99話 グラニカでの再会
「ちょっと、待て!クーミ!戦争が始まったって、どういうことだよ!」
クーミの驚きの発言に思わず声を荒げてしまう。戦争が始まる時は俺を呼んでくれる約束だったのにノブの野郎何考えてやがる。
「ギン達が街を離れてすぐに火の国が攻めてきたとの報告があり、こちらも国境まで兵を向かわせました。ギン達はノブタダ様が対応するから心配するなと言われていたので、てっきり途中で合流するものだと思っていたのですが」
この様子だとクーミは何も知らされていないようだ。ミルとルルの護衛を任されてここで暮らしているから、これ以上の情報は出てこないと判断した俺は直接ノブに聞く事にした。
(おい!ノブ!戦争始まったら呼ぶ約束だろ!どういうことだ!説明しろ!)
(お、銀。丁度いい所に。もうすぐ戦争始まるぞ、国境近くだ)
(ふざけるな!何で呼ばないんだよ!約束しただろうが!)
(約束通りだろ。だからこうやって戦争始まる前に呼んだだろ?)
(ふざけんな!ここから急いでも5日はかかるぞ!その間に終わったらどうするんだよ!このままだと負けるって教えただろ!すぐにそっちに向かうから5日・・・いや3日でいいから何とか時間を稼げ)
ホントにこの馬鹿は何考えてるんだ。このままだと金子達にやられるぞ。イライラしながらもみんなを『自室』に入れてから俺は街を飛び出し街道を全力で走っている。
(・・・なあ、銀。お前はもうこの国に関わるな・・・いや、金子達の事も全部俺に任せておけ)
(はあ?急に何言ってんだよ)
(俺と違ってお前は元々風の国に何も恩はないだろ。むしろこの間の件で嫌いになったはずだ。そんな国の為に命を張る必要はないだろ。金子達の事もだ、あいつらの話をするお前の顔は見てられねえ。完全に人殺しの顔になってたぞ。お前はもうちょっと・・・アレだ。・・・もう少しぼーっとした顔が似合っている。まあ、心配しなくても金子達は俺達が倒しとくよ。お前はこのまま他の国で気ままな冒険者を続ければいいだろ。それかあれだ、委員長と大野さんと結婚して家庭を持つとか?)
(お前さっきから何勝手な事ばっかり言ってんだよ!ふざけた事言ってないで、少しは時間を稼ぐ事を考えろ)
(いや、もう無理だ。前線がぶつかったみたいだ。まあ、そんなに心配するな、俺も罪人の処刑を経験したから大丈夫だ)
(罪人の処刑なんて動かない相手だろうが、何の役にも立たねえよ・・・じゃなくてもう始まったのか!マジでどうにかして時間を稼げ!)
(おお、これが『隕石』か・・・何か俺達を的確に狙ってくるな・・・これは向こうに『探索』持ちがいるな。って訳で忙しくなってきたから切るぞ。ああ、最後に頼みが・・・負けるつもりは無いけど万が一の時はミルとルル、クーミを頼む)
(おい、馬鹿!ノブ!この野郎、手が空いたら連絡寄越せよ!)
