第7話「ラファエル初戦」
お茶会からいくらか経って。
そろそろ次が来るかなと気を張っていた時期に。
わたしとすももちゃんが呼ばれた。
そしてリリスの口から語られたのは。
天使が来たという報告だけ。
どの天使が来たのか、一切の報告はなかった。
ドキドキしながら。
二人で使い魔のぬいぐるみを抱え。
天使の反応エリアに行く。
そこは何の変哲もない大きな公園に見えた。
この前の住宅密集地とは違い。
かなり視界がよいところだった。
そしてぬいぐるみを置いて。
二人でブレスレットを装着する。
それが終わると、ぬいぐるみの二人が結界を張り。
フィールドの色が少し変わって行く。
二人とも制服だったのが。
魔法少女の衣装に変わっていく。
すももちゃんはマーメイドドレスタイプで。
体にしっかりフィットしている。
外側に薄いレースがついており。
まるで歌の舞台で歌い手さんが着ていそうなデザインだった。
わたしで一人でやっていた時は無自覚だったけど。
こうやって見ると、わたしの服装はかなり動きやすさを考えている衣装なのだと自覚する。
二人そろって、逆についている星のマーク。
仲間がいるんだという安心感が。
何か戦闘に対するテンションを上げていた。
「すももちゃん、楓ちゃん、いい? 今回の敵はまだわかってないの、警戒に警戒を重ねて、いきなり突っ込むようなマネはやめてちょうだい」
「わかった、リリス」
「それで、ちゃっちゃと銃弾撃ち込めば終わるんじゃないの?」
「すももそれは違うわ、セレクターはセミオートにして、じっくり引き付けて撃って」
「はーい、そんなに強い敵なわけ?」
「今回は剣もない、予想ではイオフィエルが来るはず、間合いに入られたら助からないわ」
その言葉に緊張が走った。
いくら剣道をやっていたとはいえ、本物の剣を持って闘うというのは緊張する。
とりあえずは今は落ち着いて敵を探す方が先。
そう思いながら、公園の奥を注視していると。
かなり大きな敵を見つけた。
その敵は微動だにせず。
こちらを見据えているのがわかった。
「リリス、天使がいた、こちらをじっと見つめているの」
「わかった、オーラに色は? イエロー?」
「ちがう、深みのかかったグリーン」
「エメラルドグリーン? まさか、ラファエル」
「それって確か強かったんじゃ」
「そう、ラファエルはかなり強いの、慎重に攻撃して」
その指示を受けて。
わたしのすももちゃんはあまり音をたてないように。
近づいた。
なるべく、ラファエルの視界を避け。
物陰から射撃できるように、大きな遊具に隠れながら。
近づいていく。
そして、すももちゃんが撃てる位置に到着。
わたしは少し離れたところから様子をうかがう。
すももちゃんが口火を切る。
2発。
その弾丸は的確にラファエルをとらえている。
前の天使のように苦しむ様子はあまりない。
ただ物理的に貫通はしているが。
ダメージがかなり少なく見える。
ラファエルはわたしたちがいることに気が付き。
ゆっくりとこちらを向く。
二人とも息をのみながら。
ラファエルと向かい合い。
しばし沈黙する。
ラファエルも、少し弾丸が貫通したところをさする動作をした。
すると、そこは癒され。
何もなかったかのように回復している。
「どうなってんのよ、ぜんぜん効いてないじゃない」
「わたしはどうすればいいかわかんないよ、すももちゃん」
「わたしはもっとわからないわよ」
すももちゃんはそう言いながら。
真正面からラファエルに対して発砲する。
ラファエルは一発を素手で受け止め。
その場に弾丸を捨てる。
残り二発は体を貫通するが。
またさすり始め。
すぐに回復してしまう。
ザドキエルは当たればすぐ逃げていた。
それとは対照的に。
当たっても全く動じていない。
かなりの緊張感が走っていた。
実質わたしたちは、有効な武器を持たず。
敵の目の前にいる。
そう実感した瞬間怖くなった。
ラファエルは動かない。
まっすぐにすももちゃんと私を見つめていたのである。
わたしもすももちゃんも、逃げることなく、その銃口はラファエルをとらえていた。
沈黙しかなかった。
わたしの頭の中では、攻撃の効かない相手に。
ここまで近づいてしまった。
そんな後悔以外、何もなかった。
「どうすればいい?」
すももちゃんの声は震えていた。
