1話 異世界召喚からの国外追放
「・・・・・・」
「・・・・・・」
今俺はオッサンと二人で無言で歩いている。喋らなくても気にならないぐらい気心の知れた関係かというとそういう訳でもない。俺はこのオッサンと出会ってまだ10分も経っていないのに何故か二人で互いを警戒してそれを気取られないように街中を歩いているのだ。
学生服に身を包んだ17歳俺とフルプレートっていうのか全身鎧に身を包んだオッサンが二人で街を歩いている光景・・・すごくシュールだ。フルプレートなのにオッサンだと分かるのは城内では兜は脇に抱えて歩いていたからオッサンの顔が見えたし挨拶もしたからだ。で城下町に出たら何故か兜被るんだもの、それで俺の横を無言で歩いてくる、背もでかいから威圧感半端ない。聞けばこの国の第1騎士団の副団長だそうだ。
何でそんな人と街を歩いているかというと、別に買い物に付き合って貰ってる訳でもない、美味しい食事処に案内して貰ってる訳でもない、案内されてもこんな威圧感たっぷりのオッサンと食事はしたくない。俺は異世界召喚されたばっかりなのに1時間もせずに国外追放の刑に処されてしまったので、国外までの案内でこのオッサンがついてきてくれているのだ。
異世界召喚・・・・
そう授業中にクラス全体が光輝いたかと思ったらどこかよく分からん暗い石畳の部屋に寝ていた。で気付くと目の前に偉そうな奴等がいて、ここは異世界だと説明してくれて、これまた異世界お約束のステータス確認の儀式が行われた。儀式前に人数を確認すると不良グループ5人とパシリ1人、そいつらと仲の良いギャル2人、委員長、俺の10人だった。
友達のノブは?他のクラスメイトは?なんて疑問に思っていると、不良グループが「ここどこだ!」「帰らせろ!」とか叫びだしたが王様っぽい奴に近づいた瞬間、周りの兵士から剣を向けられて大人しくなった。それで渋々従うようになるとスキルの確認が行われた。最初にスキルの確認に行くように命令されたのはパシリの藤原だった。藤原が水晶に手をかざすと文字が浮かび上がってくるが・・・日本語じゃん。異世界感ゼロ。こういう場合は俺たちが「知らないけど読める」って何かそれらしい文字が浮かび上がってくるもんだろと思ったけど、
「すみませんが、ここに何と書いてあるか読めますか?」
ローブを着たオッサンが藤原に話しかけている・・・読めないのか。自分達が召喚したんだろ?この水晶お前らのだろ?何で読めないんだ。俺たちが日本人だから日本語で出たのか?それなら外国人はどうなるんだろ?外国の人・・・はこの中にはいないか・・・不良グループとギャルの中には頭金髪の奴がいるが、あれは染めてるだけだ。それよりも日本語は読めないみたいだけど会話は成り立っているな?なんでだろ?
「ええっと『光・回復』って書いてますけど・・・」
藤原の事、馬鹿だと思ってたけどそれ位の漢字は読めるんだな、少し見直したよ。但し俺をスク水の窃盗犯に仕立て上げた事は、お前含む不良グループ全員絶対に許さねえ。
「おお!!いきなり二重詠唱者で『回復』とは!」
「さすが勇者様!いきなり二つもあるとは!」
「いやそれよりも『光・回復』の組み合わせの二重詠唱者は建国王様と同じ。素晴らしい。」
何がすごいのか異世界の人々は口々に藤原を褒め称える。『光・回復』がすごいみたいだ。俺はそれよりも下に書いてある『マジックボックス』って方が気になるんだが・・・。
「おおっし!次は俺だ!藤原なんかより俺の方が絶対すげえの出るからな!」
藤原が褒め称えられたのが気にいらないのか次はグループのボス金子がスキル確認するみたいだ。っていうか馴染むの早くないか?異世界だぞ?もう少し警戒心持てよ馬鹿なのか?