完全に死亡フラグを口にしてから、あの馬鹿は『念話』を切りやがった。俺も走る事に集中してグラニカに急ぐ。途中何度か『念話』で呼びかけるが、返事は返ってこない。幸い接続自体が切れていないので、死んだ訳じゃなくて戦闘で忙しいのだろう。俺もしばらく移動に集中して夜中まで走り続けた後、呼びかけたが、ノブからの返事は無かった。
接続が切れていた。
また、助けられなかった。
「ギンジ!」
「ギンジ君!」
報告する為に家に入ると二人は起きていたみたいで、すぐに駆け寄ってくるが、俺の表情で悟ってしまったんだろう。だけど二人にはしっかり話しておく。
「ノブが・・・・やられた。多分他の3人も絶望的だ」
「そ、そんな・・・」
「な、何で・・・」
俺の言葉に二人ともショックを抑えられないようだが、俺も今は慰めたりする余裕はない。
「悪い。すぐに出る」
「ギンジ!私の蘇生魔法ならまだ間に合うかも!」
レイが希望を持ったのか明るい顔に変わって俺に言ってくるが、それは無理だ。来る時はグラニカから5日はかかった。今から夜通し移動しても明日には多分着かないだろう。
「ここからグラニカまでどれだけ急いでもあと2日はかかる」
「そ、そんな・・・・」
再び絶望した表情に変わり部屋に戻って行ったレイだが、俺も今は余裕がない。
「ギンジ君。これからどうするの?」
「一応、グラニカまで行ってみるよ。もしかしたら誰か生き残っているかもしれないし、それにあいつらの誰かを殺れるチャンスかもしれないからな」
風の国の勇者達が生き残っている可能性はかなり薄いが、それでもグラニカに行く。
「分かった。何かあったら連絡して、レイちゃんは、着くまでには立ち直らせておくから、ギンジ君は気にせずグラニカ目指してね」
「レイにごめんって伝えておいてくれ。本当は俺が慰めないといけないんだろうけど、今はグラニカに向かうのを優先してしまう。しかもヒトミにまで迷惑かけて本当に悪い」
ヒトミに頭を下げると、頭が柔らかい感触に包まれる。
「迷惑じゃないよ。今、私は何もできないから、ギンジ君の方がつらいのに行動しているから偉いよ」
頭をヒトミに抱き締められて少し心が落ち着いてくる。1分程、癒してもらってからヒトミから離れる。
「ありがとう、少し気持ちがスッキリした。じゃあ、行ってくる」
そしてその日以降も夜中寝ずに移動を繰り返して、ようやくグラニカまで着いた。
何でこいつらグラニカで止まってるんだ?進軍しないのか?『探索』で金子達の反応が無いのは何でだ?あいつらここにいないのか?まさかどこかですれ違ったのか?
色々疑問が浮かぶが取り合えず偵察だけはしてから今後の事を考える事にしよう。
そして街の外から様子を伺うと中にクソムカつく国の連中が我が物顔で歩いている。ここに着くまでに街道に避難民はいたが兵士の集団はいなかったから、別れて進軍している訳ではないと思う。
どうしようかと考えていたら、街中に笛の音が鳴り響いた。俺が森で追われていた時に聞いた事がある、多分集合とかの合図なのだろう。門番以外の兵士が慌てて街の中央に向かって走っていくのが見える。
俺は門番が笛の音に気をとられた隙に街の中に入り、兵士の影に紛れてついていくと、そこは領主の館の前の広場だった。広場には兵士が大勢揃っているが、整列する訳でもなく、手に食べ物や酒を持ち陽気に周りの連中と話している。
「ようやくか。これで明日から進軍か。もうちょっとゆっくりしたかったな」、「でも面白い余興って何だろうな?」、「勇者様が考えた余興なんだろ?何だと思う?」、「オーク狩りに行ってたらしいからな。肉でも振舞ってくれるんじゃねえか?」、「嬉しいけど、ここは嫌だな。アレ見ながらだと食欲湧かねえぞ」
何だ?金子達ここにいないのに何か始めるつもりか?それにしてもこいつら、敵国の中なのに鎧も装備していない奴もいて余裕だな。
「おお。出てきたぞ」、「おい、見えねえよ。前の奴は座れよ」
すぐに周りがざわつくので何か始まったみたいだが、普通に立っている奴でも見えないって言ってるから影に潜っている俺も当然何も見えない。俺も兵士の集団から離れて近くの高い建物の屋根にあがり、隠れて様子を確認する。
あいつら!!!!!・・・・・ノブ!!!!・・・・クッ!!!!
