見ると巨人が肩に大岩を担いでこちらに向かってきていた。そして指示通りその巨人に向かって攻撃が集中するが微妙に届いていない。魔物と言っても射程が分かる程度には知恵が働くみたいだ。そして周りを見ると門の外に巨人が担いでいるのと同じぐらいの岩が転がっている。門の内側の潰れた家の近くにも転がっているので、ここまで投げて届くんだろう。


「ヤバい!ヤバい!来るぞ!全員警戒!」


 巨人が担いでいた大岩を放り投げると司令官が慌てて周囲に注意を促す。アレが飛んでくるのはかなりの恐怖だ。


だが、


「レイ」

「は~い」


 軽い返事と共に少し門から離れた所に『光壁』が現れる。


ガン!


ド~~~~~~ン!


 『光壁』に当たった大岩が勢いを失い、そのまま真下に落下し、下にいた魔物を押しつぶす。


「な、何だ?何が起こった?」

「か、壁が現れたように見えたが・・・」


 周囲がざわついているけど、また岩を運んできている巨人が見えるので説明している暇はない、さっさと終わらせよう。


「ヒトミがまずは周辺の敵を普通の色の火で攻撃。レイはヒトミの攻撃の余波がきたら壁で塞いでくれ。その後は各個『矢』で撃破。水谷は壁に張り付いた魔物を溺れさせていってくれ。ガルラ、フィナ、俺達はこの騒動の原因を見つけて排除する」


 そうして皆に指示を出すとすぐに動き始める。まずはヒトミが手を挙げると頭上には無数の『火球』が現れる。


「あ、あれは、『隕石』!」


 誰かが呟いたのが聞こえたけど、見た事あるんだろうか?ヒトミのはなんちゃって『隕石』だから本物と似ているのか聞いてみたいけど、これが終わってからだな。なんて考えていると、辺りに爆発音が鳴り響く。無数の『火球』が魔物の群れに着弾したみたいで、爆発による砂埃や煙が収まった後にはかなりの数の魔物の姿が消えていた。幸い爆発の余波はここまで届かないぐらい離れた所に落としたみたいだけど、その分、門や壁の近くにいた魔物は丸々生き残っている。ただその魔物も水谷の魔法で溺れていく。そして壁から離れた所にいる生き残った魔物はレイとヒトミが次々に打ち抜いて数を減らしていく。


「レイここから真っすぐ100本ぐらい『光矢』を放ってくれ。ただ真っすぐ撃ってくれるだけでいい。その後を俺達が進むから露払いを頼む」


ある程度魔物の数が減った所で、俺達も動く事にする。


「ガルもフィナもついてるからあんまり心配はしてないけど、一応気をつけてね」

「ああ、分かってる。そっちも同じ様な事をやりながら街周辺の魔物を倒していってくれ。無理はするな。何かあったらすぐに『念話』で報告してくれよ」


 そう伝えてから周辺に魔物がいなくなった門の外に飛び降りる。すぐに俺達の前に無数の『光矢』が現れ真っすぐ進んでいくので、俺達はその後に続く。暫くは『光矢』が目の前に立ち塞がる魔物を倒していったが、ある程度距離が離れた所で『光矢』が消える。街から見えないぐらい離れたので、ここからは俺の影の出番だ。と言う事で影を広げて俺達の行く手を阻む魔物を瞬殺して北の山を目指す。


「うわ~やっぱりお兄ちゃんの影強いな~。私より伸びてるし、反応も早い、強度も私の何倍もありそうだな~」


 フィナが俺の影を褒めてくれるけど、フィナの使う影とそんなに違うかな?俺との訓練では影魔法無しにしてるから良く分からんな。今度影魔法だけの訓練でもしてみるか。そんな事を考えながら山の麓まで辿りついた。ここまでくると魔物の姿はほとんど見えない。やっぱり何かに追われて山から出てきたんだろう。3人でそのまま山登りを始め中腹辺りまで登った所で、マップに反応があった。山の上から物凄い速さで近づいてくる。二人に注意しようとしたが、二人とも既に武器を構えて標的に目を向けていた。


「火竜だ」


 フィナがボソッと呟く。見ると赤い竜がこちらに向かって飛んできていた。そして近づいてくるなり口を開いてブレスを吐いてきやがった。慌てて影でドーム型の盾を作り、ブレスを塞ぎながら作戦会議を始める。


