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影魔法使いの冒険者  作者: 日没です
6章 砂とサイの国のCランク冒険者
109/163

103話 水魔法の練習

「クッ!アッ!・・・ハァ、ハァ」


 翌日、手を繋いで家を呼び出すと、水谷は最初のみんなと同じように地面にペタンと座り呼吸が乱れる。何で毎回こうなるんだろ?そして水谷、睨みつけるのはやめろ。ちゃんと家出しただろ。



「嘘!ホントに私の家だ!」


 水谷は中に入ると驚いて立ち尽くした。説明はしたんだけど、信じてなかったんだろうな。


「じゃあ、俺は魔法の練習できそうな場所を聞いて移動するから、それまでゆっくりしてていいぞ」



 そうしてフィナも水谷の家が気になるって事で、留守番するって言ったのでガルラだけ連れてギルドに向かう。


「ひ、広い場所ですか?それならこの街から北に1日程行けば砂漠に出るのでそこがいいのではないでしょうか。ただ周りに何もありませんから迷わないようにお気をつけください」


 この砂の国、名前の通り国の大半が砂漠らしく、人が暮らせるのは点在する湖や極僅かの土地だけのようだ。この街は国境も近いので周囲に緑は多く生えているが、領主の館のすぐそばの湖は兵士がずっと見張っているぐらい大事に管理されている。

 そうして昨日の騒ぎのせいか、若干怯えている受付のお姉さんに教えて貰った通りガルラと二人街を出て砂漠を目指す。砂漠なら魔法の練習をしても誰にも迷惑かけないし、水谷が少しぐらいでかい魔法使っても大丈夫だろう。




「暑いな」

「うむ。初めて見たが砂漠とは暑いんだな。それに何も植物がないな」


 目的地についてそんな感想をガルラと言っている通り砂漠には何も無かった。それに砂だらけをイメージしていたが、石ころが転がっていたりしてどっちかと言うと荒野に近い。受付に聞いた話だと砂の国の中心『湖都』周辺は砂だらけらしい。何で言い方が土都や砂都じゃないのか不思議に思ったが、砂漠の真ん中にある湖の上に城があるからそう呼ばれているそうだ。何かヨーロッパにあるお城に似たようなものかなと勝手に思っている。


 

取り合えず目的地についたので『念話』ででてくるように言って扉を出す。暫く待つと全員ゾロゾロ出てきた。別に水谷とレイとヒトミ以外は部屋で待っていてもいいんだけど、最上級魔法を見学したいそうだ。まあ別に構わない。


「えっと、取り合えず水谷は水魔法が使えるんだよな?」

「水以外にも土魔法も使えるわ。って言っても土は水程得意じゃないから初級魔法が使えるぐらいよ」


 おお、水谷は二重詠唱者だったのか。それにしても魔法が使えてもその中でも相性の良さってあるんだな。知らなかった・・・うん?って事はレイって3つも魔法極めているのか?


「さあ?蘇生の最上級魔法って何だろう?蘇生魔法なんて『蘇生』(リザレクト)しか知らないわよ。回復も『治癒』(ヒール)『状態異常回復』(リカバー)『上級治癒』(ハイヒール)の3つしかないらしいからどうなんだろ?」


 当の本人はどうでもいいって感じで答えてきているが、横で話を聞いていたクーミ達がドン引きしている。やっぱりレイって自分が使える魔法の凄さに無頓着すぎるな。



「・・・出来た。ホントなんだ」


 レイと話をしていたら、後ろから水谷の声が聞こえた。今はヒトミが無詠唱のやり方を教えているはずなので、その様子だと出来たらしい。


「ね!言った通りでしょ?じゃあ次は中級、上級、最上級の順番で練習だね」


 ニコニコした顔でヒトミが水谷に言っているが、本当に出来るんだろうかと心配したが、その心配はいらなかった。水谷は難なく上級まで無詠唱で使えた。元々通常の使い方で水の上級使えるらしいから、あんまり驚く事でも無かった。そしてこれから水の最上級魔法『大海嘯』を使う。近くで訓練していたガルラとフィナも呼んで全員で見学する事にする。




