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憧憬

この感情に名前をつけるなら


憧憬


私が2歳になった時、私は「お姉ちゃん」になった。今まで一身に降り注いでいた両親の目は弟に向けられた。誰かと一緒に食べていた食事も「あぁほら零しちゃって」とかかりっきりで。食事が終わったあとに「もうお姉ちゃんなんだからそろそろ綺麗に食べれないとね」と声かけられた。誰かと一緒にみてたテレビも「いま〇〇見たいって言ってるから見せてあげてよ」とチャンネルをかえられて。不満の声をあげれば「我慢できるでしょお姉ちゃんなんだから」と声をかけられた。好きに遊べた公園も、家の中も、どんどん嫌いになっていって。最後には弟のことが嫌いになった。


「姉貴ってさ、俺のこと、嫌いだよね?」

「…だったら何?」


社会人になり家を出ることになった時、久しぶりに弟とした最後の会話。家族とも離れたくてわざと転勤があるような職場に入った。母からは「婚期が遠のく」なんて的はずれな苦言がきたが、些細なことだった。


「…ごめん」

「謝らないで、みじめな気持ちになるから」


最後の会話でも、弟の顔をみることは出来なかった。そして他の家族とも疎遠になっていった。


仕事帰り、ふと見かけた光景に息をつめる。買い物帰りの母親と2人の女の子。お母さんは片手は買い物袋で塞がっているから残りの片手は妹ちゃんと繋いで楽しそうに喋っていて。その数歩後ろをお姉ちゃんが下を向いてとぼとぼと歩いている。


そっとお姉ちゃんの隣に並んでみる。私の足に気づいたお姉ちゃんが顔をあげる。マスクで隠れた顔でどこまで伝わるかは分からないけど出来るだけニンマリと笑いながらぴんと立てた人差し指をそっと女の子の方へとのばす。女の子は少し悩んだあと、自分も人差し指をたてて差し出して。人差し指同士がそっと触れ合った。

「ふふっ」

おかしそうに女の子から笑みが零れる

「……?どうしたの?」

お母さんが振り返るタイミングで足を早めてお母さんと妹ちゃんを追い抜いていく。

「んー?なんでもない」


弟のことは嫌いじゃなかった。

ただ、私は、羨ましかったのだ。

ただ、私は、見て欲しかったのだ。

だって、あの時の私は、すごく寂しくて悲しくって、辛かったんだもの。

だから、すごく弟のことを羨ましいなずるいなって思ってしまったんだ。


言葉になってしまった想いにそっと息を吐く。

切れてしまった縁が繋がることも無いだろうけど。


それでも


あの頃の自分を許せる気がした




✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎




お題

「この感情に名前をつけるなら」で始まって、「あの頃の自分を許せる気がした 」で終わる物語を書いて欲しいです。




作成:酒

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