「おらあ!・・・・闇・回復・・・ちっ!藤原なんかと同じ二つかよ、壊れてんじゃねえのかこれ?」
必要のない気合を入れて水晶に手をかざすと藤原と同じで二つだった。それが気に入らないのか水晶に難癖付けている。おい、やめろ壊すなよ。多分だけどその水晶かなり高いぞ。
「・・・闇じゃと・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
闇という言葉に異世界の人達はみんな黙ってしまう。唯一辛うじて王様っぽい人(頭に王冠乗せてるから王様確定だろ)が震え声をあげる。
「・・・ああ!んだよ!文句あんのか?」
オッサン達からの圧に少し怯みながらも威嚇する金子。
「うおおおおお。『闇』だあああ」
「伝説の『闇』きたあああああああああ」
「建国王と王妃様の再来だあああ」
ああ、これあれだ・・・ガチャ回してる時の俺だ。騒いでいる異世界の人達を見て俺はそう思った。但しガチャにされてる方はあんまりいい気分しないな・・・あれ?そういえばスマホ?良かった~あった。・・・が当然のように圏外だ、充電も出来なさそうなので、これは電源落として必要な時だけ使おう。
「あなた様、お名前は?・・・・『金子』?・・・金子様素晴らしいですぞ。火の国にようこそ。心より歓迎致します」
「お、おう!どうよ?お前ら見てたか?『闇』だぞ『闇』すげえだろ」
何が凄いか良く分かっていないのにおだてられて良い気になっている金子・・・馬鹿だな。こいつ。
そうして次々にスキル確認をしていく面々。基本二つの属性を持っているみたいだが一人だけ石井って奴が『土・風・回復』と出た時は金子並みに盛り上がった。3つの属性が出るのは『三重詠唱者』っていうらしい。その反応からものすごく珍しいみたいだ。
さて最後は俺の番かなと思ったが、
「ほら、委員長。最初いきなよ」
「あーしらもあとでやるし~」
ギャル二人が俺を無視して、肩ぐらいで髪を切り揃えた清楚系美人の委員長にスキル確認するように促す。俺の事は無視・・・・じゃないな存在を認識すらされていないな。まあ一番最後でもいいや。
「え?・・でも?・・・」
行きづらそうにしてチラチラ俺を見てくる委員長。窃盗犯にされた俺の言う事をノブ以外で信じて庇ってくれるぐらい優しい委員長は少しでもいいスキルが出るように祈ってるよ。そう思いながら手でお先にどうぞと促す。
「ほら、瞳!はやくしろよ。まだあと二人残ってるんだぞ」
委員長と幼馴染で不良グループの一人川崎が早くしろと急かす。
おい!あと二人って俺は数に入ってねえだろ。こいつからも存在を認識されていない・・・
「ええっと『火』って出てます」
委員長がそう言うと周囲は少しがっかりした様子だ。今まで二つ以上だったのが一つだったからだと思うけど、それにしてはその態度は委員長が可哀そうすぎるだろ。何かちっちゃくなって「すみません」と謝っている委員長はちょっと可愛い。委員長は藤原と同じで下に『マジックボックス』って書いてるけどこれは珍しくないのかな?
「ここで『一重詠唱者』か・・・」
「いやいや、陛下、珍しいですから『一重詠唱者』でも普通は喜ぶべきですよ。我が軍でも100人程しかいないのですから」
「そうなのだが・・・いや、今までが良すぎたのだ。そうだな、そなたの言う通りだ。これ以上欲を出したら女神様の神罰が下るな」
何か勝手に落ち込んで勝手に納得した様子だが、会話の内容から魔法が使える人はこの世界では数が少ないのか・・・とか思っていると周囲から歓声が上がった。
「うおおお、また『三重詠唱者』きたああああ」
「すげえええええ、勇者すげえええ」
やっぱりガチャ回してる時の俺みたいだ。王様さっき欲を出さないって言わなかったか?両手上げて汚い笑顔で喜んでる様子はどう見ても欲に塗れてるぞ。
そうして最後の女子のスキル確認をする。
「あ~しのは『火、水、風、土』だって~」
その一言に周囲が黙り込んだと思ったら、今までにないくらいの歓声が上がった。
「『四重詠唱者』だとおおおおおおおお」
「すごい、勇者すごい、すごいすごい、これなら楽勝じゃああああ」
「四属性全て!!すげええええええ。士気が上がるううう」
「500年前の大戦の時もいなかったぞおおおお」
みんな欲にまみれている。何か気になる事を言っている人もいるがスルーしとこう。まだ俺のスキル確認終わってないけど、ハードルめっちゃ上がった、さっさとスキル確認やっとけば良かった。これで何も魔法適正なかったらどうなるんだろ?いや、金子や藤原でも2つ出たんだ俺も大丈夫だ。自分を信じろ。
「これで全員か?・・・何だよ変態ヤローも一緒だったのかよ!いい気分が台無しじゃねえか」
最後の俺に気付いた金子が悪態をつく。あの時俺から殴られた事を未だに根に持ってるのか嫌な言い方をしてくる。その後俺はお前以外の奴等から袋叩きにされたんだが・・・。そんな事もあって直接手を出してくる事はしないが、悪口や机の落書き、SNSで俺の悪評を広めたり姑息な手段で俺をいじめてきている。担任にも相談したが、クラスメイトの水着を盗んでそれを揶揄った金子を一方的に殴ったという事にされている俺の言い分は聞いて貰えなかった。流石に私物にいたずらされた時は写真を撮って警察に行こうとしたら担任に止められ、ホームルームでクラスに注意してくれただけだ。唯それだけだ・・担任はそれ以上は何もしてくれない、相談にも乗ってくれない、面倒事を持ち込むなというスタンスで生徒の事なんかどうでもいいと考えているクソ教師だった。
いや、今はスキル確認だ。俺もすごいのきてくれとは言わない普通のでいいからお願いします。神頼みしながら水晶に手をかざす。
〈影〉
おお!取り合えず俺にも魔法が出た。下の『自室』、『念話』、『探索』も気になるが、取り合えず良かった。
「影って書いてますね」
俺がそういうと周囲は黙り込んだ。
これはアレかすごいのか?喜んでいいのか?よし来い!雄叫び!みんな騒げ!うおおおおおおおおお
・・・・・・・あれ?来ない?何かヒソヒソ話こんでいる?