怒りで声を上げそうになるのを歯を噛み締めて必死に我慢する。
領主の館の2階の広いバルコニーに奴等が・・・俺の復讐相手がいた。本当に久しぶりだ。どれぐらいぶりだろう。各自両脇に美女やイケメンを侍らせて、机の上に置かれた豪華な料理や酒を他のお偉いさんと堪能している。金子、藤原、川崎、大久保、石井・・・・和田は姿が見えない。
その足元、丁度正面玄関の辺りにノブ達がいた。大衆向けの食堂で使われるような安っぽい机の上にノブ達の首だけが並べられていた。それを見た瞬間怒りでどうにかなりそうだったが何とか耐える。ここで俺の存在がバレて殺されでもしたら、ノブやエレナ、ドアールのみんなに顔向けできない。必ず・・・必ずあいつら全員を殺す為に必死に怒りを抑える。
怒りを抑えながらももう一度様子を確認する。机にはあのムカつく王様の首も置かれていた。まさか王様自ら戦争に出てくるなんて、それだけ本気だったんだろう。ただこうして首だけになっているって事はこの国は負けたって事だ。そしてノブ、原田、外山の首が置かれて、後は良く知らない奴等の首が並べられているが、お偉いさんの首だろう。
並べられている首を確認した後、俺は目の前に見える敵をどうやって殺そうか考え始める。流石に影の範囲外にも敵がいるのもあるけど、一番の目的の和田がいねえ。あいつの居場所をまずは確認しないと・・・っていうか目の前には金子達がいるけど『探索』には反応はない。どう言う事だ?しかも金子達に意識を集中させてないと姿がぼやけてくるのは何かのスキルなのか?
そして、金子の前にいるボロ布着た男は何だ?首輪付けられて犬みたいだ、何であんな奴が金子達の近くに・・・・・そうか、あいつが『探索』持ちか。『探索』持ちは犬みたいな扱いを受けてるの見たって師匠から聞いたな。って事は可哀想だがあいつも処理しないと駄目だな。
それよりも和田だ!あいつどこにいる?『探索』でも反応しねえ。
「いや!もうやめて!許してよ!」
どうしようか考えていると、辺りに女の叫び声が響いてきた。その声のトーンからかなり追い詰められているみたいで必死の叫び声だった。そして俺はこの声を聞いた事がある。この間散々俺を怒らせた水谷だ。
水谷は俺の一番の目的の和田に引きずられて姿を現した。両手を鎖で繋がれて、ご丁寧にレイが付けていた首輪も付けられているので魔法が使えないんだろう。そしてこの世界では捕まえると裸にするルールでもあるのか、水谷は服を着ていなかった。
その体に多くの痣が見えるので暴行を受けた事もわかる。顔も腫れ上がっているが、自分で歩けたり叫び声を上げる事が出来ているので、あの時のレイ程酷い状態ではない。そして和田が首が並べられた場所を指差すと水谷も気付いたのだろう。その顔が驚きと悲しみに変わる。
「ま、真澄!!・・・噓。・・・ウウッ・・・酷い。津村君、原田君・・・陛下・・ウッ」
水谷は今までどこかに囚われていて、みんながどんな状態か知らなかったみたいだ。見た瞬間涙と嗚咽が漏れる。だが、そんな空気お構い無しに石井が叫び出す。
「よ~し。お前ら待たせたな!ようやくオーク捕まえてきたぞ!今からとっておきのショーを見せてやる!ちゃんと見ておけよ、オークと勇者の交尾なんてそうそう見れたもんじゃないからな!今ここにいる奴等は自慢していいぞ!」
石井が兵士に向かって叫ぶと兵士達から歓声があがる。誰も止めようとはせずニヤニヤした顔で水谷を方を眺めている。そこに、
「ブオオオ!ブオ!ブオオオオオ!」
