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影魔法使いの冒険者  作者: 日没です
5章 風の国境都市のDランク冒険者
105/163

100話 風の国での別れ

あれから水谷を抱えて1時間程森の中を走った辺りで湖に出た。『探索』で追手が来ていないのは確認済なので今日はここで休む事に決めた。休む事を決めたら目の前に扉を出して、家の中に入る。


「ギンジ!アユム!」

「ギンジ君!アユムちゃん!」


家に入ると玄関で待っていた二人が駆け寄ってくる。ガルラも二人の後ろで壁に背を預けて立っていたので一緒に待っていてくれたんだろう。


「二人とも水谷を頼む」


そう言って抱きかかえている水谷を下ろして二人に預け、俺は顔のマフラーやフードを外して影に入れていく。


「やっぱり、あんた土屋だったのね!」


顔を出すと、水谷はいつものイラついたような口調で話しかけてくる。


「あんた、助けに来るのが遅い!もう少しで私大変な事になる所だったのよ!それに何で戦争始まるっていうのに出掛けてのよ!おかげでみんな・・・みんな・・・」


はあ~、相変わらず文句しか言ってこねえな、こいつ。ヒトミとレイの友達じゃなければ絶対助けなかったな。






バギッ!!!!!


何て答えればいいか迷っていると、今までレイとヒトミの後ろにいたガルラが勢いよく前に出てきて水谷を殴りつけた。多分手加減はしたんだろうけど、馬鹿力のガルラにいきなり殴られた水谷は壁まで吹っ飛ばされた。


ちょっと強く殴り過ぎじゃないか?


ガルラに注意しようとしたが、ガルラの怒った顔を見たら何も言えなくなった。


「貴様は!!助けて貰って満足に礼も言えんのか!!主殿はあの悪魔共を殺す機会をずっと待っていたんだぞ。それをお前を助ける為に台無しにした事が分かっているのか!それに、悲しいのは貴様だけじゃない、主殿もずっと探していた親友を失ってるんだぞ!」


ガルラの言葉に水谷は何かに気付いたようで、殴られた頬を抑えながら俺の顔を見てくる。




「少し、一人にさせてくれ」


ガルラの言葉にみんなから注目され何故か気まずくなり、逃げるように家から外に出た。気付けば日もすっかり落ちて辺りは暗くなっていた。









はあ~。悪い、ノブ、エレナ、みんな、仇討てなかったよ。一人だけは殺せたけど、今からは警戒されてるから無理だ。ごめんな。ただ時間はかかるかもしれないけど必ずみんなの仇は討つよ。あの時、水谷を放っておいて先に和田以外を影の不意打ちで殺しておけば良かったか?・・・いや、あいつらはそんな簡単に殺す訳にはいかない。それに水谷を放っておいたら、多分悲惨な目にあっていただろう。


それよりもあいつらのスキルは何だ?『探索』に反応しないスキル、集中していないと認識出来なくなってくるスキル。『潜伏』とか『隠密』系のスキルだと思うけど、見つかった後も発動するなんて俺の上位スキルか、厄介だな。何のスキルか把握して対策考えないと駄目だな。


俺も最初の頃と比べて色々スキル覚えているから、当然あいつらも覚えているって考えとおくべきだった。何で、あいつらは最初の時とスキルは変わってないって思い込んでいたんだ、俺は。


はあ~。師匠、俺ってまだまだ考えが甘いですね。


今は湖の畔の岩に腰かけてワインを飲みながら、自分の行動を振り返っては、師匠に問いかけている。頭の中の師匠は俺の疑問に何も答えてくれない。ワインを片手にご機嫌で、俺の背中をバシバシ叩いているイメージしか浮かんでこない。それでも沈んでいきそうな気分がマシになってくる。






ガチャッ!


