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影魔法使いの冒険者  作者: 日没です
6章 砂とサイの国のCランク冒険者
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101話 砂の国の国境都市

 ノブ達を埋葬した後、みんなを家に入れてから移動を開始した。ここから途中の街に立ち寄り、この国が戦争に負けた事をギルドに報告し、捕まっている獣人がいれば助けながら砂の国を目指した。

砂の国に入ったらすぐにサイ国を目指し、国境の街で情報収集してからサイ国に行くかどうか決める予定だ。移動中は家にいる面子で情報のすり合わせを行ってもらう事になっている。




「ただいま~」


 立ち寄った街で宿をとった後、俺が帰ってきた瞬間、レイとヒトミが慌てて出迎えてくれた。これはまた何かあった事は分かったけど何だろう?また水谷がガルラを怒らせたのか?


「ギンジ!大変!赤ちゃんがいる!」

「そう、ギンジ君!赤ちゃん!妊娠!津村君!」


??


「取り合えず二人とも落ち着いて。意味が分からん。赤ちゃんがどうしたって?」

「だから!ミルとルル妊娠してる」

「そう、津村君の子供だよ!どうするの?誰か出産経験者探さないと大変な事になるよ、ガルちゃん!」

「・・・いや、私は子供は産んだ事はないぞ」

「誰かいないの?フィナ、立ち会った経験は?」

「ええええ!無いよ!私達の村で出産に立ち会えるのは経験者だけだよ」


 レイとヒトミの慌てように、戻ってきた俺は戸惑いながらも衝撃の事実に固まり動けない。


「はあ~。二人とも慌てすぎ。出産までまだまだ時間あるから今から慌ててどうするのよ」


 奥から水谷が出てきて、慌てる二人に呆れたように言葉を投げる。やけに水谷だけ落ち着いている事に不思議に思ったけど、少し前にノブからもしかしたらって事で相談されていたらしい。


「ああ、そっか。まだ先か・・・焦った~」

「ホントだよ~」


 へなへなと床に腰を下ろす二人を放っておいて俺は部屋に入ると、机の上にコップやポテチ、甘い物等が散乱していた。これは噂に聞く女子会とか言う奴でも開催していたんだろうか。


 二人掛けのソファに座るミルとルルの対面のソファに腰かける。多分レイとヒトミが座っていた場所だろう。隣の一人掛けの椅子にクーミが座っていて、その対面に水谷が大きなため息を吐きながら腰かける。


「それで、ミル、ルルどういう事だ?」


一応理解はしたけど、本人達からもう一度話してもらおう。


「はい、えっと、最初アユム様からギンやヒトミ、レイが何者かについて教えて貰ったんですよ。いや、まさかレイが教国の聖女様だったなんて・・・それでここ最近私もルルも体の調子が悪いのか、食べてもすぐに吐いてしまうので、取り合えず『治癒』して貰おうとなりまして、かけて貰った瞬間すぐにレイが騒ぎ出したんです」


 レイがあれだけ騒ぎ出すって事は二人が妊娠しているのは確定だろう。だが、レイは何故分かったんだ?


「レイは何で分かったんだ」

「えっと、今まで色んな人に『治癒』掛けててね、その中には妊婦もいたわけ。で、妊婦に『治癒』かけると必ず二人分の魔力を持っていかれてたから、多分お腹の赤ちゃんにも『治癒』がかかってたんだと思うの。それで、今、ミルとルルも全く同じ事が起こったから妊娠してると思ったの」


 戻って来たレイが俺の隣に腰かけながら説明してくれるが、逆隣にヒトミが座っているので二人掛けソファに3人は狭い。水谷は何か言いたそうな顔でこっちを見ているが、多分文句だからいいか。


「まあ、よく見たらお腹も目立ってないし、妊娠初期って感じかな。でも早い所対策考えておかないとヤバいわよ」


 レイの言う通り、この二人の為にも早い所、安全で落ち着ける場所を探さないといけない。あと、こっちだと出産ってどうやるんだ?


