2、この「世界」というもの
その日帰って着替えると、私はすぐテレビをつけた。今日隣の席の松坂愛という女子生徒から聞いたことを確かめるためだ。
「え!? レザリアちゃん知らなかったの!?」
ぽかんと口をあけた私に、松坂さんは目をまんまるにした。
「が、楽器がない...??」
「そうだよ。2075年、つまり私たちが生まれた年に宗教改革が起こったの。宗教が変わったわけじゃなくて、聖歌以外の音楽が突如廃止になったの。だから聖歌は全部楽器なし。ピアノとかバイオリンとか、言葉が残ってるだけ不思議なものだよ」
な、なにそれ...初めて聞いた...
「本当なのかしら...」
嘘だと言われても特にびっくりしないことだけれど...でもなんで聖歌以外はダメってなったのかな...松坂さんもそこまでは知らないみたいだったし...
でも確かに、ケータイで1週間の全チャンネルを調べても、どこにも音楽番組がない...。
「うそ...」
全チャンネルを順に回す。カチ、カチ、カチ、という無機質なリモコンの音が部屋を満たす。
「ほ、ほんとだ...」
どこにもない。
音楽関係の番組が。
たったの、一つも。
調べてわかったことなのだが、どういうわけかヨーロッパでは全体的に音楽禁止令(と私が勝手に呼んでいる)が緩く、小さい頃から私が音楽...とくに楽器に親しんでいたのは、ごく普通のことだったようだ。
この世界には、音楽がない。
当然、楽器もない。
「だから、音楽室がなかったのね...」
学校中を一通り歩き回ってみたが、どこにもそれらしき部屋が見当たらなかったのだ。
「あ、そういえば...」
私は、松坂さんから聞いた「ある噂」を思い出した。
何度も言うが、この学校には楽器がない。
音楽室もない。
なのに、この学校は、放課後誰もいなくなると、どこからともなくピアノの演奏が鳴り響く...。
その正体はいまだ不明.......................