10話 スキル
二人で個室に入って椅子に腰かけると、師匠からスキルについてもう一度確認される。
「本当に『探索』と『念話』持ってんだな?ちなみにスキルを確認したのはいつだ?」
「ええ、その二つはちゃんと持ってます。『念話』は使い方分かってないですけど・・・スキルについては確認したのは1ヶ月ぐらい前ですかね」
スキル確認したのは確か召喚されて城から外に出てる時だったはず。あれからはずっと逃げ回ってたから、確認してなかった。
そう答えると、師匠から怒られた。
「馬鹿野郎!スキルってのはそう簡単に覚えられねえけど冒険者なら毎日確認しとけ!新しくスキル覚えればそれだけでも生き残る可能性が高くなるし、戦い方や仲間との連携も変わってくるからな!」
「すみません。すぐに確認します。スキル・・・・・あれ?増えてる?」
師匠に怒られて慌ててスキルを確認する。約1ヶ月ぶりのスキル確認、相変わらず目の前に文字が現れて前が見づらいと思ったらスキルが増えている事に気付いた。
「ほら見た事か。これからは毎日1回は必ず確認しろよ。で、何が増えてたんだ?」
スキル:魔法(影)、探索、念話、自室、暗視、潜伏、快足、罠師、偽装
目の前に浮かぶ文字を見て驚く俺に師匠が話しかけてくるが、これは教えてもいいのだろうか。師匠の話ではスキルはそう簡単に覚えられないって話だけど約1ヶ月で『暗視』、『潜伏』、『快足』、『罠師』、『偽装』の5つもスキルが増えてるのはどうなんだ?・・・まあ、いいか、正直に話してそれから考えよう。
「暗視、潜伏、快足、罠師、偽装の5つですね」
「はあ?いやマジか?5つはねえだろ?今まで見落としてたんじゃねえか。・・・・いやアレを見落とす訳ねえか。って事はマジで1ヶ月で5つも増えたのか!お前何してたんだ?」
「えっと、田舎の森で鬼ごっこしてました」
捕まったら殺される罰ゲーム付でしたけどね。
「はあ?何でそれでスキルが覚えられるんだよ・・・いやもういいか。これがほんとか噓かよりもお前が今そのスキルを持ってるってのが大事だな」
追及する事を諦めて、呆れた様子で話を進めてくれる。師匠の性格なのか冒険者だからなのか分からないが、細かい事はあんまり気にしないみたいで俺にとっては都合がいい
「取り合えずお前の持ってるレアスキルの話だったな。まずは『念話』か。使い方は俺も噂でしか知らねえけど、相手の頭に触れて目に見えない何かを繋げるらしいぞ。それが繋がると頭ん中だけで会話ができるらしい」
さすが師匠物知りだな。って事で早速実践してみよう。
「師匠。少し失礼します。」
そう言って師匠の頭に手を置いて、繋がるイメージをすると、すぐに繋がった感覚があった。
(師匠。これで繋がってますかね?聞こえますか?)
頭の中で師匠に向かって話かけると、師匠がビクンと体を上げてビックリする。
「うお!今頭ん中にギンの声がしたぞ、お前今『念話』使ったのか?」
コクリと頷くと、師匠が「よし、それじゃあ、俺も」とか言って『念話』を使おうとするが、俺には師匠の声は何も聞こえてこない。代わりに頭の中で呼び出されている感じがするので、繋ぐイメージをすると、師匠の声がする。
(・・・おお、繋がった?繋がったよなこれ?ギン聞こえるか?)
(聞こえますよ。師匠。何か繋げるまで師匠の声は聞こえなかったですけど師匠の方はどんな感じだったです?)
