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影魔法使いの冒険者  作者: 日没です
5章 風の国境都市のDランク冒険者
103/163

98話 風竜討伐依頼

本日2回目です

「ハハハハハ。だから悪かったって。俺も報告出来なかったんだから仕方ないだろ」


 師匠の秘蔵酒のワインを美味そうに飲みながら、ノブは俺の文句を軽く受け流している。俺達はあの後『念話』でノブの家で待つように言われたので、大人しく従った。そして今、俺はノブと二人で酒を飲みながらさっきの事で文句を言っている。女性陣はみんなで風呂に行っている。


「それでよ。俺も風竜の素材が欲しいんだけど、獲ってきてくれないか?」


 城の出来事は後ろめたく感じているのか強引に話題を逸らしてきたが、その話の内容は簡単に頷く事は出来ないものだった。


「それでよじゃねえよ。何だよ話題逸らし下手くそかよ。しかも風竜って軽く言ってくれるけど、お前それレイド戦になるぐらいの依頼だからな?」

「ハハハハハ、まあそう堅い事言うなって、俺とお前の仲じゃないか」


 俺の突っ込みにノブは笑って誤魔化してくるけど、こいつ『竜』の強さ知ってるのか?魔物だとAランク相当だぞ・・・・いや、それを一撃で殺した二人がいるけど。


「ギルドに依頼しろ、それか王様に頼めば素材ぐらい手に入るだろ?」


 ここには商業ギルドの本部があるぐらいだ素材ぐらい国から声かければ簡単に手に入るだろ。


「いや、それがずっとお願いしているけど全然手に入らねえんだよ。そもそも竜を討伐した話なんて滅多に聞かないし、他の国で討伐されるとその国が先に素材を全て手に入れるからな。特に今は火の国が危ないだろ?各国戦力増強を図っていて、そういうレアな素材はまず間違いなく国外に持ち出せないんだよ。水谷さんはダメ元でギルドに依頼したら、お前らがその依頼達成してくれて運が良かったんだよ。原田の野郎も地竜の素材手に入って棚ボタだったからな。って事で銀!親友の俺が専用装備無いの可哀そうだろ、獲ってきてくれよ~」


 水谷は水魔法で原田は土魔法か、でノブは風魔法なのか。それならヒトミとフィナには機会があれば火竜を倒して専用装備作るか、レイは光だから・・・光竜っているのかな?聞いた事ないぞ。ギルドで調べてみるか。そして俺の影・・・影竜っていないだろうなあ。まあ装備で思い出したけど、折角風都に来ているんだ、装備も一回見直すかなあ。


「ああ、いいお湯だった~」

「ノブタダ様!すごいです、髪がサラサラになりました!」

「それに体が凄い綺麗になった気がします!」


 ノブの頼みは放っておいて装備の見直しについて考えていると、女性陣が風呂から上がってきた。特にミルとルルが興奮しているが、最初に風呂に入った人の恒例の反応なので、俺達は和やかに様子を見ている。


「そうか、おお、すごいな二人とも髪がサラサラじゃないか?使い方はちゃんと教えて貰ったか?銀からいくつか貰ったからな。これから毎日使えるぞ、無くなったら銀に言えばくれるからな、気にせず使えよ」


・・・おい、勝手に決めるな・・・と言おうとしたがミルとルルが本当に嬉しそうなので、空気をぶち壊す事はせず黙っていてやった。そうして各自が思い思いのソファに腰かけてくつろぎだす。当然ガルラとフィナも遠慮せずに座っているが、ノブなので当然何も言わない、むしろその目がランランとして二人を見ていてちょっと怖い。ミルとルルも元奴隷だったからなのか特に獣人に偏見を持ってないみたいで、レイとヒトミがガルラとフィナの髪の手入れをしているのを興味深く見て、時には自分達でやらせてもらったりしている。




