反撃 ~真夜中の死闘~
葬儀の日から少年は友人が殺されたであろう時間になると、バットを持って現場の公園に行くようになっていた。
普通なら夜にバットを持ってうろつけば不審者扱いされること間違いなしだろうが、少年は学校で野球部に入っており、誰かに見咎められても"家から公園にランニングして、公園で素振りして帰る"と言えばそれ以上言われることは無かった。
それから1週間ほど経った夜のこと。
いつものように公園の外灯の下で素振りをしていると、どこからともなくからかうような声が響く。
『おい坊主、こんな時間まで遊んでいると、怖~いお化けが出てきて頭から食われちまうぞ?』
「俺は遊んでなんかない、ここであいつが来るのを待ってるんだ! 文句があるならそっから出て来い!」
人をバカにするような声に怒りを覚えた少年だったが、相手が何処にいるのか分からず人が隠れられそうな闇が濃い場所へ怒鳴った。
「おいおい何処を見ている、俺はそっちじゃないぞ」
「うわっ!」
その声は突如少年の後ろから聞こえ、彼は驚いて反射的に前へ飛び出す。
振り向いた少年の目の先にいた者は、薄汚れた僧服を着た男だった。実のところ葬儀場にいたのもこの男だったのだが、少年はこの事を知らない。
「誰だ、お前!」
「坊主、お前は噂の殺人鬼を探してるんだろ? 悪いこたぁ言わねぇ、さっさと帰んな。帰って寝たら全部忘れるんだ。でなきゃお友達みたいになっちまうぜぇ」
振り向いて男を激しく誰何する少年だったが、男の方は彼の言葉を無視してこの件から手を引くよう告げる。
「嫌だ! 俺は絶対アイツを見つけて仇を取る、そう誓ったんだ!」
「ふん、そうかい、それなら言っといてやる。坊主、お前のやり方じゃ百年経ってもアレは出てこないぜ。もし俺に協力するってんならアレの事、少しは教えてやらんでもないがな」
少年の心意気に感じるものがあったのか、男は彼に協力することを促す。
「え、おじさん、アイツの事知ってるの? だったら教えて、いや教えてください!」
「お、急に素直になったな。いいだろう、教えてやる。と言ってもアレがどうやって発生するのか、未だによく分かっていないけどな」
少年の態度が教えを請うものに変わったことで気を良くした男は、先程よりフレンドリーになって説明を始める。
男によると、元々はその辺にいる無害な浮遊霊や地縛霊らしいが、何かの原因でそれらが集まったところで言霊を持つ誰かの言葉で実体化し、その言葉を言った者全てを殺害して回るらしい。
しかし何故実体化したモノ達が人を殺すのかは分かっていないし、そもそも漂っているだけの霊が集まることになるのかそれすらも分かっていない。
ただこういった事は昔からあった様で、男が所属している組織の長年の研究によりとりあえず発生原因みたいなものだけは掴んだらしいが。
それと引き金になる言葉はその時になってみないと分からず、また言葉にそれなりの力を持っている者であれば誰が言っても発生するのだとか。
そして男は組織の命により、全国から集まる情報を元に各地を巡り、人に害を為す人外の者達を調伏するのが仕事だという。
ちなみに"組織"といっても別に秘密結社とかいうものではなく、ある宗教団体がこの世のものでない者達に対するために設立したものであるらしく、表向きにも男はその宗教の僧として所属しているとのことだった。
「で、奴らは獲物が一人で居る時しか現れないし、俺たちみたく奴らに抗する力を持つ者の前にも現れない。まぁ古い記録ではそうでもなかったようだが、近い記録になると言霊を使って誘き出そうとしても現れず、結局別の場所で犠牲者が出たと書かれている」
「はあ、そうなんですか……」
長々と続く男の説明に少年はだんだんダレてきてしまい、答える返事も話を聞いているのか聞いていないのかわからないものになっていた。
