3話 勧誘じゃないって言ったよね?
パンケーキは食べ終わった。
とっても美味しかった。
コーヒーのおかわりまで飲み干して、まだ私は喫茶店にいた。
時折、店員のお姉さんが側を通るけど、ちらっとこちらを見る目が、まだ帰らないんですか?って言ってる気がする。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
帰れません。(しくしくしくしく)
厨二病を患ったイケメンが怖くて、帰りたいのに帰れません。(しくしくしくしく)
仕方ない。
「分りました。よく分からないところもまだありますが、報酬の願い事を考えてみます。」
「そうですか!本当に助かります!ありがとうございます!!」
満面の笑みでお礼を言われて、はは、と乾いた笑いを返す。
でもね、分かったのよ、私。
この人は、厨二病の残念イケメン。
異世界がどうとかずっと言ってるけど、どうやら異世界のために手伝う事を約束すれば、報酬(願い事)は先渡しでくれるらしい。
そう。本来実現不可能な願い事をしてもね。
「報酬の願いは3つ、先渡しでもらえるんでしたよね?」
「はい!」
では、
「一つ目、私は祖母と住んでるんだけど、祖母に高級有料老人ホームひとつ、無料で入れて下さい。月々の食費とか維持費とかも無料。設備とか介護の職員とか最高のところですよ?できる?」
エスタークさんは、ちょっと考えるように空を睨むと
「うーーーん・・・・・・大丈夫です。」
うんうんとエスタークさんは頷く。
「じゃあ、二つ目。人の手を離れたお金が集められるって言ってましたよね?これから先、働かなくても不自由なく生活できるだけのお金が欲しいです。そんなに贅沢三昧とかじゃなくていいけど、たまに旅行に行くくらいの余裕があれば文句はないかな。」
この願い事は叶わないって分かってるけど。
そんな生活やってみたいわねぇ、うんうん。
「ああ、その願い事なら叶いますよ。先ほど話した通り、少し時間がかかることもありますが、大丈夫です。」
今度は即答で返してきた。
あなたの頭の中ではそうだろうけど・・・。
ほんっと、残念だわ。イケメンだけに。
「では、三つ目。」
エスタークさんは、さあ来い、とでも言いたげな顔で聞いている。
「三つ目はね・・・大きな声で言えないんだけど・・・」
少し前のめり気味にエスタークさんの方に顔を寄せると、心持ち小さな声で話す。
「最近ね、なんかこう・・・お肌の調子とか、前ほどじゃないって言うか、まだまだ若いつもりなんだけど、こう・・・シミとかたるみとか・・・」
「ああ、年を重ねるとそうなってきますよね、こちらの世界の人って。」
「まだまだ若いわよ!」
思わず大声を上げて、はっと気づき周りを見回す。
(喫茶店にいるんだった・・・良かった、近くに人はいなかったわ)
エスタークさんは、自分の言った事の失礼さに気づいて無いようで、キョトンとしてるし。
ちくしょう。若者爆ぜろ!
「とにかくね、お肌とかいろいろアレだし、健康もちょっと不安になってきたし・・・だから、健康な体とぷりっぷりの若いお肌、が欲しいわね。」
エスタークさんは、ふむふむと頷きながら
「分りました。それも探せば見つかると思います。と・・・ここまで三つの報酬について話して下さいましたけれど、それは、依頼を受けて下さるということで良かったでしょうか?」
「ええ。せっかくだからその依頼、受ける事にするわ。もちろん、報酬を受け取れた事を確認してからね。」
そんな報酬が受け取れたらね、という言葉を心の中でつぶやく。
厨二病の妄想にここまで付き合ったのも、話を終わらせるためだったけど、やっと終わりが見えてきた。
「じゃあ、そろそろ帰ってもいいかしら?次の話し合いは、報酬を受け取った後で、という事でいい?」
「はい、本当にありがとうございました。報酬は早速取り掛かりますので、なるべく早くお渡しできるように頑張ります。」
心の中で、帰れる嬉しさに万歳を何度もする。
でも、慌てた様子は見せないように、コーヒーとパンケーキごちそう様、と言って席を立った。
慌てると追いかけられそうな気がして、怖いし・・・。
「あ・・・。そういえば、お名前をまだ聞いてませんでした。お名前を教えてもらえますか。」
嫌です、とは言えず。
「名前は・・・ちょこです。苗字とかはいりませんよね?」
高崎千代子。
それが私の名前だけど、わざわざ教えなくていいよね。
「ちょこさん・・・。分かりました。では、報酬を渡しましたら、またお会いしましょう。」
書いてみたら、1話の冒頭につながらなくなってしまい、1話を書き直しました(-_-;)
申し訳ありません。お話を組み立てるって難しいです^^;