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影魔法使いの冒険者  作者: 日没です
6章 砂とサイの国のCランク冒険者
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109話 聖女の威光

「ハハハ。私の事まで良く調べているではないか。ただ、私が教国に大使として向かったのは公にはしていないが、隠している訳でもないからな。知っていたとして・・も・・・・・・ま、ま、まさか、あなた様は、せ、聖女様!!」


 レイの言葉に偉そうに答える第2王子だったけど、仮面を外したレイの顔を見てその偉そうな顔が驚きに変わった。


「そして、クリストファー宰相様でしたね。あれから腰の具合は・・・以前より酷くなってませんか?」


 レイがそう言うと宰相の体が白く光る。レイが回復魔法使ったんだろう。これでレイの正体を確信した第2王子と宰相が膝をついた。


「ま、まさか生きておられたとは、大変嬉しく思います。」

「戦争に巻き込まれて亡くなったと教国から報告を受けていたのですが、生きておいでで良かったです」


 この二人がここまでする事はレイってどれだけ偉い人だったんだ?今更ながらクーミ達のあの態度でもおかしくない事が分かった。


「二人ともありがとうございます。ただ、言っておきますが教国の聖女は死にました。今の私は唯の冒険者です」


 そう言って膝をついている二人を立ち上がらせて席につかせる。


「ま、まさか、あなたが教国の聖女様とは・・・」


 第1王子もレイが聖女だと分かって驚いている。その隣で何を考えているのか、険しい顔をしている国王が口を開いた。


「すみませんが、皆さまの事をもう少し詳しくお話してもらえませんか?」


 王様の言葉に3人は俺の方を見てくる。少し考えるけどハロルドさんの対応や東の話とかから、この王様なら正直に話をしても大丈夫な気がする。『念話』で確認すると、3人もこの王様は信用してもいいんじゃないかと言う事でまずは水谷から話を始めた。


「それなら私から、私は風の国に召喚されたアユムと言います。他に3人召喚されましたが、火の国との戦争で全員殺されてしまいました。私はあいつらに捕まっていた所を彼に助けて貰ってから、パーティメンバーに加えてもらい旅をしてきました」

「私は知っての通り、教国に召喚されて聖女と言われていました。水の国へは表敬訪問だと言われていたのですが、水の国へ着くと火の国との戦争に巻き込まれて一度はあの国に捕虜として捕まってしまいましたが、彼が助けてくれてからはずっと行動を共にしています。因みに私を見捨てた教国に戻るつもりはありませんので、私が生きている事は内緒にしておいて下さい」


 水谷とレイが今までの自分の事を説明し終えたので、次は俺とヒトミの番だけど、火の国から召喚されたと信じてもらえるだろうか。




「私とギンジ君は火の国に召喚されました」

「火の国!!」

「ま、まさか!」

「「・・・」」


 第2王子と宰相には当然驚かれ身構えられるが、王様と第1王子は無言で特に反応する事無くこちらを見ている。色々考えているんだろうけど、その動じなさは凄いな。まさかその可能性も考えていたって事はないよな。


「私達あの国では死んだ事になっていますから、心配しないで下さい。ギンジ君は召喚されてすぐに、私は半年ぐらいしてからかな」


 驚く二人に慌ててヒトミが言葉を続ける。


「・・・・むう、召喚されてから半年後あたりと言う事は、火の国で勇者が自害したと騒ぎが起こった頃と一致しますな」


 宰相の言葉に、当のヒトミが驚いた顔で俺を見てくる。そう言えばあの後俺が何したか話してなかったな。っていうか殺されたように偽装したけど、ヒトミ自殺した事になってるのか?