「これこれ、人の話はきちんと聞くものだぞ。気持ちは分かるが、これはお前の命に関わることでもあるのだからな。それにお前は友達の仇を取るのだろ?」
「は、はいっ、ごめんなさい!」
少年は男の諭すような言葉を聞き、目が覚めたように頭を下げた。
「素直でよろしい。でだ、さっき言った協力してほしいことだが、お前には奴を誘き出してもらう」
「ええええっ! うそぉ……」
自分で敵を取ると言ったものの、実際に友人を殺した相手を誘き出すと知った少年は男の言葉に対しさすがにうろたえてしまう。
「さすがにビビッたか? だがさっきも言っただろう、俺では奴は姿を現さないって。一人じゃないと出てこないとも。かと言ってお前に死んで来いというつもりはない、まぁ死にそうな目には遭うかもしれんが……。だがこちらもフォローはちゃんとするから、死ぬような事はないだろう」
「え、フォローって? やっぱり一緒に戦ってくれるんですか?」
「まぁそれは無理だが、でも奴に気取られない程度に離れたところで見ているつもりではある。それからお前にこれを渡しておく、うまく使えばきっとおまえの助けになるだろう」
やはり一人で立ち向かわなければならないことに怖気ずく少年だったが、男が取り出した物が助けてくれると聞きその表情も少し和らぐ。
そして男が取り出したのは、七夕の時に使う短冊のような3枚の白い札だった。
「おじさん、俺を助けるって、これは武器にもなるんですか?」
「これは武器じゃない。これは"白神符"といってな、これに念を込めたり文字を書くと符に書かれた通りの事が出来る物だ。例えば怪我をしたとしよう、その時に符に"癒"と念じるか書くかしてそこへ貼る、すると文字通りその場所が治癒されるというわけだ。まぁ一応武器みたいなことは出来なくもないが。例えば"刀"や"剣"と念じればそれなりの効果を持たせることは出来るが、符がそれ以上伸びるわけでもないし一度斬りつけたら符の効力が切れるからあまり薦められないな」
男の説明に沈んでいた少年がさらに沈むが、何かを思いついたようにパッと明るくなる。
「でも、これを使えばアイツを倒すことが出来るわけですよね!」
「いや、この符じゃ奴は倒せない。言っただろう、この符は助けになると。逆を言えば助けにしかならないがな。お前なら正直、逃げるためぐらいにしか使えないだろうな。まぁ俺としてはそれでいいわけで、お前が逃げ回っている間に奴への罠を仕掛けて、それでもって奴を仕留める」
「それじゃ、俺はただの囮じゃないですかぁ……」
符が必殺の武器にならないこと、自分の役目がアレから逃げ回って時間を稼ぐことと知って少年は一気に落ち込んだ。そんな少年の様子を見た男は、焦ったように彼を慰める。
「そう落ち込むなって、ほら俺が前に出たら奴が出てこないだろ? だからお前の様な一般人に前に立ってもらうしかないんだよ。それに符を逃げるためにしか使えないといったが、もしお前が奴を前にして抱くだろう恐怖心を立ち向かう勇気に変えられたなら、もしかしたら、ということもあるかもしれないぜ」
「わかりました。この件から手を引けと言われたのに、引かなかったのは俺ですからね。がんばって逃げますよ」
男が慰めている間も少年は俯いていたが、やがてゆっくりと顔を上げる。
そしてその顔は、自分のやるべきことを見定めたかの様に真っ直ぐ男の目を見ていた。
「そうか、そう言って貰えると助かる。ああ、言い忘れていたが、込められる念は一文字で表せるものしか込められないこと、あと"殺"や"死"の文字は使わないこと。この符は持っているものに作用するから自分がやられるぞ。もっともそれらの文字では発動しないように、一応はなってるけどな。さて今夜はこれまでにして、明日も今頃の時間に出られるか?」
「はい、問題ないです。あ、でも奴を誘き寄せるのはいいんだけど、何と言えばいいんですか?」