(なんて言えばいいか・・・う~ん。繋がるまで閉まっているドアを叩いて呼んでるイメージか、それで繋がると扉が開いたってのがしっくりくるかな)
(そうなんですか。あれ?でも俺から師匠にはそんな事なくてすぐに繋がりましたよ)
(そりゃあ、お前のスキルだからじゃないのか?よく分からんけど、そういうもんなんだろ?ちょうどいいからこのまま『念話』で話するぞ。『念話』と『探索』の話は聞かれるとヤバすぎるからな)
そういえば元々それで個室に移動したんだった。
(まず『念話』な。これがどんだけヤバいか分かるか?これがあれば上の指示がほぼ完璧に末端の兵士まですぐに伝わるってのは分かるよな。作戦開始、撤退や伏兵の突入タイミング。このスキル持ちは軍が喉から手が出る程欲しがってるんだよ。でこのスキル持ってるってバレるとどうなると思う?噂だけど軍から難癖付けられて牢屋行き、その後、監禁されて死ぬまで利用されるって話だ)
うおおお。やべえ。やり方が無茶苦茶じゃねえか
俺が青い顔をしているのを確認すると、師匠が話を続ける。
(次に『探索』な。俺は『探索』の下位スキルって言われてる『探査』持ちなんだけど、こいつは周囲50mにいる何かが分かるってスキルだ。それが魔物なのか、人なのか、動物かは分からないけどな。それでも待ち伏せや不意打ちを防げるからそこそこ優秀なスキルなんだけど、お前の『探索』は人や魔物まで判断できるんだろ?更に探し物が明確にイメージできればそれすらも探せるって聞いた事がある。)
(探し物は初耳ですけど他に付け加えるとすれば、俺に敵意を持ってるかどうか分かります。あと罠も設置してるのはわかりますね・・・・生きてるか死んでるかも分かるか・・・あと地図が分かるぐらいでしょうか。)
(馬鹿野郎!そのスキル俺が聞いてる以上に優秀じゃねえか!・・・まあ、そんなに優秀なスキルだから、当然冒険者の奴等は仲間にしてえんだよ。そうするとどうなるか、そのスキル持ちが所属するパーティより強いパーティがそいつらを襲って奪うか、スキル持ちを罠に嵌めて奴隷落ちにしてからパーティに加えるってのが多いな。まあ、どっちのパターンでも奴隷落ちだから、辛いだろうな。俺も1回だけAランクにいる『探索』持ち見た事あるけどな、人じゃなくて犬って扱いだった、ありゃあ、死んだ方がマシってレベルだな)
人権は?この世界に人権はないの?師匠普通に『奴隷』って使ってるけど奴隷制度あんのかよ。思っている以上に慎重に行動しないとヤバいな。でも師匠にここまで話したけど大丈夫かな?
(お前、これからはスキルの事は黙ってろよ。俺もとばっちりで狙われたくねえから仲間にも黙ってるからな。)
そうか、そんなレアスキル2つ持ってる奴の師匠ってなると、当然師匠も何かしらレアスキル持ちだと勘違いされるのかな?まあ、黙っててくれるなら何でもいいや。
(分かりました。でも何かのアイテムとかでスキルがバレたりする事ってないんですか?)
(いや、そんなアイテムの話は聞いた事ねえな。基本スキルは自己申告制だからな。但し持ってるスキルを隠しているのはパーティ内でも何とか許して貰えるが、持っていないスキルを持ってるって嘘つくのは殺されても文句は言えねえから気をつけろよ。・・・そうだな・・・持ってるスキルは『暗視』、『潜伏』と『快足』ぐらいにしとけ!『罠師』と『偽装』は妙な疑いを掛けられるかもしれんしな。)
おお、物凄く参考になる話してくれるし、凄い親身になって俺を心配してくれるのが分かって超嬉しい。やばい嬉しくて泣きそう。
(もう少しお前のスキルについて教えてやるけど、『暗視』は暗い所でもよく見えるスキルな。洞窟とか夜間に松明や明かりがいらないって便利スキルだな。『潜伏』は隠れるのが上手くなるスキルだけど、1回気付かれると向こうが姿を見失うまでは再度効かないから注意な。『快足』は足がメッチャ早くなる、んで長い距離走ってられる。
『罠師』は罠の事ならなんでもできるってレアスキルだ。これだけでも洞窟探索をメインでやってるCランク以上のパーティに入れるぐらい優秀なスキルだぞ。暗殺者なんかが持ってる事が多いらしいから、変な勘違いされたくなければあんまり持ってる事は言わない方がいいけどな。『偽装』はその名前の通り色々偽装が上手くなる・・・まあ人を騙しやすいってスキルだな、これも暗殺者や詐欺師が持ってる事が多いからあんまり言わない方がいいぞ)
