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雨鯉  作者: 神矢 正人
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雨降りの1日目

第1日目 土砂降り


僕は雨が嫌いだ。じめっとした空気も嫌いだし、何より学生服が濡れる。学校に着いても晴れるということもなく、憂鬱な1日を過ごすはめになる。いっそ休んでしまえばいいと思ってしまうほどだ。クラスのマドンナと呼べる人もいない訳で、気持ちはガタ落ち。水曜日の理系ばっかりの授業なら、本当に休んでしまった方が得ではないかと思うが、意外と自分って単純だと知っている。どことなく、相合傘に期待してしまう日々が梅雨の時期は続く。まあ、どうせないものはないのだから期待したくても出来ない日々が梅雨の時期のように、どんよりと憂鬱に流れる。そんな、梅雨の楽しみは川の鯉を眺めることに他ならない。量が増して姿がぼやけていることに、どことなく季節を感じられるところが毎年の楽しみだったりした。

とりあえず、学校に着いたらリュックサックの中身のチェックが日課になってる。梅雨の時期ぐらい、置き勉をさせて欲しいところだが、そんな願いも届くわけもなく雨のように弾かれ、流れて行ってしまった。僕はクラスの中ではかなりの変わり者だから、リュックサックの中の本が濡れてしまっていないかを念入りに確認して、無事だったらほっと一息つきながら、その本を手にして眺めるのが日課になっている。無事じゃなかったら、どうなるかは自分ですらわからないが、たぶん雨よりもどんよりとしていることだろう。よっぽどの事がない限り僕は誤ちを犯す事はないはずだ。自分にとって、びっくりする事がないとこの世界はつまらないとまで感じるようになっていた。



1限目も2限目もその後も、時は嫌がらせのように遅く流れる。それも水曜日の授業となると嫌な教科の羅列だ。まさに最悪。つまらない授業と土砂降りの雨が僕の眠気をさらに誘う。止まない雨に心は病むばかりだった。先生もちらちらと雨を眺めながら、何かを言いたげな感じだった。国語の先生だから詩の一つか俳句の一つでも思いついたのだろうか、あるいは、雨が好きなのか僕にはまだわからない事だった。というよりも、興味がなかったと言った方が正しいのかもしれないが、全くなかったわけではなかった。今度聞いてみようかなとも思ったけど、自分には聞く勇気がなかった。まったく。かなり癖のある人見知りだから、いつもひっそりと片隅で過ごしている。雨のように大胆ではない。そう自分では思っていた。


給食を食べ終えて、雨は何か食べた後の子供のように激しさを増した。このままいくと、いつか力尽きて、午後は晴れてくれるかなと願いながら、数学と理科を受けた。しかし、雨は全く力尽きる事なく、どこぞの体育会系の人かと思うほど、力を増していた。これじゃあ、洪水のレベルなのかと思うほど強いが、どうせ明日になったら晴れているのかと思うと、嫌がらせをしてから逃げるような小心者のいじめっ子を思い浮かべてしまう。自分も小心者だけど・・・。


気付いたら、授業が終わっていた。ために溜めたため息を吐いた。口から鉛色をした重りが出てきたかのような気分だったけど、実際はほんの一部しか出ていなかった気がした。気持ち的には軽くなったのだろうが、重りの分を忌々しい水で満たされていく気がしてきた。このままだと、溺死でもしてしまうような深い水に飲み込まれていく。この雨の中を進むと考えると、本当にたどり着けるのか、少しずつでも詰めた方がいいのか、少しでも早く行った方がいいのか、去るのを待つのか、そうしたらどうやって時間を潰そうか。本を読んで待ってるいるのか。それは嫌だ。今読んでいる本も運悪く「雨」を題材にしている。バッドエンドには最高な雨だけど、ハッピーエンドには必要ないのけ者だ。トゥルーエンドも同じだが。今はバッドエンド感がものすごくあるし、バッドエンドを望んでいる訳がない。物語ではウェルカムだけど。雨に言っても無駄かもしれないけど、場をわきまえて欲しいとものすごく思う。誰もがそう思うと信じたい。現実ではかなり違うが。


土砂降りの中帰ろうとしたが気が引けて仕方ない。とりあえず、図書室にでも行こうかなと思い足を運ばせた。図書室の扉を開けると、幼馴染の松野香織が椅子に座っていた。図書委員の彼女が大声で僕の名を呼んだ。僕は「図書委員が大声を出してどうするんだい」と言ってみると、「中学生ってあんまり本に興味ないから、放課後にわざわざ来る人なんていないのよ。だから、一味違う図書室を演出してみたかったんだ。別にいいでしょ、誰もいないんだから、こうして座ってんのも疲れるのよね。結局は内申点を上げるためにやってるもんだしね」

「香織って、元々あんまり学力が良くはなかったはずなんだけどな」ぼそっと出た言葉だったけど、そんな声も拾うあの地獄耳は侮れないかな。ちょっとやばい。香織はあんまり学力の事について話されたくないらしい。簡単に言ってしまえば、地雷圏に踏み込む感じだと思うが、むしろ爆弾のオンパレードの戦争に不意に参加してしまったのかもしれない。

「ねえ。学力の事は言わない約束でしょ。これでも学年順位上がったんだからね」

「へぇ〜。でも点数は下がったんでしょ?仕方ないよねテストが難しくなってるからね」ちょっとおちょくりすぎた感じはあるけど、いつものことだ、こうしてないとおかしくなりそうな感じになっちゃうから。なんというか、落ち着かなくなってしまうのだ。いじりたい、それがたぶんこの気持ちの原因なんだろうな。ふと、図書館の天井を空も見えないのに見上げてしまった。

作者の神矢正人です。今回も読んでいただきありがとうございます。初の恋愛ものを書いてみました。安定の不定期投稿で申し訳ないです。

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