第6話「お茶会 後編」
お茶会も終盤になり。
もう少しで帰るかも。
そんな空気が流れ始めたとき。
リリスがその場を引き締める。
「やっと落ち着いたわね、ではここできちんと天使についてまとめておきたいの」
「なんだよ、まだまとめてなかったのかよ」
すぐにバフォメットが茶々を入れるが。
リリスは気にせず続ける。
「この前のザドキエルはオーラの色が紫、天使の中では攻撃方法がなく、比較的倒しやすかったの」
その言葉を聞いて。
胸の中が濁っていくのが分かった。
あれだけ苦しい思いをして倒した天使なのにあれでも倒しやすい方だったの?
でも、それを言ってしまうと。
すももちゃんがどう反応するのか心配がよぎってうまく言葉にできなかった。
「そしてこれからすべての天使を紹介していくわ」
全員が続く言葉を気にしていた。
わたしとすももちゃんはノートを取り出してメモを取り始める。
「次に来ると予想されているのが、イオフィエル、オーラの色はイエロー、燃えたぎる剣を持っている」
「剣? それだったら離れて撃てば楽勝じゃない」
「それは難しい、イオフィエルに間合いに入られたら、銃だけではとても応戦できない」
すももの顔色が変わる。
場の空気が冷えていくのがわかる。
「そこで活躍するのが楓ちゃんあなたよ」
「え? 本物の剣は触ったことないんだけど?」
「この国に伝わる剣道というスポーツに精通していると聞いたわ」
「そんな、小学校の時やってたくらいだから、そんなに強くはないよ」
「でも、非常事態なの、ここは天使をやっつけるためにも、剣を握ってちょうだい」
その言葉にうなずくと、リリスの話は続いていく。
「その次の天使はおそらくラファエル、オーラはエメラルドグリーン、天使の中でも特に強く、簡単に倒せないことが予想される」
「ラファエルは武器はないの?」
すももがたずねる、リリスは少し考えてから。
言葉を続ける。
「特に武器の情報はないわ、ラファエル戦では弾丸の変更が予想されるわ」
「弾丸の変更?」
「そう、ここの神父は表向き普通なんだけど、実はね、私たちを簡単に召喚してしまうあたり、かなり高度なスキルを持っているエクソシストなの」
すももはその言葉に首を傾げる。
「すももは知らなかったようね、ここの神父はかなりのスキルを持っているはずよ、あの短期間でベリアルの弾丸をあれほど作ったのだから」
「ベリアルの弾丸ってそんなにすごいの?」
話が分かっていないすももちゃん、正直、わたしもわからない。
「ベリアルって知ってる?」
「いいえ、知らないわ」
「ベリアルは七大悪魔の一人、かなりその力は強く、その力を弾丸に封じ込めるというのはかなりの高等なスキル」
「よくわかんないけど、とりあえずそれがないと、天使はやっつけられないの?」
「通常の弾丸なら傷もつかないの、悪魔の力があるから天使を弱らせることができるのよ」
「悪魔の力を封じ込めた弾丸が強いわけね」
そこまで質問すると、リリスは少し路線を変えて。
悪魔について説明を始めた。
「七大悪魔はすべてで七人いるの、ベリアル、ベルフェゴール、アモデウス、レヴァイヤタン、マモン、ルシファー、イブリース」
「そんなにいるの? じゃあ、同じ弾丸で戦い続けるのは無理ってこと?」
すももちゃんが逃さず質問をする。
「いい質問ね、これらの悪魔がどのような弾丸になるのか、剣になるのか、槍になるのか、今のところは不明なの」
「え? 槍も使うの?」
わたしの声に、リリスは首を縦に振る。
その場の警戒感がぐって上がっていくのが分かった。
「話を戻すわね、ラファエルはかなり強いため、弾丸の変更が出てくると思うの、場合によってはほかの剣で闘うこともあるわ」
「それじゃあ、すももちゃんと、剣で戦うっていうこと?」
「そうじゃなくて、すももは楓の援護射撃がメインになると思うわ」
その一言をきいて、その場全体が納得した形になっていく。
「次の天使はカマエル、長剣と鎧が象徴オーラの色はピンク」
「長剣?」
わたしの表情が凍り付く、剣道は同じ長さの剣が前提、長剣は経験がない。
「この戦いはおそらく槍ができるまでどう持ちこたえるのか、それが課題になるわね」
「そこに行くまで槍を覚えなきゃなのね」
「鎧に銃弾なんて、効くのかな」
二人同時に不安を漏らす。
「楓ちゃんは、槍ができるまでトレーニング、すももちゃんは当てることだけに集中してちょうだい」
リリスのその指示を聞きながら、二人で顔を見合わせる。
多分すももちゃんもそう思ってるはず。
そんなことを急に言われても。
でもどちらもそのことは口にしなかった。
「そして次の天使、ウリエル、オーラの色はルビーレッド、この天使は炎が象徴になるわ」
「もしかしてすべてを燃やしちゃうとか?」
すももちゃんがすかさず質問する。
リリスは少し考えてから。
ゆっくり返答する。
「かなり強烈な炎ではないの、逆に近寄れないから、いかに距離を取るかが課題になるの」
「それは厄介かも、どうしたらいいかまるで解るらないわ」