「痛~~。レイお姉ちゃん『治癒』お願い」


 レイに回復を毎回頼んでいるので忘れてしまいそうだが、フィナも回復魔法は『上級治癒』まで使える。使えるが本人曰くレイの方が効くらしい。


「うわ~今回はまたこっぴどくやられたわね。相変わらずガルって訓練でも容赦しないわね」

「ふん。実戦で死ぬよりかマシだろう。それにレイが『治癒』使えるからな。訓練を厳しくしてもすぐ回復するから手っ取り早く強く出来る」


 顔を腫らし足と手を引きずりながら戻ってきたフィナに『治癒』をかけながらレイが呆れるが、やったガルラは全く気にしていない。基本俺達の訓練はガルラがやってくれる。理由は女だろうが遠慮せずにマジでボコボコにしてくるからだ。まあそのおかげでみんな強くなったので文句はないが、ガルラが言うには俺達は成長の速さが異常らしい。俺達は勇者だからかなって思ったりしているがフィナも同じぐらいなので、もしかしたらガルラの教え方がいいのかもしれないと思い聞いた事がある。


「・・・いや、私の教え方は乱暴らしくてな、村で教えた時はすぐにみんな離れていった。このやり方についてくる主殿達がおかしいと思うぞ」


 ガルラが言うにはそう言う事らしい。強くなるなら構わないのであんまり気にしないけど、流石にレイとヒトミがボロボロになってる所は見たくないので、俺が見てない所で訓練するようにお願いしている。その間は俺と戦闘スタイルが同じフィナと訓練したり、フェイントの仕方、戦い方等を話したりしている。




「そうですね。水竜王様は『大海嘯』で辺り一面の敵兵を押し流したと本で読んだ事があります。ただ、それがどの程度の規模なのかは書かれていませんでした」


 先程からみんなで『大海嘯』がどんな魔法か話をしていたが、結局クーミしか情報を持っていなかった。


「う~ん。それだとどの程度の規模か分からないわね。辺り一面って事は10人とかそんな数じゃないだろうけど、1000人なのか10000人なのかで結構規模が違うわね」

「まあ、規模なんてどうでもいいんじゃない?適当に大量の水で押し流せばそれでなんちゃって『大海嘯』になるでしょ」


 水谷は結構悩んでいるのは根が真面目だからだろうか、本当に伝承通りに再現させないと納得しないタイプのようだ。代わりにレイはあんまり気にしていないのか適当な事を言っている。ヒトミはさっきから腕を組んで考えている。


「そうだ!多分私達とあんまり変わらないと思うよ!」


 何か思いついたのかヒトミが手をポンと叩く。


「何が変わらないのよ?」

「う~んとね、私の『隕石』もレイちゃんの『聖なる審判』も結局は『火球』と『光矢』『光槍』を大量に出してるだけなんだよ。だから多分『大海嘯』も『水球』を大量に出してるだけなんだと思うよ」


・・・確かに言われてみればヒトミの言ってる事には一理あるが、本当にそうなんだろうか?いや、まあなんちゃってだからそれっぽく見えればいいのか?


「ふ~ん。だったら先に瞳の『隕石』見せてよ」

「いいよ~」


 水谷の言葉に軽く答えて手を挙げるヒトミ。見上げると頭上に無数の『火球』が浮かんでいる、しかも色は白!


「ヒトミ!ちょっと待て!何で白にした!レイ!壁だ!紫!」

「え?今までやった事無かったからかな?前からどれぐらいの威力か知りたかったんだ。ギンジ君も最初の頃に仲間を巻き込まない為にも範囲は確認しておけって言ってたよね?それにここなら大丈夫でしょ?」


 何でもないように言っているヒトミだが、その威力を知っている俺達は不安で仕方ない。レイも俺の叫びと同時に壁でみんなを囲んでくれたのでヤバい事が分かっている。ガルラとフィナを顔を引き攣らせながらも俺達の前に出てきたのは壁にでもなりにきたのか。



「ヒトミ!せめて1個にして!」


 レイが大声でヒトミを止めるけど、1個でも白はヤバいぞ。レイの声に不満そうな顔をしながらも上空の白い火球を一つだけ残して消す。


「レイ、大丈夫か?壁が破壊されたら多分みんな死ぬぞ?」

「大丈夫よ。直撃されたら破られるけど、爆風なら耐えられる。ただ念の為もう少し出しておこうっと」


 


・・・今まで誰も破った事のないレイの紫の『光壁』をヒトミは破った事あるのか・・・いつの間に。そしてレイは更に3つ壁を出す。ほ、本当に大丈夫か?