2人が明晩の確認を取り合うと、少年はさっきから気になっていたことを男に聞いた。
「そうだな。まぁここで言ってもいいんだが、下手打つとお前が襲われる可能性もあるから悪いが自分で探してくれ。ヒントは巷でこの一件を何と呼んでいるか、まぁそういうことだ。簡単だろ?」
「あ、なるほど、わかりました。それじゃまた明日」
「おう、気をつけて帰れよ」
男のヒントでは実のところよく分からなかった少年だったが、家に帰ってからネットで調べればいいかと分かったように頷いて家路についた。
少年の足取りは軽い。
明日には友人の敵を取れる、そう思っていたからだ。
だがそれによって彼の心が浮きだってしまったのは、彼の年齢からすれば仕方のなかったことかもしれない。
少年は家路を辿りながら、男が言っていた奴を誘い出すための言葉を考えていた。
「確か、周りでこの事件が何て言われているかだったよな。あ、そうだ! "五寸釘殺人事件"とか"糠に釘殺人事件"とか言われていたよな!」
先ほどからの浮きだった気分に加え、問いの答えを思いついたことで少年は思わず口に出してしまう。
決して外に出してはいけない禁断の言葉を。
そんなことにも気付かず鼻歌でも歌い出しそうな雰囲気で歩いていた少年だったが、急に足を止め眉をひそめる。
「あれ? ここどこ? ってぇか、ここいつも通る道だよなぁ……」
少年が周りを見回すと、確かにいつも通っている道だった。
少年はわずかな違和感を感じてはいたが、気にせず歩いていく。
しばらく歩くうち、その違和感が確信に変わる。
「あそこの角を曲がれば10mも行かない内に家があるはずなのに、まだ着かないなんて……。まさか!」
そう思った瞬間、訳の分からない何かに心臓を鷲掴みされたような気がして、咄嗟に振り返る少年。
視線の先には、ソフト帽に衿を立てたコート、スラックスから靴に至るまで黒一色で染め上げた人影が5mほど離れた所に立っていた。
「うわあああああああぁっ!!」
友の仇が目の前にいるにもかかわらず、悲鳴を上げて背を向け逃げ出す少年。
しかしその人影は、逃げる少年を追おうともせずその場に佇んでいた。
男は少年と別れた後、罠を張る場所を選ぶため街中を練り歩く。
歩きながら男は、先ほど別れた少年の事を思い浮かべていた。
「被害者の葬式で見かけた時は友達思いな奴だとは思っていたが、まさか本気で敵討ちに出るとはなぁ……。んでもって、協力者にもなるとは夢にも思わなかったぜ。ま、せいぜい死なないようにフォローしてやっか…………なっ!?」
どこか余裕のある様子で呟く男の顔が、突然驚愕の色に染まる。
「……まさか、言っちまったのか坊主……。だが、まだ結界は張られたばかりだ、死んじまったとは限らねぇ。だから、俺がそこに行くまで、死ぬんじゃねぇぞ坊主!!」
男はそう心の内で叫ぶと、懐から白神符を取り出し額に当てる。
すると符に"探"という字が浮かび、ある方向を指し示した。
そして男は符の指す方へ猛然と駆け出す。少年の生存を願いながら。
少年は逃げた。
逃げながらもあの影が後ろから追ってくるんじゃないかと、チラチラと振り向きつつ走った。
あまり大人が通らない細い道、入り組んだ路地裏、人一人通り抜けるがやっとの家の隙間を通り抜けひたすら逃げた。
そして自分が今どこにいるのか分からないくらい逃げ回った結果、何故かさっきまでいた公園に辿り着く。
「はぁはぁはぁはぁ……。何だったんだあれは? アレ見た途端、何だかものすごく怖くなってきて逃げちゃったけど。まさかアレがそうなのか、アレがあいつを……」
さすがに走り疲れた少年は、公園の中程にある外灯に程近いベンチに座った。
この公園は中央に円形の池があり、その周りを環状に通路が取り巻いていて、少年のベンチからは公園のほぼ全景が見えた。
