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ラブカクテルス その69

作者: 風 雷人
掲載日:2008/06/19

いらっしゃいませ。

どうぞこちらへ。

本日はいかがなさいますか?

甘い香りのバイオレットフィズ?

それとも、危険な香りのテキーラサンライズ?

はたまた、大人の香りのマティーニ?


わかりました。本日のスペシャルですね。

少々お待ちください。

本日のカクテルの名前はテレビ看板でございます。


ごゆっくりどうぞ。



俺の仕事は看板屋だ。

契約を済ませたオーナーのビルの屋上に、大型のテレビのような看板を設置する。

それがおおまかな仕事内容。

しかしこれが意外に大変だ。

元々既に建っているビルに、新たにあんな大型の看板を建てるとなると、基礎も対風計算や強度計算をした後、なるべくビル側を傷める事なくして設置をするが、場所が人の目につきやすく看板的には向いていて、営業側がせっかく交渉した物件でも、そこの屋上の造り、とは言ってもだいたいが床の厚みだが、それが看板を設置するのに向いているとは限らない。

かといって余程のことがなければ、そこまで交渉したビルのオーナーに、ここの屋上の床が薄いので看板付きませんとは言えない訳で、必然的に余計な仕事が色々増える。

まぁ、大概こんなケースばかりだ。

しかしながら、場所がいい所でなければ誰も見ない看板になってしまうので仕方がない。

結局、毎回の無理な作業も、それなりの理由があるということなのだ。

俺は夜の町並みを、今夜もビルの上から眺めながら、工事の管理をしている。

毎度のことながら、仕事は夜勤が中心となる。

なぜなら、ビルの屋上という特殊な場所柄、こんな巨大な看板を階段でせっせと揚げられる訳もなく、この時代にもそんな工法ありえない。

もちろん大型のクレーンを使うのである。

しかしだいたいが、ビルというものは、商売をするのに建っているのが殆どで、そんな所で真っ昼間から店の前にクレーンを据えるなんて、当然オーナーが許す訳もなく、また、居住だけのマンションの屋上となると、大概大通りに面していて、その大通り以外からクレーンを据えるスペースなど殆どない。そんな時は警察から許可書を取って、道路を借りて作業をするため、やはり夜間となる。

そんな状況だから、完全に身体の調子は夜光性になって、周りの奴らからはクロネコなんて言われているが、案外それは嫌いなあだ名ではなかった。

しかしこんな綺麗なネオンを眼下に従えながらいつも仕事をするなんて、普通ならあまりない事だろう。

なんだか不思議とそんな風景をしばらく意識してぼーっとしだすと、何やら心地のいい孤独感に襲われる。

なぜなのだろうか?

きっと元々夜光性だった祖先の遺伝子が、この暗闇にあった野生の感覚を惜しんで、切なくなっているのだろうか?

ふと、そんなセンチな事を思う今日この頃。

俺は我に返って、看板を施工している屋上に目を戻し、照明で照らし出された飾りっ気もない現実に少しため息をついた。

大型のクレーンは、まるで自慢でもしているかのように、その黒く、太いブームを伸ばしてテレビ看板になる資材を丁寧に荷揚げしていた。

そんな姿を間近で見る度に、きっと太古の恐竜にいた首長竜は、これくらい迫力があったのだろうと、想像力を発揮してしまう。

しかし人間とはよくもこんな巨大な物まで作れるものだ。

きっとその恐竜達が今このクレーンを見たら、やはり関心するのだろうか?