「ああ、ヒトミを助けた後、布団にヒトミと身長が同じぐらいの死体を置いて火を点けたんだよ。死んだように偽装したって言っただろ?殺されたようにしたけど自殺として処理されたみたいだな」

「すまん。疑う訳ではないが、その時にそれ以外の事を何かしなかったか?」


 ヒトミに答えたつもりだけど、何故か慌てて宰相が口を挟んでくる。


「えっと、確か殺した兵士の死体を結構な数裏庭に置いてきましたけど・・・」

「・・・合っているな。その話はあの国でも一部の人間しか知らないはずなのに、知っていると言う事は当事者だと考えた方がいいのか・・・」


 俺の答えに何やら考え込みブツブツ言いだす宰相。


「父上達ちょっと待ってください。この二人が勇者というのはおかしいですよ。あの国は9人の勇者が召喚されたと言っていた。今現在、生存が確認されている勇者は5人、死亡が確定しているのが3人、そうすると、召喚された勇者はあと一人だけと言う事になる。この二人を勇者と認めると数が合いませんよ!」


 へえ~。あの国は最初から俺を数に入れていなかったのか。まあすぐに殺そうとしたから仕方ないか。


「いや違うぞ、ヴェルナー。今の話で私はこの二人が勇者だと確信した。建国王様からの予言では勇者は20人召喚されると伝わっていたが、各国からの報告では実際に召喚された勇者は19人だった。この時点で数が合っていないと騒ぎになっていた。ただ、その頃から獣人族が森を閉ざしたからな、獣人族が数を誤魔化しているのではないかと言われていたんだ」


『確信した』って事はやっぱりその可能性も考えていたのか。流石サイの国の王様って所だな。・・・まさかとは思うけど影の事まで可能性に入れてたりしないよな?


「それなら何故その時に火の国を疑わなかったんですか?」

「元々召喚される人数は各国2~3人と伝わっていただろう。そこを各国から非難されるのを覚悟して9人と報告してきたのだ、まさかそれ以上だとは考えまい。更に言えば各国のスパイも火の国の勇者は9人と報告していたからな。それに我が国は勇者召喚に関わる事は建国王様から禁止されているから、召喚された勇者の数を報告する会議にも参加しなかった。その場にいれば何か得られたかもしれないが、今更だ」

「それなら何故、こいつはすぐに火の国で死んだ事になったんですか?あの国の王は悪知恵が働きます。ずっと部屋に引き籠って何もしていなかったとかならともかく!「あう・・・」召喚されてすぐに殺そうとするなんておかしいですよ」


 あっ!第2王子の流れ弾に当たってヒトミが落ち込んでいる。


「落ち着け!ヴェルナー!良く考えれば答えは出る」


 騒ぎ立てる第2王子を第1王子が諫めるが、机の上で握っている両手はブルブル震えている。第1王子は俺の正体に気付いているみたいだ。流石将来のこの国の王だな・・・って事は現国王は既に俺の正体に気付いているって考えていた方がいいか。そして、


「ま、まさか・・・」


 次に宰相が椅子から転げ落ちながらも俺から距離をとろうとする。宰相も気付いたようだ。目の前の王様は目を瞑って何か考えている様子だが、よく分からない。ただ敵意はないようだし、部屋の周囲に兵を配置している様子もない。





「・・・・あっ!・・・はっ?で、でも・・・いや・・・・えっ?ないだろ。ないよな?」


 第2王子も気付たようだ。これだけで4人とも答えに辿り着くなんて凄いな。王様は既に確信している様子だし、これはもうバラしてもいいだろう。正直に話すと敵対する可能性もあるけど、その時は逃げればいいか。


「想像通りですよ殿下。俺は『影魔法』が使えます。だから召喚されてすぐに殺されそうになりました。幸い死んだ事にできたので、そこから冒険者として生きてきたんですよ」


 俺の答えに絶句して棒立ちになる第2王子。王様は俺の言葉に全く動じていない、やっぱり既に俺の正体に気付いていたみたいだ。そして正直に話した所で、敵意を持つ赤に変わる事も無かった。




「ギン様が冒険者となったのは水の国の国境都市アクアドアールというのは本当でしょうか?」


 今まで険しい顔をしていた王様が口を開いた。最初に聞きたいのは影魔法とか火の国の顛末とかじゃなくてそこなのか?


「ええ、そうですよ」

「と言う事はやはりあなた達が『ドアールの復讐者』で間違いないのでしょうか?」


 ・・・『ドアールの復讐者』って何だ?


