105話 対Aランク
出ていこうとしたら誰かに呼び止められた。今度は俺だけに用があるみたいだが、何だろ?
「俺達はAランクパーティ『赤竜剣』、リーダーのテネグロだ。お前がリーダーのギンだな?お前、女にばっかり戦わせて恥ずかしくないのか?今まではどうだったか知らねえが、俺達がたった今この街に来たのが運の尽きだ、ここでブッ潰してやるよ」
俺を呼び止めたのは腰に赤い剣を携えたイケメンだった。パーティ名の由来はこいつの持ってる剣だろう。『赤竜』いわゆる『火竜』をレイド戦でトドメを刺したパーティで、その素材で赤い剣を作ったと聞いた事がある。そんなパーティから直々に話しかけられるとは・・・まあ言ってる内容は俺の酷い噂を信じての話だけど、どうしようか。ここで違うと言っても多分信じてくれないよな。っていうかもう少し早くこの街に到着して俺達の偽物やつけておいてくれたら楽だったんだけど。
「まあ、色々言いたいけど、信じて貰えないだろうから戦るか」
冒険者ならこれが一番手っ取り早い。
「・・・ほう、話が早くて助かるな。言っとくけど今度はお前が戦えよ!女に戦わせるとか酷い事は無しだ」
だってよ、ガルラ。Aランクと聞いてやる気を出したガルラが少し落ち込んでいる。そんな目をしても俺を指名してるから代わってやれないな。
「おいおい、今度は『赤竜剣』が戦るみたいだぞ」「マジかよ、相手は『カークスの底』のリーダーか」「あいつ強いのか?」「いや『ヒモ』って言われてるぐらいだから弱いんじゃねえか?」
俺達が『赤竜剣』の後に続いて戻っていくと、再びギャラリーが騒ぎ出す。レイとヒトミが有名になり過ぎて俺の昔の渾名は消えて、今では『ヒモ』として有名になったようだ。全く嬉しくない。
「俺達はいつも実戦形式で訓練してるんだけど今回もそれで構わないよな?」
俺達はガルラから殺し合いに近い訓練させられているから全く構わない。
「別に構わないけど、ケガしてもしらないぞ?ポーションの在庫は大丈夫か?」
「・・・アハハハハ!心配ありがとよ!それよりも自分の心配したらどうだ?間違って殺しても文句は言うなよ」
ここで後ろのパーティメンバーがニヤニヤしていたのでこいつらの狙いが分かった。こいつら最初から俺を殺す気だな。狙いは俺の仲間って所か。リーダーでパーティ唯一の男の俺が死ねば何とでもなるとでも考えているんだろう。Aランクなのに姑息な奴等だ。
「じゃあ、行くぜ」
腰から赤い剣を取り出して構えたテネグロが攻撃を仕掛けてくる。俺はそれを愛用の剣で難なく受け止める。Aランクって言ってもあんまり強くないなってのが攻撃を受けてみた感想だ。攻撃も遅いし、力も弱いと感じるのはガルラやフィナと訓練しているからなんだろうか。それともこいつらAでも弱い方なんだろうか。
テネグロを弾き返してから距離を詰め剣を振るう。弾き返された事で驚きの表情で隙だらけのテネグロだったが、その顔がニヤリと笑った。次の瞬間俺とテネグロの間に盾が割って入ってきた。・・・おいおい。・・・って上か!俺の攻撃が盾で受けられると同時に盾を飛び越えてテネグロじゃない奴が攻撃を仕掛けてきた。斥候っぽい格好していたテネグロの仲間だ。しかも横からはテネグロが盾を回り込んで攻撃を仕掛けてきている。
「チッ!」
舌打ちしてから後ろに大きく飛び距離をとると、すぐに弓が飛んでくる。こっちは仲間の弓使いの攻撃だと確認してからまたすぐにその場から飛びのく。
「火矢」
今度は弓使いと反対側から声がしたのでそちらを向くと、俺に向かって『火矢』が向かってきていた。これは着地を狙われたので躱せない。躱せないが、対処は出来る。
ボカン!!