そんな下らない想像をヨソに、大型のテレビ看板は徐々にその姿を形にしてきた。

俺は作業の邪魔になるべくならないように、少し離れたところから偉そうに腕を組んで、施工に間違いがないかを広げられた図面を見ながら各部分を確認した。

どうやら順調のようだ。

いつも任せている、頼りになる作業員のテキパキした動きに心地良さを感じながら、俺は新たにこの町でこれから活躍するであろう、その看板の誕生を大人しく待った。

そして朝が明ける前に堂々とした看板は、その凛々しささえ感じさせる立派な形を、多少夜空に朝焼けの白さが顔を出した中、そびえ建った。

俺はその出来上がったテレビ看板に近づいて、最後の仕上げをした。

また一つ、俺の息子が出来た。

ここまでくるのにあった色々な苦労を思い出すと、そんな気がしてならない。

そして、また明日からは別の看板の施工に取り掛かる。

別れる時はあっけないのが、工事仕事での一番意外なところだと俺はいつも思う。

苦労はすれども結局は自分の物ではないのだから。

当然といえばそれまでだが、長く付き合う分、愛着はやはり湧くのだった。

そしてそのことを考え始めて、俺はこの最後の仕上げをすることにした。

自分が手掛けた証拠として、そしてあくなき野望のため、なんて、少し大袈裟だろうか?

よし。出来上がりだ。

もう一番鶏が鳴く頃に、俺達は速やかに撤収し、その看板を後にしたのだった。


それから俺は、全国のあちこちに飛び回り、あらゆる場所でテレビ看板を設置した。

そこそこでそれなりの苦労があり、自分的に物語も幾つかあった。

そして月日は流れて、俺はこの仕事から引退することとなった。

勢いに乗って、これまで仕事で突っ走ってきた俺だが、年齢も年齢。

よくやった。

退職金を会社からもらい、しばらくは生活に困らない程度の蓄えもできた。

俺はこれまでの自分へのご褒美に、いよいよ兼ねてからの極秘の計画を始めることにした。

老後の楽しみ。

俺は家で少しづつ組み立てた四畳半の秘密基地のソファーに腰を掛けた。

実に座り心地のよい高級感漂うソファーだ。

革製で作られたその表面は、独特な香りと滑らかな肌触りを楽しませてくれる。

俺はフカフカしたそのソファーに沈めた体を少し起こし、自分一人で完成させた秘密基地を眺めた。

目の前には幾つものテレビ画面が所狭しと並べられ、手元には大きな操作盤に無数のスイッチやツマミが規則正しく並んでいて、いつになったら役に立つのかを今か今かとヤキモキしながら構えているようだ。

俺は足元に付けたメインスイッチを、ゆっくりと優しく押し込んだ。

赤く点灯したそのスイッチに続いて、テレビ画面と操作盤にも色とりどりの灯りが賑やかに入る。

暗かった四畳半の秘密基地は蒼白い光に包まれた。

そして画面に映し出された各町並みは、色々な表情を俺の目の前の画面に映し出した。

そう。俺の計画。そしてあくなき野望とは、今まで自分で建てきたテレビ看板にカメラを仕込み、いや、それだけでなく、スピーカーや特別な受信チャンネルも密かに内蔵しておいたその設備。

看板設置中の仕上げに裏の奥の方に取り付けたため、誰にも解らない場所にひっそりと、長い間この時を待っていたものだ。

それでも機械は文句一つ言わない。

だから信用があり、好きなのである。

そして俺はこれを使って何をしようというのか?

それは、真夜中の特別番組の放送だった。

俺はカエルのお面を被り、テンガロンハットを頭に乗せて、各スイッチとツマミを動かし、送信用に機械を切り替えて、いよいよ今夜から始まるケロケロ放送局を開局したのだった。

午前零時。

一斉に看板の電源が切れたと同時に、こちらの画面にテレビ看板は切り替わる。

きっと、これを見ている通行人は、これといって不思議だとは思わないだろう。

何せ、看板には今日の掲示は終わりです。なんて、一つとして出ないのだ。

普段は時間がきたらピタッと消えるだけ。

それがただこちらに切り替わっただけなのだから。

俺は大して注目を集めていないこのケロケロ放送に、初めの第一声をあげた。


夜をお楽しみの皆さん、正義の味方ケロケロ星人の時間です。


俺の子供の時に夢中になったケロケロ星人。

あの頃の俺達の正義のヒーローだった。

トカゲ男や毛虫男爵をコテンパンにやっつけてくれた無敵のヒーロー。

俺はその姿を借りて放送に挑んだのだった。

しかし別に世直しをしようという訳ではない。

たかがこんな大きなテレビ画面が自由に使えたからって、大した事が出来るとは思っていない。

しかし何かが出来る筈だとは思うのだ。

そう、例えば。

俺はある画面に映っていた一人の寂しそうな女性をズームアップして、全てのテレビ看板に彼女を映し出し、声を掛けた。

そこの寂しそうな貴方。どうされましたか?

