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影魔法使いの冒険者  作者: 日没です
5章 風の国境都市のDランク冒険者
102/163

97.5話

「ふう~~~」


 銀とガルラとか言う獣人が扉から出ていった後、俺は大きなため息をついて椅子に体を預けて銀が来てからの事を思い出す。




◇◇◇

 銀が俺の所に来た翌日、水谷さんに銀の誤解を解こうとしたのだが、朝から捕まらなかった。後から聞いたら、委員長と大野さんを屋敷に受け入れる準備をしていたそうだ。そして陛下に報告しようにも何故か今日は原田とずっと打ち合わせているみたいで全然会えない。

 仕方が無いので訓練や仕事をこなしている内に夕方ごろ謁見の間に呼ばれたので、向かった謁見の間には既に全員座っていたが、おかしい事に謁見する人間がいないのだ。普通は部屋の中央で膝をついて待っているのに、隣の原田を見ると嫌らしい顔で笑いを浮かべているので聞く気にならない。そうしてすぐに陛下がやってこられたが、未だに当人達は姿を見せないのでどういう事か全く理解できない。


「宰相。これはどういう事だ?誰もおらぬぞ?」


 陛下の言葉はもっともだ。今まで誰もいないなんて事はなかった。何かの手違いかな。


「はっ。控えの間まで案内させましたが、そこから忽然と姿を消したので現在探している所です。ノブタダ殿、アユム殿、何か心当たりは?」


 いきなり話を振られても困ってしまう。


「誰の事かわかりませんので心当たりと言われても・・・」

「土屋達の事よ。津村君あいつが行きそうな場所とか分からない?」

「銀!!あいつここに来ているのか?」


 俺の知らない間にいつの間に城に来てんだよ。来るなら声ぐらい掛けろよ。


(おい、銀!今どこだ?城に来てるんだろう?陛下がお待ちだぞ!)


 『念話』で銀を呼び出すが、この『念話』ちゃんと通じてるのか不安に・・・おっ繋がった。


(今風呂入ってる)

(・・・・お前何やってんの?)


 何で謁見の間じゃなくて風呂にいるんだよ。昔以上に行動の予測が出来ねえ。


(とにかく急げ!あんまりお待たせするな)


 最後に叱っておいてから念話を切った。





◇◇◇

その後はもう滅茶苦茶だ、何とか銀を宥めて次の日も来てもらったのに、何でみんな銀を怒らせる事しか言わないんだ。そして銀の奴、いつの間にあんな目をするようになったんだよ。杉山達の首を躊躇いなく出しその首をゴミでもみるようなあの目、水着事件の後も金子達を見る目つきはヤバかったが、あそこまでじゃなかった。理由は聞いたから知ってるが、それでもあの目は無いだろ。銀の奴どれだけ水の国境都市を気に入ってたんだ。




「ノブタダ!アユム!」


 椅子に深く腰掛けて体を預けながら銀の事を考えていると、王妃様から声を掛けられて、別室に案内された。王妃様から呼び出されるなんて初めてなので少し緊張してしまう。


「ノブタダ、アユム、『カークスの底』についてもう少し詳しく話せ。二つ名や点付きと言ってもあの者達の強さは異常だ。特にあの男が本気で怒った時の殺気、城中の人間が皆殺しにされるかと思ったぞ」


 言われる通り、マジギレした銀はヤバかった。俺でもあの殺気の中、立っているのがやっとだった。あれで仲間の獣人が止めてくれなかったらと思うとゾッとする。


「レイとヒトミは水谷さんの友達で、銀は俺の友達です。会うまで確信できなかったので報告には上げていませんでしたが、3人とも俺達と同じ所から来た奴等です」


 先に勇者かもしれないと報告しておいて、人違いだったら向こうも困るだろうって事で直接会ってから国に報告しようとみんなで決めていたんだけど、俺は報告する機会が無かった。水谷さんは銀から二人を引き離す事で頭が一杯で忘れていたそうだ。原田は多分報告すると委員長と大野さんが手に入らないとか考えて黙っていたんだろう。


「やはり、勇者か。・・・という事は野良・・・・まさか・・・本当に・・・・ふう~。それならあれだけの強さなのも納得できるし、相当な修羅場も経験してきているだろうな。それに比べて・・・・」


 何かブツブツ言っていたと思ったら、大きく溜め息を吐く王妃殿下。言いたい事は分かる。これでも全員上級魔法使えるぐらいには強いはずなのに俺達はさっき全くの役立たずだった。銀は最初から命のやり取りをしていたと言ってた、俺達は訓練ばかりでやった事がない、そこが大きな違いだ。銀の話から金子達も俺達を殺す事に躊躇いはないだろうから、こっちも早い所覚悟を決めないと戦争に負けてしまうな。




