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第17話 勇者レオンハルトはオーガを斬り飛ばす

「で、あんなかにオーガがいやがるのか?」


「そのはずだ」


 辿り着いたのは、つい先刻まで潜んでいたのと同じ木陰である。視線の先にはゴブリンが巣食っていた洞窟だ。

 オーガと言うのは警戒心の薄い魔物とされる。というより、警戒を必要としないと言った方が正しいか。

 キュクロプスやラミア、あるいはドラゴンと言ったような大型の魔物でもない限り、相手の方が交戦を避けてくれるからだ。種族そのものがオークの古強者ベテランと同等の個体ばかりで構成されているのだから、それも当然だろう。

 あの三体のオーガ達もエサ―――ゴブリンの亡骸―――を手に入れ、寝床も確保したとなると、しばらくは無警戒に腰を落ち着けると見て良いはずだ。


「中はどうなっているのでしょう?」


「深さはあまりない。せいぜい十五ワンド(15m)くらいか。枝分かれもない単純な一本道だ」


 アニエスの問いにヘルガが答える。ゴブリン殲滅後に一度確認している。


「ふーん、ちなみにゴブリンをやった時はどうやったんだ?」


「油を投げ込んで、カトリの魔法で燃やした。生き残って飛び出してきたのは私とアイリで仕留めた」


「へーえ、考えたな。あんたらにしちゃ頭を使ったじゃねえか」


「うっさい、偉そうに」


「いてっ、何しやがる」


 ゴツンと、レオンハルトの頭を小突いた。小突いた、と言うにはかなり強めに。それでも抗議する声もしっかり潜めている辺り、やはり卒がない男ではある。


「それでは、今回もその手で行きますか?」


「いや、油の用意がないし、そもそもオーガはちょっと炎に巻かれたくらいじゃ死なないだろう。なあ、カトリ?」


「ん。たぶん魔法を直撃させても倒し切れない」


「そうかい。んじゃ、正面から乗り込むか? 神聖魔法の補助がありゃあ、それで何とかなるだろう」


「いや、さすがにそれは、―――っ!?」


 思案していると、洞窟の中からオーガが飛び出してきた。三頭。目撃した全ての個体だ。

 警戒心が薄いはずのオーガが、何やらひどく怯えた様子できょろきょろと周囲を見回している。


「いったい何を? ……何かに怯えている?」


「団長、詮索は後回しだ。アニエス、早く神聖魔法を。あの様子じゃ、俺らに気付くのもすぐだ。カトリ、お前も詠唱をはじめとけ」


「はっ、はい。―――――。――――。――――――。」


「ん、―――――。――――。――――――」


 “お前が指示を出すな”と思うも、悔しいが的確だ。アイリは咄嗟に反駁しかけた言葉を飲み込んだ。

 女三人が潜むには十分な木陰だが、レオンハルトとアニエス、新人数人が加わった十人近くが身を隠し続けるにはそもそも無理がある。


「――――――ッ!!」


 オーガの一頭が叫び、アイリ達が伏せる木陰を指差した。


「ちっ、アニエスっ、まだか―――」


「―――――。“肉体強化”」


 白光を身体にまといつかせるや、レオンハルトが駆け出して行った。

 オーガ三頭もこちらへ向けて駆けてくる。アニエスがすぐに次の神聖魔法のための詠唱を始めるが、間に合いそうにない。


「ヘルガ、私達も―――」


 木陰から飛び出そうとした瞬間だった。

 先頭のオーガの筋骨隆々とした巨体が“左右”に倒れた。正中線にそって綺麗に真っ二つだ。

 オーガ二頭は思わず足を緩め、割れた右半身と左半身の間をレオンハルトは走り抜け、一頭と馳せ違う。聖剣をさっと横に払いながら。


「―――ッ!!」


 斬撃とは到底言えない適当な剣捌きが、ぶ厚い赤褐色の肩口を深々と斬り裂いていた。

 斬られたオーガは叫び、石斧をめちゃくちゃに振り回す。無傷のもう一体にも当たり掛けて、その一体が何事か叫び掛けるも興奮は収まらない。