しばらく考えていると、背後で扉が開く音が聞こえた。誰か家から出て来たみたいだけど、誰が出て来たのか想像はつく。


「土屋。今いい?」


予想通り出てきたのは水谷だった。レイとヒトミとは『念話』で時々大丈夫か聞かれていたから違う事は分かっていた。


「一人にしてくれって言っただろ」


もう少し一人で考えたいので、少し突き放す言い方になってしまう。ただ水谷はそんな事お構いなく俺に近づいてくる。


「それ!私にも頂戴」


水谷が指さしたのは俺が手に持つワイン。俺は一人にしてくれって言ったのに相変わらず人の話聞かねえな。


面倒くさいので黙ってワインを渡すと、水谷はラッパ飲みでワインを二口程口にする。


「プハ。何これ?葡萄ジュース?変な味・・・」

「ジュースじゃねえよ。酒だよ、ワインだよ、ワイン。飲んだ事ないのか?」

「ある訳ないでしょ。私達未成年じゃない、何で飲んでるの・・・ってみんな気にせず飲んでたもんな。やっぱり私がおかしかったのかな」


ノブも普通に師匠の酒を美味いと言いながら飲んでたもんな、水谷以外は普通に飲んでいたんだろう。そう言う水谷は俺の隣に座り無言で湖を見ている。


「あ、あの・・・・助けてくれてありがとう。あと・・・ごめん」


しばらく無言で隣に座っていた水谷が、感謝と謝罪の言葉を口にする。俺は別に怒っている訳ではない。落ち込んでいるだけだから何て答えようかと考えながら、ふと、隣に座る水谷に目をやると、その頬はかなり腫れていた。


「おい!その頬!レイに『治癒』してもらわなかったのか?」

「ああ、これ?土屋から許して貰わないと治してあげないって怜に言われた。別にその為に謝ったわけじゃないから、ホントに悪いと思っているからね」


レイの奴・・・・。


「分かったよ。許してやるからこれ使え」


影から下級ポーションを取り出し水谷に渡すと、躊躇う事無く受け取り口にする。水谷が口にした事を確認した俺は視線を湖に戻して、再びさっきと同じ事を考え始める。





「ごめん・・・・本当に・・・ごめんなさい」


しばらく考え込んでいると、隣の水谷が再び謝ってきた。さっき謝ってきたので、こいつに対してもう何も思う所はないんだけど?


「別にもう許したから謝る必要ないぞ?」


考えるのをやめて、顔を向けると水谷は太ももの上で拳を握り下を向きながらボロボロ涙を流していた。


「ごめんなさい・・・・ごめんなさい・・・・」

「お・・おい。大丈夫か?」


あれだけ気の強い水谷が、ここまでになっているのに驚きながらも声を掛ける。


「私の・・・私のせい・・なの。津村君が死んだのも・・・戦争に負けたのも」

「おい、何言ってる!どういう事だ!説明しろ!」


泣いている水谷がとんでもない事を口にした。俺は水谷の言った言葉の意味を理解すると同時に水谷の肩を掴み声を荒げる。


・・・まさかこいつ裏切ったりしたのか・・・それなら・・・・。


俺の中で殺気が膨らんでいく。


「私が・・・捕まったから・・・津村君が・・・」


水谷の返事で膨らんだ殺気が急速に縮んでいく。そう言う事か。詳しく聞くと、最初の頃はノブと原田が金子達のうち4人を抑えて水谷達は各自一人ずつ相手をして戦争は互角に進んでいたらしい。互角と言っても水谷と多分外山も相手の魔法を防御したり無効化したりして攻撃はしなかった。

そうして夜まで互角の勝負をしていたが、最初に崩れたのは外山だった。どうやられたかは分からないが和田と戦っていた水谷の前に、石井が死体となった外山を引きずってきた。その死体を見て動揺した水谷が和田の魔法の無効化をミスり、気を失った。気付いた時には首に例の首輪と手には鎖をつけられた状態になっていて、そのまま人質としてノブの戦っている場所まで連れていかれた。

人質となった水谷を守る為、攻撃の手を止めたノブを後ろから刺したのが金子だった。その光景にショックで水谷は再び気を失い、気付くと牢屋に入れられていて、たまに来るクラスメイトから殴る蹴るの暴行を受けながら耐える事数日、牢屋から出された後は、俺達も知っての通りだ。




「あのさ、知っているかもしれないけど、私達学校でほとんど接点なんて無かったの。仲良くなったのはこっちに来てから。津村君はあんたと仲が良いから言わなくても知っているだろうけど、原田君も色々相談に乗ってくれたりして良い人だった。まあ最近は調子に乗ってたけど最後はこの国を守る為に一生懸命戦っていた。真澄もあんまり喋る子じゃないけど、仲良くなると面白くて優しい子だった。それなのに、私が・・・ごめんなさい・・・・みんな・・・ごめん」