「じゃあ行くね!えい!」


 軽い、本当に軽い声を上げて手を振り下ろすヒトミだったが、白の『火球』が地面に触れてからがヤバかった。マジで隕石が落ちたらこんな感じなんだろうなってぐらいの爆発が起きて、その後には大きくて深いクレーターが残った。ただ4重の壁に囲われていたので俺達は大丈夫だったし、妊娠しているミルとルルもレイが気を利かせて更に光壁で囲っていたので、安心した。


「うわ~凄いね~。自分でやっておいてアレだけどちょっと引くな~・・・・痛!ギンジ君!何で叩くの?暴力は駄目だよ!」

「白使う時は事前に相談するって約束だろ。レイがいなかったら俺達死んでたぞ」

「ええ?そんな事無いよね?」


 俺の言葉にヒトミは驚くが、あれのヤバさを一番分かってないのが当の本人とは少し呆れてしまう。



「ガルラ、もしあれを使われたらどうする?対処できるか?」

「いや、あれは無理だ。範囲が広すぎて躱せないし、私ではどうにもならないぞ。本当に主殿達と一緒にいると自分が如何に弱いか分からされるな」


 ガルラでもどうしようもない、俺も影に逃げ込んでもここまで地面が抉られたらどうなるか分からない。さっきまで一面荒野だった場所に大きなクレーターが出来ているのを見ながら、ガルラの言葉に俺も頷くしかなかった。


「す、凄いわね!じゃあ、次はレイのを見せてくれない?」

「まあ別にいいけど、ヒトミ程凄くないわよ」

「レイちゃんの『聖なる審判』花火みたいで凄いキレイなんだよ」

「レイ!使う時は結構遠くにな。あんまり近くに出すなよ」

「は~い」


 俺の注意をちゃんと聞いてくれるんだろうか、軽い感じで返事をしてレイが手を振る。振ると先ほど出来たクレーターの真ん中辺りに無数の『光矢』が現れる。色は紫。


「ちょ、レイ!何で紫にした?」

「え?これって最大威力の確認も兼ねてるんじゃないの?」


 違うぞ、そんな事言ってないぞと言いたい所だが遅かった。レイが手を振ると紫の矢が高速で回転を始める。そして次々に地面に向かって行く『光矢』、地面から生えてくる『光槍』・・・うん、こっちも相変わらずえげつないな。耐えられる奴とかいるのか。魔法が終わると、クレーターの中に更にクレーターが出来ていた。


「はい、次アユムね。『水球』1000個ぐらいでなんちゃって『大海嘯』っぽくなるんじゃない?」


 1000ってレイは軽く言ってるけどホントに出来るのか?





「・・・ちょっと少なくない?こんなもんかな?」


 俺の心配を余所に水谷が手を挙げると少しずつ頭上に『水球』が現れ始める。そして多分1000個出した所でこのセリフである。これだけでもヤバそうなのに、水谷は更に出そうとしているので慌てて止める。


「いや、取り合えず最初だから様子を見ないと、とんでもない威力だったら俺達まで危険だぞ。丁度レイとヒトミがあけた穴があるからそこを狙ってくれ」

「まあ土屋の言う事も当然ね。いいわ、あの穴を狙う。『大海嘯』!!」


 そう言ってノリノリで水谷が手を振り下ろすと上空の『水球』が穴に向かって飛んでいく。そうして穴に入るとその勢いのまま濁流となってクレーターの中を予想もつかない動きで暴れ回っている。これ、クレーターの中にいたら死んでるな。・・・!!!


「レイ!!!壁だ!!!」


 クレーターの淵に当たった濁流が波飛沫を上げてクレーターを乗り越えてきた。濁流が俺達の方に向かってきたので慌ててレイに向かって叫ぶと、幸いレイがすぐに反応して壁で俺達を覆ってくれたのでケガとかは無かったけど、あのままだと、俺達は押し流されていただろう。


「あっぶな。これ平坦な場所か高台からじゃないと、こっちに跳ね返ってきて巻き込まれるわね」

「だね~。これも普段使いできないね」

「だな、上級以上は味方を巻き込む恐れがあるからな水谷も中級までだな」


 水谷もレイとヒトミと同じように中級までしか魔法は使わないように言い聞かせる。


「分かったわよ。その代わり、レイとヒトミの色が変わる魔法教えてよ」

「ああ、あれ?あれも簡単だよ。アユムちゃん『水』出して、それを大きくせずに魔力を込めていくの」


 ヒトミが目の前で『火』で実演しながら説明すると、すぐに水谷も練習を始める。


「む、うん?あれ?結構難しいわね。大きくしないってのが難しいわよ」

「まあ、私も最初は難しかったけど、練習すれば出来るわよ。最初から出来たヒトミが異常なのよ。何で2回も色変えられるのよ」


 確かにヒトミは最初から普通に出来たからおかしいよな。3人との違いなんて使える魔法の種類だけだ。もしかして一重詠唱者はその属性に特化しているから簡単に出来るのか?なんて考えていると、肩を叩かれ振り返ると引き攣った顔でクーミが話しかけてきた。


