6話 転移完了したらしい
光の粒子が乱反射するのが、固く瞑った瞼を透かして感じられる。
目を瞑る私の耳に、アナウンスの様な機械的な声が飛び込んできた。
『契約者の到着を確認しました。基本ギフト付与は終了しています。ようこそ、ファウンゼンサーへ。新しい契約者の来訪を歓迎します。」
そこまで話して、アナウンスは途切れた。
契約者?
基本ギフト??
頭の中に?を山盛り抱えながらも、私の心にはただ一つ。
なんだか分からないけど、帰りたいよ~~~!
契約者とか知らないし!
貰った報酬とか返すから!
手がカタカタと震え、そうすると、私の手をギュッと握り返してくる感触があった。
そうだ、こいつがいたんだと思い出し、文句を言ってやろうと息を吸い込んだとたん。
瞼を刺激していた強い明かりが、急に消えた様な感覚があった。
そっと目を開ける。
薄明りの中、私とイケメンはまだ手を繋いだままで、見知らぬ部屋の中央に立っていた。
「ここは?」
きょろきょろと周りを見回す。
家具が何も無い部屋の中央に、先程見たのと同じような魔法陣だけがポツンとある。
その真ん中に私たちは立っていた。
「おかえりなさいませ、エスターク様。無事に契約者を連れ帰られたようで、宜しゅうございました。女王様もさぞやお喜びでしょう。」
(誰?)
声の方に目を向けると、いつの間にか出入り口らしきところに若い男が立っていた。とても嬉しそうに、うんうん頷いている。
いや、若いのはいいんだけどね。
その恰好が・・・。薄茶色の全身を覆うフード付きのローブ?
うーーーん・・・例えて言うならあれだ。
ゲームに出てくる魔法使いの恰好!(お金無さそうバージョン。杖とか持たせたら似合いそう。)
「ただいま、ドウム。良い人材が手に入ったと思うんだが、女王様の御前に連れていく前に、いろいろ説明と最終確認がしたい。どこか部屋は開いているか?」
「それでしたら、三番会議室が、今、誰も使っていないと思います。」
「では、そこで話そう。すまないがお茶を持ってきてくれ。それとな・・・」
イケメ・・・エスタークさんは、ドウムさんに何か渡しながら、頼み事をしているようだった。
(いつまでもイケメンイケメン言ってやる必要はないよね。今から文句言うんだし)
よし。言ってやる。
会議室とやらで、文句たっぷり言ってやる。
そして、報酬全部返して、私を家に帰してもらうんだ。
会議室で、私は超美味しいチーズケーキを食べていた。
紅茶もすごく美味しく入れてあって、チーズケーキにばっちり合う。
なんかデジャヴュだなぁ。
・・・・・・・帰れません。(しくしくしくしく)
チーズケーキはすごく美味しいけど、なんだかちょっとしょっぱい味がする。(しくしくしくしく)
「そのチーズケーキ、この間の喫茶店で買ってきたんだぞ、美味いだろ?」
さっき、ドウムさんに渡してたあれですね?
エスタークさんは、嬉しそうに素の話し方で話す。
さっきまでの営業トークはどこにいったのか聞くと、今までは勧誘のためのお客様の様な感じだったけど、これからは一緒に働く仲間の感覚なので、タメ口になったとの事。
更に言えば、これからはどちらかと言うと、エスタークさんの方が上司(管理者?)になるらしい。
「で、話しをまとめるとだな」
エスタークさんは、自信満々の営業マン+タメ口と言うスタイルで、どんどん喋る。
「契約の解除は認められない。魔族の契約は覆せない。契約期間は、そちらの世界で一年間だが、そちらとこちらと時間の流れがちがうから、こちらの世界では約百年になる。」
さっき、それ聞いて呆然としたよ。
百年?
なんの冗談ですか?
百年もこっちの世界にいたら、私、年とって死んじゃうよね?!
「こちらで百年過ごしても、体的には一年程の時間経過しかないから大丈夫だ。」
なるほど・・・。
いやいや、納得はしてないし。
「で、今から女王に会って、追加ギフトをもらう。基本ギフトは確認したか?」
「したよ」
基本ギフトは、こちらの世界の『言語の獲得』、無限容量の『アイテムボックス』、人や物を見極める『鑑定』、あと、様々な『ステイタス』が普通の人の十倍〜百倍、場合によってはそれ以上、盛られているそうだ。
簡単な魔法も使えるらしいが、それは普通の魔族が持っている程度の魔法。
火の魔法とか、水の魔法とか、回復の魔法とか、生活で使うレベルの魔法だそう。
戦闘に十分な威力を期待できる程の魔法は、女王による追加ギフトの中に入っているかどうか・・・と言うことらしい。
「あの〜〜」
「なんだ?」
「私、娘が向こうの世界にいるんだけど?まだ学生の身で、一緒にいる大人は私だけだから、私がこちらの世界に来ちゃうとすごく困るんだけど。」
さあ、どうするんですか?と、少し責める気分でエスタークさんを見る。
エスタークさんは、ふむ・・・と少し考えてから
「仕方ない。おまけの特別措置として、報酬の4つ目を用意しよう。喜んでいいぞ。」
う?
それは、喜ぶところかな?
「娘があの家に帰ってくるまで、こちらの時間ではあと一ヶ月程ある。それまでに手はずを整えておくから、心配しなくていいぞ」
「あ、りがとう・・・ございます?」
なんか腑に落ちないが、お礼を言うべきだろうか?
エスタークさんは、さて、と立ち上がると、ああ、と何か思い出したようで、また座り直した。
「そういえば、まだステータスチェックの仕方を教えてなかったな。『ステータス、オープン』って言えば、ステータスが見れるから。やってみろ。」
やらなきゃいけない流れだよね?
「ステータス、オープン。」
つぶやくと、目の前いっぱいに、青色のタッチパネルのようなものが出てきた。
HPとかMPとかの文字と、数字が並んでる。
ウエルカムじゃないけど、せっかく貰った自分のステータスだからと丁寧に見ていくが・・・
なんかこれ・・・おかしくない?
じっとステイタスウィンドウを見つめ続ける私を不審に思ったらしく、エスタークさんが、近づいてきた。
「どうした?見方が分からないのか?」
「いや、これ・・・」
ひょいと覗いてくるエスタークさんが見易いように体をずらす。
エスタークさんは、チラッとステータスを覗くと、
「あっっ!!・・・・・・・・なんだこりゃぁぁぁぁぁ!」
心底驚いたような声で叫んで、1分以上その場に固まるエスタークさん。
良くない事が起こってる感じだけど。
その声を聞いて私は、ちょっと胸がスッとした。