「えっと、ドアールの仇を討つ為に火の国の悪魔を狙い、すでに3人も倒しているのがギン様達で間違いないでしょうか?」


 『ドアールの復讐者』ってのが何か分かっていない俺に王様が説明してくれる。実際その通りなのだけど、いつの間にそんな通り名で呼ばれるようになったんだろ?


「おお!やはり、あなた達が!・・・本来であればこちらからお願いできる立場ではないのですが、どうか火の国の悪魔を討ち取りこの世界をお救い下さい。お願い致します」


 俺が頷くと王様は真剣な顔をしながら椅子から立ち上がりしっかりと頭を下げてくる。・・・一応周りのみんなを確認すると頷いてくれた。


「分かりました。頼まれなくても元々復讐するつもりでしたから気にしないで下さい。ただ、確実に行きたいので色々と協力してくれると助かります」


 まだ完全にこの王様を信じたわけではないけど、色々調べた結果、この国は本当に火の国と戦うつもりのようなので、その時に参加させてくれるだけでも助かる。


「おお!ありがとうございます。こちらの協力は惜しみません。何なりとお申し付け下さい。差し当たって今我々が掴んでいる情報ですが、火の国は風の国を落としてから一度領土の安定に努めるみたいです。恐らくあと半年以上は動かないと我々は見ています。そして悪魔達の動向ですが、国境で風の国に勝利してから行方が分かりません。恐らくギン様が一人殺した事で変装や似た兵士の身代わり等を用意して極秘裏に火の国に戻ったものと考えています」

 


 そうか、あいつら国に帰ったのか。って事はあの変なスキルのせいで見つけられないな。そうするとまたあいつらが出てくるまで待つしかないのか。


「次に攻められる国はどこだと予想していますか?」

「ほぼ間違いなく闇の国だと考えています。理由としては、まずこの国は火の国と隣接していません。そして教国は隣接していますが、今だ表向きは中立を保っています。砂の国は風の国と国境を接していますが、まだ滅ぼしたばかりで国内が安定していません。更に砂の国の都までには慣れない砂漠の行軍がある事を考えると闇の国が一番可能性が高いです。今は滅ぼした水の国も比較的落ち着いてきたようですので」


 俺の質問にすらすら答えてくれる王様。恐らく闇の国が攻められた時の対応も既に考えているんだろう。


「教国が表向き中立というのはどういう意味でしょうか?」


 古巣の動向が気になるのかレイが話に入ってくる。


「いまだに火の国へ非難声明を発表もせず、我ら3国との協議にも参加するように呼び掛けていますが、それも色々理由を付けて引き延ばしている。少し前に大森林に戦力を差し向けて、全て返り討ちにあって戦力が回復していないから余計に我らの助けが必要なはずなのにです。まあ裏を話せば火の国と教国では不可侵の密約が結ばれているのですよ」

「な、何考えているの教皇は!真っ黒じゃない。やっぱりあの国に戻らなくて正解だった」


 王様の話を聞いてレイがプンプン怒り出す。まあ確かにレイのアレを聖水と称して貴族に売ってるぐらいだもんな。俺も最初からあの国は信用はしていない。


「陛下、不可侵の密約を結ぶには何か双方メリットがあるはずですが、それは何だと予想していますか?」

「・・・アユム様は風の国の勇者でしたな。・・・・少しショックを受けると思いますが、風の国も教国と不可侵の密約を結んでいました」

「・・・えっ・・・えええええええええ。ほ、本当ですか?」

「本当です。コーデより教えてもらいました。まあ王族同士の結婚なんて国と国との結びつきを強固な物にするというのは建前で、一番情報が集まる所にスパイを送っているのと同じですからな。ハハハハハ」


・・・・いや、笑い事じゃないだろ。王族だから感情はないのは仕方ないけど、王妃様がスパイしているなんて驚きだ。みんなも驚いた顔をしている。ガルラだけ険しい顔しているのは話を理解できて・・・こいつ寝てやがる。


「まあ、それで双方のメリットについてですが、教国については今現在何がメリットになっているかは分かっていません。不可侵というのは少し弱いですね。教国が怒れば神官を引き上げさせ、国内の女神教徒を扇動して国を疲弊させる事が出来ますから、元々各国とも教国にかなり気を使っています」