「で、でも殿下、怜と瞳は全く動けてませんでしたよ」


 殿下の言葉に水谷さんが反論してるが、それは多分間違っている。


「阿呆、陛下が合図を送ったと同時にあの二人も戦闘態勢に入ったではないか、あれだけで場慣れしている事は明らかだ。それに動けなかったんじゃなくて、動く必要がなかったんだろう。あの二人が身に纏っていたモノあれが何かは分からんが、恐らくああなったら誰も手を出せないのだろう、リーダーの男はそうなった二人を最初に見た後は気にもしてなかったからな」


 殿下の言う通りだと思う。あいつは認めた奴にはびっくりするぐらい優しくて甘いからな。その銀があの場で二人を心配しなかったって事は絶対安全だと思っていたはずだ。そうじゃなきゃ獣人が出てきた時に部屋に避難させていたはずだしな。


「それにあの獣人は何だ?近衛兵長を一撃とか強すぎるぞ。恐らく上にいた連中も小さい獣人にやられたのだろう。ただ隷属の首輪をつけていたが、命令している風でもないように見えたが?」

「銀が言うにはあの二人は奴隷じゃなくてパーティメンバーとして扱っているそうです。命令もした事がないって言ってました」

「と言う事は獣人達はあの男に自発的に従っているという事か。獣人は自分より強い者にしか従わないから、あの男獣人より強いと言う事になる。とんでもない奴だな」


 マジかよ、あの獣人より強いとか勘弁してくれよ。今から銀を目標に頑張るつもりだけど強さの底が知れない。まあ、俺の家で待ってるように『念話』で伝えたから後でどのくらいの強さか聞いてやろう。




「それで?『カークスの底』についてだが、今度の戦争に参加してくれそうかの?あれだけ怒らせたので無理そうだが」

「まあ、無理でしょうね。ただ、金子達は殺すって言っているので戦争中に乱入してくる可能性はありますけど、それを当てにするのはマズいでしょう」


 俺が何とかお願いすれば一緒に参加してくれそうだけど、あの目を見てしまったからな。もう銀には人を、クラスメイトを殺して欲しくないし、これ以上あんな目をさせたくない。この国の事はこの国で解決すると俺は決めた。あとはどうやって銀を戦争に参加させないかを考えればいいだろう。銀からは絶対怒られるから覚悟だけはしておこう。


「そう、それだ!カネコとか言ったか、そいつらは何者だ?あとあの生首は誰だ?」

「金子って言うのは火の国に召喚された勇者です。例の『火の国の悪魔』の一人です。銀の出した首もその中の二人です」

「な、何と!既にあの悪魔を二人も殺しておったのか。ますますこちらの味方をして欲しいが、はあ~。あの馬鹿どものせいで・・・そうだ、我を差し出すというのはどうだ?それで何とかこっちの味方にならんかの~」


 おいおい、凄い事言ってるぞこの人。まず陛下たちを馬鹿呼ばわりしてるし、自分を差し出すとか・・・仮にも一国の王妃ですよね?しかもこの人確かサイ国の国王の娘だったよな。


「い、いえ、殿下。銀には恋人がいるので、無理強いすると銀の奴、更に怒ると思いますので、やめておいた方がいいと思います」

「そ、そうですよ。それに陛下がいるじゃないですか。浮気になっちゃいますよ」


 俺と水谷さんが慌てて止めるが王妃殿下は不満顔だ。


「ふん、陛下の子を一人は産んだから義務は果たしただろう。それに陛下は何人も側室がおるのに今更浮気等いう事でもないわ。ただまあ、やはりこんな子持ちの年増よりも若い方がいいのか、せめて種だけでも恵んでくれんかな」


・・・義務って・・・俺は少し呆れてしまうが水谷さんは絶句して言葉が出ないようだ。俺はこっちの世界の結婚観や貞操観念に大分慣れて来たけど、水谷さんは未だに慣れて無いから仕方ない。多分だけど銀も委員長と大野さんがいなくて殿下に迫られたら絶対落ちるだろう。何といってもこの美貌、紺色の長い髪と同じ色の目をした瞳。子供を産んだ経験があるとは思えないぐらい整ったプロポーション。日本だとタワマンに住むセレブ妻って感じだな。流石にこの色気はミルとルルにはまだ出せないよな。


「た、た、種だけって!殿下、だ、駄目ですよ。土屋ですよ相手は、あんな二股する奴は絶対碌な奴じゃないですよ」


 う~ん。水谷さんはまだ銀の事を否定的に見ているな。この調子だとまた銀を怒らせる事しそうだ。あとで注意しておこう。


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