銃はやっぱり強い! ……ただし!?
「ここにいてもしょうがないっス。とりあえず階段を上がってみるかな!」
一階から続く階段は踊り場で左右に分かれている。
二本の階段はどちらも二階へと続いている。
「とりあえず、左っスかねえ」
特に理由もなく進む方向を決める。
左の階段を上がる。
階段の上から一階を見下ろしたトウコは高さに身を竦ませる。
「ひえーっ! なかなかの高さ……。落ちたらケガじゃすまないっスね!」
階段を登りきったところで、正面と左へ通路が伸びている。
正面は少し薄暗い廊下だ。
左側はエントランスホールの吹き抜けの上にあたる。
木製の手すりごしに階下が見下ろせる。
「奥に進む通路か、吹き抜け上の通路っスか。うーん。どっちに進もうかな?」
暗い廊下の陰からうめき声が聞こえてくる。
三体のゾンビがよろよろと向かって来ていた。
「悩む必要なかったっスね……! 腕試しさせてもらうっス!」
トウコは不敵な笑みを浮かべる。
今回は距離を詰めてのヘッドショットは狙わない。
「まだ試せてないスキル――【銃器】の【早撃ち】っス! うらららっ!」
銃を素早く構えて、そのまま射撃する。
親指で撃鉄を起こしてトリガーを引く。それを素早く三連続。
――タンタンタン。
小気味いい音をたてて三発の弾丸がゾンビの胴体に命中する。
【早撃ち】はホルスターから抜き撃つ動作――いわゆるファストドロウだけではない。
銃を連射する速さにも効果がある。
「おー! いい感じ! キルいただきっス!」
一体目のゾンビが崩れ落ちる。
残り二体のゾンビは倒れたゾンビを意に介さずに進んでくる。
まだ距離がある。
「じゃあ今度は、両手撃ちっス!」
右手で銃を持ち体の前に構える。銃の撃鉄を左手の手のひらで起こす。
右手でトリガーを引く。
それを三回繰り返す。
二匹目のゾンビを打ち倒す。
「よーし、倒したッ! これは片手でやるよりちょっとマシかなー? でも映画だともっとイイ感じっスよね……?」
銃弾を込めながら、残りのゾンビから距離を取る。
せっかく銃を使うのだから、遠くから倒してしまいたい。
とはいえ拳銃は精密な射撃には向かない武器だ。
精度が低く、遠くの標的は狙えない。
連射したり動きながらでは命中しない。
ちゃんと命中するのは【照準精度】と【安定化】のおかげである。
ゾンビが近づいてくる中、三発の弾丸を込める。
これで手持ちの弾丸は無くなった。
「慣れてきてリロードもいい感じになって来たっス! うらぁっ!」
弾を込め、すぐ近くまで迫ったゾンビの頭を吹き飛ばす。
糸の切れた人形のように、ゾンビが膝から崩れ落ちる。
「いいぞいいぞー! 銃はやっぱ強いっス!」
にんまりと笑みを浮かべるトウコ。
その背後から、新たなゾンビの唸り声が聞こえる。
廊下の敵に夢中で気が付かなかったが、階下から登ってきていたのだった。
「おっと! 何匹来ようとやっつけてやるっスよ! ……あれれ。弾、足りるかな……?」
三体のゾンビが階段を上ってやってくる。
残弾は二発しかなかった。
没タイトルシリーズ
■【早撃ち】とファニングショットもどき……二階の探索