「・・・・うする?」
「不吉な・・・・これでは・・・・」
「・・・・災いが・・・・しては・・・」
「ここでは・・・・・・してから・・・・」
おいおい、さっきから不安を煽る単語がちょこちょこ聞こえてきてんだけど。大丈夫か?クラスメイトの奴らを見るとどう反応したらいいか分かってないみたいだ。委員長は何故か泣きそうになっている。こっちにきてからずっと泣きそうな顔してたから、別に俺を心配してる訳じゃないな・・・。
「いや、すみません。『影』ですか。いやあ『一重詠唱者』だったので、ちょっと残念だったのですよ。ワハハハハ」
「そ、そうですよ、陛下。『一重詠唱者』でも、め、珍しいのですから残念がってはいけませんよ。ハハハ」
・・・・怪しい、ものすごくキョドってる。これはヤバい気がするが、現時点でどうすればいいか分からないので、対人スキルの低い俺は苦笑いで対応しておく。そうして俺たちを放置して何か軽い打ち合わせをしてから声を掛けてくる。
「さて、それでは皆様のスキル確認が終わったので、別室で食事をしながら色々とご説明させて頂きます。・・・が、その前にまずは皆さま各自お部屋を用意させて頂きましたので、そちらでお着換えを済ませてからにしましょう。各自メイドと執事を付けますので何かありましたら何なりと申しつけ下さい」
そう言うとメイドと執事がクラスメイト各自の隣に並ぶ。男子にはメイド、女子には執事が付くようだが、どれも美男美女ばかりだ。藤原とかは早速鼻の下が伸びているし、他の不良連中もナンパ感覚で話しかけている。ギャルもキャッキャッと執事と話しているが、委員長はいまだに不安な様子で恐る恐る隣の執事に質問している。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
で、何故か俺の隣には甲冑に身を包んで兜を脇に抱えたオッサンが立っている。・・・俺には美人なメイドさんは??なんでオッサン?そういう趣味はないよ?
疑問に思ったが口には出来ない小心者の俺。移動を始めたので、俺も流されるままに付いていく。
部屋を出たら、フカフカの絨毯が敷いてあるモロに宮殿って感じの廊下に出る。廊下にもすんごく高そうな調度品が置かれている。部屋を出た所ですぐに女子は別方向に連れていかれたが俺たちは少し歩いて階段の所までくると、金子、藤原、石井のステータス確認で騒がれた3人は階段を下りずにそのまま廊下の奥に連れていかれた。残った俺たちは階段を下りて下の階についた所で、残りのヤンキー3人は廊下の奥に連れていかれるが俺だけ更に下に降りると降りた正面にはどでかい扉が見えた。多分城の門だと思うがオッサンは何も言わずにそちらに歩いて行くが、不安になった俺は歩みを止めた。
「どうした?」
俺が足を止めた所ですぐに気付いたオッサンが声を掛けてくる。
「あの・・・そのままだと外に出そうな気がするんですけど・・・大丈夫ですか?」
「うん?ああ。大丈夫だ、貴様は国外追放となったから問題ない」
「問題ないじゃねえよ!問題だらけじゃねえか!お前らが呼び出したんじゃねえか!何で召喚されて1時間経たずに国外追放なんだよ!別に俺失礼な事しなかったよな?スキルも『一重詠唱者』だけど出たじゃん!何でそうなったんだよ!」
年上だから敬語を使わないといけないけど、流石に驚きすぎてそんな気を回せないので失礼な言い方になってしまうが、そこは勘弁してもらおう。
「貴様は影魔法の使い手だ。理由はそれで充分だ」
答えは到底納得できる理由ではなかった。
「いや、使い手って使った事ねえよ!分からねえよ影魔法の使い方なんて。オッサン!詳しい説明を求めます。」