話を終えた水谷は再び謝罪の言葉を口にする。


「あんまり自分を責めるな。悪いのは全部あいつらだからな、お前は悪くない」

「でも・・・」

「それよりもこれからどうするかを考えておけ。俺達は明日には風都に戻るぞ」






翌日

朝食後、みんなに今日の予定を伝える。


「今日から途中の街に寄って戦争に負けた事を伝えながら、風都を目指す。風都についたらミルとルル、クーミを回収してこの国を離れる」

「それって、この国を見捨てるって事?何で?助けてくれないの?」


予想通り水谷が縋ってくるが、はっきり言ってやる。


「相手は大軍だぞ、金子達もいるんだ、俺達だけで仕掛けても全滅するだけだ。悪いが助けてやる事は出来ない。水谷は分かってないようだけど、この国は戦争に負けたんだ。王様も勇者も偉い奴等もやられてたのを見ただろう。この国はもう終わりだ」

「・・・・・そうなんだ。・・・・終わるんだ・・・・そうなんだ」


俺がはっきり言った事で現状を理解したのか分からないけど、何度も同じ言葉を口にする。



「主殿、今から悪魔共と戦わないのか?」


落ち込む水谷を気にする事なくガルラが不思議そうに聞いてくる。今の俺の話聞いてなかったのかな?


金子の攻撃を受けたガルラは大した強さじゃなかったと言っていた。俺も見ていたけど、金子の奴油断しまくっていたからな、その評価を下すのはもう少し待って貰おう。


「昨日は不意打ちだったから兵士共も武装していない奴等が多かったけど、多分もう油断していないだろう。何よりあいつら良く分からん厄介なスキル使ってやがった。アレの対策を考えないと、多分負ける」


それ以外にも厄介なスキルを持ってそうだしな。


俺の説明にガルラはあまり納得していなかったが、指示には従うって事で俺達は予定通り途中の街や村に立ち寄り戦争に負けた事を伝えながら風都に戻った。





「ミル!ルル!クーミ!」


風都に着いた俺達はそのまま真っすぐノブの家に向かい、ノブに頼まれた3人を呼び出す。


「・・・ギン様・・・ノブタダ様は?」

「・・・・・・」


不安げな顔で俺を見てくる姉妹。クーミは俺達がここにいる事で悟ってしまったのか悲しい顔をしている。


「ノブは死んだよ。そしてこの国は戦争に負けたから、敵が来る前に避難するぞ。3人の事はノブから頼まれたからな。俺が安全な場所まで届けてやる」


黙っている訳にもいかないので、俺は正直に答える。ノブの奴嫌な役目押し付けやがって。


「そ、そんな・・・ノブタダ様が・・・」

「う・・・・噓・・・・」

「・・・・・・」


「ノブの首は持って帰ってきたけど、どうする?無理なら俺の方で埋葬しておくけど・・・」

「だ・・出してください。私達で埋葬致します」


ミルがしっかりと俺の目を見て答える。これなら取り乱す事もないだろう。俺はノブの首を取り出してミルに渡す。


「ノブタダ様。ノブタダ様・・・」

「ウッ・・・ウウ・・・ウ」


ミルとルルはノブの首を二人で抱きしめて泣き出した。クーミも声を出さずに泣いている。


悲しむ人がいるのに勝手に死にやがって。俺の事より嫁とクーミの事を考えてやれよ。


3人を見ながらノブに心の中で文句を言う。






「これから城に行くから水谷だけは俺と来てくれ。他のみんなはここで荷造りを手伝ったりして待っていて欲しい」


そうして水谷を連れて城に行くと顔は覚えられているので、すぐに王妃の所まで案内された。




「ふう。報告を聞いても信じられなかったが、やはりこの国は負けたんだな?」


部屋に案内されて俺達の顔を見るなり、王妃様は全て理解したみたいだ。


「殿下・・・申し訳ございません。戦争にも負け、みんな殺されてしまいました」


水谷の言葉に合わせて王様や勇者含む、持って来た全員の首を取り出す。


「・・・・そうか。もうこの国は終わりだな」


俺が出した首を見ても表情を変える事はなく、ポツリと諦めたように呟く。


「殿下!まだ私がいます!私があいつらを必ず倒して見せます!」

「阿呆!お前一人で何が出来る!死体が一つ増えるだけだ!お前はもう少し冷静に考えろ!」


王妃様が言いたい事を水谷に言ってくれた。怒鳴られた水谷は口を噤んで若干震えている。


「ギン様。一つお願いがあります。アユムを一緒に連れていっては貰えないでしょうか?」


唐突に王妃様が俺に話を振ってきたが、何故か敬語で様付けだよ。この間は普通に喋っていたけど、何でだ?