わたしもガタガタ震えたいほど。
恐怖しかなかった。
今はうかつに撃っても、相手には有効打は与えられない。
このわずかな数分で、それは証明されてしまった。
今は下手に動かず、相手の行動を分析するしかない。
ピリピリと緊張した空気だけがこの場を支配していた。
しばらくその緊張と考えがまとまらない状態になっていた。
その静寂を破ったのはラファエルの方だった。
ゆっくりと、一歩前に出た。
その隙を見て、すももちゃんは一気に後ろに向かって走り出した。
わたしも遅れないように。
それについて逃げ始めた。
敵前逃亡なんてやると思っていなかったけれど。
今はそんなことを言っている場合ではない。
ここで二人ともやられてしまったら。
今度は一人でこの強敵とやりあうことになる。
その悪夢のような答えに二人同時にたどり着いたのだと思う。
わたしたちは走った。
とりあえず結界が張ってあるぎりぎりまで走った。
ラファエルは急に追いかけたりはしない。
私たちをめがけて一歩、また一歩と。
ゆっくりと近づいてくる。
まるでその形相は。
処刑執行人のようだった。
捕まったら、確実に死が待っているのだけは。
二人とも認識していた。
銃弾をまともに食らって微動だにしないのだから。
こちらに勝ち目はない。
「どうなってんのよ、あいつ」
「このまま闘っても、何もできないよ」
二人で逃げ切って。
物陰に何とか隠れる。
息を切らしながら、ラファエルの動向も見守る。
ラファエルはまだ私たちを探している。
ゆらりゆらりと不気味に歩きながら近寄ってくる。
わたしたちを見失っているのか。
周りを見回しながら追いかけてくる。
「いい、二人とも、この状況ではラチが明かないわ、もう少しラファエルから離れて、そうしたら結界を解除できる」
この声に気が付きお互いに目が合う。
頷いたのを合図に二人バラバラに走り始める。
ラファエルはどちらを追えばいいのかわからず。
その場で動きを停止する。
足場はかなり悪かったけど。
そこからかなり距離は離すために二人そろって全力疾走をしていた。
結界が張ってあるこの広いフィールドを無我夢中で走った。
大体走りはじめて、1分が経過したとき。
変わっていたフィールドの色が。
元に戻る。
二人とも息を切らしながら。
何とか逃げ切ったんだという、そういった安心感から。
空を仰いだ。
「今回は死ぬかと思ったね」
「ほんと、効かないなんて聞いてないよね」
すももちゃんと会話を交わす。
でもそれ以上はなかった。
リリスとバフォメットのぬいぐるみを二人で探す。
それを回収してから教会の方に引き換えす。
帰りの電車で、二人そろってぐったりしていた。
そして事の顛末を神父さんに説明し。
話し合いになる。
リリスやバフォメットの意見を取り入れ。
弾丸の変更が話し合われた。
今使っているのはベリアルの弾丸だったのだが。
ベルフェゴールの弾丸に入れ替える。
というのが話し合われていた。
効果はベリアルの弾丸とあまり変わらないが。
より強力な悪魔の力が使える。
という結論だった。
それが利かなかったときは、もう、七大悪魔の中の剣を作り。
直接攻撃しかない。
そんな意見も聞かれた。
神父は動じることなく。
それの製作に着手すると言ってくれたし。
それで勝てなければ。
世界は滅亡する。
そのこともよくわかっているようだった。
すももちゃんはずっと暗い顔をしていた。
かなりショックだったのだろう。
わたしも気丈にふるまっていたが。
泣き出したい気持ちでいっぱいだった。
でも、今泣いても、何の意味もなく。
それをしても何の意味もないと理解できるから。
あえて泣かずに話を聞いていた。
色々お話をしていると。
すももちゃんが話しかけてきた。
「今日は二人で怖い思いしたよね、この前のものと似てるけど、お茶でも飲んでいかない?」
「ありがとう、また、すももちゃんのおいしいお茶飲みたいって思ってたの、今日はお手伝いするね」
そう言って二人で教会の奥の給湯室に支度をしに行く。
リリスとバフォメットは、二人そろって神父と話をしている。
どうせならみんなの分を用意して、少しリラックスしよう。
それがすももちゃんとわたしの答えだった。
何か難しい人たちを残して。
わたしたちは5人分のお茶を準備するのだった。