ちなみにベンチの後ろには通路を取り巻くように木が植えられているものの、その後ろは壁になっていて公園の外縁を囲み、中に入るにはいくつか設けられた入り口から入るしかなく、そこだけを見ていれば出入りの監視は出来た。
しばらく入口辺りを注視していたが、誰も入ってこないことに安堵のため息をつく。
「ふう、何とか逃げられたかな? でもどうしよう、このままじゃ家に帰れないし、おじさんの連絡先も知らないし……」
少年が俯き加減で今後のことを思案していると、不意に誰かが彼の肩を掴んだ。
肩を掴む手に男が助けに来てくれたと思った少年は、安堵と嬉しさが綯い交ぜになった表情で顔を上げる。
「ん? おじさんかい? 助かったよ、実はさ……。う、うわああああああぁっ!」
しかし、少年が顔を上げた先にいたのは僧服の男ではなく、さっき見た"黒尽くめ"だった。
撒いたと思っていた者が目の前にいて自分の肩を掴んでいる事に、少年はあまりに驚き悲鳴を上げてしまう。
その悲鳴も次の瞬間には、別の意味の悲鳴に取って代わられた。
「いてぇっ! 痛いっ! 痛いっ! 放せ、放せよぉっ!」
なんと"黒尽くめ"は少年の肩を掴んだまま、ベンチから引っこ抜くように持ち上げたのだった。
掴まれた肩の痛みとぶら下げられた恐怖で少年はジタバタともがくが、逃げられるどころか肩を掴んだ指がさらに食い込み余計に痛みを受ける羽目になっていた。
そんな中、少年の目に"黒尽くめ"の顔が映る。
"顔"といってもその辺りは黒いもやの様なもので覆われ、普通の人の顔に付いている目鼻や口などの器官が全く見えずその表情も分かるはずがなかった。
しかし少年にはその"顔"がニヤニヤと自分を嘲笑っているような気がして、彼の中で"殺されるかも"という恐怖が"殺されてたまるか"という怒りに変わっていった。
「この野郎、放せ、放せよっ!」
少年はぶら下げられている状態ではあるが、出来る限りの力を込めて蹴りつける。
しかしというかやはりというか、彼がいかに思い切り蹴りつけても"黒尽くめ"はビクともせず、むしろ嘲笑が深くなった気がした。
それでも怒りに任せて抵抗を続けるが、いくらやっても相手が全く堪えていないことに少年の心はまた恐怖に取って代わられていく。
そして彼の心境の変化を読んだのか"黒尽くめ"は、右手に五寸釘を掴み振り上げた。
「!!」
振り下ろされる釘に、少年は目を瞑り空いていた右腕で顔面をガードする。
しかしそんなガードはすぐに弾かれて釘は彼の額に打ち込まれるだろう、見ている者がいれば誰もがそう思うような状況だった。
「ヌ・カ・ニ・ク・ギ~」
"黒尽くめ"もそう思ったのか、その声に少年は自分を嘲笑う響きと共にどこか楽しげなものも混じっているような気がした。
そして、振り下ろされる釘に少年が死を覚悟したとき、奇跡が起きる。
釘が刺さるか刺さらないかの瞬間、少年の身体が"黒尽くめ"の手から滑り落ちるように地面に落ちたのだ。
しかし少年は自身に何が起こったのか分からず、そのまま尻餅をついて呆然と座り込んでしまう。
このままではまたすぐに襲われるだろうが、呆然としたのは"黒尽くめ"も同じだったようで、しきりと自分の右手と左手を代わる代わる見ては首を傾げていた。
そんな中、いち早く正気に戻り"黒尽くめ"の様子を見た少年は、今がチャンスと逃げようとする。
しかし、さっきのショックが抜けていないのか足腰が立たず、結局座ったままじりじりと後退ることになってしまったが。
一方の"黒尽くめ"は、少年が離れていくのに気が付いていないのかまだ自分の手を見ていて、彼が3mほど離れてもまだ気付いていない様だった。
そんな"黒尽くめ"の様子に、このまま逃げられるんじゃないかと少年の心の中に小さな希望の灯が点る。
しかしそれこそが奴の仕掛けた罠だった。
