第10話 ねこ耳商人
「話が違うっす! お金貸してるんだから耳揃えて返してもらわないと困るっす!」
どうやらねこ耳でしっぽを生やした獣人の女性が馬車に乗っている人間に抗議しているようだった。
茶髪を後ろで束ねており、ねこ科特有の目をして興奮しているようで今は瞳孔が縦に走っている。動きやすそうなぴっちりとしたワイシャツにズボンという格好で、その肢体は細いくびれに出る所は出るという抜群のプロポーションだ。少し気は強そうだが整った顔をしており、美人であるがどちらかといえば美人系よりはかわいい系だろうか。
「ちょっと止めてください」
俺は馬車の運転手に頼んで馬車を止めてもらう。
「しつこいなあお前は。そろそろ諦めろ。わしから金を取ろうなって思っても不可能なんじゃよ」
馬車から顔を外に出した中年の男性がいう。よく肥えた顔をしており、その身なりから貴族階級だと思われた。
「金を取るんじゃない、返してもらうんっす! ここで返済してもらえないと私、破産で奴隷にされてしまうっす!」
女性は目に涙を溜めながら訴えている。破産で奴隷とはよほど切実なのだろう。
「そうか、奴隷か。じゃあ、そうなった時には一晩、買ってやってもいいぞ。ちゃんと可愛がってやるから安心しろ。希望のプレイオプションがあれば今のうちに聞いておいてやるぞ。お前らもどうじゃ?」
「いいですねえ! その生意気そうな顔ぐちゃぐちゃに歪ませて、悦ばせてやりたいな」
「俺は逆! 鞭をもって調教して欲しい! 本来調教される立場のねこ耳の女王様に調教していただけるって想像したら…………今からもうたまんねえ!」
「そりゃ、お前だけだよ!」
貴族とその護衛と思われる兵士の一団から嘲笑が起こる。
「お……お……お前ら…………」
ねこ耳の女性は下をうつむき怒りに震える。
「舐めるんじゃないっす!!」
ねこ耳女性は腰に下げていた剣を鞘から抜き去る。
「ああっ? 一商人ごときが貴族のわしに逆らうつもりか? ライラとかいったな、ここはわしの領地ぞ。逆らえばただでは済まんぞ!」
「うるさいっす! 泣き寝入りして死ぬぐらいだったら、戦って死ぬっす!!」
ライラと呼ばれた女性はそのまま躍りかかり、兵士たちと戦闘になる。
俺はライラを鑑定で確認してみる。剣士で商人、レベルは60を超えている。いいな!
ついでに兵士たちも確認すると、全員レベル60を超えている? なんだ? 言っちゃあ悪いがこんな田舎の貴族の護衛にしては随分とレベルが高いぞ?
鈍色の剣閃が煌めき、剣と剣とが弾きあう音、火花が散発的に生じる。
「おい! その女は殺すなよ! いい女じゃ、わしが存分に楽しんだ後に罪人として奴隷にして売り出してやる!」
「は、はい……ですが、こいつ結構強くて……」
烈風剣
ライラがそう咆哮を上げて剣を振り下ろすと、風の刃がいくつか発生する。
「ぐわぁ!!」
その攻撃は警備についている3名の兵士のうち、2名に直撃して戦闘不能にした。
ライラは手に持った剣先を貴族に向け、
「今ならまだ間に合うっす! 私が貸したお金返すっす!」
と、その時、砂煙をたてながら猛烈な勢いで一頭の馬に乗った男が到着した。
「おお、やってるなあ。フレドリック様は…………よかったよかった、まだ無事か」
「遅いぞ、シーザー! 小娘、シーザーが来たからにはお前はもう終わりじゃあ!」
貴族のフレドリックははやくも勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
シーザーと呼ばれた男。
鑑定をするまでもなく強いことが一目見ただけでわかる。なんでこんな奴がこんな田舎に?
「さて、さっさと終わらして昼寝の続きをやるかな…………ってお前、なかなかいい女だな。フレドリック様、こいつの処置は?」
「殺すな!」
「後でお楽しみが待ってるってことね。こりゃあ、楽しくなってきたな」
シーザーはゆらりと腰の剣を抜き去る。何気ない挙動、一挙一投足であるがそこには隙き一つないことが遠目でもわかる。ライラも……シーザーの強さを肌で感じているのか、その表情を厳しくしている。
シーザーは剣を構えもせず、無防備にライラに歩み寄る。まるで近所に散歩にいくかのような気軽さで。
「う、う、うわーーーーーっ!!」
隙き一つないシーザーの姿が強大に見えて忍耐しきれなくなったのであろうか。ライラは叫び声を上げながらシーザーに斬りかかる。
と、その刹那。
ドザッ
ライラは昏倒して地面に倒れる。
「美しくない太刀筋だ。それにいくら相手が自分より格上だとわかってもパニックになっちゃいかんよ。実力云々の前にそうなったらもう勝負は終わりだ」
シーザーは抜いた剣を鞘に収めながら倒れたライラに対して声をかける。
平然としているシーザー以外はみんな驚愕の表情をしている。おそらく俺以外はシーザーがどうやってライラを倒したのかも目で追えなかっただろう。
「取り込み中、すいません」
ぜひともライラを仲間にしたい。俺はあえて火中に栗を拾いにいく。
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