「よし、じゃあ、私は今から料理作ってくるわ。津村君何かリクエストある?」

「え?俺?いいの?じゃあ・・・こっちでも再現可能な料理がいいな。そうすればミルとルルに作って貰えるから・・・大野さん、カレーとかってどうかな?」

「ごめん、カレーはまだ香辛料の組み合わせが上手くいってなくてもう少しかかると思う」


 いつの間に?レイは料理について貪欲な事は知ってはいたが、こっちで再現可能かまで調べているなんて俺も初めて知った。


「う~ん。それなら丼ものは?かつ丼でも親子丼でもどうかな?」

「あ~。それも上は出来るんだけど、お米が見つかってなくてこっちでは再現出来ないかな」

「え?お米ならあるよ?サイ国では一部だけど食べられているらしいよ」


 俺達も一応こっちでも米が無いか探していたのだが、手がかりが無かったので諦めていた所だったのに、まさかノブから教えて貰えるとは思わなかった。ノブが言うにはサイ国の一部地域でのみ栽培されているので流通には乗っていないらしい。ただ、この国の王妃がサイ国出身なので、たまに向こうから送られてきているらしく、ノブも食べたり貰った事があるので存在している事は確定した。と言う事で今晩の夕食は親子丼とかつ丼になった。


 ノブが久しぶりの親子丼とかつ丼、味噌汁に感動して軽く涙した後、俺はさっきの話の続きをする。近くにはガルラとフィナしかいない。他の女性陣はさっきの料理のレシピをメモにして、色々注意点等を話し合っている。




「それで、どこにいるのか分かってるのか?」

「受けてくれるのか!」

「仕方ねえから受けてやるよ。だからさっきからチラチラ目線で訴えかけてくるのやめろ」


夕食中に冷静に考えてみればレイとヒトミもいるんだし、最悪全員で挑めばなんとかなると判断したのでノブからの依頼を受ける事にした。


「で?どこにいるんだ?」

「・・・いや・・・そう言うのは依頼したら勝手にやってくれるんじゃないのか?」


 こいつ依頼の出し方何も分かってねえ。これだとまずは風竜探す所から始めないといけないじゃねえか。しかも見つかるかも分かんねえ、見つけても討伐出来るかも分かんねえ依頼なんて誰が受けるかって話だ。水谷の依頼はたまたま水竜の情報があったからグラニカに依頼が来たんだろう。今後の事を考えて取り合えず最低限の依頼の出し方を教えおいた。




「それで、風竜の居場所とか目撃情報かあ、俺は聞いた事ないなあ。クーミ。風竜の情報って何か知らないか?」

「「風竜??」」


 『風竜』って単語にウチの戦士が反応した。何か最近フィナもガルラに似て来たんだよなあ。獣人って脳筋なのかな・・・いや、フィナは魔法の才能もあるし、日本語も平仮名、カタカナは習得しているから脳筋ではないはずだよなあ。


「風竜ですか?・・・確か砂の国の国境周辺に出たみたいな噂を聞きましたが、正式な報告になってないので噂の領域を出ませんが・・・誰かが食堂で話しているのを聞きました」

「あ、主殿!次は風竜か?そうなのか?よし、いいぞ、その依頼受けるぞ。ククク、風竜か、腕が鳴る」

「あ~!お姉ちゃん!勝手に盛り上がってるけど次は私の番だからね!お兄ちゃんのお願いでも今度は絶対譲ってあげないから!」


 クーミの話を聞いて勝手に盛り上がっている二人は置いておいて、明日は情報収集と装備の買い替えだな。そうしてノブとクーミ、ミル、ルルから買い物の場所を聞いたり、ノブのスマホを充電させてこっちの世界の奴に日本の事を画像を見せながら説明したりしてゆっくりした。結局何だかんだ引き止められてノブの家に泊まったけど、目撃したくなかったので『自室』で寝た。