彼女は振り返って、こちらを見ると、テレビ看板に自分が映し出されているのを見て驚き、キョロキョロした。

俺は続けた。

私、ケロケロ星人には君の事が見えるのです。さぁ、どうしてそんな寂しそうなのか言ってみなさい。

すると彼女は驚きを隠せないままの表情でこちらに話し始めた。

実はさっき彼と別れてしまって、もうどうしたらいいのか解らないの。

俺は彼女に言った。

それは気の毒に。そんな時の解決方を特別に教えてあげましょう。

叫ぶのです。傷ついた心を癒すには、それを埋める、代わりの人を見つける。それが一番です。カメラに向かって言いたい事を叫んでみなさい。このテレビは全国のあちらこちらで君を映し出している。

その想いが誰かに伝わるかもしれない。さぁ!

彼女はカメラに向かって叫び始めた。

誰かいい人いませんか〜!

彼女はスッキリしたいい笑顔になって、お辞儀をすると、ふっきれましたと言って、その場を立ち去った。

俺は満足な気持ちで、彼女に心からエールを送った。

そして、他の画面に目を移すと、何やら一人の若者が手を大きく振っているのが見えた。

私は彼に声を掛けた。

私、ケロケロ星人を呼んだかな?

すると、その若者はやはり驚きながらも、目を輝かせて、僕にも言わせてほしい事がある。と言った。

俺は彼にズームを合わせて画面に映し出してあげた。

若者は、さっきの彼女に恋をしてしまったと、興奮気味に言ってきた。

俺は驚き、面白い展開になったと、顔を弛めた。

俺は彼に言った。

彼女は行ってしまった。私は彼女の事をあまり知らないし、君の事も分からない。だが、これも何かの縁だろう。彼女がいたテレビ看板の場所を教えてあげるから、自分で捜してみるといい。

若者はそれを聞くと、わかったと元気のいい返事をした。

それから、他のテレビの前にいたカップルに話し掛けて、幸せそうなツーショットを記念に映してあげたり、仕事で失敗をしたと酔っ払っていた男にうっぷんを叫ばせたりと、俺はやりたい放題テレビを使い、色々な人達と話し合い、接した。

実に楽しい時間だ。

それから夜中のこの一時は私にとって最高の時間となり、町では噂が噂を呼んで、夜中零時を過ぎると、若者達がテレビの前に集まるようになった。

俺は語り合い、時には相談に乗り、叫ばせたり、縁結びなどもした。

そして、そうこうしている内に、メディアが食い付いてくるようになったので、俺は毎日欠かさずしていたケロケロ放送を、しばらくランダムにやることに決めた。

騒ぎが大きくなると何かと厄介になるのはわかっていたからである。

そしてそんなこんなでケロケロ放送は伝説物扱いされ、しばらくは注目を集めたが、ある時を境に止めざるを得なくなってしまった。

それは俺の死がその原因だった。

俺は突然の病に倒れ、装置を誰にも知られることなくこの世を去ることになってしまった。

悔いが残る。もっと色々と他の事ができたのではないか?

しかし後の祭りだ。

俺はそれを置いて仕方なく旅立った。



さぁーてと。

俺はスイッチを入れた。

俺は死んだ後、ショボクレていた。

すると天国で神様がどうしたのかと訪ねてきたので、話してみると、神様は言った。

それ、ワシが使いたいの。この頃の神様離れの若者達にぴったりじゃ。

そしてケロケロ放送神様編がスタートしたのだった。



おしまい。



いかがでしたか?

今日のオススメのカクテルの味は。

またのご来店、心よりお待ち申し上げております。では。

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