3-わたしの記憶、私の追憶。
3話ができるまで続いた自分のモチベにびっくり。
ここまで読んできている方々には言葉は不要か・・・
今回少しダークな内容にしてみました。
わけわかめーってところあるかもしれませんが、続けば必ず回収します。
どうぞ、よろしくお願いします。
気が付くとそこはすべての色が抜け落ちた、モノクロの世界で。
私は一人、森の中の小高い丘の上で佇んでいた。
周りを今時では田舎でも見られないような、一面の新緑が囲む、そんな丘に。
水平線まで広がるような広大な森林なんて、初めて見た。
見上げればこれまた素晴らしいほどに澄み渡った空が世界を見下ろしていた。
視界には森と空しかなかった。一瞬、青々とした木々と、海色の空を幻視した。
色があればさぞかし美しいことだろう、と思った。
色がないことをとても残念に思った。
もしいつか色が戻ったならば、また見に来たいとも――――――
森の中は、私にとって宝物このようだった。
目に入るものすべてが初見で、すべてが目新しかった。
私は自分の中の好奇心に打ち勝つことができず、深く森の中へ入った。
好奇心猫を殺す、というけど、なぜか私にはここが安全な場所だという確信があった。
心のどこかで危ない、という私に、ここは安全な場所だよ、という私がいて、
私はなぜかそれに、ああ、そういえばそうだったなぁ、と納得してしまったんだ。
目論見通り、森の深くには表層よりも多種多様で、好奇心のくすぐられる植物がたくさんいた。
おかしな程曲がりくねった幹を持つ木。
星型の葉っぱを持つ木。
明らかに自分から光っているように見える苔。
実の代わりに結晶をつける花。
正八面体のかたちの木の実をつける、とても細長い樹木。
ひとりでに地面から根っこを出して、踊りだす草もいた。
どうやって動いてるのか、どうして踊っているのか。
未知の植物を見て探求心のくすぐられる私を、突如、ちょっとした違和感が襲う。
なんだかこの森、静かすぎる。鳥の鳴き声も、獣の気配も、一切がしないというのはいささか異常だ。
一度芽を出した違和感はそう簡単には消えなかった。
あれだけ燃え盛っていた好奇心は消えてしまっていた。
考えれば考えるほどおかしいことに気づいた。
いつもの森と違う、と考えていると不意に気持ちの悪い、ぬるっとした風が私の頬を撫でた。
背筋がぞわぞわっ、とする気持ちの悪い風だ。何気なく嗅いだ、その匂いに驚愕する。
その場で戻さなかった自分を褒めてやりたかった。
―――まとわりつくような血の匂い。そして吐き気を催す腐臭。
鼻を衝く強烈な悪臭に、顔をしかめる。
とても嫌な、考えたくない想像が頭をよぎる。
私はそのにおいの原因を確かめるために動き出した。
動けば動くほど、何かに追われるように、どんどん足の動きは早くなっていった。
どうしてか私は知らないはずの場所を目指して、一目散に駆けていたんだ。
行く手を阻む草木を押し分けていくらか走ったところで、ふっと目の前の視界が開けた。
そこで私は―――――――――――
―――――――――――――この世の地獄を見た。
そこには日本の中世のような街並みが広がっていたのだろう。
それは美しい街だったのだろう。
領地を囲む城壁。こんな分厚い壁があれば安心できたろう。
民草の住む民家。ここで毎日家族の一家団らんがあったのだろう。
収穫間近の畑。収穫時には町全体で収穫祭とか、するつもりだっただろう。
防衛のための見張り台。ここで兵士たちは交代交代に見張りをしていたのだろう。
今日も平和ですね、なんて言って。
領主の住む屋敷。領主は民から愛されたのだろう。慕われていたのだろう。
領主も期待に応えようと必死に働いていたんだろう。
―――そのすべてが凄惨な有様だった。
壁や門は壊され、畑は荒らされ、建物は軒並み倒壊し、屋敷には火が回って焼け落ちて。
平和の残滓すら、掻き消されてしまっていた。
そしてそのすべてが、まだ乾ききっていない、赤黒い色に染まっていた。
日常を過ごし、平和を紡いでいたであろう、そこに住んでいたであろう彼らは、
皆、一人の例外もなく、無惨に死んでいた。
道の中ほどに。壊れた民家の壁に。倒壊した建物の下に。
槍で腹部を貫かれて。死なないように体中を切り刻まれて。犯されながら首を絞められて。
それらは腐って虫がたかることで、より一層醜悪さを増していた。