「ふあ~。おはよう。ノブも勇者だって言っても朝は早いんだな。もう少しゆっくりしてるのかと思った」

「いつもはもうちょい遅いんだけどな、今日からやる事が増えたからな。ああ、そうそう、お前この家好きに使っていいぞ。話は通しておく」


 翌日俺が起きてリビングに行くと既にノブが起きて何か書類を読んでいた。ノブは既に着替え終わっていて何か出来るリーマンって感じが伝わってくる。


「嫌だよ。貴族街の入口で何か言われるのも面倒くさいし、お前らの露出プレイなんて見たくねえからな、今日からは街の宿に泊まる。それで今日中に風竜の情報集めて明日には出発するからな。もし戦争が始まるならすぐに『念話』で教えろよ」




 ノブには連絡を寄越すように念を押して伝えたので大丈夫だろう。朝食を食べた後、全員で街に繰り出した。最初は装備の見直しだ。俺は野盗が持ってたそこそこ良い片手剣を使っているが、Cランクに上がった事だし、もう少しいい武器に持ち替えてもいいだろう。あとはフィナの短剣を買っておきたい。


「いらっしゃい。何をお探しかね」

「短剣と片手剣を見せてくれ。これが今使ってる奴だ。これよりもいい物が欲しい」


 街の広場まで行き、適当に見つけたでかい武器屋に入って店員にこちらの要望を伝える。他の3人は武器は今までの物でいいらしい。


「そうなりますと、この辺になりますね」


 案内された広い店内の一角には短剣や片手剣が並べて置かれていた。その刀身の輝きから今の装備品より明らかに上等な物だと分かる。そしてその中の1本、銀や白に光を反射する他の並んだ剣とは異質な黒い剣が俺の厨二心をくすぐる。ターニャなら即買いしそうだな。


「これは?」

「ああ、それは大森林からの流れ物で材質は不明ですが、鋼よりは強いのでここに置いてあります」


 俺の今の装備品は恐らく材質は鋼だからそれよりも強いのか。それに大森林産って事はレイの服みたいに掘り出しものかもしれないから、こいつにしとくか。


 そうして軽く振ったりして重さや違和感を確認したりしたが特に問題なかったので大金貨5枚で購入した。フィナの方は魔力を通しやすいミスリルを含んだ短剣を気に入ったようだ。こちらは大金貨3枚だった。




「主殿、この後は風竜の情報を聞くだけだろう?私とフィナは先に部屋に戻っていていいか?」


 店から出ると、珍しくガルラが俺達と別行動すると言い出した。戦闘以外は自分の意見を言わずに黙ってついて来てくれるガルラが珍しい。


「昨日の飛竜の解体が中途半端なままでな、気になって仕方ない。ついでに他の魔物も処理しておこうと思ってな」


 聞けばガルラらしい理由だったので、ひとまず先に宿を確保してからガルラとフィナを家に入れて俺達は3人で冒険者ギルドに足を運んだ。


ギィ。


 冒険者ギルドの扉を開けると相変わらず聞き覚えのあるドアの軋む音がする。どこのギルドでも同じなので、そういう作りになっているのかとも思ったが、実際は荒っぽく開け閉めされるからどこの街でもドアが歪んでいるらしい。そうして音が鳴るからこの時間のギルドに残っている奴等から注目を集めるが、気にせず受付に向かう。


「おい、あいつらまさか『カークスの底』か?」、「いや、獣人がいねえから違うだろ」、「でもあの白い仮面は『撲殺』の特徴だぞ」、「どうせカタリだよ。有名人に成りすまして強い奴等に寄生でもするつもりなんだろ」、「でもこの街に来ているのは確かなんだろ。門の外で小さい獣人をぶん投げてたらしいじゃねえか」


 回りのヒソヒソ声が聞こえてきて分かったが、レイの仮面は目立つらしい。慣れてしまったのでそれが当たり前になってしまっていた。唯目立つのと正体バレるのとどっちがマシかと言われれば、目立つ方がマシだろう。それに思った以上にガルラとフィナが目立っているな。何か対策を考えないといけないけど、すぐには良い考えが思いつかないな。