俺が投げた投げナイフが当たり、爆発して消える。そしてテネグロ達と距離をとった所で一応確認をしておく。
「おい、1対1じゃないのか?」
「実践形式だって言っただろ。お前も了承したからな、今から文句言っても遅いぞ」
「主殿!」
「お兄ちゃん!」
心配そうな声で言ってくる割には、お前等物凄い笑顔だな。ガルラ、フィナ。
「ああ、二人とも出て来なくていいぞ。これから絡まれるのも面倒だし、俺も体動かしたいしな」
そう言うと物凄い残念そうな顔をする二人。絶対心配してなかったな。
「ねえ。ちょっと大丈夫なの?土屋を助けないとヤバくない?」
水谷が心配そうにガルラ達に言っているが、他のパーティメンバーは特に心配した様子はない。クーミ達は心配そうに見ているが、口を出してこない。
「ああ、心配するな。むしろ主殿は複数相手の方が強いぞ。昔から一人で多数を相手にしてきただけあって、その戦い方はかなり変則的だ」
ガルラが珍しく褒めてくれる。確かにずっと一人で野盗を相手していたから複数相手は苦手ではない。ただパーティ全員を相手にする事もあるが、連携をとって攻撃してくる訳ではないので、こいつらみたいに連携が取れた熟練冒険者相手だとどうなるか分からない。分からないが、さっきの様子だと大丈夫そうだ。
「実践形式なら俺も色々使わせてもらうけど卑怯とか言うなよ?」
そう言ってからまずは魔法使いに距離を詰める。遠距離攻撃を狙うのはセオリーだな、当然向こうも盾役達がカバーに入る。だが、それが狙いだ、カバーに入った盾に向かって刺激袋を投げつける、ついでに『風』で4人に刺激袋の中身が行き渡るように流してやる。
「ガハっ!」「ゴホッ!」「ケホケホ」「く、クソ!!」
激しく咳き込み、涙を流しているテネグロ達を放っておいて俺は一人離れた所にいる弓使いにダッシュで距離を詰める。
「チィ!この野郎!おい、カバーしろ!・・・グハ!」
慌てて弓を射ってくるが、的を絞らせないように左右に動きながら近づき、腹に一発入れた後は下がった顎を打ち抜く。上手くいったみたいで弓使いは気を失って倒れた。
「ケホ、チィ、卑怯な手を、ケホ、使いやがって」
若干回復したテネグロ達が文句を言いながらこっちに向かってくる。5人がかりで卑怯とかどの口が言うんだ。
言い返したいのを我慢して俺はこっちに向かってきているテネグロ達が魔法使いの射線に入るように移動している。そして近づいた所で再び刺激袋を投げるが、向かってきている3人はすぐに目と口を閉じて対応してきた。・・・だけど敵の前で目を瞑るとは・・・『闇』をプレゼントしておいた。
「な、何だ?何も見えん」
「また何か小細工か」
「グハッ」
目が見えなくなって隙だらけの一人、斥候に距離を詰め腹に膝蹴りを入れてからまた顎を打ち抜く。これで残り3人。
「『火矢』!テネグロ横に飛べ!」
魔法使いが俺に向かって魔法を放つと同時にテネグロに声を掛ける。その声に反応してテネグロは横に飛ぶが、
ボカン!
「ぐあ!」
「ああ、テネグロ!」
丁度テネグロの真横に来たタイミングを狙って俺がナイフを当てて『火矢』を爆発させたからそれに巻き込まれたテネグロ。吹っ飛んで動かなくなったけど死んではいない。あと二人。
「この!火よ、敵を焼き尽くせ『火矢』!」
こりずに魔法を使ってくる。今度は盾使いに声を掛けないので、盾役はその場から動かない。ただ、
コツン!
