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第13話 予言者アニエスは告白する

「そんで? 聞かせてもらおうじゃねえか、アニエス。ありゃあ一体なんだ?」


 黙っていると、レオンハルトの方から切り出してきた。

 山砦から戻ると、冒険者組合ギルドへ向かうアイリ達とは一足先に分かれ、そのまま貧民街のあばら家へと帰った。

 作戦の立案から―――抜け駆けの結果とはいえ―――古強者との戦闘にオークの宝物の獲得、さらに帰路では囚われていた女達を背負いとレオンハルトは大活躍であった。“疲れたから先に帰る”と言う勝手をアイリも許諾せざるを得ないほどに。

 この守銭奴が組合での報酬受け渡しに立ち合わないと言うのは意外だが、つまりはそれだけこの質問を優先したかったということだろう。


「その、回復魔法がぎりぎり間に合いまして」


「さすがに無理があんだろ。お前、頭の上半分引き千切られてたんだぞ。あー、ぞわっとする」


 レオンハルトがわざとらしく身震いする。

 両手で何かを抱え込むような手振りは、古強者から投げ渡されたアニエスの頭部を表しているようだ。


「……見間違いでは?」


「そうかい、それならその後に見たお前のまっぱも見間違いってことか? あの河内平原みたいに平坦な胸も?」


「ちょっと、なになに? ハルトあなた、アニエスちゃんの裸見たわけ?」


 二日酔いで横になっていたエイラが身を起こした。


「おうよ。胸はねえけど、乳首は薄ピンク色でけっこう綺麗な色をしてたなぁ。下の方は―――」


「―――分かりましたっ、話しますからっ」


「ふんっ、最初っから素直にそう言えよ」


 レオンハルトが偉そうに言う。

 出会った時から態度だけならすでに皇帝だ。


「私はですね。その、……不死身なのです」


「ああん、不死身だぁ? そんなわけ、―――いや、あるのか。でないと説明付かねえもんな」


「えっ、どういうこと? 不死身? アニエスちゃんが?」


 レオンハルトは一瞬否定しかけるも、自分の目にしたものを信じた。

 話が掴めないエイラが目を丸くして尋ねてくる。


「はい。……ああ、いえ、正確には死なないわけではなく、傷を負ってもすぐに治るし、死んでも元通りの姿ですぐに生き返る、と言うべきでしょうか」


「生き返るか、どうりで。お前、これまでにもちょいちょい死んでただろ?」


「そうですね。レオンハルト様の前だけでも数回命を落としているでしょうか。……誰かさんが助けてくれないから」


「それもお得意の神聖魔法ってやつか?」


 ジトッとした視線を向けるも、気にした素振りもなくレオンハルトは質問を続ける。


「……いいえ、神聖魔法にこれほどの効果はありません。私が造物主様より予知の権能を与えられていることは、すでにご存知のことと思いますが」


「もっちろん。聖心教の予言者様だものね」


 エイラが答え、レオンハルトは胡散臭そうな顔でさらに問う。


「何だ、その予知ってのは不死身もセットなのか?」


「いえ、本来はそうではないのでしょうけれど、私の場合は自らの死の瞬間を予知したのです。今と変わらぬ姿で、静かに生を終える私の姿を」


「……んん? だから何だってんだよ?」


「神より授けられし予知の結果は絶対です。ですから、その瞬間が訪れるまで私は決して死にませんし、この身が損なわれることもありません。予知に矛盾が生じるような傷を負ったり、命を落とすことがあれば、神の奇跡が私をすぐさま癒し、蘇らせるのです」


「神ねぇ」


 レオンハルトは相変わらず胡散臭げな顔だが、自信家だけに自ら目の当たりにした蘇生という奇跡自体は否定出来ないようだ。


「ねえ、アニエスちゃん。それって怪我だけじゃなく年も取らないってこと?」


「ええ、その通りです」


「あー、そういうことか」


 エイラがうんうんと納得顔で二度三度首肯する。


「何だってんだ?」


「いやぁ、実は昔お屋敷でお世話になってる時に、ご主人に連れられて行った聖心教の集会でアニエスちゃんを見かけた覚えがあったんだよね。あれからもう二、三年は経ってるし、アニエスちゃん育ち盛りなのにちっとも変ってないから、ひょっとしたら人違いかなって思ってたんだけど」