「どうも、いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件ですか?」


 適当に並んだ列の受付は美人なお姉さんだった。・・・・別に狙ったわけじゃないから、偶然だから。二人とも太ももつねるのやめてくれ。


「風竜の情報が欲しいんだけど、ギルドは何か把握している?」


・・・・・・・・


 俺の質問に受付のお姉さん、そして俺達に注目していた冒険者連中が固まってしまった。流石に見た事ない奴等がいきなり風竜の情報なんて聞くと頭のおかしい奴にしか見えないんだろう。それもこれ変な依頼したノブのせいだ。って報酬の話もしてねえし、絶対吹っ掛けてやろう。


「え、えっと、いくつかギルドでも情報は持っていますが、いきなり欲しいと言われても・・・まずはギルドカードを確認させて頂いても宜しいですか?」


 3人のギルドカードを渡すと、お姉さんは再び固まる。レイとヒトミは人差し指を口に当てて静かにするようにジェスチャーで示している。


「・・・『カークスの底』・・・本物・・・えっと・・・個室で少しお待ちください。上と相談してきます」


 お姉さんに個室に案内されしばらく待つとごついオッサンと戻って来た。これがお姉さんの上司か、多分元冒険者だな。


「へえ、お前らが今話題の『カークスの底』か。俺はここのギルドマスターのグラテルだ。宜しくな。早速だがなんか風竜の情報集めてるんだって?」


 お姉さんの上司かと思ったらギルドの最高責任者が出てきたよ・・・まあお姉さんの上司ではあるけどまさかギルマスがでてくるとは。


「はい、ノブの野郎・・・じゃなくてこの国の勇者に素材を頼まれたので、まずは情報を集めようと思いまして・・・」

「ああ、そう言う事か。水竜と地竜を献上したから次は風竜ってか。お貴族様も簡単に言ってくれるねえ。どれだけ大変か分かってないから言えるんだろうけどな」


 水竜と地竜は献上した事になっているのか?後の事は全部ウィリアさんに任せたから知らなかった。


「噂じゃ砂の国の国境周辺で見たって話があるみたいですけど?」

「おお、耳が早いじゃねえか。そうだよ、今いくつかのランクは低いが信用できるパーティを指名してその辺を調べて貰っている。一月ぐらいで調査は終わるだろうけどお前らどうする?待っているか?」


 そう言われて3人顔を見合わせる。出来れば戦争が始まる前には欲しいとノブが言っていたので、待っていると間に合わないかもしれない。明日には国境都市に出発する事をギルマスに伝えてから宿に戻った。




 あれから10日経った。俺達は砂の国の国境近くで風竜を探している。移動に5日掛かったので捜索開始から今日で5日目風竜は未だに姿を現さない。


「いないね~」

「そうね。全然見つからないわね。方角は会ってるのよね?」


 俺の後ろを歩く二人がもう何度目になるか分からないやり取りをしている。流石にここまで見つからないと俺も疲れてきたので、返事は頷くだけになってしまう。取り合えず色々情報を集めた結果、風竜が飛んでいった方角を目指して手がかりを探しながら歩いている。

 ちなみにガルラとフィナは二人で元気に周囲を走り回って風竜の手がかりを探してもらっている。ただ、戻って来る度に結構な数の魔物を倒したと報告してくるのは何故だろう。捜索よりも戦闘がメインになっている気がする。





「いた!」


 あれから更に数日探し歩いて、今は森の奥にあった岩山の中腹まできた所で、ようやく風竜の姿を捉える事が出来た。こいつはタツノオトシゴを緑色にして翼と手足をつけた姿をしている。まあ前2匹の竜よりは竜っぽい感じがして強そうだ。

 さて、居場所を見つけて戻ってきた獣人二人の目がキラキラしているのは置いておいて、レイとヒトミの様子を確認するが、やっぱり二人とも疲労の色が濃い。10日以上歩き続けた後に登山だから仕方がないのかもしれないが、このままだと万が一の可能性がある。二人はその場に残してガルラとフィナの3人で見つからないように寝ている風竜まで近づいていく。


