表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/13

【プロローグ】

それはある日突然の事だった。

学校の帰り道。

学校を出てすぐの事。

何かがわたしに語りかけてきた。


「ねぇあなたが楓ちゃん?」


落ち着いたその声は。

確かにわたしの名前を呼んでいた。

でも、それらしい人影はない。


「リリス、あたしはリリス、お友達になりたいなぁ」


あしもとから声がする。

よーく探したけど、人はやっぱり居ない。


「ねぇ、気がつかない? 電柱のカゲにいるのに?」


その言葉を信じて、声の方を見てみると。

そこには小さなぬいぐるみがぽつんとあった。


「え? なに? なんなの?」


状況が飲み込めず。

言葉に困る。


「ふふ、こんにちは、あたしがリリス、楓ちゃんとお友達になりたいの」


今わたしが間違っていなければ。

目の前のぬいぐるみがしゃべっている。


「………え………っと…………」


言葉にならない短い言葉。

なにかあまりにも衝撃的な事が起きていて。

言葉が思い浮かばない、どんどんドキドキしてきて、汗が出てくる、そして、わたしはそのまま倒れてしまう。


………………


…………


……


次に目を覚ましたのは。

学校の保健室だった。


「あれ、さっき学校を出て、どうしたんだっけ?」


寝起きで記憶が整理できない。

疑問をそのまま声にする。


「目が覚めた? 楓ちゃん保健委員に運ばれてきたのよ、今日は体調悪かったの?」


保健の先生の声がした。

まさか倒れるだなんて思ってなかったし。

ここは、先生にお礼を言って保健室を出て学校を出なきゃ。


「もう、大丈夫です」


それを伝え、ベッドから半身を起こす。

するとそこに倒れた原因がそこにいた。


「もお、そんなにおどろかなくても良かったんじゃない」


さっきのぬいぐるみが保健室のベッドのに中にいた。

またしゃべっている。


「――――っ!?」


声にならない声。

でもさっきのような気分の悪さはない。


「声出さないで、大丈夫あたしの声は先生には聞こえてない」


リリスとさっき名乗っていたぬいぐるみは言葉を続けている。

今はその言葉に従う。


「心配しないで、あたしはそんな怪しい者じゃない、楓ちゃんとお友達になりたいだけ」


おかしい、ウサギのぬいぐるみが話している。

でもさっきよりは状況がつかめていて。

ウサギのぬいぐるみというのを見れるくらいには冷静になってきた。


「おうちに連れてってくれない? 楓ちゃんに話したい事があるの」


断ってもついてきそうな雰囲気。

これはこのぬいぐるみとおいかけっこをしてもいい事はなさそうだという結論に達する。


ちょっとかわいそうだけど。

学校に背負ってきたカバンにぬいぐるみを詰めた。


「ちょっとせまいけど、楓ちゃんのお家に行けてうれしいな」


カバンから声がする。


「どうしたの? 立てない?」


この間1分ちょっと。

返事を返さないわたしを心配して先生が様子を見に来る。


「すみません、ぼんやりしてて、立てますよー」


バレていないかの緊張感から言い方が棒読みになる。

そのまま立ち上がってみせる。


「よかった気をつけて帰りなさいね」


保健の先生に見送られ。

学校を後にしたのだった。


………………


…………


……


なんとか誰にも見つからず。

自分の部屋まで帰ってくる。


ゆっくりとカバンをおろして。

中からぬいぐるみを出す。


ぬいぐるみは少し伸びをすると。


「それじゃあ、すこしあっちむいててね」


そう言い後ろを指している。

恥ずかしいのかなと思ってぬいぐるみに背中を向けると。

部屋がまぶしい光に包まれた。


何事かと振り返ると。


そこにはさっきまでのぬいぐるみではなく。

ブロンドの長い髪の毛を持ち。

出るところは出て。

引き締まっているところはしっかり引き締まっている。

まさに、ナイスプロポーションの女性が立っていた。


衣服はつけているがスケスケのためほとんど意味をなしていない。

大事なところは巻き付いている蛇がなんとか隠れている状態だ。

なんで蛇?

