発端 ~惨劇の町~
ある冬の夜、事件は歩道に倒れていた男性の死体から始まった。
その額には五寸釘が1本刺さっていた。
死因は、額に打ち込まれた五寸釘に脳を破壊されたためである、と後に発表された。
男が殺された歩道は、殺害された時刻には仕事帰りに一杯呑んで帰るサラリーマンや、夜の街に繰り出そうとする若者たちなどで人の流れが途切れることなかったにもかかわらず、誰も殺される所を見たものはいなかった。
殺された男性の背後を調べてみるも、彼はどこにでもいるごく普通のサラリーマンだった。
少しばかり酒好きなためいつも仕事帰りに呑んで帰りが遅くなり、その事でいつも妻とケンカが絶えない、という点を除けば。
当然、男の妻にも疑いの目は向くが、丁度その日は彼の出勤前に玄関先でいつのもようにケンカをし、彼の出勤後に身の回りのものをかばんに詰めて実家に帰ったらしい。
男が死んだ翌日、警察が妻の実家に電話で所在を確認すると、彼女は昨日から帰って来ているが昨日は家から一歩も外に出ていないとのことで、彼女にも電話に出てもらい事情を説明するが電話口で泣き叫び話にならなかった。
捜査線上から男の妻が消え捜査に陰りが見えたころ、新たな情報が2つ入ってきた。
事件当夜、あの時刻辺りの現場である歩道上で身長が190cm位、黒いソフト帽を被り襟を立てた黒いコートを着込んだ人物が立っていたということ。
もう一つは、事件当夜現場近くで被害者に体をぶつけられた者がいて、曰く被害者はかなり酔っていて「どうせ俺になに言ったって糠に釘ってかぁ? うるせぇんだよバカ女……」とか呟いてそのまま立ち去り、誰かにぶつかったことすら分かっていなかったらしい。
しかし、被害者は死ぬ寸前までひどく酔っていただけで、殺されるようなトラブルに遭ったわけではなかったし、コートの人物にしても目撃者によるとその場に立っていただけらしい。
さらにコートの人物は目撃者が自分を見ていることに気付いたのか、目撃から3秒もしないうちに近くの路地の奥へと去って行ったということだった。
警察は、そんな役に立つのか立たないのか分からない情報しかないことに落胆を覚えたが、とりえあず被害者の足取りを追うこととコートの人物に関する聞き込みを行うことにした。
そしてこの奇妙な殺人事件は、まだ情報が少なすぎて一般には情報公開していなかったが、被害者にぶつけられた者が被害者が言った言葉をネットに流したようで、ネットでは被害者の言葉の"糠に釘"をとって"糠に釘殺人事件"とか"五寸釘殺人事件"と呼ばれるようになっていた。
事件から数日後、被害者の妻の実家にて。
彼女は両親との夕食の後、リビングで家族とテレビを見ていた。
「あの日の朝、旦那とケンカして"アンタになに言っても糠に釘だわね。呑んでもいいけど、もう家には帰ってこないで!!"って……。あの人、人よりちょっと外で呑むのが好きなだけで酒癖が悪いわけでもないし、家にいるときは家事も手伝ってくれて、ホントいい人だったのよ。でも週に3,4回も呑んで遅く帰ってきたら、流石に腹が立っちゃってつい言っちゃったのよね。でも、もしあの日のケンカがなかったら……」
そう言って彼女はソファの上で膝を抱え、その足の間に顔をうずめた。
少し離れた席でそれを見た彼女の母親はスッと立ち上がり、彼女の左隣に座って右腕で右肩を抱き寄せ頭を撫で始める。
「そんな事言わないで。彼が亡くなったのは、別にあなたの所為じゃないのだから。あなたがそんな顔してたら死んだ彼も浮かばれないわよ」
「そうだな、母さんの言うとおりだ。彼が死んだのはお前の所為じゃない。悲しいのは分かるが、いつまでもお前がそうしていたら彼も悲しむんじゃないか?」
父親も立ち上がり彼女の右隣へ座るが、母親のように抱きしめもせず俯き加減で両手を組み、テレビの方へ目を向けてまるで自分にも言い聞かせるように話した。
「お母さんありがとう、もういいわ。お父さんもね。でも彼が死んで1週間にもならないのに、心の整理なんてできないわ。だから、今は一人にしてちょうだい」
彼女は母親の腕を優しく振りほどくと立ち上がって2人に頭を軽く下げ、2階にある自室に入っていった。
彼女の自室は入って突き当たりが窓でその右側にはベッドとその手前にクローゼット、左側には彼女が小学生の頃から使っている学習机と本棚と5段くらいのタンスがあり、中央には高さ30cmほどの小さいテーブルがあった。
彼女はテーブルの前に座ってその上に夫との写真をばら撒き、その1枚々々を見ては泣いていた。
「あの時、私があんな事言わなければよかったのかなぁ。"あなたになに言っても糠に釘ね"なんて言っちゃったけど、ほんとはそこまで思ってなかったのに……。うぇっ、うぇっ、うえええええん」
夫のことを思い出しながら静かに泣き伏す彼女だったが、突如背後に何かがいるような気配を感じ振り向く。
「だあれ? お母さん? えっ、誰!?」
振り向いた先に立っていたのは、身長が190cmもある黒尽くめの人物が立っていた。
彼女はその人物の顔を見るが、何故かその辺りがぼやけていて男か女かすら判らなかった。
「あなた誰? どこから入ってきたの!? ここで何してるの!? さっさと出て行きなさいよぉっ!!」
