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〈鑑定魔石〉

「異世界召喚…………あるんですね?」


フィブルさんは目を閉じ、混乱の中で深く考え始めた。


「ある。ある…………というか、あった。今は、それの再現というか…………いや、それよりも」


フィブルさんは、まっすぐに僕の目を見て質問━━確認した。


「もう一度、聞く。君はどこから来たの?」


「地球という世界━━惑星の、日本という国です」


「チキュウ…………ニホン…………。いずれも、聞いたことがないな」


フィブルさんはその後も聞こえないくらいの声で色々と考え始めた。頭の良い人だろうから、きっと色々なパターンを頭の中で組み立てては否定し、崩しているんだろう。


「はい。僕も、人間界という区分も、その…………王国の名前も、僕は知りません」


ただ、ここまで来ればもう結論は1つ。きっとそれが正しいんだと思うし、僕の身分というのか立場も、そうなったらある程度は保証されるはず。

おそらく互いにとって益があると思うし、もう誘導するまでもない。


「これはつまり━━」


「いや、そうだとは思うけど、今ここで軽々に結論を出す訳にはいかないよ」


「…………え?」


え?ん、どゆこと?


「君がチキュウという異世界からここに来た可能性は高い。でも、間違いなくそうだとは誰も言い切れない。

確かに僕たちは今異世界召喚術の準備をしていた。ただ、まだ完全には準備が整っていないし、予定日もまだ遠い。状況証拠としても弱いんだよ」


フィブルさんは苦笑いで言った。


「だから、君は暫定『異世界人かもしれない不審人物』だよ。よほどのことがないとこれは変わらない」


…………ですかー。

まぁ、さすがにその判断は慎重になるよなだ。僕がフィブルさんの立場だったら同じような判断をすると思うし。

でも、今の僕の立場としては非常によろしくないんだよなぁ。


「何か、ないですかね?こう、『僕が嘘を吐いているかどうかが分かる』みたいなのじゃなくて、もっとこう、『この人はこういう立場の人です!』ってはっきり証明してくれるようなのって」


必死に引き下がるしかない。

あるのかどうかも分からないし、あってもその存在を隠されるかもしれない。もう天に祈るような気持ち。


「ある…………いや、どうだろう。君の望む結果が出るかどうかは分からないけど、出るかもしれないものならある。

というか、いいのかい?それを使えば君は不審人物であると確定する可能性が高いけれど」


「それでいいです!いや、お願いします!僕、自分のこと信じてるんで!」


天は僕を見捨てなかった!




「ちょっと待ってね」と言ってフィブルさんが部屋を出て、帰ってくるのに大体5分強だった。10分はかかってない、と思う。

どこにカメラが、というか監視する魔法や道具があるか判らないから、スマホを取り出すなんてことできなくて(敵対行為と思われるかもしれないし怖いから)、その上今日は普通に腕時計をするのを忘れてきたから時間が判らない。


帰ってきたフィブルさんは2つの…………金属の、塊?を持っていた。

何だアレ…………。鈍い銀色で金属に見えるけど、でも形としては石だよな…………。いや、鉱物も石なんだって言われたらそれはそうなんだけども。


「この2つは〈鑑定魔石〉だよ。見たことない?」


ないない。

なるほど魔石。そんな便利なアイテムなら、僕の無実、というか立場をはっきりと示してくれるかもしれない。━━細工が無ければだけど。


「見た目じゃ分かりにくいかもしれないけど、こっちが個人用で、こっちがパーティ用。僕としてはパーティ用を使ってくれた方が分かりやすいからありがたいんだけど、まあ個人用を使っていいよ」


フィブルさんはテーブルに魔石を2つ置きながらそう勧めてきた。

いや、使っていいよと言われても…………。


「個人用と、パーティ用?って何が違うんですか」


「ああそうか。魔石が初めてなら説明しないとだね」


うなずいて返す。

そうそう。何でも知っている前提で話されても困るんだから。むしろ何も知らない前提で話してもらわないと。




「個人用の鑑定魔石は、使ったときに使用者の脳内にしかその結果が表示されない。ああ、結果っていうのは名前やスキルとかのことね。だから、周りの人に見られたくないときはこっちを使う。