それ以外にも突っ込みどころがたくさんあるが。


「とりあえず何か羽織ろう?」


それが一言目だった。

結局、大きな女性に合うサイズがなかったから。

バスタオルだけ羽織らせてお話に移る。


「それで、お友達って?」


緊張しながら声をかける。

視線を合わせて、とりあえず答えを待つ。


「そんなカタくならなくても。あたしのことはリリスでいいから」


ゆっくりとした落ち着いた口調。

リリスもまっすぐとわたしの目を見つめていた。


「ねぇ、最後の審判って聞いたことあるかしら?」


その言葉を受けて、教科書の中身。

オカルト番組、好きなドラマの台詞まで思い出してみたけど。

全然思い出せなかった。


「すみません、知りません」


素直に謝ると。

リリスはなぜかとても満足そうな顔をした。


「じゃあ、順を追って説明するわね」


リリスはゆっくりと説明を始めた。

この世には天使と悪魔がいる。

天使は一般的に良い行いをすると言われていて。

自分たち悪魔は厄介者とされている。


しかしそれには大きな誤解があり。

神様は人間を最後の審判で滅ぼそうとしている。

その最後の審判は10年に一度起こっていて。

今年はその時期に当たる。


悪魔は毎回毎回地上に出てきて。

その天使を封印しては、人間が滅ぼされるのを止めてきた。


それは人間の善悪で言えば悪魔に協力するというのは抵抗があると思うけど。

このまま天使を見逃せば人間は滅びてしまう。

人間が滅びれば悪魔も天使も関係なくなる。


神は全てをなかった事にしようとしている。


そこまで聞いたときに胸の中の疑問をそのまま口にする。


「わたしの体を悪魔に捧げるの? リリスが戦うの?」


そう問いかけるとリリスは首を横に振った。

そしてリリスは魔法の力で何かを産みだした。


そこにはブレスレットが有った。

ピンク、黄緑、黄色の宝石と、中央には星のマークがついたモチーフ。


それが何なのかもわからずに。

呆然と眺めている


「このブレスレットはあたしの力の一部、あたしが張った結界の中に入れる」


「わたしが戦うの?」


リリスは目をまっすぐ見つめて、頷いた。


「え? いきなり言われても、まだ心の準備が」


「心の準備ならいらないわ、楓ちゃんはすごい才能があるの、天使と戦ってみれば、すぐにわかる」


リリスはそばに近づいて手を握って熱弁する。


「その、多分、魔法とか覚えられないし、体を動かすのは得意でも、覚えるのは」


声が大きくなる。

心臓がバクバク言っている。

このまま悪魔の一味になってしまうのかと思うと。

すごく胸が苦しかった。


リリスはブツブツと何かを唱えている。

すると光の中から、少し古めの拳銃が出てきた。

弾丸の入れ物と拳銃。


状況がつかめずに胸の中がいっぱいになる。


「これで戦うの、楓ちゃんは天使を撃つだけで良いのよ」


一番恐れていた言葉。

頭が真っ白になった。

そんな、ひどい。

感情が砕け、涙が頬を伝っていた。


「うう……ひどいよ……いきなりあたしのところに来て……人を殺せだなんて」


「大丈夫。天使は何度撃たれても死なない」


「死ななくても撃たれたら、痛いよ!!」


声が大きくなる。

リリスは諭すように続けた。


「天使を倒さなければ、人間が滅びる」


「わたしがその責任を負うなんて、できないよ」


「責任は負わなくて良い、この戦いはね、負けた方が滅びる、それだけの単純な事なの」


それを聞いて、ますますどうしたらいいか、分からなくなってグスグス泣いてしまう。

しばらく泣いていると。

リリスは肩をつかんできた。


「苦しいのはわかるの、選びなさい、誰かを守るために立ち上がるのか、何もせずに死ぬのか」


死という言葉に目が覚める。

そしてじわじわと自分が言っていた事の矛盾に気がつく。


わたしは、今、わたしの事しか考えていなかった。

家族の顔。

学校のみんな。

そのほか色々な街であった人たち。


もしその人たちの未来が明日で終わったら?