「あまり焦らなくてもいいの、ただひたすらに、当てることだけ集中してちょうだい」
まだ、何もわからなかった、でも、ここは、話を聞いていく。
「あまり詳しく説明できなくてごめんなさいね、天使はこれだけやっていれば勝てるなんて、そんな単純なものでもないの」
「分かった、それであと、天使は何人?」
「あと二人、そのうち一人がガブリエル、オーラの色はオレンジ、象徴は水と杖と槍」
「また槍なの?」
思わずわたしは声を上げる。
リリスは少し困った顔をしたが。
少し落ち着いてから、言葉を続ける。
「今度は槍どうしの闘いになるの、ここまではキチンとマスターしないと」
「槍はもう使わないと思ってた」
「残念ながら、ここで一番強いのにあたるの、でもそれは、焦るべきことじゃないから、じっくりやっていきましょう」
「うん、そうね、今日からしっかり勉強しなきゃ」
そんな風に天使の話を聞く間に私たちの間に、結束のようなものが出来上がっていっている。
そう感じていた。
「そうして最後の天使はミカエル、オーラの色はゴールド、象徴は炎」
「この天使が一番強いのね、この天使は何か気を付けるべきところは?」
「ミカエルは天の軍団の指揮官、たくさんの死者の兵を連れてやってくるの」
「いっぱいくるのね」
「でもその兵は、天使に比べれば、簡単に無力化できるの、その数が多いだけ」
「そこらへんはすももちゃんに任せるとして、ミカエルとの闘いはかなり厳しいものになりそうだよね」
そこまで話すと、リリスは少し深呼吸して言葉を続ける。
「今からあまり思い詰めても仕方ないの、あとは気を付けて、こなしていくしかないわね」
そこまででリリスの説明が終わる。
「ふいー、やっと終わった、こんなの何回も聞いてるから、ひまだったよ」
やっと、集中の時間が終わり、バフォメットがだだっ子のように手足をぶんぶんしている。
「はいはい、お茶が飲みたいの?」
すももちゃんが、バフォメットをうまくたしなめている。
「いい、楓ちゃん、そんなに気負わなくても大丈夫だから、天使は基本的に、決まった動きしかできないから」
リリスはわたしに何かを訴えかけている。
その話を聞きながら、ぬるいお茶をすする。
周りは少しピリピリした空気から解放されて。
和やかな空気に変わりつつある。
バフォメットは新しいお茶が届いてご機嫌である。
「楓ちゃんたちもあたらしいお茶いる?」
「ありがとう、でもそろそろ行かないと」
なんて会話をしつつ、すももちゃんの気遣いにちゃんとお礼を言っていく。
すももちゃんはその言葉を受けてお茶の道具などを少しずつ片付けていっている。
その片付けの様子を見ながら、筆記用具などをカバンにしまおうとすると。
すももちゃんのノートが目に入る。
そこにはこう書かれていた。
『いろいろ大変そうだけど、負けないでがんばる』
その一言を見たときなんか気持ちが少し柔らかくなった。
すももちゃんが来るまで。
このまま一人で天使に立ち向かっていくのかな。
そんな怖さも実はあったりしたんだけど。
その気持ちが一気に消えていった。
いっぱい追いかけて、やっと銃弾を当てて。
何とか闘ってきたんだけどその気持ちがとても楽になった。
これからは二人で、天使をやっつけていく。
そんな決意が一気に固まった。
とても、今までは心細かったけど。
なんか、不意に勇気をもらって少し泣きそうだった。
これからやることはたくさん。
剣道のことも思い出さなきゃいけないし。
槍も覚えなきゃいけない。
その辺は動画を見れば少しは心の整理がつくと思う。
剣道をやってた時とそれは一緒で。
相手に一本を取らせない。
それさえ気をつけて。
スキができたら適切に一本を取っていく。」
それを心がければ難しくなんだなって。
自分に言い聞かせる。
帰ろうと腰を上げると、すももちゃんが話しかけてきた。
「楓ちゃんお疲れ様、カヌレとかもっていかない? 一人で食べるには多くて」
「ありがとう、もらってくね」
「お茶の葉っぱも少し入れとくから、試しに飲んでみて、ハイビスカスとセイロンと、ダージリン、人気のところを入れておくから」
「淹れ方は教えてくれる?」
「いいよ、わかんないところは連絡ちょうだい」
「ありがとう、学校の友達で好きな人少ないからうれしいの」
「わたしもお茶って詳しくないんだけど勉強してみるよ」
「うん、楽しんでもらえたら、うれしいな」
「わかった、それじゃあいろいろありがとね、また来るね、すももちゃん」
わたしはそう言い残すと、ぬいぐるみになったリリスを抱えて。
家へと向かっていった。
これから来るどんな困難も。
背負っていける。
そんな気分だった。
家族や学校の友達。
その人たちの人生は私の手の中にあるんだと。
そんな気の引き締まる気持ち。
それを抱えながら。
リリスを抱えて、歩いていく。
今まで孤独な闘いだったけど。
ほんの少しだけ希望が出てきた。
そんなことを考えながら帰路につく。
いろいろな事を考えながら。
駅を目指して歩いていく。