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影魔法使いの冒険者  作者: 日没です
6章 砂とサイの国のCランク冒険者
112/163

106話 フィナと水竜

どうしてこうなった。


でかい河に並行している街道を全員で歩きながら、俺は頭を抱えている。俺の悩みの種、それは俺達の後ろをゾロゾロついてくる冒険者連中だ。


「主殿、すまんな」

「お兄ちゃん、ごめんなさい」


ガルラとフィナが、もう何度目になるか分からないが謝ってくる。これは「水竜の巣の調査」に向かうと二人に教えたら、街の中でどっちが討伐するか言い争いを始めたことが原因で、野次馬が増えた事についての謝罪だ。そして、


「はあ~。結構遠いですね。こうやって体感すると依頼がどれだけ大変か身に染みます」


何故かついてきているソーリ達ギルド職員5名。ワコールのギルマスから特別研修って事で頼まれた。普通は依頼のランクより上のランクの冒険者を雇って行うらしいのだが、レイとヒトミがいるなら大丈夫って事で押し付けられた。まあ、無事に帰せばこれだけでポイントが一つ付くので受けたんだけど、まさか5人もとは思っていなかった。・・・・後に特別研修は1~2人多くても3人が普通で最高難易度でもオーク討伐だと知った。





!!


「お兄ちゃん!」


 『探索』を使ったフィナが反応して俺に声を掛けてくるが、俺も既に感知している。手を挙げて全員に合図を出すと、俺達パーティ以外は街道から外れて河から距離をとる。


「フハハハハハ、いるな。ヒトミ、レイやってくれ」


 まだ諦めていないのかガルラが辺りの混乱のどさくさに紛れてヒトミ達に指示を出す。


「もう!お姉ちゃん!今回も私の番でしょ!何で戦おうとしているの!お姉ちゃんはみんなの守り担当でしょ!」

「む~。主殿~」


 少し可愛くガルラが言ってくるが駄目な物は駄目だ。あの時水竜討伐の権利を得たのはフィナだったのはみんなに知られている。


「今回の依頼は巣の調査だったな。多分この辺が奴の巣だろう。と言う事で帰るぞ主殿」


 いや、それで帰ると思ってるのか?絶対この後一人でここに来るつもりだろう。最近ガルラがかなり子供っぽくなっているのは獲物を取り合えるぐらい強くなったフィナのせいだろう。


「もうお姉ちゃん!分かっててやっているでしょ!子供みたいな事するのやめて!ファル兄に言いつけるよ」

「ぐっ、そ、それは・・・」


 最近フィナの最後の手段『ファル兄に言うからね』がさく裂してガルラが引き下がる。ガルラがすぐに引き下がるなんて、どれだけフィナの兄貴は凄い奴なのか気になるけど、聞くと二人とも言葉を濁してまともに答えてくれないからよく分かっていない。


 そうしてガルラが引き下がってくれたのでフィナが準備を始める。


「じゃあ、行くね。レイお姉ちゃん足場だけお願いね」


 各自自分の役割の準備を済ませ、フィナが合図する。今回は練習を兼ねてフィナに全てを任せたが、こっちがフォローする必要が無いくらい、準備は完璧だ。


「えい!」


 振り上げた手を河に向かって振り下ろすと『火矢』が5本河に突っ込んでいく。


・・・・そして、


シャアアアアアアアア!


 『探索』で反応があったので分かっていたけど、水竜が水面から顔を出して大きな声で威嚇してくる。そこに、


「レイお姉ちゃん!お願い!」


 フィナの呼びかけに水竜の周りに白い壁・・『光壁』が現れる。それを足場にフィナはどんどん水竜に向かって行く。


「はああああああああ!!」


 出された足場を利用して攻撃を始めるフィナ。何とかフィナを引き剥がしたく首を振ったりブレスを吐いたりして暴れる水竜だが、成長しているフィナにとっては大した相手ではなかった。レイが水竜の周りに出した足場を利用してダメージを与えていく。そして、





「ふう、終わった。なかなかタフだったけど、あんまり強くなかったよ。この間の風竜の方が強かった」


 フィナが笑顔でこっちに向かってくると、水竜戦の感想を伝える。竜はフィナの動きについてこれていなかったもんな。まあ、水竜も水の上であんなに素早く動ける敵なんて想定していないだろうしな。