「殿下!何で土屋に敬語なんか使うんですか。それに私はここに残ると決めてます」

「アユム!これは命令だ!ギン様の許しが出れば一緒についていけ。そしてギン様達に鍛えてもらい、この国の無念を晴らせ!・・・この国にはもうお前以外、あの悪魔達に勝てる可能性がある者はいない。ただ、今のままだと何も出来ずに殺されるからな、ギン様達に鍛えてもらえ。私も色々な強者を見てきたが、ギン様達の強さは異常だ。恐らく一人一人がAランク冒険者を相手にして余裕で勝てるだろう。だからお前もそれぐらい強くなれ、そしてあの悪魔達を倒してくれ」


王妃様は水谷をしっかり見て命令するので、水谷は何も言えずに俯いてしまった。水谷が俯くと今度は俺の方に目を向ける。そんな覚悟をもった目をされると俺も断れないな。


「まあ、水谷が納得して俺達の言う事にきちんと従ってくれるなら問題はないですけど、ただ何でいきなり敬語なんですか?前に会った時は普通に喋っていましたよね?」

「それはあなた達が国に属していない勇者様だと知ったからです。国に属していない勇者様は絶対に怒らせるな、他国の王族以上の扱いをするように教えられました」


・・・・は?ど、どういう事だ?何で国に属してないとそんな待遇になるんだ。ノブ達勇者も地位は高いけど王様と同等では無く、公爵ぐらいの地位とか言っていたはずだ。


「理由については小さい頃にそう教えられたとしか・・・申し訳ございません」


理由について返ってきた答えからはよく分からなかった。


「ただ、私の父は何か知っているかもしれません。もしこれから行く当ても無ければ一度サイの国に行ってみる事をお勧めします」


えっと、この人のパパ様って多分凄い偉い人だよな。だってこの国の王妃だし、そこらの平民とかって訳ないよな。あんまり貴族とか偉い人とか関わり合いになりたくないんだけど。


「・・・えっと、王妃様のお父上というのは誰でしょう?あんまり偉い人じゃなければ嬉しいんですが・・」

「・・・えっと。申し訳ございません、サイの国の国王をしています。ああ、ギン様が野良勇者だと分かれば、父も頭を下げてくれるはずですのでご安心下さい」


安心できる要素が何もねええええ。こっちで最強と言われている国で一番偉い人じゃないですか。要するにこの世界で一番偉い人・・・俺はこっちでも日本でも平民だぞ。そんな偉い人から頭を下げられるとか意味が分からん・・・どうしよう。サイ国に行かないようにしとくか。いや、でも勇者について何か分かる可能性が高いからな、気にはなるな。


どうしようか考えて黙っていると、王妃様が更に気になる事を口にする。


「元々あの国は野良勇者様の為に勇者召喚に参加していないので丁度いいでしょう」

「野良勇者って・・・そんな猫みたいな言い方・・・って違う。今何て言いました?野良勇者の為に勇者召喚に参加していない?どういう事ですか?」

「申し訳ございません。これもそう教えられたとしか・・・」

「そ、そうですか。他に何か勇者について教えられた事ってありますか?」

「そうですね。野良勇者様がサイの国に立ち寄れば、必ずその時の王を尋ねてくるはずだと聞かされた事があります。こちらも申し訳ございませんが理由は分かりません」


・・・よく分からんが、分かった事が一つ。俺達は一度サイ国に行く必要があるって事だ。謎だらけだが、俺みたいな野良勇者の存在を考えている奴がいるってのは警戒する必要があるな。


「分かりました。気にはなりますからサイ国に一度立ち寄ろうとは思います。ただ王様に会うかどうかは少し考えたいと思います」

「何でよ!殿下が言ってるのよ。会いに行くに決まってるでしょ」


今まで黙っていた水谷が口を挟んでくる。少しは考えろと言いたいけど、こっちに来てから今日まで環境が違いすぎるから仕方ないか。


「アユム!お前はすぐに自分の考えを押し付ける。悪い癖だ。ギン様が少し考えると言った理由を考えろ!」

「え?何でなの?」


すぐに答えを求めてくるな。たった今考えろって言われただろ。水谷は少し考えさせる事にして俺は王妃様と話を戻す。


「それで、王妃様はこれからどうするつもりですか?今ならサイ国に一緒に連れていきますよ」

「それはご遠慮させてもらいます。私はサイの国出身と言っても今はこの国の王妃、陛下のいない今、私がこの国の最高責任者です。ここから逃げ出す訳にはいきません。この後は民をサイの国に避難させるのに全力を尽くします。サイの国なら父も風の国の民を無碍には扱わないでしょう」