抜けられた一瞬こそ混乱したものの、その態度を取り続けて少年の逃げ道を作り、さらにそれを潰して見せることで彼を更なる絶望に陥れようとしたのだ。
"黒尽くめ"は少年がそう思った瞬間、首をゆっくりと彼の方に向ける。さっき見せた(?)嘲笑を顔に貼り付けて。
その様子に少年は、隙を突いたつもりが実は"黒尽くめ"の掌で踊らされていたと気付き、彼が抱いた希望の灯が一瞬で消えていった。
"黒尽くめ"は少年にさらなる恐怖を与えようというのか、殊更ゆっくりと距離を詰めていく。
「来るな! 来るな! 来るなぁっ!!」
幾度となく希望を断たれた少年は、右手に持ったバットの存在すら忘れ、ただただ泣き叫びながらズルズルと後退っていった。
そんな逃げる先に絶望しかない追いかけっこにも、ついに終わりの時が来る。
少年の背中が池と通路を隔てる柵に当たり、それ以上下がれなくなってしまったのだ。
ここぞとばかり一気に詰める"黒尽くめ"に少年が諦めて目を閉じた時、2度目の奇跡が起きる。
"黒尽くめ"の手が少年にかかろうとした瞬間、2人の間に何らかの力が生じ奴を10mほど弾き飛ばした。
「え? 何? 何が起こったんだ? ……あれ? なんか尻の辺りが熱いなぁ……、あ」
状況に頭が追い付かず呆然と呟く少年だったが、尻のポケットの辺りに何か熱を感じ手を突っ込む。
そこから出てきたのは、男から貰った3枚の内の2枚の札と焼け焦げたような紙くずだった。
その札の1枚は取り出した瞬間熱もなく燃え、ボロボロに崩れて風に流されていった。
札が崩れる寸前、少年はそれに"弾"の一文字が書かれていたのを見て取り、さっきからの不思議な現象は札の力だと悟る。
その瞬間、彼の脳裏に男の言葉が浮かんだ。
(もしお前が奴を前にして抱くだろう恐怖心を立ち向かう勇気に変えられたなら、もしかしたら、ということもあるかもしれないぜ)
少年はバットを杖代わりにしてゆっくりと立ち上がり、ズボンについた砂を払う。
その間にも"黒尽くめ"は少年を襲おうと思えばできるはずなのだが、また弾き飛ばされる事を警戒しているのかその場所から動かなかった。
動かない"黒尽くめ"を尻目に少年はバットに札を貼り付け、グリップに手をなじませるかのごとく軽く振る。
それからバットで一旦"黒尽くめ"を指し、バッターボックスに立つ時の様に構えて言った。
「来い!」
その時の少年の目には"黒尽くめ"に対する恐怖や怒りは一切なく、奴に立ち向かおうとする強い意志だけがあった。
さすがにバットで指されて腹が立ったのか、"黒尽くめ"は少年に向かって猛然と駆け出す。
しかし高さ190cm超の黒い壁のようなものがかなりの勢いで迫るにもかかわらず、少年の構えは微動だにしなかった。
「ヌ」
「いい事を教えてやる」
迫る"黒尽くめ"の叫びに抗するかのごとく、少年も呟く。
「カ」
「この世にはな」
"黒尽くめ"を見据えつつ、少年は手首を軽く絞ってバットを握りなおす。
「ニ」
「出る杭(釘)は打たれる、ってぇ言葉が」
少年の言葉を受けてかバットに貼り付けた札に"打"の文字が浮かび、札が光り始めた。
「ク」
「あるんだよ」
渾身の力を込めて少年はバットを振る。
「ギ~」
「覚えとけ!」
"黒尽くめ"が振り下ろす釘を少年のバットがその真芯で捉え、そのまま弾き飛ばす。
そして"黒尽くめ"の手を離れた釘は、一直線に奴の額に突き刺さった。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
"黒尽くめ"は、公園中に響き渡るような叫びを上げて仰向けに倒れ、そのまま動かなくなった。
2018/10/ 3 少年があの言葉を言ってしまった直後の男の様子を書き足し。
2018/10/ 9 前述の文章を一部修正。
2018/12/ 8 前述の文章の誤字を修正。男の呟きのセリフを一部変更。