話してる途中からそういえば年上だと気付いて敬語で話す。オッサン呼びはまあこの際いいだろう。だって名前知らないし。
「約500年前の大戦で世界を支配しようとしていた皇帝が使っていたのが影魔法だ。現在までに影魔法の使い手は3人確認されているがどれも世界に混乱と災いを巻き起こした大罪人ばかりだ。影魔法の使い手の貴様はこの国に必ず災いをもたらす。だから国外追放の刑になった」
・・・・おう・・・・言ってる事が無茶苦茶だ。何で過去に悪い事した奴のせいで俺まで悪いって言われなくちゃならねえんだ。しかも国外追放・・・召喚されたばっかりで右も左も分からない状態で国外追放された日には絶対死ぬ。それは嫌だ、まだ俺は17歳童貞も捨てていない、死にたくない。
「いや、僕は大丈夫ですよ。悪い事なんてしませんから国外追放はやめときましょう」
「そんな事は知らん。私は陛下の命令に従うのみ」
即答された、あかん。このオッサンじゃ話にならない。もっと偉い人じゃないと。
「じゃあ、その陛下ってのに会わせて下さい。さっき王冠被ってた人ですよね?今ならまだ俺のクラスメイト達と話してるから大丈夫ですよね?」
「陛下は今から勇者様達とご歓談の予定だ!邪魔する訳にはいかん。見苦しいぞ。あんまり我儘を言うようだと・・・城が血で汚れるが仕方ないか」
「・・・『いや、仕方ないか』じゃねえよ。何恐ろしい事真顔で言ってんだよ。分かったよ。ついてくよ。だからその剣に掛けた手を離して貰えますか?」
慌てて言う俺に納得してくれたのか剣から手を離してくれるオッサン。また敬語じゃなくなったけどもういいや。マジで人を殺そうとした奴に敬意なんか払ってられるか。しかし・・・アレがマジもんの殺気か・・・生まれて初めて浴びた・・・ちょっとチビッたじゃねえか・・・いや日本じゃ絶対浴びせられる事はないから仕方ないか。気を取り直してオッサンと共に歩いて城から外に出る。城の外には中庭があり、さらにその向こうを城壁が囲っている。
俺は中庭をオッサンと歩きながら必死に考えていた。
どうする。この状況?逃げるか?いやここはマズい城壁の中だから逃げてもすぐ捕まる。さっきの様子から捕まればこのオッサンは躊躇う事なく俺を斬るだろう。逃げるなら城の外に出てからだな、階段降りる時に外に街が見えたから逃げるとしたらそこか。他に何か・・・そうだ影魔法!・・・は使い方分かんねええええええ。他は?何かあったか?あったよな!そうだ他にもスキルがあった!それを使えば・・・他のスキル何だった?・・やっべえええ覚えてねえええ。何で忘れてんだよ。思い出せ。思い出せ。・・・・・・
あかん。全然思い出せない。
影魔法以外のスキルを思い出せなくて頭の中で焦りまくる俺だが、そんな事は表情にださずに笑顔でオッサンと歩き城壁の門までたどり着く。
(ステータス!・・・ステータスオープン!・・・ウィンドウ!・・・・ウインドウオープン!・・・スキル!)
ステータス画面か何かが出てこないか心の中で思い当たる言葉を叫んでいると『スキル』って叫ぶと目の前に文字が浮かび上がってきた。
スキル;魔法(影)、探索、念話、自室
おお!出た!俺のスキルこれだったな・・取り合えず今はここから逃げる方法だ。
『探索』
心の中でスキル名を唱えてみる。すると視界の左上にマップみたいな物が現れた。
おお、すげええ。出たよ。けどさっきからこのスキルの文字が目の前にあってマップもあると前がすっげえ見にくい。どうやったらこのスキルの文字消えるんだ?・・・『消えろ』おお!念じれば文字が消えた。
このマップの真ん中の黒丸が俺、隣の赤い丸がオッサンか。その辺歩いてる人たちは白丸か・・・範囲は大体100mぐらいかな?