そしてそのどれもが。絶望に染まった表情を、顔に刻んでいた。
有無を言わせぬ殺戮があったのだろう。一方的な蹂躙があったのだろう。
視界一杯の、この赤黒い絵の具は、すべて彼らだったものなのだ。
ここでなにが起きてしまったか、どんな目に遭ってしまったのか、
わたしだからこそ、容易に想像できる。
体中に突き刺さるような寒気を感じて、みんなを見た。
みんな、死んだ魚のような白く濁った瞳で、わたしをじっと見ていた。
どうしてお前は生きているんだと。なぜお前が死ななかったのかと。
なんで私たちが死ななきゃいけなかったのだ、と。
瞬間、吐き気すら引っ込んでしまうような絶望と恐怖が、私の中の何かに襲い掛かった。
体が勝手に動き出す。破壊された上に血や死体で足元の悪くなった道を走る。
何かに足をとられて転んでしまう。その何かを見た。見てしまった。
そのナニカは数少ない、わたしの話し相手になってくれた老婆だったもの。
堪え切れなくなって胃の中身を地面にぶちまける。のどを焼く痛みを感じながらも、
身も凍るような、やさしい老婆『だったもの』の視線を振り切って、私は再び立って走り出した。
何度も転びそうになりながら。私まで腐らせてしまいそうな風に恐怖しながら、
足を止めてしまえば彼らと同じになってしまうという強迫観念に駆られて、走った。
いるはずのない生存者を探して。どうか一人でも生きていて、と願いながら。
わたしにやさしくしてくれた人たちの物言わぬ骸を見るたびに、
わたしの中の何かにひびが入っていった。
いつしか走る私の頬には、何か冷たいものが流れていた。
もうとっくに枯れてしまったと思っていた、あの時に出し尽くしてしまったと思っていた。
いつの間にか私の体は別人のように自分では動かせなくなっていて。
あれだけ渇望した色が憎たらしいほど現実を突きつけてきて。
幾分か背は低くなり、髪は長くなっていた。そんなことにも気づかず、私は町中を走った。
町中を走って、走って、走って、走って走って走って走って走って走って走って――――――――――
気が付くと私は教会の目の前に立っていた。十字架は折れ、ガラスは割れ。そんな教会の中に、
極度の疲労と恐怖から、震えて折れてしまいそうな足に喝を入れて、
嫌になるほど聞こえてくる自分の呼吸音と心臓の拍動を無視して、
私は立て付けの悪くなった扉を蹴飛ばし、入った。
そこには。聖女様なんだから。神様の使いなんだから死ぬはずがないんだって。
そう思いたかった彼女が。
どうか生き残っていて、と。高望みなんてしないからどうか彼女だけは、って、
今まで祈ったこともない神様に心の底からその生存を祈った、その彼女が。
わたしはどうなってもいいから、どうか彼女だけは、って渇仰した、その彼女が。
聖女の如き、美しさと清貧さを持っていた、わたしを拾って、溢れんばかりの愛情を注いでくれた、
わたしも彼女のようにはなれなくとも、できるだけ近い存在になりたいと憧れた、
皆に優しく、誰よりも自分に厳しかったわたしの大好きな彼女が。
――――――――――――磔にされて、死んでいた。
―――――――――――――ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――――――――――――――
体を蝕んでいた痛みが感じられなくなって。麻痺するほど嗅いでも消えなかった
血の匂いと彼らの腐臭が消えて。
あれだけ憎たらしかった色が潮が引くように消えていって。自分の悲鳴すら聞こえなくなって。
自分が生きているのか死んでいるのかすらわからなくなって。愛した彼女も見えなくなって。
最後に、わたしの中の何かがパリン、と砕け散る、妙に甲高い音を、私は確かに聞いた。
3話、読んでくれてありがとうございました。
貯めている分全部吐き出しました。(無計画
これからは遅くなる予定です。スマヌス。
ダークな方が筆が進む!不思議!不可思議!無量大数!(謎
深夜はテンションがおかしくなるので大目に見てくれるとウレシイ…ウレシイ…(元ネタよく知らない
感想、批評バンバンください。頑張っていい文章作れるよう努力します。モチベの続く限り。
時間の許す限り。そして私のカバーガラスが粉砕しない限り。
cf)言葉遣い変だったら教えてくれると励みになります。
学校の定期試験が近いので遅れたらすいませんと予約謝罪しておきます。ごめんなさい。