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九願目

本日二話目

 心川と横島の悪夢のデートから三日が経った。


「どうして先輩は何もしてくれないんですか!?」


 【願望器】の回収以外関わる気のない僕にどうしろと?

 姉さんがまだ調査中なので僕には何か事を荒立てるつもりは全く無かった。

 恵は昼休みに全力で走って来たのか、粗い呼吸を整えながら教室から出ようとした僕の前に詰め寄った。

 

「あれは修羅場か?」

「あの子って心川さんの妹じゃない?」

「可愛いよなー」

「でも何で来たんだ?」

「セリフからしてもしや手を出してくれない崎原に憤りを感じていたとか…」

「っ!?」

「そんなバカな!?」


 ギリギリそう聞こえるかも知れないが事実無根だ。恋人関係のような甘い関係ではなく脅迫される間柄で姉の為なら手段を選ばない面倒な子としか思っていない。

 

「先輩なら(あのデブを)()ってくれると信じてたのに!!」


 教室内は更にざわつく。


「先輩ならヤッてくれる…、だと?」

「何だよ崎原の奴いつの間に美少女の後輩と恋人になってたんだよ」

「しかも後輩ちゃんが積極的だ。…やっべ鼻血が」

「崎原君って草食系なんだ」

「うはー奏多の奴、だから姉の方のデートを見てたのか」

「なるほど。二人が熱かったわけです」


 おい待て。悟と弥生は事情知ってるよね。

 まるで三日前の心川のデートを追跡しながら妹の方とイチャイチャしてたみたいな言い方は止めて欲しい。


「騒がしいから取り敢えず屋上行かない?」

「「「「ゴクッ…、屋上でナニする気なんだ……」」」」


 ナニもしません。ただの話し合いです。

 何でこんな目に遭わなければならないのか。心川を見捨てようとした事への神様の罰なんだろうか。

 昼休みが終わってからも面倒だと思いつつ僕は恵を連れて屋上へと向かった。




「と、言う訳で先輩の為にお弁当です」

「あれだけ無駄に騒がしといて何が先輩の為か分からないけど一応ありがとう」

「私と言う美少女な後輩のよる不器用ながらも作った手作り弁当ですよ?もっと有り難く受け取って下さい」

「美少女って普通自分で言うかな。でも何で?」

「三日前のお礼です。先輩がいなかったらあの時殴られてたのはお姉ちゃんの方でしたから」

「そう。なら有り難く受け取るよ」


 あれだけの騒ぎを起こしながら悪びれもしない恵は可愛らしいピンク色の布に包まれた弁当箱を渡して来る。

 始めからこれが目的だったのか。当然ながら恵も弁当箱を一つ持っており、昼食を一緒に食べるつもりであった。


「先輩はあれからどうなったとか聞かないんですか?」

「聞いて欲しいの?部外者の僕に」

「お姉ちゃんの手紙を読んだストーカーさんが部外者とは片腹痛しですよ」

「僕はストーカーじゃないよ。それで何で古文なのさ」

「そこはノリです」


 あのデートから横島は影を潜めているらしい。

 横島の性格からして反省している訳ではないだろうから【願望器】の対価をどうにかしているのだろう。

 しかしそんな超常現象を起こせる代物の存在を知らない恵にはこの三日は酷く不気味に感じていた。


「それでお姉ちゃんなんですがこの三日はあの傲慢デブに拘束されずに済んでますよ。どうやら学校に来てないらしくて平和そのものなんです」


「平和ならいいんじゃないか?」

「甘いですね先輩」


 恵の中では姿を見せない今が何かをやらかす準備期間だと考えていた。


「おそらくですがお姉ちゃんは襲われる五秒前のようなもの。あんな性欲の権化ならお姉ちゃんを物理的に拘束して襲うに決まってます」

「凄い偏見だね」

「先輩はあのデートの最後を見てまだ呑気に構えてられますか?キスしなかっただけで殴って来る人ですよ?」

「あー、確かにそうだけど」


 強引に自分のものにした横島なら自然とそうなるか。襲われる五秒前も強ち間違いじゃない。

 しかし今助けるにはデメリットを受け入れる必要があり、そこまでして助けたいかと聞かれればノーだ。

 不必要に焦り、存在を流布する結果となるのは好ましくない。

 だからまだその時じゃない以上動く気もなく、こうして恵と喋っていても焦る気は無かった。


「だから先輩、やっちゃいましょう。今夜は三日月です」

「それ普通は月の無い日にやらない?ってか襲わないし」

「良いじゃないですか。善は急げですよ」

「やろうとしてる事は悪だから」


 姉の為なら進んで先輩を使おうとする姿はある意味では好感が持てるが、生憎使われて上げる程お人好しじゃない。

 既に決行日は決めている。予定を早めてまで行う理由にはならなかった。


「ではまず人気のない河原に呼び出してから囲んで殴打しましょう」

「やるって言ってない上にチンピラみたいな事やらすんかい」

「そうしないとお姉ちゃんがどんな目に遭うか分からないじゃないですか」


 他はどうなっても良いと考える辺り、恵は過激だった。

 しかしながら暴力で解決しようとしながらも相変わらずの他力本願。それは僕とは関係ない所でやって欲しい。

 

「で、冗談はそれくらいにしてこのお姉ちゃんの異変について先輩何か知ってますね?」

「………なんでそう思うのさ」


 弁当箱の蓋を取る手が止まる。


「乙女の勘です」

「君の勘では僕は横島と共犯なわけ?」

「そうじゃないですよ。ただこう先輩がお姉ちゃんに対して()()()()()()()()()ので不思議に思っただけですから」


 言われて見ると恵が疑問に思えるのも頷けてしまう。

 僕は心川向奈がどうなろうと興味はない。あるのは【願望器】だけだし他人が襲われようが襲われまいが蚊帳の外の出来事でしかない。

 だからこそ不審に思うのだ。心川と一番近い存在なだけによりはっきりと違和感として僕の行動を捉えてしまうのだろう。


「お姉ちゃんって美少女じゃないですか。そんなお姉ちゃんが酷い目に遭ってるって知ればお姉ちゃんに良い所見せたくて頑張るのが男ですよね?少なくとも私は散々その手の人たちを見て来ましたし」

「僕も心川さんの為に何か出来ればと思ってるよ」

「はいダウト。興味ない人がそんな事思う訳ないじゃないですか。先輩って嘘が下手ですね」

「ほっといて」


 あっさりと見破られる僕の嘘。

 ならばこの後輩は何を持って横島の【願望器(反則)】に確信を持ち、僕に頼ろうとするのか。

 普通なら見逃すだろう事実を掴む恵は僕にとって危険だと言わざる得ない。


「まあ先輩がどう思ってるかは知りませんが結局助けてくれますよね?」


 期待の篭ったその瞳に僕の顔が映る。


「さあね。このお弁当分くらいは働くかもね」

「じゃあ一生コキ使いますね」 

「対価が重くない!?」

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