「ギン達はどれだけ規格外なんですか、一日で3つも最上級魔法を目にするなんて、自慢したいけど頭がおかしくなったと思われてしまいます。しかも何で『生活魔法』がベースなんですか?」

「ああ、『属性魔法』と『生活魔法』って同じものだぞ。『生活魔法』に魔力を込めたのが『属性魔法』って言われてるだけだよ。クーミもやってみるか?得意属性は何だ?」


 そう言えば俺達の中ではそういう事になっているけど、実際はどうなのかよく分かってないな。


「私は『風』ですけど・・・・?」

「そうのか?その時はどれぐらい魔力込められたんだ?」

「う~ん。どうでしょう?ただ駄目だったとしか・・・まあ、もう一度やってみますね」



「吹き荒れろ『風』・・・・・・・・・・う~んこれで限界ですね。5回分ぐらいです」


 クーミの手に持つ風がどんどん大きくなりある程度の所で限界だと言ってくる。ちなみにその『風』を放ってもらったが唯の強い風だった。


 結局その日はそのまま魔法の練習で一日が終わってしまった。明日からは水谷の新人クエストをみんなで手分けしてやる予定だ。新人クエストが終わればパーティに入れられるので、Cランククエストに連れていってポイントが溜められる。ただし、ランクの低いメンバーがCランククエストを達成したと言ってもポイントは一つしかもらえない。





「それじゃあ、ガルラとレイはゴブリン討伐な。出来れば巣を狙って30匹狩ってきてくれると助かる。巣の場所はガルラなら分かるだろ。フィナとヒトミは薬草と魔力草の採取な。フィナの『探索』なら余裕だな。クーミ達は街で情報収集って言っても無理はするな、世間話程度でいいからな」


 翌朝、水谷の新人クエストをさっさと終わらせる為、各自のやる事を指示していく。


「俺と水谷は鼠だ」


 俺と一緒に行動したいと言う恋人達にそう言うと、二人はあっさりと諦めた。新人の時と年1回の下水掃除でうんざりしてたから当然の反応だ。




「臭!マジで何ここ!臭い!」

「我慢しろ。ほら、さっさと行くぞ」


 下水の入口で匂いに軽くキレ気味の水谷に用意をさせてから下水に突入していく。マジで俺こっちに来てから何回下水に入ってるんだろ?多分普通の奴よりかなり多いよな。ちなみに風の国の水谷の家を俺が持って来ているので、水谷が風の国で使っていた服や装備も当然入っていた。それでその中から新人っぽい奴を選ばせて今は装備させている。




「ふう~これで何匹だ?20匹ぐらいか?」


 目の前で苦しがっている鼠を前に水谷に数を確認する。水谷が魔法で鼠に水を纏わせて窒息させていくから折角用意した木の棒盾セットは、使う機会は無かった。


「これで22匹ね。あと8匹!いい加減臭いに慣れて来たけどやっぱり早く外に出たいわ」


 倒した鼠の尻尾を切りながら水谷が愚痴ってくる中、俺は再び頭を痛めている。


 ま、マジか~ここにもあるのか?っていうか何で毎回下水に隠してるんだよ。ってぼやくのは後にしてさっさと回収するか。水谷に見張りを任せて案の定隠し部屋に保管されていたワインを回収する。そして二度は来たくないので、文句を言う水谷を連れて下水を探索して回り、もう一つ隠し部屋を見つけてワインを回収して宿に戻った。


 そうしてみんなで手分けして水谷の新人クエストを手伝うと4日目には全て終わった。受付のお姉さんが若干引いていたけど気にしない。ちなみにここサンドシーマで最速記録らしい。って事で無事新人クエストを終わらせた水谷をパーティに加入させ、表向きは怪しまれないように普通に依頼をこなしながら、残ったクーミ達に情報を集めて貰っていたのだが、特に気になる情報はない。むしろ対火の国に向けてサイ国が動いているって話もある。ただ失敗は出来ないので、情報屋を使ったりして慎重に情報を集めていた。そして二月ほど情報を集めても、不審な点が無かったので俺達はサイ国に向かった。


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