不条理に殺されてしまったら?

そう考えると、協力した方が、この先明るいのではないかという気持ちになってきてしまう。


「わかった、その天使をやっつければ、みんな死なないんだよね?」


「そう、やっと気がついたみたいね」


リリスはにこりと笑うとわたしの頭をなでてきた。

そして、その優しい笑顔のまま。

言葉を続けた。


「いい、楓ちゃん、あなたには才能があるの、だから選ばれた、弱い人に任せていては本当に滅びてしまう、お願いよ」


その言葉を受けて思い悩んだ。

本当にわたしにやり遂げられるのか。

かなり悩んだけど、ここで逃げたらみんなが死んでしまう。


それ以外は考えられなかった。


「わかった、協力するよ」


「ふふ、よかった、楓ちゃんなら聞いてくれるって信じてたの」


リリスは少し後ろに下がると、うれしそうに笑った。

その笑顔に悪魔のような不気味さは一切ない。

わたしたちが思い描いていた悪魔像とはかなり違う事。

そして悪魔はこんな身近にいるのだという事を、肌で感じた。



「どうして悪魔が人間を救うの? 悪魔って人間を滅ぼす者じゃないの?」


なんとなく心の中に抱えている疑問を口に出してみる。


「それは違うの、人間もいなければ悪魔も出てこない、悪魔もいなければ、天使も意味がない」


リリスは優しい声でそういった。


「それって、人間が滅びたら、みんなやる事がなくなるって事?」


そう聞くとリリスは何かを考えるように天井を見つめる。


「そうね、そうなったら、天使も悪魔も天の国でずっと住む事になる、悪魔の中には神様が嫌いな奴もいる」


その説明を聞きながら半分わかったような。

いや、全然わからないような感覚に襲われた。


「それって、神様のところに帰りたくないって事なのかな?」


疑問をそのまま口にする。

するとリリスは少し困った顔をした。

そしてしばらく考えてから。

ゆっくりと言葉を続ける。


「そうね、悪魔の中にはすごい凶暴なのもいるの、殺し合いになる」


「それじゃあ、めちゃくちゃだね」


「そう、だから、楓ちゃんが必要なの」


リリスはそこまで言うと、ブレスレットと銃を目の前においた。


「楓ちゃんにはこれで世界を救ってほしいの」


「でも、自信ないです、リリスも闘ってくれるんでしょう?」


不安をそのまま口にすると。

リリスはそれを否定した。

そして諭すような口調で語り始める。


「あたしは天使との戦いの場を作るために結界を張らなきゃいけない」


「結界?」


「そう、強力な結界をね、楓ちゃんが撃ったときにハズしても、誰にも当たらないようにしなきゃ」


「結界を張ってるとどこかに行っちゃう?」


「結界を張っている間はぬいぐるみに戻るから、魔力が使えない、だから楓ちゃんに頼んでいるの」


そうやって言葉を交わしているうちに。

状況がつかめてきた。

リリスは結界を張ってしまうとぬいぐるみに戻ってしまう。


だからこそわたしがこの武器を使って天使をやっつけなきゃってところまでは理解した。

でも、だからといって『はい、そうですか』と素直に言えるほど。

心の余裕はなかった。


「本当にわたしじゃないとダメなんですか?」


「楓ちゃんには素晴らしい才能がある」


「それって魔力の才能って事? 射撃の才能って事?」


「…………」


リリスは黙り込んでしまった。

気まずそうに部屋を見回している。


「そんなに難しいのなら、お断りします、わたしには荷が重すぎます」


「あたしたちには楓ちゃんが必要なの」


「もぉ、どおしてわからないの?」


引き下がらないリリスに大きな声を出す。

リリスも一歩も引かない


「だからー、何回も言ってるじゃん、わたしには何もできないって」


「それは何もできないんじゃなくて、楓ちゃんがまだ何もしてないだけよ」


リリスは諦めようとしない。

むしろさっきよりもそのまなざしはまっすぐな物になっている。


「もー、ほんと、分からず屋なんだから、もしわたしが失敗したらどうするのよ?」