「貴族はメイド達が手伝うのが一般的です。メイド達だけだと不安な場合は領民から経験豊富な女性を数人連れてくる事もあります。平民は近所の女性達が手伝うと聞いた事があります。出産専門の人間は聞いた事ないですね。大体は集まった人の中で一番経験豊富で年上の指示に従うのが普通です」


 クーミに聞いた所、経験者を集めればよさそうなので、何とかなりそうだ。最悪お金を払って経験豊富な人を何人か雇えば大丈夫だろう。・・・と、そう言えば、


「クーミ。ノブからお前も頼まれているんだけど、まさかとは思うが・・・」

「・・・え?えええええええええ!!ない、ないですよ!そもそも私経験自体ないですし!」


 俺の言葉に慌てて否定してくるクーミだが、すぐに光に包まれる。


「シロ」


 クーミに『治癒』を使ったレイの言葉なので、妊娠してないだろう。まあノブの奴身分を気にしないクーミの事結構気に入っていたみたいだったから、頼んできたのもそれが理由だな。取り合えずミルとルルの妊娠の事は後から考えるとして、当初の予定通り俺達はサイ国と砂の国の国境都市サンドシーマまで移動した。

 移動は気が向けば獣人がお供についてくれたが、全員で途中の街に入ると目立つので俺だけ入る事にして、みんなは街の中にいる間は家にいてもらった。ちなみに砂の国へは不法入国しているので、これからしばらく落ち着く予定のサンドシーマで風の国組は初めてみんな検問を通る事になる。





「今から街に入るけど、ミルとルル、クーミは今持ってる風の国の身分証は出すなよ」

「何で出しちゃ駄目なのよ」


 街の外壁が見えた所で一緒に歩くクーミ達に注意すると、少し納得いかない顔で水谷が聞いてくる。聞いてきた当人は金子達に捕まった時に、何の役に立つのか分からないが身分証も含めて何もかも奪われているので、4人はここで仮登録する必要がある。


「3人の持ってるその身分証に3人の高い身分が書かれているんだろ?そんなもの持ってる奴が他国の街に来てるなんて分かって見ろ。色々面倒な事になるぞ。今日から今までの身分は捨てて、平民として生きていくんだ。いいな」


 聞いた所によると、水谷達勇者は風の国で公爵に相当する身分だったのでノブの嫁のミルとルルも当然同じ身分である。クーミも家からあまりよい待遇ではなかったが、伯爵家出身という事には変わりがない。俺の言葉に風の国組は納得して頷いてくれた。と言ってもミルとルルは元は平民で、家が貧しく奴隷として売られたぐらいだから特に問題はない。水谷もまあ、あんまり身分差なんて気にしないからOK。クーミだけが心配だったが、戦争に負けた時からその覚悟は出来ていると言った。国が無くなれば風の国の伯爵家なんて何の意味も無い事を分かっている、むしろ敵に捕まり奴隷に落とされないだけでもマシだと言ってくれた。


「おお、普通はこうやって街に入るんですね。今まで自分がどれだけ特別扱いされていたかようやく分かりました」


 今までは自国の他の街に行っても伯爵家の身分証を見せれば住人用の入口からすぐに入れたクーミが、列に並ぶと呑気に言ってくる。そして二つ名持ちは相変わらず周りからのヒソヒソ話が聞こえて、顔を赤くして気配を消そうと無駄な努力をしている。


「おい、あの金髪と銀髪」、「おいおい、『カークスの底』か?また凄いのが来たな」、「いや、騙りじゃねえか?結構多いみたいだぞ」、「そうだな、なんか聞いてるより人数多いし」、「しかもほぼ女じゃねえか」、「あの男にみんな騙されてるんじゃねえか?」、「そ、それよりもあの獣人さっきから何してんだ?」


 ヒソヒソ話が聞こえてきて気付いたが、俺以外全員女だ。こりゃあ『ヒモ』とか言われても仕方ないかと諦めつつ苦笑いになる。


「ねえ、あれって何やってるの?」


 他の連中と同じようにガルラがフィナをぶん投げる遊びをポカンと見ていた水谷が、俺をつついて聞いてくる。


「ああ、獣人特有の遊びだ。暇になるとフィナはああやってガルラに遊んでもらうんだ」

「そ、そう。へえ~、変わった遊びね」


 俺の噓に何故か納得する水谷。まあフィナは遊んで貰ってるって思ってるから間違いではないだろう。ガルラは投石で藤原の『光壁』を破れなかったのが気に入らなかったのか、最近は時間があればよくフィナを投げている。明らかに間違った練習の仕方だけど、あいつ注意しても聞かないんだよな。