「むっ・・・・グアアアアアア」
俺が盾に石を当てると、反応して飛び退いた場所は丁度『火矢』射線上。自分から『火矢』をくらい、炎に包まれる盾使い。少し可愛そうなので『水』で消火だけはしておく。
「それで、残りはあんただけだ、どうする?」
残った魔法使いに声を掛ける。
「参った。俺達の負けだ」
両手を上げて降参のポーズを取る魔法使い。見た感じ戦意も無い様だからもう攻撃してこないだろう。いやあ、久しぶりに頭を使う面白い戦いだった。満足して仲間の所に向かう。
「うわ、ギンジの奴メッチャ笑顔してるし」
「ギンジ君、戦ってる時も楽しそうだったもんね」
恋人二人が笑顔で出迎えてくれる横で頬を膨らませている獣人二人、驚きの表情で見ている他4人。
「おい、誰だよリーダーが弱いなんて言った奴。滅茶苦茶強えじゃねえか」「赤竜剣』5人が簡単にやられたぞ」「あの戦い方は対多数の人との戦闘に慣れてやがる」「どういう生き方したらそんな戦い方に慣れるんだよ」「信じられねえ。あいつCランクだろ。何で二つ上のランクの奴5人相手にして勝てるんだ?」
騒ぐギャラリーの声にハッと何かに気付き俺に詰め寄ってくる水谷。
「あんた、何であんなに強いのよ。っていうかあの戦い方誰に教えてもらったのよ?ガルラじゃないわよね、ガルラはあんな小細工使わないし、フィナも道具は使わないし」
最近、ガルラとフィナから稽古をつけてもらっている水谷でも俺の戦い方がガルラ達と違う事が分かるぐらいには成長しているようだ。まあそのおかげかここ最近水谷も大分強くなった。
「ああ、俺の基本スタイルは師匠が教えてくれたんだよ。ああいう小道具の使い方は今でも師匠に敵わないと思うぐらいに凄かったからな」
「うむ。主殿の師匠か、一度手合わせしてみたかったが残念だ」
ガルラが残念がっているが、多分ガルラなら師匠に勝てるだろう。俺?俺はいまだにイメージの中でも師匠に勝てる場面が思い浮かばない。手玉に取られて怒られてばかりいる。
「あいつらAランクって言っても対人戦ならC~Bランクぐらいだな。魔物としか戦った事ないんだろ。弱かったぞ」
「う~ん。Aランクが弱いって訳ないと思うんだけど?」
不思議そうにしているヒトミの隣で何か言いたそうなガルラとフィナが気にはなったけど結局何も言ってくれなかった。俺1人で相手した事の文句でも言いたかったのかな?
そうして受付に戻り所属変更を行った訳だが、その時にレイとヒトミのギルドカードには二つ名が刻まれている事を思い出した。何で偽物の奴等は嘘を突き通せたか不思議だったが、偽レイと偽ヒトミのギルドカードは受付に出した事が無かったのでバレなかったようだ。
まあ、そんな事もあり無事?ワコール所属となった俺達は依頼をこなしながら、クーミ達に情報を集めてもらっていた。
「あっ、『カークスの底』の皆さんお疲れ様です。その様子だと無事依頼を達成したみたいですね。相変わらず有り得ない速さですね」
この街での俺達の担当になったソーリさんがいつもの笑顔で俺達を受付けてくれる。
「聞いてよソーリ、今回の依頼私がほぼ全部一人でやらされたのよ。まだEランクの私がCランクの依頼をよ!酷くない?」
今回一番働かされた水谷がソーリさんに愚痴を始める。今回は赤狼の巣を潰してくる依頼を受けたので巣を見つける所までは手伝ってから後は全て水谷に練習として対処させた。
「いや、それが本当ならEランクで赤狼の巣を全滅させたアユムさんが凄いと思いますが・・・ああ、もしかして巣に水を流し込んで溺れさせたとかですか・・・ってそれも凄いですけど」
「ううん。今回は各個倒していけって指示だから本当に大変だったのよ。ウチの冷たいリーダーとその彼女達は助けてくれないし」