「二年以上前と言うことでしたら、確かにまだ集会にも顔を出していたはずです。年を取らないと言うことがはっきり分かってからは、あまり表に出ないようにしているのですが」


「ってえとなんだ、それじゃあお前は死ぬまでぺったんこなままってことか? はははっ、こりゃあ奇跡っつーか、呪いだなっ。―――いってえっ、何しやがるっ」


 アニエスが口を挟むより早くエイラが拳骨を落としていた。


「女の子にそういうこと言わないのっ。まったくこの子はいくつになってもガキなんだから」


「いや、そこはどうでも良いのですが」


 聖心教徒としては神の奇跡を呪いと笑った不敬に怒って欲しいところだ。


「まあ何にしても、―――使えそうだなっ」


 レオンハルトがにやっと笑った。


「使えそう、とは?」


「だからその体質、色々使えるじゃねえか。敵の中に投げ込んで囮にしたり、一回死んで隙を突いたりとかよ。ああ、そういや隙を突くのは、もう何回かやってるな」


「ちょっとハルトっ、アニエスちゃんにそんな酷いことさせるつもりなのっ。というか、もうさせたのっ?」


「何だよ、生き返るなら良いじゃねえか。だいたいただでさえこいつはオークキングを討つなんつー無理難題を俺におっ被せようとしてんだぜ。そんな便利な力があるなら、それくらいは積極的に協力すべきだろうが」


「あなたねえっ。女の子なのよ、それもこんなにちっちゃくて可愛いっ」


 エイラがアニエスをぎゅっと抱きしめる。


「なーにがちっちゃく可愛いだ。今の話が本当なら、こいつ俺とたいして年変わんねえだろ。つーか下手したらお前より年上じゃねえのか?」


 二人はそのままはアニエスを挟んで言い争いを始めた。


「女の子に年のこと言うんじゃないの。そもそも女の子はいくつになっても女の子なんだからっ」


「寝ぼけたこと言ってんじゃねえぞっ、出戻り女が」


「……その、お二人とも、気持ち悪くはないのですか?」


「あん? 気持ち悪い?」


「あっ、私の二日酔いのこと? 確かに、アニエスちゃんに回復してもらえるとありがたいかなっ」


「いえ、そうではなくて。私、不死身なんですよ。刺されても潰されても元通り生き返りますし、頭だけになってもそこから身体が生えて来るんですよ」


「ん? あーあー、そう言えばこの間のお前の頭のちぎれたところ、きっしょかったなぁ」


「こらっ、ハルトっ。そういうこと言わないのっ。本当に意地悪なことばっかり言うんだからこの子は」


「いってえなっ。何かってえと手をあげるんじゃねえよっ」


「…………そういう見た目の話でもないんですけど」


 今度は二人は揉み合いの喧嘩を始めた。

 何と言うか、必死に誤魔化そうとしていた自分が馬鹿らしくなる。


「―――っと、忘れるところだったぜ」


 エイラがレオンハルトの胸を押した拍子に、鎧から何かが飛び出して床に散らばった。


「あんまり吟味している時間はなかったが。うん、悪くなさそうなもんばっかだな。さすが俺」


 一つ一つ拾い上げながら、レオンハルトは満足気に頷く。

 例の宝物庫にあったオークのお宝である。壺はまとめてアイリ達が組合ギルドに運んだはずだから、これは要するに―――


「かすめ取ったのですか。本当にあなたと言う人は」


「いやぁ、団長が大人しく帰してくれて助かったぜ。そのまま報酬の分配なんてことになったら、あの女のことだから俺の懐を検めるくらいしそうだからな」


「それが目的でしたか」


 パーティと別行動を取った理由は拾得物を着服するためと言うことらしい。

 自分の体質など、この男にとってはそのついでに過ぎないと言うことか。


「本当に、馬鹿らしくて泣けてきますね」


 アニエスは頭を振り、無意識に握りしめていた拳を緩めた。


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