で何でオッサンだけ赤丸なんだ?と思ったけど理由はすぐに分かった。街の見回りしているっぽいオッサンと同じ格好してる奴らはオッサンを見かけると「副団長」とか言って近づいてくるんだよ。でオッサンと2、3言葉を交わすと今まで白丸だったのが、赤丸に変わって少し俺を睨みながら離れていくんだ。オッサンとの会話を聞いたり動きを見ている限りでは不信な所は見られないけど、何かしらの合図をしているとみて間違いない。それで多分俺に敵意を持った奴は赤丸になるんだと思う。で、さっきからどんどんオッサンに話しかけてきて赤丸が増えてくる。これはヤバい。ここで逃げてもすぐ捕まりそうだ。
「オッサン人気者だな」
少しでも情報が欲しいので、気まずくならない感じでオッサンと会話をしてみる。
「これでも第1騎士団の副団長をしてるからな」
おお、副団長って!このオッサンやっぱり偉い奴かよ。
「へえ。で、いつもこんなに見回りの兵士が多いのか?」
「いや、今日は勇者召喚の特別な日だからな王都の兵は全て万が一に備えて警戒に当たっている」
・・・くっそおお、駄目だ街中で逃げても多分捕まる。それにさっきから赤丸がどんどん増えているし。・・・うん?あれは外壁か。こうなったらこの街で逃げ出すのはあきらめてどこか別の街で逃げ出そう。国外追放って事はあと何個か街を通るだろう。
そうしてオッサンと歩いて外壁の検問所まで着く。検問所の外には長い列ができており、街に入るのに色々検査をしているみたいだが、逆に街から出るのは特に検査されないみたいだ。
「「「副団長!」」」
オッサンが目に入るとすぐに検問所の人たちがオッサンに敬礼する。オッサンは片手を挙げて挨拶すると、すぐに全員仕事に戻ったが、一瞬で全員赤丸に変わった。何でだよ!オッサン!マジで何したんだ?
「馬を1頭借りるぞ」
そう言って近くに繋いである馬を1頭引っ張ってくる。
「ああ、オッサンここまででいいぞ。後はこの街道に沿って歩いて行きゃいいんだろ?でこの国からでればOKと。オッサンも副団長で忙しいだろうからここから俺一人で行くわ。ああ、感謝とかしなくていいから、少しの間だったけどオッサンと話せて楽しかったぜ、それじゃあな」
全く楽しくなかったが、社交辞令って奴だ。これで誤魔化されては・・・・・くれないよね。馬に乗ったオッサンが俺の前に回り込んできた。
「言っただろう。国外まで送るのが私の仕事だ。勝手な事をするようなら・・・・人の目があるが仕方ないか・・・」
「『仕方ないか』じゃねえよ。だからその物騒な発想やめろよ。分かったよ。ついてくから落ち着けってオッサン。でも俺、馬なんか乗った事ねえぞ。歩いていこうぜ」
相変わらず物騒な事を言うオッサンを宥める。何でそうやってすぐ俺を斬ろうとするんだよ。マジでやめろよ。
「馬の方が早い。ほら、早く後ろに乗れ」
「ちっ、分かったよ。おいちょっと手伝ってくれよ。乗り方分かんねえよ」
その辺の兵士に声を掛けてオッサンの後ろに乗るのを手伝ってもらう。
俺が乗るとすぐに馬が駆け出す。・・・ってこれめっちゃケツが痛てえええ。国境までどれぐらいかかるか分からないけど、着くころには痔になる、絶対だ。
「オッサン。これケツ痛い。もうちょっとゆっくり頼む」
「我慢しろ。これでもゆっくり進んでいるぞ」
オッサンの返事に絶望する。マジかよしばらくこれが続くのか・・・。
街を出てからも『探索』を発動しっぱなしなんだけど、マップには俺の黒丸とオッサンの赤丸しか映ってない。いや周りに人がいないから特に間違ってはないんだけど・・・だけど『探索』使ってるからか、頭にカンカン警報が鳴ってる・・・不安だ。
「すまんが、少し休憩するぞ、用を足したければ今の内にしとけよ。」
体感で約1時間、馬で走ってきただろうあたりで、オッサンから休憩の合図があった。
「・・・・・」
俺は無言で馬から降りる。何で無言かって?ケツが痛い事もあるけど、さっきから頭の警報があり得ないぐらい大音量で鳴り響いているから、これからオッサンが何をしようとしているか何となく分かっちゃったんだよねえ。
馬から降りたオッサンが木に馬を繋いで剣に手を掛けながら振り向いた先には・・・・俺の姿はなかった。
「あばよ~。おっさ~ん。」
アニメの大泥棒の孫みたいなセリフを吐きながら森の中にダッシュで走りこんでいく。ここから約1ヶ月に渡ってこの国の兵士と捕まったら殺される罰ゲーム付きの鬼ごっこが始まった。