鎖でグルグルに拘束されたオークが運ばれてきて、屈強な兵士達によって壁に四肢を拘束される。興奮状態だったオークだが、裸の水谷が目に入ると更に興奮状態に変わる。先程とは興奮の種類が違うのは股間を見たらわかる。
「ヒィイイイイ。や、やめてよ!何でこんな酷い事するの!」
オークの大きくなった股間を見てこれからナニをされるか分かった水谷が悲鳴を上げて暴れ出すが、鎖に拘束されそれを屈強な男二人が抑えているのだ、ビクともしない。
水谷はムカつく奴だが、さすがにこれは趣味が悪い。笑って見ているこいつらは頭がおかしいのか、戦争で気が立っているのか。
・・・このまま水谷を助けないとレイとヒトミは怒るだろうな。ノブもマジ切れするだろうな。
・・・・・
はあ~、仕方ないか。
俺は大きく深呼吸をしてから、頭の中を殺す事から助ける方へ考えを切り替えすぐに作戦を考える。
ガルラに『念話』で手伝ってくれないかお願いすると、すぐに了解の返事が来たので、あいつらから見えない場所に扉を出してガルラを迎え、俺と同じようなアサシンの格好・・・『獣人の解放者』スタイルに影を使って瞬時に着替えさせる。扉はストッパーを挟んで開けたままにしてガルラがいつでも逃げ込めるようにしておく。ガルラを呼び出した後は『念話』で作戦を説明しながら、俺も影に潜り移動を開始する。
「いや!やめて!ホントに無理!無理だって!私初めてなの!だからこんなの入る訳ないって!だから許してよ!」
男二人に引きずられてオークの近くまで引っ張られるが、何とか踏み止まろうと必死な水谷、それが連中を喜ばせている。
「おい!聞いたかお前ら!勇者様は処女だそうだ!初めてがオークとかさすが勇者だ、ヤル事が人と違う!さ~てお前ら、この小さい勇者様にこのオークの立派なブツが入るか入らないかどっちだと思う?入ると思う奴はこっちへ!入らないと思う奴はその反対に移動しろ!当たった奴は金貨1枚な!」
石井が悪乗りでクイズ番組のような真似を始める。金子達は大笑いしているし、兵士達も楽しそうに移動を開始している。そして、
「おい!いいのか!入らないに誰もいねえぞ?本人は入らないって言ってるけどお前ら本当に大丈夫か?」
すぐに広場の片側に誰も兵士がいなくなり、石井が再び声を上げると連中は大爆笑だ。
「よ~し、お前らいいんだな!それじゃあ答え合わせだ!」
そう言って石井が手を挙げると、両脇から水谷が抱え上げられオークの更に近くまで運ばれる。和田の野郎は一番近くでニヤニヤして事の成り行きを見守っている。
「ヒィィィィ!嫌!やめて!!許して!助けて!誰か!お願い助けて!いやあああああ」
水谷の絶叫が辺りに響くと全員が更に盛り上がり歓声があがる。俺はギリギリ配置に間に合った所でガルラに合図を出す。
ボッ!!
水谷が目の前に来た所で大きな音を立ててオークの顔が弾け散った。
「は?」
「・・・え?」
「な、何だ?」
いきなりオークの顔が消えたのだ、全員何が起こったのか理解できないようで、水谷もオークの血を浴びながらもポカンとしている。そんな中、
ボッ!!
次は金子達の近くにいる恐らく『探索』持ちと思われる男の首が弾け飛ぶ。ただ弾け飛びながらも男はガルラのいる建物を指差していた。
チッ!『探索』使われたか!
「あそこだ!藤原!壁だ!急げ!」
男の首が弾け飛んだ瞬間に金子が藤原に指示を出すと、慌てた藤原が詠唱を開始し、すぐにバルコニー全体が光の壁で覆われる。
ボッ!!
再び同じ音が響くが今度は誰の首も弾け飛ばなかった。
(むう。主殿あれは抜けんぞ。どうする?)