「あれが火竜か。初めて見たな。アレが今回の騒ぎの原因って考えていいよな?」


 俺の質問に二人はコクリと頷く。既に二人の戦いは始まっているらしい。火竜。竜種の中でも一番強いと言われていて、当然Aランクの魔物だ。討伐戦に参加できるだけで周囲の冒険者から一目置かれる存在になり、更に火竜にトドメを刺した日には『赤竜剣』みたいに世界中で有名となるし、二つ名が与えられる可能性がかなり高くなる。またその素材も余す事無く高値で売れるので、冒険者にとって正に一攫千金の魔物ではある。但し当然かなり強いので参加したパーティが全滅したって話も良く耳にする。




「それでどうする?3人で戦うか?」

「いや、ここは私が行かせてもらおう。この間水竜もハロルドも譲ったからフィナもいいな!」


 水竜とハロルドさんを同列に扱うのはどうかと思うが、フィナは何も言わずに頬を膨らませている。自分が戦いたいけど、流石に我慢するみたいだ。義姉と違って駄々捏ねて何とか戦おうとしないだけ偉い。


「勝てるのか?空飛んでブレスも吐くから大変そうだぞ?」

「ふん、父と村長達でも出来たんだ。私に出来ない事はない」


 そんなものなのか?村長ってフィナの親父さんで村で一番強いって言われてる人だよな。何でガルラはそんなに対抗してるんだ?


「その昔ガルフォード様は村を襲った火竜を一人で倒したって伝説があるんだよ。だから火竜を倒すってのは獣人の中で一番栄誉ある事なの。セクターおじさんと私のお父さんも昔、村の代表として討伐隊に参加して討伐した経験があるんだ。だからお姉ちゃんも張り合っているんだよ」


 獣人にとって火竜がそんな重要な魔物だとは思っていなかった。ただ、一人で行こうとするのはどうなんだろ。一緒に戦いだいけど、最近はフィナに獲物を譲ってばっかりだからな。・・・少し無茶な条件出すか。


「ガルラ、危なくなったら嫌だって言っても助けに入るからな。それが嫌なら俺に心配させずに倒してこい」

「フフフ、アハハ!面白い、我が主殿は無茶を言う。だが悪くない、いいだろう。主殿の命令だ、心配させる事無く倒してこよう」


・・・いや、結構無茶な条件言ったんだけど・・・ソロで行こうとするのやめろよ、みんなで行こうって言ってくれよ。って言うと無理してでも1人で倒そうとしそうだな。助けに入っても良いって約束してくれたんだ、それならガルラの好きにさせるか。そうしてフィナと二人で影に潜って『影壁』を解除すると、目の前には火竜が立っていた。





グルルル


 ガルラの目の前には尻尾も合わせれば15m以上はありそうな火竜が立ち上がって唸っている。


「ちょっと小さいね。まだ若い個体だね」


 フィナが大きさを見てそう答える。後で聞いたら普通のは20~30mサイズぐらいで、獣神が倒したのは50mクラスらしい。どんだけでかくなるんだ。


グギャアアアア


 火竜は大声で叫びながらガルラに向かって前足を叩きつけてくるが、ガルラはこん棒で受け止める。一度攻撃を受けるガルラの癖だが、あのでかい火竜の体重がかかっているのでかなり重そうだ。


バシイイッ!!!


 火竜の攻撃を耐えていたガルラに向かって尻尾が飛んできたので、躱せるはずもなくガルラはその攻撃をくらって弾き飛ばされる。


「お姉ちゃん!」

「大丈夫だ、今のは自分から後ろに飛んだ」


 尻尾が当たる直前に前足を押し返して、後ろに飛びながらこん棒でガードしたのが見えたので吹き飛ばされても心配はしていない。心配はしていないが、さすがに勢いを全て殺せるはずも無くガルラは口の端と手の平から少し血を流していた。


「フフフ、アハハ!・・・・いいぞ。面白いぞ。お前」


 口の端から流れている血を拭うと大声で笑い始めたと思ったら、火竜を褒めだした。すぐに火竜が食いついてこようと口を開けて向かってくるが、その鼻っ柱をこん棒で思いっきり殴りつける。