「おいおい、水竜をホントにソロで倒しやがった」「あの金髪の獣人の動き全然見えなかった」「俺も金色の影が水竜の周りを動いてるのしか見えなかった」


 勝手についてきているギャラリーが騒いでいる。


「お、お疲れ様です。いや、ホントに倒すとは思ってませんでした。しかもソロで倒すなんてこの目で見ましたけど、未だに信じられません。ただこれで街道は安心して通行できるようになります。ありがとうございます」


 若干引き気味でソーリさんが話しかけてくる中、フィナは他の職員から囲まれて質問責めにされて困っている。


「そ、それであの水竜はどうする予定でしょうか?ああ、アユムさんの装備を作るとは聞いていますが、残った素材はどうするのか気になったので」


 ソーリさんとしては余った素材はギルドに売って欲しいのだろう。まあ竜の素材はどこも引く手数多で供給が追い付いてないもんな。


「まあその事についてはレイとフィナに聞いて下さい。うちのパーティは倒した魔物はその人が好きにしていいルールになっています」


 と言った所で、いつもみんな倒した魔物は「要らないから好きにしていい」って言うんだよな。帰り道にソーリさんがご機嫌だったのは二人からいい返事を貰えたんだろう。


 そして街に帰り俺達はBランクに昇格した。その後は水谷の装備の作成をお願いして、余った素材は全てギルドに売った。装備が完成するまで1週間程かかると言う事なので俺達は依頼を受けずに情報収集を行ったが、特に役に立つ情報は得られなかった。




1週間後


「じゃ~ん!どう?似合ってる?似合ってるわよね!くぅううう、折角作った装備あの馬鹿共に盗られちゃったから諦めてたけど、また同じ装備作れるとは思わなかったわ。有難う、フィナ、レイ、みんな」


 装備が完成した水谷のテンションが高い。風の国で作った装備は金子達に奪われていたので、ずっと気にしていたようだ。


 水谷の装備は白をベースとした服を着こんでその上に青いローブを羽織っている。更に俺の片手剣と同じぐらいの長さの杖を装備しているので水魔法使いだとバレバレだ。装備している白い部分は全て水竜の腹側の皮をなめしたり、縫い付けてあったりする。青い部分は背中側の皮をこれまた同じように利用している。そして装備している杖は水竜の背骨を削り出して作らており、その先端には水竜の魔石が埋め込まれていて、水魔法の威力を高めてくれるという本当に水魔法に特化した贅沢な装備だ。


「ねえ。似合ってる?似合ってる?」


 皆に聞いて回った最後に俺にもテンション高く水谷が聞いてくる。


「ああ、水魔法特化で強そうだ。その装備結構金掛けたからな、簡単に壊したりするなよ」

「違うわよ!強そうとかって感想は要らないわよ。似合ってるか似合ってないか聞いているの・・・きゃあ!ちょっと、何?」


 素材は自前で用意したが、水谷のサイズに合わせて作られた装備なので結構金がかかっている。一応注意をしながらも少し気になる事があるので水谷に顔を近づけ臭いを嗅いでみる。


「それ全部水竜の素材から作られてるだろ。だからもしかしたら生臭いかもって思ったけど、大丈夫そうだな。これなら臭いで魔物に気付かれる心配もなさそうだ」


 驚いている水谷に親指を立てて答えると、すぐに顔を赤くして怒りの表情に変わった。


ドゴ!


「グハッ!・・な、何で?」


 いきなり腹を殴られた。油断していたので『身体強化』も発動出来なかった。


「サイテー」


 そう言い捨てて水谷はドシドシと足音をたてて、家に戻っていった。


「あちゃ~。ギンジそれは駄目よ。生臭くないって言われて喜ぶ女の子なんていないわよ」

「う~ん。ギンジ君がボッチだった理由が何となく分かったな~」


 彼女二人にダメだしをされるが、俺は依頼に影響があるかもと純粋に思っただけなんだと伝えると、それも駄目だと言われて呆れられてしまった。




翌日

 朝飯を食べながらいつものように今日の予定を説明していく。


「結局この街でも大した情報が得られなかったので、今日この街を離れて首都『ギョク』に向かう。ギルドにはここを離れる事を伝えたけど、他に忘れてる事はないか?」


 全員に確認するが、特に忘れている事はないようだ。水谷がこっちを睨んでいるけど、レイとヒトミから言われているので、後でこっちはフォローしておこう。


 宿を出て街の外までは全員で歩いて出ていき、獣人以外を家に入れて移動する。そして一日部屋に籠っているのも良くないって事で、最近は昼飯はみんな外に出てきて食べる事になっている。ついでにここで水谷へのフォローをしておく。