「それなら逆に教国は火と風の国に何をあげたんですか?」


 ヒトミの質問に王様は大きく息を吐くと、真剣な顔で俺達を見ながら答えた。





「勇者ですよ」





「ゆ、勇者?俺達って事ですか?って事は召喚したのは東じゃなくて教国だったって事ですか?」

「いえ、違います。召喚を行ったのは間違いなく建国王様達です。教国が行ったのは各国に召喚される勇者の数の変更です。伝承では各国2~3人全部で20人が召喚されると伝わっています。それが教国と不可侵の密約を結んだ火と風の国だけが伝承より多かった。これがどういう事か分かりますか?教国は召喚装置を操作できる知識があるって事です。それで取引に応じた火と風の国の勇者の数を多くした。教国は何か隠している、勇者召喚という大事な儀式を滅茶苦茶にして、世界を混乱に陥れても何か目的があって動いているんですよ」


「そ、そんな。陛下がそんな取引に応じていたなんて・・・」

「あの狸親父、何考えているのよ」


 関係者二人の内、水谷はショックを、レイは怒りを振りまいている。


「教国は他の国には取引を持ち掛けなかったんですか?あと、召喚を操作できるなら全て自分の国に召喚させれば良かったじゃないですか?」

「まず我が国は建国王様の命令で勇者召喚には参加できませんし、そもそも装置が設置してありません。闇と砂の国は我が国との関係が強いから断られると考えたのでしょう。御存知の通り闇の国は建国王様の第1王妃が砂の国は第3王妃様が興した国ですからね。もしその話を我が国の知る所となればすぐに武力を使ってでも止めたでしょう。それから教国が全ての勇者を自分の国に召喚しなかったのは、恐らく『帝国』の前身の国と同じになる事を恐れたのでしょう」




・・・・?始めの言っている事は分かった。・・・後半の意味が良く分からない『帝国』の前身の国と同じになる?


「ちょっと待ってください!それって!まさか、こっちに来たのは東君だけじゃないんですか?」


 ヒトミが何かに気付いたのか珍しく大声を出す。


「はい、建国王様以外に建国王妃様、女神様、水流王様、そして皇帝も・・・他にも多数いた可能性があります」






・・・・・ま、まじか・・・東以外にもこっちに来てる奴がいるのか。そしてそれが500年前の有名な奴等かよ。


「名前は!東君以外に誰が来たか名前を教えて下さい!」

「残念ながら残ってはいません。我々が調べた所、どうやら建国王様達により意図的に名前を消されているようでした。我々は建国王様だけのお名前は伝え聞いていますが、それを知って良いのはその時の王と次代の王候補だけです。まさかこの国の街のどこにでもある建国王様の像にお名前が書かれているなんて思いもしませんでした」

「な、何で、東君達何考えてるんだろ。いや、東君以外がまだクラスメイトだったって決めつけるのは早いかな?」


 ヒトミの疑問には何も答えられないけど、こっちも疑問がある。


「教皇は『帝国』のように離反した勇者の復讐を恐れたのか。それとも『皇帝』のような国の乗っ取りを恐れたのか。レイはどっちだと思う?」

「教皇は人のいい感じのお爺さんみたいな人で優しかったのよ。まさかお腹の中真っ黒だったなんて、そんな奴の考える事なんて分かる訳ないでしょ!」


 古巣に裏切られた過去があるから厳しい感じになるのも分かるけど、レイがちょっと怖い。


「それでこれから皆様はどうする予定でしょうか?特に予定が決まっていないのであれば、会えるかどうかわかりませんが、大森林のフェイ様を訪ねてみてはどうでしょうか?あの方に会えば恐らく建国王様達に関する全ての疑問に答えてくれると思います。そしてもしお会いできれば助力を求めてみて下さい。我々も何度も断られていますが、もしかしたら勇者様の言う事なら聞いて下さるかもしれません」