「まだ寝てるな。大丈夫だと思うけど、風竜のブレスは圧縮した風で見えないからな、正面に立つなよ」

「うむ。分かっている」

「お姉ちゃん!『分かっている』じゃないよ!何普通に倒しにいこうとしているの?今日は私の番でしょ?今回は絶対譲ってあげないからね!」


 フィナが尻尾の毛を逆立ててガルラを威嚇している。この間の飛竜の時はここからガルラがフィナを抱きしめて、頭と尻尾を撫でて強引に順番を譲ってもらったんだけど、今日はガルラの手を払って抱き締められるのを拒否している。


「どうした?フィナ?頭を撫でようとするのを拒否するなんて私は悲しいぞ」

「お姉ちゃん前もそうやって無理やり順番譲ったでしょ!今日は絶対譲ってあげないから!」


ガルラが困った顔で俺を見てくるが、どうしようもない。何度も同じ手が通用すると思っていたガルラが悪い。


「ガルラ、今回はフィナの番だから諦めろ。まあフィナが呼んだらガルラもすぐにフォローに入らせるからな」


 結局みんなで挑もうって俺の計画も獣人二人から反対されボツになった。偵察してきた二人の風竜の評価は俺達の誰でもソロで倒せるぐらいの強さらしいので、最初は1人で挑むって押し切られた。


「・・・・むう。フィナ気をつけろよ。少しでも危ないと思ったらすぐに呼ぶんだぞ」


 この流れでその言葉は全くの逆効果にしかなっていない。フィナはガルラに舌を出すと、もう一度俺に注意点を確認してくる。


「えっと、翼っていうか翼膜はなるべく傷付けたら駄目なんだよね?そうすると根本の骨を斬れば飛べないだろうからそうする。あと、火魔法は素材を駄目にする可能性があるから禁止で、周りに人がいないから影魔法は使ってもいいけど、出来るだけキレイな状態で倒すんだよね」


 討伐じゃなくて素材が目的だって事をしっかり覚えてくれているみたいだ。俺がしっかりと頷いたのを確認するとフィナの姿が消える。





クエエエ


 フィナの姿が消えるとすぐに風竜が目を覚まし怒りの咆哮を上げた。原因は翼で短剣を振るっているフィナしかいない。ただ、短剣を振っているが翼の付け根にダメージが入っているようには見えない。


「もう、固いなあ~。買ったばっかりなんだけど短剣だと相性悪いな~。私もお姉ちゃんみたいにこん棒にしようかな」


 フィナが風竜の背中で短剣を振りながらぼやいているが、それだけはやめて欲しい。まだ可愛らしいフィナがこん棒振り回して魔物をぶん殴っている姿は見たくない。


「ああ!もう!固い!!・・・仕方ないや、このままだとお姉ちゃんに取られちゃうし、影魔法の練習にも丁度いいか」


 フィナが呟いた途端、手に持つ短剣が真っ黒に変化した。そして黒くなった短剣を振ると先程まで攻撃が弾かれていたのが嘘のようにあっさりと翼の付け根を切り裂いたのだった。


「あ、あれは?・・・ガルラ。フィナの奴何したか分かるか?何で短剣が黒くなってる?」

「ん?あれは多分『火』で良くやってる奴だろ。今回火魔法使用禁止だから影魔法を代わりにしたんだと思うぞ」


 ガルラはあっさりと教えてくれたが、俺は目から鱗だった。まさか影も剣に纏わせる事が出来る事も、それで切れ味が増す事もだ。唯よく考えれば当たり前か、俺の影って結構何でもスパスパ切れるもんな。切れなかったのはレイとヒトミの色の違う『壁』ぐらいだ。


クエエエエエエエエ。


 翼の付け根を切られた事で更に怒り、鳥のような咆哮を上げながら体を振り回す風竜。フィナも流石に背中から飛び降りて風竜から距離をとる。ようやく風竜も自分を傷付けた忌々しい存在を目にして更に威嚇を始める。




ブン!