「水谷」

「何よ」


 昨日から不機嫌な水谷に声をかける。返事をしてくれるが、体から話しかけるなオーラが出ているが、気にせず話をする。


「昨日は悪かった。生臭いとか女子に言う事じゃなかったな」

「ふん!別にもういいわよ」


 よし、許してもらえた。更にもう一つ言う事がある。


「ああ、あとその装備良く似合ってるぞ。昨日はちゃんと言ってなかったからな」


 俺が言うと驚いた顔で水谷が俺を見上げてくる。何で驚く、俺がこんな事言うの意外か?・・・いや昨日レイとヒトミに言えって言われたんです。・・・って事は言わないけど。




バシン!


 何故か水谷に軽く尻を蹴られた。


「ふん!もういいわよ!許してあげるわ」


 そう言うと水谷はクーミやミル、ルルの輪に入りと楽しそうに会話を始めた。見た感じ機嫌が直ったようで何よりだ。









「あ~あ。これどうしよう」

「どうしようか?まあアユムが素直になるまで放置でいいよね」


 後ろからヒソヒソ話をしている二人が気になったけど、マップに反応があった。街道の先で誰かが戦っているみたいだ。気配に気付いて飛び出していきそうな獣人二人を影で捕縛する。恨めしそうな顔で見てくるけど、戦闘中に乱入はルール違反なので我慢してもらおう。そして二人によく言い聞かせてから3人で偵察に向かう。


「やられてるぞ」

「やられてるね」


 2人の言う通り、街道には冒険者と思われる奴等の死体とそいつらが乗っていたと思われる馬車がボロボロになっていた。そしてその周りをオーク並みの体格で毛むくじゃらの魔物が4匹周囲を警戒している。

 俺には茶色い雪男にしか見えないけど・・・多分あれは情報の通りだとトロルだな。そして、4匹が森に向かって何か声を上げると、真っ黒いトロルが森から現れた。あれは何だろう?トロルジェネラルとかそういう類の物なんだろうかと思いながらふと隣を見ると、ガルラとフィナが笑顔で今にも飛び出していきそうなぐらい身を低くしている。


「ど、どうした二人とも?」

「主殿、やられているからもういいだろ」

「そう、行くよ。行かせてよ」


 2人とも目がギラ付いていて怖い。


「後で理由は聞かせてもらうからな」


 そう言って二人に合図をすると、競うように走ってトロルに向かって行く。二人ともガチ走りなので、何が二人をそこまで駆り立てるのか気にはなる。確かトロルってCランクだったはずだから、二人の相手にならないはずだけど、ほら、二人に気付いて立ち塞がったトロル2匹が通り過ぎ様肉塊に変わった。


「フィナ!こっちは任せろ!ダークは絶対逃がすな!」

「分かってる!」


 珍しく二人が戦闘を楽しむ事無く倒す事だけを目的にしている。ガルラは残った2匹を手に持つこん棒で2匹まとめて頭を弾き飛ばす。ガルラは普段は相手の攻撃を一度受けて実力を確認する癖があるのだけど、瞬殺するとは本当に珍しい。一方フィナも影で黒いトロルを拘束してから首を切り落とした。フィナも普段は影は使わないし一撃で殺す事はしないので、これまた珍しい。


「主殿!悪いがこのまま解体したい!家に帰ってもいいか?」

「お願いお兄ちゃん!」


 黒いトロルを影に収納すると、二人して俺に懇願してきた。本当に珍しい。まあ特に問題ないし、二人が我儘を言う事は滅多にないのですぐに了承する。


「あれ?ガルとフィナは?」

「何か黒いトロルを解体したいって言ったから家に帰した」


 何故かこっちに歩いてきた残りのメンバーを代表してレイが聞いてくる。俺も黒いトロルについて何かあるのか聞いてみたが、クーミから黒いトロルはダークトロルでAランクの魔物だと教えてもらった。ただ二人があれだけ我を忘れる理由はよく分からなかったので、後で聞く事にして、




「ふう、困ったな。まさかここまでとは」


 5人の冒険者の死体を前に俺は途方にくれている。レイとヒトミには手を汚して欲しくなかったので、今まで野盗狩りもガルラとフィナぐらいしか連れていかなかった。だから耐性が出来ていないのも仕方がないけど、金子達とやり合う気があるなら、いい加減慣れさせないと駄目だよな。