 王様の提案は気になるが、大森林行ってる時にクソムカつく国が攻めてきたら困るもんな。その事を伝えると、


「あの国が軍を再編し始めて闇の国との国境までに着くのに恐らく最低でも3ヶ月はかかるはずです。それだけ時間があれば大森林に行っていたとしても十分戻って来れると思われます」


 そう言われると、少し考えるな。多分王様の言う通り半年以上はあの国は動かないんだろう。そうすると、軍の再編と移動の3ヶ月を足して9ヶ月以上、向こうが仕掛けてくるのを待って、ずっと依頼をこなしているのもなあ。多分みんな東達の事や召喚された理由とか気になっているよな。そう言えばガルラとフィナも1回里帰りさせた方がいいか。助けた獣人や村の状況が気になってるだろうしな。


「分かりました。それでは大森林に行ってフェイって人に会ってきます」

「おお、行って下さいますか。ありがとうございます。それではまずは砂の国に向かって下さい。大森林へはあの国にある正規の入口を通らないと人族は殺されても文句は言えませんから。砂の国の女王には私から手紙を書きましょう。それで大森林の入口を通して貰えるはずです。ただ、中に入ったらエルフか獣人の指示に従ってください」


 ガルラとフィナがいればまあ何とかなりそうだ。エルフは知らないけど、獣人は何人も解放しているから少しは協力してくれるだろ。





「王様、大森林に向かう前に3人程この国で預かってもらえませんか?」


 さすがにどれだけ時間がかかるか分からないので、妊娠しているミルとルルは連れて行けない。そうなるとクーミも置いていかないといけないので、この国で預かってもらえないかと思い聞いてみる。


「はい、それぐらいお安い御用です。ちなみにどういった人物かお尋ねしても宜しいですか?」

「二人は俺の親友の嫁です。後一人はその護衛ですね」


 それならと笑顔で頷いてくれる王様だったが、水谷の次の一言で王様達は大慌てになる。


「陛下、彼女達は津村君の子を身籠っていますので、可能であれば出産について詳しい方をお付けして頂きたいのですが・・・」

「ツムラ!まさか風の国の勇者のノブタダ様か?・・・ま、まさか・・子を残しているとは・・・」


(ノブの子ってだけで何であんなに慌ててるんだ?)

(それは勇者の子供って魔法の才能をかなりの確率で引き継ぐらしいからよ。だから原田君なんか何人も子供いたし)

(そう言えば前原もそんな感じだったな。こっちだと魔法使いはかなり珍しいからなのか)


 少し『念話』で話をした後、クーミ達を紹介する為に扉を出す。いきなり目の前に扉が現れたからギョッとする王様達だけど、中からクーミ達が出てきて更に驚いたようだ。


「クーミ、ミル、ルル。俺達は今から砂の国に行ってから大森林に向かう。どれだけ時間がかかるか分からないから3人はここに置いていく。王様とも話がついているから安心してくれ。王様、彼女達をお願いします」

「はい。我が国が全力を持ってお守り致します。出産についても最高の環境を整えますのでご安心下さい」


 これで安心だなと思っていたらクーミ達が青ざめた顔で俺に尋ねてくる。


「ギン、今王様って言わなかった?」

「王様ってあの王様だよね?」

「こ、ここってサイ国だよね?そこの王様・・・・・」


ガバッ!


 3人は目の前に人物が誰か分かるとその場で両膝をついて頭を下げる。先に『念話』で話をしておいた方が良かったかもしれない。


「あっ!こら!妊婦がそんな格好したら駄目じゃない」

「だってレイ!サイ国の王様ですよ!」

「そうだよ!世界一の国の王様だよ」


 レイが注意しても頭を上げない二人だったが、王様が楽にするように言うとようやく顔を上げた。取り合えず俺とレイの椅子を譲って座らせておく。そして二人が落ち着いた所で、宰相が口を開いた。


「そ、それでお二人とも生まれてくる子供はどうするおつもりですか?もし良ければ我が国の方で良い縁をお探しする事も致しますが?」

「いや、それはまだ考えなくて大丈夫です。まずは無事に生む事だけこの二人には考えさせて下さい」


 何か怪しい感じがしたから宰相の申し出をすぐに断る。この調子だと俺達がいない間に、生まれてもいないノブの子が婚約してそうだ。貴族ならそう言う事もあるんだろうけど、ノブなら子供の意思を尊重しそうだし、一応、釘を刺しておこう。