「殿下!何を言っているんですか!私達と逃げましょう、サイ国に行けば必ず助かります」


王妃様の言葉に水谷が慌てて割ってくるが、王妃様の顔を見れば、もう答えは決まっている事が分かる。


「アユム。ここで私が先に逃げたらこの国は本当に終わる。この国はこのまま火の国に取り込まれるだろう。ただその後、お前があの悪魔共を倒して、この国を取り返してくれた時に、民からの信用がなければ、結局は同じ事だ。ここ風の国は商業王リドラルテ様が興した商人の国で、信用を何よりも大切にするからな。王妃の私が先に逃げて信用を裏切る真似なんて出来る訳ないだろう。私は最後まで民の信用を裏切ったりはしないぞ。それに私は最後に『爆裂球』を使ってあの悪魔達を道連れにするつもりだ」


胸元から何やら禍々しい赤い球を取り出したので、『爆裂球』とか言うやつなんだろう。


「そんな、殿下・・・」

「分かりました。そう決めているなら俺からはもう何も言いませんけど、最後に何かありますか?」


まだ食い下がろうとする水谷の肩を抑えて会話に割り込む。


「では、これをサイの国にいる私の娘に届けてくれないでしょうか?まだ幼いですがこれで全てを理解してくれます」


そう言って王妃様は首からシンプルな作りのネックレスを外すと俺に渡してくる。シンプルだがかなり高価な物だろう。受け取った後、俺はしっかり王妃の顔を見て頷く。


「アユム。勇者の首はそれだけで価値があるからな、誰にも分からないように埋葬しておけ。そしてギン様、くれぐれもアユムをお願い致します。こいつは突っ走る事が多いですが、基本悪い奴ではありません。どうぞよろしくお願いいたします」


深々と頭を下げる王妃様。多分これで会う事は無いだろう。王妃様に抱き着いて泣いている水谷が落ち着くのを待ってから俺達はノブの家に向かった。




向かう途中、落ち着いた水谷が、さっきの事を話してきた。


「さっきのサイ国の王様に会うかどうかって話の答え、まずはいきなり行っても門前払い下手したら捕まる。もし王様に会えたとしても私達は王様の娘を助けなかったって事だからどうなるか分からない。最後は・・・殿下が嘘をついている可能性。どういう理由か分からないけど、サイ国の王に会わせて何かさせたいのか」

「もう一つ言えば既に王妃様とサイ国が敵になっている・・・火の国の味方になっているって事だ。国境を越えた瞬間、街に入った瞬間に捕まるって事も考えられる」

「そ、それは少し悪い方向に考えすぎじゃない?」

「いや、『常に最悪を想定して動け』俺が世話になった人から教えられた言葉だ。お前もこれから冒険者になるんだ、よく覚えておけ」


いきなりポカンとした顔で立ち止まる水谷。


「ぼ、冒険者か。私これから冒険者になるんだ」

「言っとくけど、冒険者なんて水谷の今までの待遇と比べてあんまり良い物じゃないからな。少なくとも今までみたいな特別待遇はないからな」


何故か少し嬉しそうな顔をする水谷に注意はしておく。冒険者なんて、あんまり期待する様なものじゃない。特に水谷は今までの地位が地位だからな。その落差に慣れるまでしばらくかかるだろう。


そうして水谷に冒険者になるにあたっての注意点を説明している内に一度水谷の家に寄り、面倒くさいので俺の『影収納』で水谷の家毎収納した後、ノブの家に戻ってきた。戻ると既に出発の準備が整っていて、後は俺達が戻って来るのを待っているだけだった。


「ギンジ、この街を出たら、ミルとルルが行きたい場所があるって。津村君が好きだった場所らしくて、そこに埋葬したいんだって」


そうしてフィナの『影収納』、ヒトミの『マジックボックス』に荷物を全て納め、物が何も無くなったノブの家を出発する。街を出たらミルとルルに先導されてしばらく歩くと小高い丘の上に連れてこられた。少し離れた所に風都が見えている。


