6.正体②
コチ、コチ、コチ、コチ、コチ...
学校から人が一人もいなくなって、学校中の時計が静かに音を刻んでいる。
今は、夜の7時。学校には、誰もいない。
私以外は。
...いや、違う。もう一人いる。
裏門を、守衛さんがちゃんと鍵をかけた裏門を、敢えてもう1度開けた人物。
私を...待っている人物。
「そろそろよね...」
私は、時計が七時を指すのを心待ちにしていた。さっきから何度時計を見たか、もうわからない。
廊下の時計から目をはなし、私は自分の腰についている懐中時計を見つめた。この時計も、学校の時計と同じリズムで、一定の針の運動をしている。
もう少し...あと、10秒。
声に出して、数えてみる。
10、9、8、7、6、5、4、
「さん」
コチ
「に」
コチ
「いち」
コチ
「ゼロ」
......ぽ、ろ...
「えっ?」
...........ぽろろろ、ろろ...
「ピアノだ...!」
私は慌てて3階の廊下を見渡した。どこだ、どこから...
物置部屋の、となり...物置部屋は、たしか、こっちに...
「あ」
そこには、あるはずのないものがあった。
昼間見た時には、確かになかった。
物置部屋のとなりは、ただの壁のはず。
なのに。
「ドアが...ある...」
そこには、いつ現れたともしれない、ひとつの扉があった。ピアノの音色は、間違いなくそこからきている。
あそこに、いるのだ。
私は、廊下を1歩、1歩、進んでいく。
すぐたどり着いた扉の前で、私は1回深呼吸をする。ドアノブにおそるおそる手をかけようとするとーーーー
「おい」
ジャンッとピアノが止まる。
同時に、私の手もビクッと止まる。
「早く入ってこい」
内側から聞こえる、最近聞きなれた声。
そうっとドアを開けて、私はその姿を確かめて言う。
「やっぱり、あなただったのね」
東雲カイ。
彼が、この学校の放課後のピアノの犯人だ。