ギャオオオオオオ


 痛そうな悲鳴を上げて顔を持ち上げる火竜。その鼻はこん棒についた棘で穴だらけになって血が噴き出している。


「フハハハハハ。痛いか?ほら、私に集中しなくていいのか?」


 ガルラが一瞬で火竜に近付き後ろ足の膝をこん棒で殴りつける。鈍い音と共に火竜が再び悲鳴を上げる。火竜は反撃で尻尾を振ってくるが、ガルラはこん棒をガードにして受け止める。今度は吹き飛ばされずに受け止めたが、手から血が流れ出した。こん棒の棘がガルラの手に刺さったんだろう。だが、ガルラはご機嫌な様子だ。


「いい、いいぞ。お前、もっと楽しませろ」


 そう言うとガルラの姿が消え火竜の足の爪が弾け飛んだ。火竜は再度尻尾を振るが、そこには既にガルラの姿は無く、反対の後ろ脚に移動してその膝を思いっきり叩きつける。今度はさっきよりも鈍い音が響くと火竜が悲鳴を上げながら体を倒して4足歩行に変わった。両膝を破壊して頭を下げさせるのが狙いか。


「いいのか?頭を下げて?これなら私の攻撃も届くぞ?」


 こん棒を肩に担いで火竜に笑いながら話しかける。火竜は多分言葉は分かっていないが、挑発されている事は分かったんだろう。大きく息を吸いこんだのでブレスが来る事を予想したガルラは火竜を回り込みながらブレスを躱す。ブレスが終わったと同時に火竜に向かって飛び、頭に一撃を加える。


「フハハハハハ、ブレスは膝が壊れる前に使うべきだったな。動きが鈍っているから当たらんぞ。それにそれは終わった後は隙ができるからもうやめておけ」


 相変わらずご機嫌なガルラだが、少し油断し過ぎだ。火竜の噛みつき攻撃にこん棒の横殴りのカウンターを食らわせるが、火竜が殴られた勢いを利用して前足を振り払ってきたのでガルラは慌てた様子でこん棒で受け止める。そしてその後ろから更に尻尾の攻撃が!!


バギィイイ!


 鈍い音と共にガルラが吹き飛ばされる。今のは直撃だ。ヤバい音がした。ガルラ達獣人は攻撃力は高いけど、防具は嫌がって装備していないので、紙装甲だから心配だ。


「ガルラ!!」

「だ、大丈夫だ。主殿。ハァ、ハァ。少し油断してしまった。大丈夫だから手を出すなよ」


 ガルラは顔から血を流して左腕をだらんと垂らしながらも大丈夫だと言ってくる。どう見ても大丈夫には見えない。やっぱり一撃でかなりのダメージを負っている。


「次、危ない場面があれば俺もフィナも出る。文句は言わせない」


 そう言って影に潜らずにフィナと二人でいつでもフォローに入れるように準備する。


「フハハハハハ、少し油断したな。お前のせいで主殿に心配かけてしまったではないか。もう遊びはやめだ、本気でいくから覚悟しろ」


 そう言ってガルラは再び火竜に一瞬で距離を詰め、鼻っ柱を片手で持ったこん棒でぶん殴る。殴られながらも、すぐにさっきと同じように前足と尻尾の反撃がくるが、そこにガルラはいない。既に別の前足に移動していて、こん棒を振り下ろすと前足の爪が弾け飛ぶ。その痛みで顔を上げ大声で叫ぶ火竜。


「久しぶりに楽しかったが、これで終わりだ」


 いつの間にか火竜の頭上に飛んでいたガルラが落下しながら頭にこん棒を叩きつける。


ボゴッ!!!!


 辺りに鈍い音が響き火竜の頭が地面に叩きつけられ、そしてそのまま動かなくなった。


「ハァ、ハァ。中々の強さだった。だが一人で倒しきれた。私も中々やるじゃないか・・・・・」


 そう言ってガルラもそのまま崩れ落ちた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 「そこからは、自己紹介をしてから協力を申し出た。この状況なら俺達が『カークスの底』の偽物だろうが本物だろうが、戦力になりさえすればどっちでもいいんだろう。ギルドカードを確認される事も無く話が…
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