 そうして風の国組は新たに平民としての仮の身分証を作成してから街に入った。ここが風の国との国境だったら街に入るのに苦労したかもしれないが、ここはサイ国と砂の国境の街なので、街に入るチェックもそこまで厳しい物では無かった。というより二つ名持ちのレイとヒトミのおかげかもしれない、門番から握手求められてたし。


 特に問題なく門をくぐり街に入ると辺りの様子を見るが、あんまりドアールやグラニカと変わらない大きさの街という印象だ。


「あんまりグラニカと変わらない感じね」

「そうだね。あっ!でも食材とか全然違うかもよ?レイちゃん興味あるでしょ?」

「おっ!そう言えばそうね。すごい気になるわ。ヒトミも本屋見たいんでしょ?」


 レイとヒトミは自分の趣味の店に興味津々で、二人で盛り上がっている。ミルとルル、クーミも初めての異国に回りをキョロキョロ見渡している。


「それじゃあ、俺と水谷は先に冒険者ギルドに向かうから、みんなは中央広場で色々見てから冒険者ギルドに来てくれ。ついでに目ぼしい武器屋とか防具屋とか探しておいてくれ」

「何で、私はあんたと一緒に行動しないといけないのよ。私だって街を見たいわよ」

「冒険者登録は少し時間が掛るんだよ、街の見学はその後にしろ」


 文句を言ってくる水谷に理由を説明するが、怒り口調とは逆に少し嬉しそうなのは冒険者になれるからだろう。意外に水谷って冒険者とかに興味があるようだ。そうしてみんなと広場で別れて水谷と二人冒険者ギルドに足を踏み入れる。


ギィ


 相変わらずどこのギルドもドアの建付けが悪く、扉を開くと音がする。それが呼び鈴替わりではないけどギルドにいる連中から注目を集める。慣れている俺にはいつもの事なので気にならないが、冒険者ギルド初めての水谷は怖いのか俺の服を掴みながら周りを警戒している。


「見ねえ顔だな」、「新人か?」、「小さい女は新人っぽいが、男は違うだろ」、「あれは『カークスの底』じゃねえだろ」、「あの小さい女って冒険者希望かな?顔はいいから勧誘しねえとな」、「だな、男の方は弱そうだから脅せばどこか行くだろ」、「女か。俺の所に入らねえかな」


 俺達が受付に向かうと周りからのヒソヒソ話が聞こえてくるので、改めて水谷を見る。少し性格のきつさが顔に出ているが、まあ可愛いと言える部類に入るだろう。


「何?」


 俺が見ている事に気付いた水谷が不思議そうに聞いてくる。


「良かったな。お前モテモテだぞ」

「聞こえてるけど、あんなにあからさまなの?馬鹿にされてると思ったんだけど」


 まあヒソヒソ話と言っても普段から声のでかい冒険者連中だ、普通に俺達にも聞こえてくる。ただあいつらは馬鹿にしているつもりは全くない。いかがわしい事を考えている奴は何人かいるだろうけど、その事については黙っておく。




「こいつの冒険者登録と俺は所属の変更を頼む」


 幸い受付に人は並んでいなかったので、そのまま美人なお姉さんのいる受付に座り対応してもらう。隣の水谷が何か言いたそうな顔でこっちを睨んでいるのは無視しておこう。


「それでは先に冒険者登録から行いますね。身分証を出してください。・・・えっとアユムさんですね。しばらくお待ちください」


 水谷が首から下げた仮の身分証を受付に渡すと、お姉さんは席を離れる。そして奥の魔道具で色々操作しているのを水谷は珍しそうに眺めている。


「はい、これでアユムさんは新人冒険者です。それではいくつか注意事項を言いますのでよく聞いておいて下さい」


 しばらく待つとお姉さんが戻ってきて、ギルドカードを水谷に渡して注意事項を説明してくれる。俺が冒険者になった時にミーサさんが説明してくれた事とほとんど変わらない。懐かしいな。