(じゃあ、適当に下の兵士に向かって投げてくれ。で危なくなったら部屋に逃げこんでくれ)
「あの建物から何か投げて来やがる」、「気をつけろ」
ボガン!!
また大きな音が響き広場の兵士が二人その場に崩れ落ちる。
「おい、こっちが狙われてるぞ!」、「盾持ち前に出ろ!」、「装備外している奴は後ろに下がれ」
広場は大混乱となったが、ガルラは遠慮なく俺が用意した瓦礫を広場に向かって投げ込んでいる。その度に誰かの命が終わっていく。そんな広場に注目が集まっている中、俺も行動を開始する。まずは突然の出来事に動きが止まっている二人だ。
ドシュッ!!
水谷を持ち上げたまま棒立ちになっている二人の首にナイフを投げて、息の根を止める。崩れ落ちる二人を音を立てないように影に沈めていき、水谷は俺が抱きかかえる。
「だ、誰?」
目だけしか出していない、いつもの不審者スタイルの俺だから水谷が気付かないのは無理はないが、俺はその質問には答えず、さっさとやる事を始める。まずは水谷に『洗浄』をかけて綺麗にした後、上級ポーションを頭からふりかけて傷を癒してやる。そして俺の影で包んで服を着させ最後に拘束の鎖と首輪も影で回収してから地面に降ろした。
「・・・・・・・」
一瞬で状況が変わり驚きの声を上げそうな水谷の口を拘束して黙らせておく。いまだに目の前の和田も、広場の惨劇に気をとられて後ろの俺に気付いていないのに、ここで騒がれて気付かれたくはない。
「お前!何者だ!ヒャハハハハ!」
楽しそうな声が聞こえてきたので見ると、金子が黒い雲みたいなのに乗って笑いながらガルラに向かって行っている所だった。
あれは、魔法か?あいつ闇だったから多分そうだろう。闇魔法ってあんな使い方も出来るのか。
キン!
ガルラに近づき黒い雲から飛び降りながら剣を振るう金子を、ガルラは愛用のこん棒を使って片手で受け止める。受け止めた瞬間ガルラは、しかめっ面に変わり何か呟いたのが見えた。次の瞬間、ガルラの拳が金子の顔面を捉え、殴られた金子はそのまま近くの建物まで吹っ飛ばされて姿が見えなくなった。
「アハハハハ、政の奴やられたぞ」「キャハハハ」「何やってんだブハハハ」「女にやられるなんて政の奴情けねえぞギャハハハ」
金子がやられても楽しそうに笑っているだけの『悪魔』達。ガルラについては今は顔を俺と同じように目だけしか出してなく、頭にはフードを被って耳を隠している。『獣人の解放者』スタイルでマントを着て尻尾も隠れているので獣人だとはバレる心配はないだろうが、体のラインはさすがに誤魔化せなかった。ヒトミ並みの大きさの胸はさらしでも巻くとかしないと隠せなかっただろう。まあ、そんな時間は無かったけど。
しかし、こいつら金子がやられても笑ってやがる。こんなに仲間意識低い奴等だったか?と疑問に思ったりもしたが、俺はすぐに目の前のエレナの仇に集中する。
ザシュッ!
「・・・・・・・・・」
未だに背後の俺に気付かない和田の後ろから、腕を切り飛ばしてやる。声を上げて他の奴等に気付かれても困るので口は既に影で拘束してある。そして、
ザシュッ!!
再び和田に剣を振って杉山と同じように腹を切り裂いてやる。後ろで水谷が怯えている気配が伝わってくるが、気にしない。
「てめえにはエレナの恨みがあるからな、苦しんで死ね」
そう伝えた次の瞬間、バルコニーにいる連中が全員こっちを振り向いた。
何でバレた?・・・全員合図でもあったかのように振り向いたって事は・・・『念話』か?もしくはそれに似たスキルでこいつら繋がってやがるのか?和田も苦しそうだが、若干口元が笑っているから俺の考えは大きく外れてはいないだろう。
「おいおい、こっちにもいるぜ」
「和田の奴もやられてやがる」
「こいつら杉山と浅野か?・・・背格好からして違うな」
「もう折角の楽しい気分が台無しじゃん」
ブツブツ文句を言いながら詠唱を始める大久保。
マジか?和田がまだ近くにいるのに嘘だろ!