俺を睨みながら文句を言ってくる水谷。一応俺達3人は影に潜って後ろからついて来てたし、何かあったらフォローするつもりだったのだが、特に危なげなく水谷は対応していたから文句を言われても困る。
まあキャーキャー悲鳴をあげながらだったから、怖い事は確かだったようだ。
ただ、水谷もレイとヒトミと同じように水を体に纏わせて攻撃を防げる。というか纏う水の量を多くすれば攻撃が届かなかった。水谷に攻撃してきた赤狼は纏った水に突っ込みそのまま溺死していた。
更に言えば水谷もレイ達と同じように魔法の色が変えられるようになった。その色は黒。色々悩んでいたみたいだったが、深海をイメージしたら出来たそうだ。
そしてこの水魔法かなり厄介なのが、水谷の手を離れなければ自在に操作可能って所だ。レイとヒトミは出した魔法はその後、自在に操作できないが水魔法は水谷と接触さえしていれば操作できるので、出した『水球』に細い水の糸みたいなものを繋げておけば相手に纏わりつかせたりして嫌がらせも出来るし、顔に張り付けて溺死させる事も出来る。最近俺達の訓練は水谷に水を纏わせてもらって体が重い状態で稽古するのが流行りになっている。
「おい!今度は赤狼の巣をアユムが一人で潰したみたいだぞ」「マジか、あいつまだEランクだぞ」「何で『カークスの底』の奴等は化物ばっかりなんだ」「ギンの奴はどこからメンバー見つけてくるんだよ」「いや、あいつらの訓練が異常なんだよ。毎回死にかけるぐらいやってるぞ。しかも上級ポーション躊躇う事無く使ってやがるからな。」
周りの奴等からはあの1件以来注目を集めて、俺達が依頼を達成報告に来ると必ず盗み聞きされてすぐにギルド中に広まってしまう。
「それでギンさん。アユムさん以外はポイントが溜まりましたけど、ランクアップしますか?ランクアップはCランクに上がる時と同じでBランクの依頼を一度達成すれば上がりますよ。まあみんな点付きなので上がってもBランク依頼が受けられるぐらいで、今までと特に何も変わらないですけど」
それならと言う事で受ける事にした。その依頼は「水竜の巣の調査」、「火竜」か「光竜」についても何かないか聞いたけど「火竜」についての依頼は無く、「光竜」はそもそもそんな魔物はいないと言う事だった。これで水谷に再び水竜の装備を作ってやれそうだ。「調査」だけどまあ倒してしまっても構わんだろ。
「あっ!お兄ちゃん達おかえり~」
ギルドで待っていると『念話』で呼んだ留守番組がやってきた。今回ガルラとフィナは出番無しとの事でクーミ達の護衛をお願いしていた。夜は二人で近隣の街を巡り囚われた獣人の解放をしていたはずだ。
「おう、そっちもお疲れだな。何人だった?」
「今回は一人だ」
この国は結構まともみたいで、獣人やエルフの奴隷は厳しく取り締まっているみたいだからあまり見つからない。
「クーミはどうだ?結構厳しかっただろ?」
クーミは普段は俺達とも訓練しているけど、ミルとルルを守る為に更に強くなりたいと言って今回ガルラとも訓練すると言っていた。クーミの事はノブから頼まれているので手加減無しのガルラとは今まで訓練させないようにしていたんだけど自分から希望してきたので今回だけ許可した。
「はい!かなり厳しかったですが、前よりも明らかに強くなった事が自分でも分かります。でもあの内容の訓練をしてたらいつか死ぬかもしれないので、もう結構です」
ハハハ、やっぱり風の国で鍛えられていてもガルラの訓練はきつかったようだ。そしてガルラ達に「水竜の巣の調査」依頼を受けた事を伝えると二人とも目を輝かせた。そしてどっちが相手をするか言い争いを始め出したので、俺達が次に何の依頼を受けたのかギルド中に広まってしまった。