懐かしがっていると、いつの間にか説明は終わっていて、新人クエストの板を水谷に渡している所だった。


「それで、指導員制度どうします?」


やっぱりここはいつものように事務的に聞かれるから、あんまり利用する人はいないようだ。


「いや、こいつには俺達が教えるから大丈夫だ」


 最後に俺を見て受付のお姉さんが聞いてきたので、レイとヒトミの時と同じように断っておく。


「そうですか。それではアユムさんへの説明は以上になります。次は所属の変更でしたね、ギルドカードをお出しください」


 そう言われて俺のギルドカードを渡す。


「ギンさんですね。・・・カ!・・・ふう、分かりました。少々お待ちください」


 俺のカードを見て一瞬驚きの声をあげたお姉さんだが、俺と水谷を胡散臭そうな目で見ると、すぐに席を離れていった。


「ねえ、今の何?何か嫌な感じじゃなかった?」


水谷でも分かるぐらいあからさまな顔してたな。受付があの態度は感心しないけど、理解はできる。


「多分俺達が『カークスの底』の騙りだと思われたんだろうな。噂だと結構いるらしいからな」


これも名乗っている奴に会った事はないけど、たくさんいるとは聞いた。別に同じパーティ名を名乗ったら駄目っていうルールもないので、俺からは何も言うつもりもない。


「ふ~ん。あんた達そんなに有名なの?」

「あんまり自覚はないが二つ名持ちが二人もいるから有名らしいぞ。ただ前も言ったけどレイとヒトミに二つ名の話はするなよ」

「分かってるわよ。でも『撲殺』に『切り裂き』って・・プププ、あの二人に全然似合ってなさすぎて逆に面白いわね」


 水谷は笑っているけど、俺は名前の由来の戦いをこの目で見たから、結構似合っていると思うんだけどな。これを言うと二人から怒られるから絶対言えないけど。



「お待たせしました。これでギンさんはサンドシーマ所属になります。これからよろしくお願いします」

「よろしく、後で他のメンバーも所属の変更にくるからその時は頼む」


 すぐに処理が終わり渡されたカードを受け取り席を離れる。離れるとすぐにさっきまで暇そうにしていた冒険者に囲まれた。水谷もいるから絶対こうなる事は分かっていた。水谷にも入る前に注意はしたから問題はない。


「よお、見ねえ顔だな?新人か?」


 まあ、テンプレ通り、体がでかくて悪人顔の奴等に取り囲まれる。水谷は慣れていないので俺の後ろに隠れている。


「こいつは新人のアユムだ。俺は風都から来たギンだ、よろしくな」

「ああ、お前はどうでもいい。それよりもその女だ。もしかしてお前とパーティ組むのか?」

「ああ、悪いけど、俺の女だ。手を出すなよ」


 そう言って水谷を抱き寄せる。抱き寄せられた水谷はしばらくキョトンとした顔で俺を見ていたが、すぐに顔を真っ赤にして俺を突き飛ばした。


「はあ?何言ってるのよ!誰があんたの女よ!怜と瞳がいるのにふざけた事言わないで!」

「あっ、馬鹿」


 ギルドに入る前に何があっても俺の言う事を聞くように水谷には言っていたのだが、もう遅い。


「おいおい、違うのかよ。だったら俺のパーティに入らないか?」

「ふざけんな、アユムは俺の所に入るんだよ」

「は?・・・え??ええ??」

「違えよ、さっきからアユムは俺の方見てたから俺の所にはいるんだよな」


 水谷がアホな行動をしたせいで収集がつかなくなった。自業自得だ、俺はもう知らん。勧誘の輪からはじき出された俺は、近くの席に座り給仕のお姉さんにビールを頼み、その騒ぎを眺める事にする。


「だから俺の所だって言ってるだろ」

「ふざけんな!俺の所だよな?アユム?」

「ちょ!近い!離れてってば!土屋!!!・・・ちょっと誰!!今私のお尻触ったの!!!」

「いやあ、ようやく俺のパーティにも女が入るのか」

「アユムは俺の女だからな、お前等離れろ」


 みんな好き勝手言ってるなあ。水谷も大変そうだけど、頑張れ。しかし、女の新人冒険者って相変わらず勧誘凄いな。レイとヒトミの時にこんなにならなくて良かった。


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