2話 知らない人についていったらいけません
喫茶店に入るとすぐに、生クリームたっぷりのパンケーキとコーヒーのセットを頼んだ。
最初に指定されたファミレスに入るのはやめておいた。
(仲間がいるとか、そういう事があったら怖いので、念のため)
出されたお水を飲んで一息つく。
「それで、お話ってなんでしょう」
待ってましたとばかりに、イケメンは話し出し、それを要約するとこういう事だった。
【自分は異世界の住人で、こちらの世界でいうところの魔族に相当する種族である。自分たちの世界の困りごとの手助けが必要で、それにはこちらの世界の人間が最適である。能力が格段に上がり、十分な戦力になるので。もちろん、ただで助けてもらうのではなく、こちらの世界で通用する願い事を叶えることで、報酬にする予定である。手助けが終われば元の世界にお返しする。どうぞ力を貸して欲しい】というものだった。
話に区切りがついたところで、パンケーキがやってきた。
一度ここのパンケーキ食べてみたかったのよね~。
スポンジはふわふわで、生クリームたっぷりで、果物がゴージャスに盛られてて・・・
その分、値段も高いんだけど、食べなきゃ女子じゃない、ってくらいのパンケーキ♡
パクっ・・・はぁ、美味しい・・・。
人の奢りと思うと尚更美味しい♡・・・んだけど。
考えたくない事から目をそらしてると、3割方美味しさが減ってる気がする。
厨二病・・・ってやつよね・・・。
中学生や高校生が罹っても周りにドン引きされるのに、ましてこんなイケメンでいい年した大人が。
しかし・・・まずいわ、この状況。
なにか売りつけるとか宗教の勧誘とかなら、「練習でいいって言いましたよね?」と主張して逃げたらいいやと思ってたけど。
こういう妄想野郎は、ポケットからいきなりナイフ出して、「なんで俺の話を聞いてくれないんだ」とか叫びながら刺してこないとも限らない。
とりあえず、話に乗ったふりをして、できれば最終的には断る方向で、逃げる機会を窺ってみよう。
「えっと・・・その、あなたの世界・・・『ファウンゼンサー』でしたっけ。その世界にお住いの魔族のエスタークさん?で良かったですか?」
とりあえず聞いた話を確認してみせて、イケメン(エスタークさん)を落ち着かせることにした。
名前は本当は、エスタークなんちゃらかんちゃらと長い名前がこれでもかとつながっていたが、「長すぎますので、エスタークと呼んでください」と言われた。
「はい。ファウンゼンサーのエスタークです。」
私の事を、自分の言ったことをよく聞いてくれる親切な人、とでも思ったんだろう。
にこにこと嬉しそうに笑っている。
「ちょっと分からないんですけど・・・そちらの世界の手助けって、私には無理だと思うんですよね。力もたいして無いし、頭がすごくいい訳でも無いし。」
だからお断りさせてね、という意味を込めてエスターさんを見ると、
「いえ、さっきも話した通り、向こうの世界に行くと、こちらの方たちは全員能力が数十倍から多い人だと数百倍まで上がるんです。ギフトと呼ばれる特異能力も発現しますし。その点に関しては、なんの心配もありません。」
「はあ・・・」
チートってやつですね?
細かいところまで設定が出来てるわ。
さすが厨二病、って事か・・・。
「もしかして、まだ不審な点が?」
「いえ、まあ・・・」
大ありだけど、あるとか言えずに口ごもっていると
「では、先に進んで、願い事まで一緒に考えませんか?どんな願い事が叶えられるのか分かると、手伝おうという気になるかもしれませんし。」
帰りたいなぁ・・・
私の気持ちは置き去りに、エスタークさんはどんどん喋る。
願い事のルールを要約すると
【願いは基本3つまで。色々な願いが聞けると言いたいが、こちらの世界には魔力が足りない。エスタークさんの方の世界に比べるとほんとにちょっとしか存在しない。その中で無理矢理なことをすると、世界の均衡を崩すことに繋がる。なので、基本、願ったことは、無から有を生み出すんじゃなくて、その世界の他所から持ってこられるものに限られる】との事だった。
「他所から?」
「例えばですね、お金持ちになりたい、と願ったとします。そうすると、いきなり札束を積み上げて出すのではなく、人の手から離れたお金、離れようとしているお金、そういうのを私の魔力で集めて、持ってきます。落とし物とか・・・タンス預金のはずが持ち主が死んでしまって、家族にも気づかれずにタンスごとゴミに出されたお金とか・・・」
ああ、あるだろうね。
そういう持ち主から離れたお金って、年間すごい額あるはずだ。
いやいや、待て。
話に引きずられてどうするんだ、私。
しかし、札束をポンと出す魔力は使えなくて、でも、人の手を離れたお金を集めるための魔力は使えるのね・・・
設定が甘いってことかしら・・・?
いや、聞かないぞ、わざわざ相手を喜ばせるような質問はしない。うんうん。
「じゃあ、叶う願いは物理的なことに限るって事ね?」
「そうとも限りません。他所から持ってこられるものは結構叶います。ただ・・・世界的コンクールに出られるだけのピアノを演奏する才能が欲しいという願い、これは叶えられます。そういう人は探せば結構いて、いろいろな事情でピアノから離れ、以後ピアノとの繋がりを断つってことはあるでしょう。その才能を、その人からもらって別の人に渡す。これは出来ます。でも、人類史上ナンバー1の才能にして欲しいという願いは、無理です。」
「まあ、そうでしょうねぇ。」
この世に一人しかいないんだから、その人が都合良く死にでもしない限り貰えないし、たまたま貰えたとしても、そもそもその人が人類史上ナンバー1だったんだから、後から貰った人が出てきても、その人は同じ才能だとしても、ナンバー1、ではないよね。
は!また話に引きずられてる・・・。
ああ、ほんと帰りたいのに、いつになったらこの迷路のような話は終わるんだろう(しくしくしくしく・・・)