「ここはよく3人で遊びに来た所です。特に何をする訳でもなくここで3人で作ったお弁当を食べてお昼寝をして帰るだけでしたけど。それでもノブタダ様はよくここから風都を眺めていました」


足元に風都が見えるぐらいで、本当に何も特徴が無いこの場所であっているのか疑問だったが、ミルが理由を教えてくれた。ここなら誰かにみつかる心配もないだろう。




「ノブタダ様はお昼寝の時この木にもたれて寝るのが好きでしたから、この木の根元でいいですか?」


ルルの言葉を聞いて俺はすぐに動き出す。


「ほら、埋めるぞ。ミルとルル、クーミはノブな。水谷は外村、俺が原田でいいか」


そう言って首を渡していく。首を出すと全員押し黙る中、俺はさっさと穴を掘って原田の首をいれ土を被せていく。俺が埋め終わる頃にはようやく水谷も穴を掘り終えて外村の首を穴にいれて土を被せ始める所だった。その目からは涙が零れているが、手を止める事は無かった。水谷と外村の仲がどんなものか知らない俺には、その涙がどのくらいの思いが篭っているか分かるはずも無かった。そして、


「ノブタダ様。お疲れさまでした。どうかごゆっくりお休みください」

「ノブタダ様に救って頂いてから本当に・・・本当に幸せでした。これからはルルとノブタダ様の言いつけ通り生きていきます。どうか心配なさらずにゆっくりとお休みください」

「ノブタダ様。ミルとルルは私の命に代えましても必ずやお守り致します。伯爵家の落ちこぼれだった私如きを重宝して頂き本当にありがとうございました」


3人の別れの挨拶を聞きながら、丘の上から足元の風都を眺める。


ああ、ノブも俺のドアールと同じで自分を受け入れてくれた風都を気に入っていたんだな。


足元の景色を見ながらここがノブのお気に入りだった理由が分かった気がした。


「ノブタダ様あああ!!」

「うわああああああ。ノブタダ様あああああ!!」

「ウウウウウゥ、ノブタダ様」


背後から大声で泣く声が聞こえる。



ホントにノブの奴、ここまで3人に好かれているなら逃げ出してでも生き残る事を考えろよ。お前なら上手い事出来ただろうに、俺なんかの事を考えなくても良かった、3人の事だけ考えていれば良かったんだぞ。・・・でもまあ俺の事を考えてくれたお前に大きな借りができたからな、約束通り3人は絶対に守ってやる。


チラリと他の勇者を見ると、レイとヒトミ、水谷も黙ってミル達の様子を見ながらも涙を流している。




「ねえ、土屋は泣かないんだね?津村君と仲良かったんでしょ?」


足元に広がる風景をぼーっと眺めながらみんなが落ち着くのを待っていたら、いつの間にか水谷が俺の隣に来ていた。


「俺が学校であいつとしかつるんでなかったの知ってるだろ?ノブとは親友だよ。親友が死んで悲しいけどな。俺はもう泣かないって師匠に誓ったからな」

「師匠?」

「ああ、こっちに来て俺に色々、本当に色々教えてくれた人で、俺が一番尊敬している人だ。」

「そっか、土屋にとって大事な人なんだ。私も会ってみたいな」


気付くと水谷は俺に触れるぐらいにその距離は近かった。


「残念だけど、もう死んでるよ」


会いたい思いは俺が一番だと思っているけど、流石にそれは叶う事はない。


「ご、ごめん。私、何も知らなくて・・・」

「ああ、気にすんな。師匠が死んでから大分経つからな。それにそんな事で気にしてたら冒険者なんてやってられないぞ。昨日一緒に飯食ってた奴が次の日に魔物に殺されたなんて珍しくないからな」


師匠のように目の前で仲間が殺された経験はないが、知り合いが死んだなんて冒険者やってれば珍しい事でもない。レイとヒトミも最近はそう言う事にかなり割り切れるようにはなった。


「・・・・・ほんとに・・・あんたこっちでどんな生活してきたのよ。・・・あの時も和田と近くにいた人を躊躇いなく攻撃してたけど、土屋はもうこっちの人になったんだね」

「ああ、そうだな。俺もレイもヒトミも帰るつもりはないからこっちの人間だな。まあ水谷が日本に帰りたいってなら金子達を殺した後に手伝ってやるよ」

「う~ん。今はまだ、何とも言えないな」


チラチラ俺を見ながら、水谷は答えてくる。まあ心配しなくても金子達を殺すまでは俺もそれ以外は考えられないしな。


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