100.5話
「陛下。ご報告致します。火の国と風の国が国境付近で激突。始めは互角の戦いでしたが、勇者の一人が悪魔に倒されたのを機に崩れ始め夜には決着となりました。更に風の国の王含む主要な貴族達も大勢が討ち取られました」
報告を受け、怒りで体が震える
「何が『我が国だけで火の国の悪魔を倒して見せる』だ!やられているではないか!我が国と砂の国から援軍を出す準備は出来ていたのに断りおって。・・・そうだ!コーデは!我が娘コーデはどうなった?」
「姫・・・いえコーデリア王妃様は今も風都に残って指示をだしているそうです」
風の国に嫁いだ我が娘コーデリアについて横に立つ宰相が教えてくれる。教えてくれた宰相に目を向けると、軽く首を振る。何とかして我が子を救出したいが、あの子は風の国と命を共にする。宰相もそれを分かって首を振ったんだろう。
「それにしても『火の国の悪魔』達め!あいつらをどうにかしないと・・・あの方からの返事は?」
「『人族の事は人族で解決しろ、私達が森から出るのは影が出た時だけだ』と変わらずです」
あの方達が出てきてくれれば、あの悪魔共もどうとでも出来るのだが・・・。やはり、伝承通り影使いが出てこない限りあの方達は大森林から出てこないか。それなら砂、闇、ドワーフの3国と残った3人の勇者で火の国を何とかしないと・・・教国は駄目だ。火が水を攻めた時に建国王様達の取り決め通り各国で火の国に攻めようとしたが光が反対したから教国は火と通じている。そしてその光と風が繋がっている事はコーデより報告があった。結局は光が裏で何やら暗躍しているが、その目的が分からん。
「陛下!ご報告致します!風の国が戦争に敗れました!」
今後の事について頭を悩ませていると、兵士が部屋に飛び込んできて大声で報告してくるので、それを遮り怒鳴りつける。
「それは聞いた!騒々しい!今色々考えておる。少し静かにしろ!」
「いえ、ですが悪魔の一人が討ち取られたのですが・・・・」
・・・・はっ?何だと?
「ちょっと待て!今何と言った?聞き間違いじゃなければ悪魔が討ち取られたと聞こえたが?もう少し詳しく報告を」
「はっ!風の国に勝利した火の国の軍勢は近くの街で休息をとっていた所、謎の二人組が襲撃をかけてきました」
・・・し、信じられん、火の国の大軍と悪魔共を相手にたった二人だと?そいつら頭がおかしいんじゃないか?
「ちょっと待て!それは本当か?本当に二人だったのか?他に仲間は?」
宰相も信じられないといった表情で私への報告だというのに口を挟んできた。
「いえ、間者の報告では他に仲間は見当たらなかったそうです」
「そ、そうか・・・あっ、申し訳ございません陛下。口を挟んでしまいました」
謝る宰相に片手をあげてから更に報告を待つ。
「襲撃者は二人。二人とも顔を隠していた為、正体は不明ですが、一人は体形と声から女だと報告があがっています。その女の強さは凄まじく投石だけで火の国の兵士を何人も倒していたそうです。更にあの悪魔達のリーダーを一撃で打ち破ったそうです」
これだけでも驚きだが、報告は更に続く。
「その女に注目が集まっている中、もう一人の襲撃者が背後から強襲、捕えられていた風の国の勇者を救出、その際にあの悪魔を一人討ち取ったとの事です。更にずっと行方不明だった悪魔二人を既に討ち取っていたらしくその死体を置いていきました」
「な、何だと!既に二人討ち取っていたのか!更に今回1人と言う事は残り5人。その二人が味方になってくれたら3人の勇者と合わせて数は同じになる。これは何とかなるかもしれん。それでその二人組の手がかりは何かないのか?」
そう、まずはその二人組が何者か分からないと対応しようがない。可能性があるとすればAランク冒険者だろうか。我が国のAランク冒険者の動向は分かっているから違う。そうすると他の国と言う事になるが、二人組のAランク冒険者に心当たりはない。
「その二人組のうち女の方が去り際に伝言を残して行きました。内容としては『次は必ずドアールの仇をとらせてもらう』といったものでしたが、主からの伝言と言っていたので、この襲撃者に指示をだしている黒幕がいる可能性が高いと思われます」
「ドアールか・・・少し前に何かで聞いた気がするな。宰相分かるか?」
「恐らく水の国の国境都市だと思われます。火の国が一番最初に攻めた街であり一夜にして人も建物も消えた曰く付きの街だったと記憶しています」
そうだった。あの悪魔達が住人を皆殺しにして街を離れた後、忽然と何もかも無くなった不思議な街だ。住人皆殺しと聞いていたが、生き残りがいたのかもしれんな。
「そしてこれは未確定の情報ですが、その女の去り際に尻尾のようなものが見えたかもと言う話があり獣人の可能性も考えられます」
獣人か。まああの種族なら強くても納得できるが、何故人の戦争に介入してきた?奴隷で主に命令でもされたのか?まあ、いずれにしろ、
「『ドアールの復讐者』か。宰相、何でもいいこの『ドアールの復讐者』に該当しそうな人物を至急調査するように」
そう宰相に指示をだしたのだが、向こうから現れるとはこの時は思ってもいなかった。