そこまで声に出して怒ったときだった。

リリスが口の前に指を持ってきた。


『静かにしろ』そんなサイン。

何が起こったのかわからず黙ってしまう。


「いまあなたのお兄さんが部屋をのぞいてる、我慢して」


「…………」


しばらくして部屋から遠ざかっていく兄の足音。

部屋の中にヘンなのを連れ込んでいるのはバレていないようだった。


「怒りたい気持ちもわかるの、いきなりぬいぐるみがついてきて、世界のために闘えだなんて、むちゃくちゃですものね」


リリスは謝るようなそぶりを見せた。

そして申し訳なさそうな顔をしながら。

言葉を続けていく。


「でも、あたしたちに残された時間は少ない、楓ちゃんに断られたら次がないのよ」


「それは申し訳ないけど、わたしは死にたくないです」


「大丈夫、死ぬ事はない、あたしが守るから」


その言葉に少し胸が苦しくなった。

今日出会ったばかりの悪魔を信用してよいものか。

心は揺れ動いていた。


「それは約束するわ、楓ちゃんが死んでしまえばそれは天使の勝利を認めてしまう事だから」


「そう、死なないのは良いとしても学校は?」


「それは行けるわ、天使の活動時間は夜になる前なの」


「本当に銃なんて撃った事ないけど大丈夫?」


「誰でも最初は撃てないけど、なれてくれば誰にでも扱える」


「じゃあ、家族が死んじゃうのはいやだし、がんばります」


「そう、ありがとう」


リリスと交渉が決まって。


そしてそのあとしばらく会話が続いた。


学校の事。

家族の事。

闘うときのコツかなんか。


そういった会話の中で。


話題はお兄ちゃんの話になった。


「あのお兄ちゃんかわいかったわね、彼女とかいるのかしら?」


「いないと思いますけど」


リリスの目の色が変わっていく。


「お兄ちゃん寝るの何時頃かな?」


「わたしよりも遅いですけど」


「そっか、ふふ、うふふふふ」


何か怪しい。

リリスにはだまってスマホでリリスという悪魔について調べてみる。

そこに書かれていた事。


リリスという悪魔は男性の精気を盗み。

子を産む。

また、新生児を殺したりもする。


それを読んでいて気がついた。

こいつ、盗む気だ、お兄ちゃんのソレを。

妹としてはいらないところで巻き込むのは、かなりまずい気がする。


「お兄ちゃんかわいかったわね」


リリスは多分今そのことしか考えていない。


ぼんやりしているリリスの両手と。

重い学習机の足をタオルで縛る。


「なんで? いきなり捕まえてどうするの? お兄ちゃんのところに行けないじゃない」


「もぉ、知らない」


そうやって突き放すと。

リリスは悲しそうな顔をした。


「おにいちゃんは痛くないのよ、すぐだから」


「知らないったら知らない」


「そんな、すぐおわるし、ね? ね?」


「いーだ、嫌い、お兄ちゃんに変なことしないで」


そう言い残して布団をかぶる。

まだ整理のつかない感情が、渦巻いている。

まだドキドキしているが。


今日は色々あって疲れているので。

自然に眠気がやってきた。

リリスはまだ何か言っているが。

それを無視して眠りについた。


次の日朝起きると。

リリスはベッドの脇に寝ていた。

そんなにきつくは結んでないし。

ほどいたのかなとおもって挨拶しようとすると。


「お兄ちゃん可愛かった、大丈夫、記憶は消してある」


リリスの方から口を開いた。


「まさかお兄ちゃん、襲ったの?」


「十月十日後が楽しみ」


リリスはそう言いながら愛おしそうに、お腹をさすっていた。

お兄ちゃんごめん。

まさかこんな悪魔にはじめてを捧げたなんて思いたくないよね。


でもそのことを今は口に出さず。

墓まで持って行こうと決意した。


「リリスひどいね」


「ふふふ悪魔ですから」


そんなやりとりをしつつ。

学校に向かう支度を黙々と始めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