感動して泣きそうになっていたが、師匠の話がかなり俺にとって重要な話だったので泣きそうな気持が収まり話に集中する。
『暗視』、『潜伏』、『快足』は多分夜の鬼ごっこで覚えたんだろうな。あと『罠師』はハンターさんと遊んだ時か・・・『偽装』はどこだろ?虎のマスクで変装した時か、付け鼻髭付けてオッサンに間違えられた時か?・・・いやありゃ『偽装』じゃなくて『仮装』だろ。そうするとアレか。俺が死んだ時か、あの偽装工作で覚えた可能性が高いか。
「こんな感じだけど。何か質問あるか?俺に聞きたい事があれば今のうちに聞いとけよ。」
師匠は『念話』をやめて会話に戻した。たしかに男二人個室に入ってずっと無言はちょっと危ない感じしますね。ナニがとはいわないけど。
「師匠って何のスキル持ってるんですか?もしかしてスキルの事聞くのはマナー違反ですか?」
この世界の常識を知らないのでマナー違反かもしれないが恐る恐る師匠に聞いてみる。
「確かにパーティメンバー以外だとマナー違反だな。まあ、そんだけヤベえスキル持ってるって教えてくれたお前ならいいだろ。俺は『探査』、『罠感知』、『鍵開け』、『投擲』だな。スキルは2~4個ぐらい持ってんのが普通だな。」
(だからお前の7個はちょっと異常だ、しかも2つが激レアで1つがレアって相当ヤベえからな。Aランクパーティからでもスカウト来るレベルだぞ。)
会話の途中で師匠の話が『念話』に切り替わる。
本当は後2つそれ以上にヤバいスキルあるんですけど、さすがにこれは師匠でも教えられない。でも会話でヤバい部分はすぐに『念話』してくれるって師匠早速使いこなして凄えな。・・・でも今師匠と繋げた気はなかったけど何で『念話』できたんだ?・・・あっ、そうか通話切ってなかったのか。どうすれば切れるんだ?・・・あっ切れた感じした。電話をイメージすれば簡単そうだな。
「うん?ギン?今何か切れた感じしたけど何かしたか?」
すぐに『念話』が切れた事を感じた師匠から質問が来るので、『念話』を切った事を教えると、
「お前、今の俺の話ちゃんと聞いてたのか?」
師匠から疑われてしまったけどちゃんと聞いてた事にして誤魔化しもう一つ聞きたい事を聞いてみる。
「師匠ってパーティメンバーいるんですよね?何かメンバーが負傷してパーティとして活動できないから俺の指導依頼受けてくれたって聞きましたけど、そっちは大丈夫なんでしょうか?」
俺の指導で師匠の仲間に迷惑がかかると思うと少し申し訳ない。
「ああウチのリーダーがこの前の依頼失敗してケガしてな。リーダーが療養中の今は長期休暇中だ。って言ってもあんまり金ねえからお前の指導受けたんだけどな。後の3人は火の国に稼ぎに行ってるから、お前の依頼受けてる間は戻ってこねえと思うから大丈夫だ。」
それならあんまし気にしなくていいのかな。
「もう質問はいいか?それなら明日7の鐘にそこの大広場に集合な?本当はギルド集合が普通だけど、新人は依頼決まってるから毎回依頼受ける必要ないしな。明日何の依頼やってくのかは決めとけよ!」
そう言って個室から出ようとした所で師匠は立ち止まり俺に振り返りながら質問してくる。
「そういやお前、どこに泊ってんだ?」
正直に昨日泊った宿の場所を答えるとまた怒られた。
「馬鹿かお前!何で新人がそんな高え宿に泊まってんだよ!・・・はあ~。俺が初心者おススメの宿教えてやるから今日からそこに泊れ!新人で高え宿に泊まってると目立って狙われても文句言えねえぞ」
いえ、さすがに狙われたら文句言います。・・・だけどやっぱり自分で分かってない事を注意してもらえるっていいな。
その後は広場から少し路地を入った、冒険者ギルドまで結構近くて安い宿を教えて貰った。夜、朝飯付きでお値段銅貨3枚。食事は美味しかったが量は少なかった。ベッドは板張りに藁の入った敷き布団でチクチクして掛布団も同じ感じでものすごく寝にくかったのでその日は『自室』に帰った。