 威嚇して睨み合うとすぐに風竜が尻尾を振ってフィナに攻撃を仕掛ける。




ドン!!


 大きな音がして尻尾の動きが止まる。見ると武器を持っていない方の手が真っ黒になったフィナが片手で風竜の尻尾を止めていた。これも影魔法の応用だ!レイとヒトミのなんちゃって『身体強化』参考にしたのか?




カッ!


 口を開けてさっきまでとは違う声を上げる。多分ブレスを放ったんだろうが、事前の情報通り全く見えない。


「えい!」


 ブレスを放ってきた事は分かったんだろうフィナは軽く掛け声を口にして自分の前に黒い壁を作り出す。これも俺は使った事はないが、多分『火壁』(ファイアウォール)『光壁』(ライトウォール)と同じような物だ。


ボシュッ!!


「うわわ!!」


 目の前に出した黒い壁が鈍い音と共に穴が開くとフィナが慌ててその場から離れるのが見えた。そして大きな音がして辺りに土埃が舞う。暫くして土埃が収まると、フィナがいた場所には大きな穴が開いていた。


「う~ん。やっぱりお兄ちゃん程固くないのかな~破られちゃったな~。この辺はもうちょっと練習が必要かな~」


 余裕そうなフィナが頭を掻いて先程の反省をしているが、俺はフィナの影の使い方に驚いている。まさかここまでフィナが使いこなしているとは・・・俺よりも上手くないか?


 そうしてフィナは全く警戒する事無くトテトテと歩きながら風竜に近づいていく。風竜もあまりの警戒心の無さに自分の腕の攻撃範囲に入って来るまでフィナを不思議そうに見ているだけだったが、攻撃範囲に入った瞬間前足を振り上げてフィナを叩き潰そうとした。次の瞬間フィナの姿が消え、横から黒い影が現れ地面に叩きつける直前の風竜の前足を払ったので、態勢を崩された風竜は仰向けにひっくり返った。そこをフィナが影で捕縛する。


「よ~し、捕まえた。これで首が狙いやすくなった。キミは首を守る為にそんなに口が長いの?ホントはもっと戦いたいけど、素材採取依頼だから我慢するね」


 フィナの言う通り口が長いので、4足歩行の時は正面に立つと首までかなり距離があるし、立ち上がると下を向く事になり、丁度長い口が首の前にきてこれまた狙いにくい。ただ、今のように捕縛しているとそれはあまり関係がない。


ザシュッ!!!


 フィナが黒い短剣で風竜の首を切り落とす。短剣と言っても影で刀身が伸びていたので、ほぼ影で首を切り落としたに等しい。これもヒトミの魔法の使い方を参考にしたんだろう。俺はフィナの影での戦い方を見てかなり勉強になった。


「えへへ、やっつけた~」


 風竜の死体を影で収納したフィナが笑顔で俺達の所まで戻って来る。本当にやり切った顔をしているが、どう考えても圧勝だろう。最初に奴隷商の所で会った頃の面影は全くない。まさかフィナがここまで強くなるとは想像も出来なかった。この子一人でAランクパーティ無双できそうだ。


「む~。良かったと言えばいいんだろうが、私も少し戦ってみたかった」


 満足気な妹と対象に義姉はすごい欲求不満が溜まってそうだ。俺はフィナの影の使い方を参考に色々戦い方を見直したりしないといけないので、今日からでも欲求不満なガルラに訓練を手伝って貰おう。


(おい、ノブ。依頼達成だ、風竜仕留めたぞ)

(・・・マジかよ。お前らどんだけ強いんだよ・・・まあいい、気をつけて帰って来いよ)


 一応依頼主であるノブには報告をしてから風都まで戻った。










「はあ??・・・戦争が・・・もう始まってる?」


 風都に戻った俺達はノブの屋敷に素材を渡しに行くと、クーミから戦争が始まったと伝えられた。


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