「王様、3人には俺と『念話』が繋がっていますので、戦争が始まりそうな気配や他に何かあればこの3人に言えばすぐに俺に伝わります。ミルとルルも頻繁に連絡するから心配するな」

「ね『念話』!」

「ま、まさか『念話』までお持ちとは・・・」


 取り合えずこれでミルとルルを勝手に取り込もうとはしないはずだ。あとは・・・


「王様。これって引き取ってくれませんか?」


 ダメ元でずっと俺の『影収納』の不動在庫として眠っていた鎧セットを取り出す。


「これは、ま、まさか、火の国の第1騎士団の兜・・・何故こんなものをお持ちで・・・い、いや、引き取るのは全然構わないのですが・・・」

「最初に逃げた時に奪ったんですよ。これが70セットぐらいで、第3騎士団のが50セットぐらいあります。いや~良かった。これどこの国でも引き取ってくれなかったんで困ってたんですよ。じゃあ、お言葉に甘えて置いて行きますね」


 そう言って部屋の隅に鎧セットを影から取り出す。王様達がドン引きしているが見ないでおこう。


 そう言えば俺達の要求ばっかり受けて貰って悪い気がするな。後で手持ちの素材でもあげて好感度を上げておこう。そうすればクーミ達が少しでも快適に過ごせるようにしてくれるだろう。そして話も終わったので、部屋から出ようとすると引き止められる。


「ギン様。何か我が国に要求はありませんか?あの悪魔達と戦って頂けるのです。こちらは望む物は可能な限りご用意させて頂きます」


 そうは言っても困った。金子達は言われなくても殺すつもりだから、恩を感じなくてもいいんだけど、逆にこっちがクーミ達の面倒見てもらったり不動在庫引き取って貰ったりとお礼を言いたいのだけど、多分納得してくれないだろう。


「すみませんが、他の国の勇者の情報は知らないでしょうか?」

「私達の親友の『溝口安奈』という名前に聞き覚えはありませんか?」


メンバーに顔を向けると、レイと水谷が王様に質問する。そう言えばあと一人見つかっていない親友を探したいって言ってたな。


「勇者に関わる事は機密事項で、風の国はコーデから教えて貰いましたが、他の国については・・・。アユム様の親友のお名前も聞いた事がありません。お力になれなくて申し訳ございません。」


頭を下げる王様の言葉に落ち込む顔をする3人。それなら、


「ガルラ。お前達の村の名前『ヤクモ』村だったよな。・・・それでは王様、この国で『ヤクモ』村出身の獣人奴隷がいれば解放してもらえると助かります。ガルラ達の村はいきなり襲われて、捕まった村人は奴隷にされたらしいので、それを助ける事も俺達の旅の目的でもあるんですが、如何せん全ての街や村を見て回るには人手が足りません」

「それぐらいでよければすぐにでも国内に触れをだしましょう。それにしても『獣人の解放者』もギン様達だったんですね。いやはやあといくつ凄い事を隠しておられるのか・・・」


 いや、もうこれで全部のはず、これ以上秘密はないはずだよな。それよりも口止めしとかないと、


「そっちも内緒なので、秘密にしておいて下さい」


 少し呆れ笑いをしている王様だったが約束してくれたから大丈夫だろ。話も終わりハロルドさんが再び城の外まで案内してくれることになった。途中訓練場まで連れていってもらい風竜と飛竜の素材を置いてきた。



「主殿ありがとう」


 城から外に出るとガルラが頭を下げてお礼を行ってきた。王様に獣人を解放してくれってお願いした事だろう。ああいう場では奴隷が発言する事はないと水谷が言ってたから城を出たこのタイミングで言ってきたんだろう。


「ああ、約束だから気にするな。それで大森林に行った時に一度ガルラ達の村に行こうと考えている。今どれだけ復興しているのか、あと何人帰ってきていないか気になるだろ」

「そうだな、そうしてくれると助かる」


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