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一願目  

 僕の名前は崎原奏多さきはらかなた。年は十七才。誕生日は十二月二十四日生まれの高校生。

 ダルい、重いと常に感じているので、ある有名な錠剤の服用をオススメされてしまいそうな、だらけた姿で窓際の机で突っ伏している僕は二階の窓からグランドをぼんやりと眺める。


「その心情は汗で張り付いた女子高生の体操服姿を拝むのに忙しかった」

「僕がまるで変態みたいなナレーションぶっこむのは止めてくれない?」


 こいつの名前は時兼悟ときかねさとる。誰とでも友達になれる自称【千の友を持つ男】であり、残念系のイケメンだ。

 立てばボクサー、座れば化学者、歩く姿は野球選手、だが喋ればお笑い芸人と評価されている。


 黙って立っていれば女子は放って置かないだろうが、生憎喋り出すとお友達止まりになってしまうお調子者。そんなだから男にも何だかんだと人気があり、結果として友達が多い。


「いやー、気持ちが分かるからな。見ろよ、あの朝練で薄っすらと透けた体操服。水色の下着とヘソが見え隠れしているのが健康的で素晴らしいだろ」

「悟の頭が不健康なのは分かった」

「おいおい、男子高校生なら健康優良児で表彰もんだろうが」

「誰が表彰すんの?」

「総理大臣?」

「総理と全国民に謝れ」

「さーせん」


 ノリが軽い。チャラいと言われればそれまでなのだろうが、こいつの場合は本気で言っているバカなので始末が悪い。

 しかし僕はこの感じがキライじゃなかった。

 日常を生きている。バカな話をして無為に時間を浪費するどこにでもあるありふれた日常はとても楽しいものだ。

 

「それで奏多の好みは?」

「黒。焼けてない肌とのコントラストが良いよね」

「ちなみに私は白です」


 まさかこのバカ話に参戦者が現れるとは。

 横を向けばポニーテールで纏めた僕の僅かしかいない友人の一人である木間暮弥生きまぐれやよいが立っていた。

 身長が高めな悟の隣に立つために頭一つ違いがあり、同級生だと言うのに幼く見えてしまう。


「弥生は白か」

「白ですよ。見ます?」


 少しだけ自身のスカートをたくし上げる弥生は自信満々に素足をさらけ出す。


「遠慮しとくよ。まだ社会的に生きてたいし」

「奏多はもっとガッつけよ。俺なら木間暮にお願いしますと土下座出来るぜ?」

「悟っちには見せたくないです」

「何故に!?」

「目がヤラシイです」


 それなら僕も同類だと思うけどね。

 ただ弥生には感覚的に違うものがあるらしい。


「でも奏多っちの場合だとなんです?欲が薄いからです?」

「ああ、なるほど」

「納得しないでよ。僕にだって人並に欲はあるから」

「「ないだろ(です)」」

「そこでハモらないでくれる?」


 悲しくなるから。

 実際、人並の欲が無いのは自分自身でよく理解している。だけどそれはどうしようもない。

 人の欲求が大なり小なりあって、僕はその欲が極端に小さいだけ。欲しくないのに欲しいと思える方が不思議だろう。


「まああれだ。俺のお気に入りの巨乳のエロ本貸してやるから元気だせよ」


 悟は僕のどこを元気にしたいのだろうか。


「そうです。私のお気に入りの貧乳のエロ本貸して上げます」


 弥生もか。二人して何を言っているのだろうか?

 時が止まったように見合った二人は相手をバカにしたような目で笑い合っていた。


「「………」」


 お互いの指向にズレがある場合。それは時として戦争への引き金となる。


「お前は巨乳の良さが分かっていない。あの揺れとインパクトを生み出せるのは巨乳の特権だぜ」


 うんうん、と周りにいた男子が頷いた。

 こいつらは巨乳が好きなんだなと分かったが、だから何なのか。僕には酷くどうでも良かった。


「悟っちは分かってないです。手のひらで全てが包み込める慎ましさと未成熟さに込められたエロスは巨乳じゃだせないです」


 うんうん、と周りにいた男子が頷いた。ってか、何人かは悟の方にも頷いてなかった?

 そもそも弥生は女の子だろ。エロ本の指向で口論するな。そっちの方が慎ましさが無いんだけど。


「いいや巨乳だ」

「貧乳です」


 一歩も譲らない二人の矛先は自然とこちらに向いた。


「「奏多(っち)はどっち?!」」

「どっちもどっちでしょ?悟は貧乳が、弥生は巨乳が嫌いなの?」

「「え、好きだけど?」」

「ならいいじゃん」

「「それもそうか」」


 二人は和解し、握手を交わした。

 そもそもの話、自分の趣味趣向をこちらに、しかも教室内で大声で言うのはやめて欲しい。周りの女子が軽蔑感のある目で見ているのだから。

 

「ちなみに今日数学の小テストあるの覚えてる?特に悟」


 一番覚えてなさそうなのは悟だ。どのみち言う事など分かってしまう。


「マジか!忘れてたぜ」

「悟っち今回の結構成績に響くのにダメです」

「くそっ、神は死んだ」


 悟はニーチェか。


「からの?」


 何故に大喜利?


「おお、しんでしまうとはなにごとだ」

「なんでドラ〇エ?」


 神様に対して上から目線っておかしいでしょ。


「更に?」


 弥生もまた煽るなよ。


「だが奴は我等四天王の中でも最弱」

「僕らはいつの間に神様と同格になったんだよ」

「ついさっき?」

「驚きです」


 面倒だと思い始めた時、予鈴の鐘が僕の怠惰の終了を告げる。気付けば針は授業の始まりを示唆していた。


「あ、チャイムか。ちゃんと良いエロ本貸してやるから期待してろよ」


 それだけ言うと悟は自分の席に戻って行った。ってかまだ引きずってたの?

 

「私のも貸して上げます。それとも奏多っちは私自身の方がいいです?」


 前屈みになり自身の貧乳をアピールする弥生。


「バカ言ってないで席に着きなよ」

「ブー、つれないです」


 そんなくだらない日常。銃弾の飛び交うこともない平穏無事で無為な日常が僕は好きだ。

 友人たちとの価値のない会話が好きだ。

 でも、そんな日常を過ごすのも残りわずか。僕には皆よりそんな日常を過ごせる時間は限られている。

 それを知るから僕は自堕落に過ごすのだ。無価値を好み。怠惰に生きる。

 今日も僕はのんびりと過ごす。

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