プロローグ 不安定な少女
久々の新作投稿
ストックがある内は毎日更新しますが基本的には早くても週一ペースかと
主人公は一人称 他の視点では三人称で行こうと思います
心川向奈は誰もいない教室で一人、藁にも縋る思いで一枚の小さな紙に自身の悩みを書いていた。
向奈自身、自分の身に何が起きているのか分かっていない。
ただ一つ言えるのはその行為が己を救うものだと信じての行動であり、それをしなければならない程に向奈は追い込まれていた。
「うぅ……」
嗚咽を漏らしながら書いた一枚の便せんを丁寧に畳むと静かに立ち上がって教室から出て行く。
その足取りは重く幽鬼的だったが、すれ違う者はいない。いたとしても向奈には周りを気にする余裕は何処にも無かった。
部活動による掛け声がする運動場とは真逆の校舎裏へと辿り着く。
あったのは一本の古い大木。人目には付かず、ひっそりと生える大木は今の向奈と何処か重なり合う気がした。
光を求め、ひっそりと枝葉を伸ばし続ける大木。助けを求め、徐に手を伸ばし続ける向奈。
しかし向奈がここに来たのは偶然でも何でもなく一つの七不思議を当てに来ていた。
「……これだよね」
大木に出来た三つの空洞。その空洞は泣いている人の顔のようにも見え、その姿がより一層不気味なものを醸し出し、近付く者を少なくさせていた。
そんな大木の人で言えば口に当たる部分に向奈は先程書いた手紙を入れる。
「どうか、助けて下さい」
向奈は手を組んで祈る。
その祈りは何処に向いていて、誰に届けられるかも分かっていない。それでも彼女は願わずにはいられなかった。
全ては自分で選択していた筈だったのに。だけどその選択が本当に自分の意志でしたかどうかも定かじゃなくなり、なのに逃げられない今の自分に訳が分からなくなった。誰にも相談出来ず、結局おとぎ話よりも曖昧なものに自身を委ねてしまっている。
嫌なら嫌だと言えば良いのに、抗う力が湧いて来ない。
だからこんなものに彼女は頼る。
校舎裏の顔に見える大木の口に悩み、不安、願いを書けば助け叶えてくれるとされるのが七不思議の一つ。
「お願い…、助けて………」
冷たい風が向奈の肌を撫でる。
お前の願いは叶わないと世界にさえ拒絶されてしまう彼女は一心不乱に祈りを捧げる。
だから気付かない。
この七不思議が一人の人間によって作られた架空のものである事実に。少し調べればこの七不思議は出来て五年も経っていないような真っ赤な嘘だと知れただろうに。
それだけ余裕がなくなってしまったと憐れむべきか。調べる気力もなくなるだけ疲れ果てた彼女の顔に生気はない。美少女である彼女もこうなってしまえば言い寄る男も少なくなろう。
「………意味なんて無いよね」
ふっ、と見上げた大木に変化はない。差した手紙はそのまま残っており、大木が願いを叶えてくれるのはやはり迷信だったと自覚する。
「………はぁ」
重い足取りを更に重くした向奈はトホトボと校舎裏を後にした。その後ろ姿を見ている者がいたのを気付かずに。
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