「『火球』!じゃーねー!キャハハハハ」
大久保の奴マジで魔法を放ってきやがった。他の連中誰も大久保を止めない所か俺達に笑いながら手を振ってやがる・・・いや、俺達じゃなくて和田に向かって振っているのかもしれないが、そんな事確認している場合じゃない。俺は水谷を抱き上げると、慌てて物陰に隠れてすぐに影に潜る。
影に潜るとほぼ同時にさっきまで俺達がいた場所で大爆発が起こる。そして煙が収まった後にはさっきまであった建物は影も形も無くなっていた。当然和田の姿もどこにも見当たらないのだが、連中は和田を心配するどころか大声で笑い出している。
「ギャハハハ、大久保やり過ぎ!」「何も無くなってる。アハハハハ」「和田どこ行った?ハハハハハ」
・・・・気分が悪くなってくる。こいつらさっきから仲間がやられているのに大喜びしてやがる。ホントにどうしたんだ?こっちに来て性格が変わったのか、何か薬でも盛られて精神がおかしくなっているのか・・・。まあ、それよりも水谷を回収したから撤退だ。
だがその前にガルラに伝言をお願いする。
「聞け!!!火の国の悪魔ども!我が主の言葉を伝える!『今回は引くが、次こそはドアールの!みんなの仇は必ずとらせてもらう!そして火の国の兵士達!お前らも次は容赦はしない、命が惜しかったら今の内に騎士団をやめておけ』以上だ!」
ガルラは街中に聞こえるんじゃないかってぐらい大きな声で俺の伝言を伝えると、その場を離れ家に帰っていった。俺はガルラが喋っている間に影を伸ばしてノブ達の首を回収、代わりに浅野と杉山の死体を机においておく。流石にその辺に捨てる訳にもいかず、かといって埋葬してやる気もおきなかった。俺達の背格好から浅野と杉山じゃないってバレたから、二人のフリをするのも無理だしな。まあ、これで自分達も狙われていると思って怖気づいてくれでもしたら、復讐するのが楽になる。
「・・・・・・」
俺が首を取り出すと、水谷はようやく俺の正体に気付いたみたいで何か言おうとしているが、口を拘束されているので言葉が出せない。
「浅野と杉山じゃん!あいつらやられてたのかよ」「ギャハハハ、やられてるなんて雑っ魚!」「うわー、やられてたなんてヒクわー」
こいつら浅野と杉山を見ても怒ったり悲しんだりしない。やっぱりこいつら少しおかしい気がする。俺の狙いはあんまり期待できそうにない。
「おい、いたぞ。こっちだ!」
物陰に隠れてあいつらの様子を少し伺っていたが、こっちに向かってきた兵士に見つかり騒ぎになったので俺もすぐにこの場から撤退を始める。
「しっかり捕まっていろ。あと騒ぐなよ。騒いだら置いて行くぞ」
水谷に注意してから俺は移動を開始する。幸い俺に追い付ける奴はいないのだが、
『火球』、『風槍』、『水球』、『光矢』
俺のいるだろう辺りに手当たり次第にあいつらが魔法を放って来る。俺が逃げて来た後ろの建物は全てボロボロだ。しかもあいつら何かのスキルなのか気配が希薄すぎて魔法がどこから放たれるか分かりにくい。『探索』にも反応しないし、水谷がいなくても4対1のこの状況でこいつらと戦えばヤバそうだ。
それでも何とかある程度あいつらと距離をとった所で、建物の屋根から外壁に飛び移り街から逃げ出す事に成功した。