「――――。―――――。“爆炎”」


 そこでカトリの詠唱が完了し、炎が迸る。

 レオンハルトが駆け抜けたことで、オーガ達は木陰へ背を向けている。無傷の方の一体に直撃した。


「――――ッ!?」


 やはり致命傷とはならず、オーガはこちらへ振り向くも、―――次の瞬間その首が飛んだ。

 これでレオンハルトと負傷したオーガの一対一だ。


「よっ、ほっ、とっ」


 安全策と言うことなのか。聖剣はまずオーガが振り回している石斧を斬り飛ばし、次いで凶悪な爪を備えた両掌を飛ばし、最後に頭蓋を断ち割り―――掛けたところで一端剣先が止まり、代わりに首を飛ばした。


「一丁あがりっと。……おーい、いつまで隠れてやがるっ」


「レオンハルト様、お疲れ様です」


「わ、私達が手を出すまでもなかったな」


 アニエスが自ら見い出した勇者の活躍に上機嫌に駆け出し、ヘルガが驚き呆れた顔で言う。


「……お、お前」


「なんだよ、団長?」


「…………ちっ、何でもない」


「ああっ? なんだってんだよ?」


「―――レオンハルト、あなたここまで強かった?」


 アイリが誉め言葉と取られては癪なので飲み込んだ疑問を、ヘルガが代わりに続けてくれた。


「ああ、こいつにようやく慣れてきただけよ。腰を入れて斬る必要なんかねえんだな」


 聖剣を掲げて言う。

 確かにあんな滅茶苦茶な剣の振り方では、普通の剣なら女の柔肌だって断てはしない。


「聖剣なりの戦い方を学んでいただけたと言うことですね。それでこそ聖剣に選ばれし勇者です」


「うっせ。てめえの予言とやらに乗るつもりはねえぞ。―――っと、さっさと回収しちまうか」


 レオンハルトはいそいそとオーガの頭部を回収する。綺麗に飛ばした二つに、真ん中から両断されたものも。


「レオンハルト様、それは何を」


「おう、お前も一つ持て」


「きゃっ。せ、せめて斬れてない方を渡して頂けませんかっ」


 両断された頭部を、切断面でぴたっと引っ付けるようにしてレオンハルトはアニエスに押し付けた。


「オーガの頭骨か。そういえば防具の素材として良い値が付くんだったな。……なるほど、最後の一体を斬る時に一瞬躊躇して見せたのも、完璧な状態のものを手に入れたかったからか」


 ヘルガがうんうんと訳知り顔で頷いた。

 聖剣はいとも簡単に断ち割ったが、オーガの額の骨は鉄よりも硬く粘り強く、ドワーフの作った利剣をも弾くと言われている。


「そういやこういうもんの売り上げはどうすんだったか、団長さん?」


「遺物の発見時と同じだ。拾った者が売り値の一割を取り、残りは全員で山分けだ」


「ちっ、一割かよ。しけてやがんな」


「アイリ、さすがに今回はもう少しレオンハルトの取り分を増やしてやっても良いんじゃないか?」


「ん」


 ヘルガが提案し、今回唯一魔法でレオンハルトを援護したカトリも首肯した。


「……ちっ。半分持っていけ」


「なんだよ、珍しく話が分かるじゃねえか、団長さん」


「うるさい。……そんなことよりオーガのやつら、いったい何に怯えていたんだ?」


 改めて辺りを見回した。周囲に特に変わった様子はないが―――


「お、おい、あれ」


「なんだ、あれは?」


 新人の二人が何やら遠く地平を指差し囁き合っている。

 “探索もせずに無駄口を叩くな”と叱りつけてやろうと思いつつ、アイリは何となく彼らの指差す先に視線を向けた。


「な、なんだ、あの緑色の、……森? いや、草原か?」


「草原が動いてたまるかよ。あれは、―――オークの群れだ」


「何を馬鹿な、こ、と」


 レオンハルトに言われて改めて見やれば、もうそうとしか見えなかった。

 地平線を埋め尽くすほどのオークの群れが、こちらへ向けて進軍していた。

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