逆にパーティ用は、使ったときにその結果を目の前の空間に映して表示される。個人用と違って、周りの人と情報を共有したりするときにはこっちを使う。


だからまぁ、最初は個人用の方がいいかなって思ったんだよ」


なるほど。確かにそれは個人用のがいいな。

現代日本人である僕は個人情報の扱いとかにも慎重だし、他人に覗かれる心配もないなら断然個人用だ。むしろパーティ用なんて一度も使わないと思う。怖いし。


「じゃあ、こっちの個人用のを使います…………あ、思ったより軽いんですね」


「そうだね、見た目より軽く感じるかもしれない」


テニスボールよりも一回りか二周り小さいくらいのサイズの石なのに、重さはテニスボールくらい。

解りにくいかな?テニスボールくらいのサイズの石なのに、革や樹脂でできたテニスボールと同じくらいの重さしかないってこと。


ふうん…………。

王城にあるものだからなのか、それとも魔石はみんなこうなのか、形はいびつながらもちゃんと磨かれていて、手触りもいい。

鈍い銀色だけど、金属みたいな光沢はない。いや、天井の照明を反射してはいるけど、金属っぽさはない。


で。そんなことはいいんだ。


「あの、これってどうやって使うんですかね?」


「ああ。魔石の中にちょっと魔力を入れてもらったらすぐだよ」


「魔力…………」


「うん。…………え?君、もしかして魔力も知らないの!?」


知ってるけど知らないっていうか。

今まで現実にあるものだって考えたことはなかったので。なんかすいません。




「え〜っと、そうか。どうしようかな…………。ん〜…………もう、その魔石はシグレ君のものに、いやそれだと…………どうするかなぁ」


なんかすごい考えてくれてます。

こうなると罪悪感もなんか出てくるし、「無知は罪」って本当なんだなぁとか思ってしまう。

でも僕にできることはフィブルさんを悩ませることだけ。あの、なんか本当に、ごめんなさい。


「…………よし!こうしよう。シグレ君」


「え?あ、はい」


「針を渡すから、それで指を切って血を出してくれないかな?少量でいいから」


「はい?」




まぁ。僕が魔力を知らなくて扱えないからこその苦肉の策らしいんだけども。


どうやらこの〈鑑定魔石〉というもの(他の種類の魔石も大体そうらしい)、血に触れるとその血の持ち主のものになって、その人以外は使えなくなるらしい。

その代わり、初めの1回だけは魔力を使わずにその魔石の効果を発揮出来るのだと。


「ただまあ、そうするとさっきの説明みたいに、色んな人との共有物ひはならないから、数を揃えないといけないんだよ。1つ1つの値段はとても高いって訳じゃないけど、それでも数を揃えるのは大変でね」


「いえあの本当に、すいません…………」


「いやいや別に、そんな気に病むことないよ。もしかすると君はこの国の最重要人物になるかもれないんだ。それが魔石1個で手に入るなら僕たちは嬉しいくらいだよ」


「なるほど…………」


ん?今不穏な表現があったな。「手に入る」?国のものになって国の命令に従って生きるようになるってこと?


「それで、血が出たらそれを石に押しつけたらいいんですか?」


「そう。そうしたら脳内に鑑定結果が出るはずだから」


…………そうだ。見方を変えよう。

僕のバックに国がつくと考えたらいいんだ。バックに国がいるような人間に何かしようなんて考える人はそうそういないはず。つまり、安全が保証されるってことだ!


とかポジティブなことでも考えてないとやってられない。

中々血が出ないから3回も親指刺さないといけなかったし。これは僕のやり方のせいなのか、フィブルさんに借りた針のせいなのか。


親指を石に押しつけて…………っと。これでいいのかな。

…………おおっ!何かきた!

なんとなく解るっていうよりは、文字が目を通さずに直接脳にくるって感じ。あ、目を閉じた方が見やすい。


えっと…………?




名前:カスモリ・シグレ


性別:男


出身:不明


所属:無所属


スキル:【炎魔法】【風魔法】【黒魔法】【幻覚魔法】【聴覚翻訳(強)】


称号:【勇者】




……………………。

何か知らない間に、魔法を、4種類も使える【勇者】になってるんだけども。

いやまぁラノベ展開的にはここは【勇者】って出るところだよな〜とは思ったけども。だからって実際そうなって驚かないかって言われたらそんなわけないし。



…………えー。そうか、僕が勇者か…………。

柄じゃないなぁ。僕はむしろ悪役な気がするけど。あれか。親の持ってる正義感とかが反映されたのか。




「シグレ君。どう?鑑定結果はちゃんと出た?」


「あー、はい。出てます」


「称号の欄のところ、何か書いてる?」


「………………….【勇者】ってあります、ね…………」


「…………そう。やっぱり、ね」


どことなく納得した感のあるフィブルさん。

いや、僕は全然納得してないんですが。


「もし君さえ良かったら、こっちのパーティ用のも使ってくれないかな?君を信じてないって訳じゃないけど、ここまできたら最後は自分の目で確かめたい」


了解です。

ただ、僕は未だにフィブルさんのことを完全には信じきれてないんだけど。悪い人じゃないんだろうけど、どうにも底しれないというか、どことなく怖いところある。




ついさっき「一度も使わないと思う」と思ったパーティ用の鑑定魔石を使って、なんだろう、少し近未来感を感じていた。


こう、石がプロジェクターみたいになって、空中に鑑定結果の画面を映し出す感じ。

手軽に持ち運べるスクリーンいらずのプロジェクター。なんだろう、あと数年待てば普通に日本でも手に入ったんじゃないかっていうこの微妙な残念感。

確かに凄いんだけど、わざわざ魔法のある世界で触れるほどのものじゃないっていうか━━「これ、頑張れば地球の科学技術で作れるんじゃね?」って思ってしまう感じが嫌だ…………。


フィブルさんはその画面を見て満足げな表情。口もと緩んじゃってるし。

いや、だから僕は全然納得も満足もしてないんですが。


「これから長い付き合いになりそうだね、シグレ君」


その笑顔を見て悪い予感がしたのは、多分僕の中の生物としての本能がまだ健在であることの証拠なんだと思う。




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