 死体に気付いたショックで道の脇で吐いているレイとヒトミ、そして水谷。クーミは兵士なので見慣れているのだろう。ミルとルルは暮らしていた村、奴隷商の所、ノブに助けられた時に見ているので、平気そうにしている。レイは戦争とか教国で生き返らせた事があるって聞いたけど、慣れてる訳ないよな。


 本当はいい機会だから、ここで首を落とす練習をやらせるべきだけど、やっぱりレイ達にはやらせたくない。自分でも甘い事は分かっているけど仕方ない。片手剣を取り出し死体に向かう。


「ギンジ!待って!・・ハァハァ!ペッ!まだ・・・ハァハァ・・私なら何とか出来るかも」


口に残った吐瀉物を吐きながらレイが言ってくる。かなり苦しそうだけど、こんな状態で大丈夫なんだろうか。逆にこの程度で立ち直ったから、慣れてきたというべきなんだろうか。


「レイちゃん、ごめん、お願い。」


レイの行動に感化されたのか苦しそうな表情でヒトミが言うと、水谷も口を拭って死体に向き直る。ヒトミも水谷も口に手を当てているからかなり我慢しているんだろう。ただ死体の近くで一番辛そうにしているレイがいるから頑張れている事は分かる。


そしてレイが頭を潰された冒険者の前に立ち手をかざすと、死体が光に包まれ、光が消えるとそこには普通に寝ているようにしか見えない冒険者の姿があった。後で聞いたが、最初は『上級治癒』をかけて体を元に戻してから蘇生しないと駄目だそうだ。そのまま蘇生してもケガはそのままでまた死んでしまうらしい。そして『上級治癒』は飛び散った臓物が再び体に戻っていく訳ではなく、魔力で再生しているようで最初に飛び散っていた臓物はそのまま残っている。そして体を元に戻した後、レイが『蘇生』を使うと、胸が上下し始める。全員の蘇生が終わると、まだ目を覚まさない5人をそのままにしばらく隠れて様子を伺う。





「う、う~ん、こ、ここは?・・・街道?あれ?何でこんな所で寝てんだ?お、おいお前等!大丈夫か?」


1時間ぐらいしてようやく目を覚ました最初の奴が隣で寝ているメンバーに気付き声を掛けていく。全員が無事目を覚ましたのを確認した後、俺達はその場を離れた。





「しかし初めて見たけど、レイの蘇生魔法ってマジで凄いな」

「そうだね。この目で見たけど、未だに信じられないよ」

「蘇生魔法もだけど『上級治癒』もヤバいわよ。凄すぎでしょ」

「っていうか『蘇生』も無詠唱できるのか?」


さっきの様子を見ていた俺達はレイを褒めている。


「えへへ。まあこれぐらい大した事無いよ・・・・無詠唱なのはギンジがずっとイメージが大事って言ってたからかなあ。っていうかクーミもミルとルルもいつまで緊張しているのよ。別にこれぐらい大した事ないから、いつも通りでお願いね」


レイの蘇生魔法を見てから3人はずっとレイに対して緊張している。レイが教国の聖女と教えたはずだけど、今回その奇跡を実際目にした3人は改めて認識したんだと思う。普段は仲良く一緒に料理しているぐらいだからすっかり忘れていたんだろうけど、今更そんな態度とられても困る。


「はい。分かりました」


返事をしてくれた3人の顔は何故か不満そうだけど、俺が思っている以上に『聖女』ってのは凄い人という認識らしい。3人にそれとなく確認したが、『国王』またはそれ以上の認識のようだ。そんな人物を俺は・・・いや毎晩仕掛けてくるのはその『性女』様だから仕方ない。


「ふう~。分かってくれて良かった。前にも行ったけど教国の『聖女』は死んだの!今の私は唯の冒険者『レイ』だから、宜しくね」


そう言って3人を抱きしめるレイ。


「ほら~妊婦がそんな緊張したら駄目じゃない。少しお腹も目立つようになってきたから本当に安静にしないと」


ミルとルルに注意しながらいつもの調子のレイ。見た感じミルとルルも安堵の表情を浮かべている。


「レイちゃんの言う通り、そろそろミルちゃんとルルちゃんが落ち着ける場所を探し始めないとね」


結構真面目な顔でヒトミから注意されるので、これは急いで探した方がいいんだろう。安全性は俺の『自室』だろうが、出産となると心もとない。出来ればさっさと出産経験者を確保して安心させたい。そんな事を考えながら俺達はこの世界最大で最強の国の首都『ギョク』に辿り着いた。



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