いきなりの事に彼女は、知らぬ間に他人が自分の後ろに居るという恐怖の前に自室に勝手に入り込んだ事に怒りを感じて立ち上がり、目の前の人物に食って掛かる。
しかしそいつは、彼女に食って掛かられても微動だにせず、いきなり彼女の右肩を掴みニタァと笑う。
彼女は顔全体がぼやけてよく分からないにもかかわらず、何故かそいつがそんな顔をしたことが分かった。
そして、そいつは言った。
「ヌ・カ・ニ・ク・ギ~」
「何よそれ! 何なのよぉっ! やめてよぉっ! 離してよぉぉっ!!」
そいつの一言で彼女は恐怖に囚われ、叫び声を上げるが体は動かなかった。
そして彼女が最後に見たものは、そいつが振り上げた右腕の先に光る金属の棒のような物が自分に振り下ろされる瞬間だった。
「おい、どうした! 何があった!? ……おお、何てことだ」
リビングに重い物が落ちたような音が響き、もしやと思い慌てて娘の自室に駆け込む父親。
その部屋の様子に父親はガックリと膝をつき両手で顔を覆い、後ろについてきた母親も部屋の中を見て夫の背に泣き崩れた。
2人が見たものは、彼女の夫と同じように額に五寸釘を打ち込まれ、恐怖の表情で息絶えていた娘の姿だった。
第2の事件から幾日が経つが一向に捜査が進展せず、特に第2の事件では犯人がいかなる方法で部屋に入ったのかも分からなかった。
発見者の両親によれば、2階に上がろうとすればリビング脇の廊下を通るしかなく、彼らはその日を含めた数日間娘に何かあってはとリビングの扉を閉めず夫婦が交代で常にリビングに居る様にしていたという。
事件当夜のその時刻も、父親がリビングに居て誰も2階に上がるのを見なかったとのことだった。
流石に今回の件には警察も頭を抱え、捜査が暗礁に乗り上げたことで彼らはついに公開捜査に踏み切り、市民からの情報を得ようとした。
しかしそのため、一地方都市の小さな町の三面記事にも載らない様な都市伝説がその県全体に、そしてネットから全国に広がってしまった。
その日以来、額に五寸釘を打ち込まれて殺害されるという事件が全国でポツリポツリと起き始めたが、パニックを恐れた警察は事の真相がはっきりするまでマスコミに緘口令を敷いた。
その都市伝説が全国に広まってからさらに数日後、最初の事件が発生した場所を校区に含む中学校にて。
下校時間が過ぎた人気の無い校舎の裏に6人の少年達がいて、気弱そうな少年を残りの少年達が囲んで何かをしようかといった感じだった。
「おい、お前、今日はアレを言えば勘弁してやるって言ってるのによぉ。一言だけじゃん、言ったら今日は金を取らないでいてやるよ」
「いやだよ、だってアレは、怖いよ……。もしかしたら、本当になっちゃうかもしれないじゃないか」
リーダー格の少年の脅しに泣きそうながらも必死の抵抗を試みる少年だったが、目の前の少年が右手に五寸釘、左手に金槌を持っているのを見て顔を青褪めさせた。
「言わなきゃ言わないでいいぜ、この釘がお前のデコに突き刺さるだけだけどなぁ!!」
リーダー格の少年が振り上げた右手を見て、少年は完全に気持ちが折れたらしく泣きじゃくりながら口を開く。
「わかったよぉ……、言えばいいんだろぅ、言えば……。ぬ、糠に釘……」
「ああ、ついに言いやがった。言いやがったぞ、こいつ! 明日の新聞にはこいつの死亡記事が載るぜ! ギャ~ハハハハハ!!」
「あ~あ、言っちゃった、言~っちゃった。おりゃしらね~。ハ~ハハッハッハ」
「お前の葬式にはちゃんと出てやるからな! でも、お前の死に顔見て爆笑するけどなぁ~!」
「お前の魂が迷わず成仏できるように拝んでやるよ、な~む」
「明日またここで会えることを祈っているよ、なんてな。ギャ~ハッハッハッハ」
少年の一言に、爆笑するリーダー格の少年とその取り巻き達。彼らの笑う姿にいたたまれなくなった少年は、泣きながら校門へ駆けていく。
そしてその場に残った少年達は、彼の姿にさらに爆笑するのだった。
その日の夜、あの言葉を言わされた少年は夜道を独り歩いていた。
肩からかばんを提げている様子から、おそらく塾の帰りだろうか。昼間の事があったからか、街灯が照らす明るい場所を選んで足早に進んでいく。
しかしある場所の前に来て少年はぴたりと足を止めた。少し大きな公園だった。
彼の家は公園を突っ切ればここから5分で帰られるのだが、公園を迂回すると15分は掛かってしまう。
「どうしよう。公園を抜ければすぐ家だけど、街灯が少なくて暗いし、回り道だと時間が掛かる上に暗い場所もあるしどうしよう……」
少年は公園の前でしばらく逡巡するが、意を決して公園の中へ走っていった。
少年は街灯を目指して走った。彼は学校ではいじめられっ子ではあるが運動能力は低くなく、クラスの中でも足は速い方だったので怖いながらもそれを頼りに走っていく。
あと1mほどで街灯の下というところで、何かにぶつかって転んでしまった。
怖いもの見たなさに俯きかげんで走っていたため、前方への注意がおろそかになってしまっていたのだ。
「あっ、どうもうすみません。大丈夫ですか? 僕、ちょっと急いでるんで失礼します」
ぶつかったのが道の上だったのでおそらく人だろうと思った少年は、起き上がると一言詫びを入れそのまま走りだした。
しかし彼は、1、2歩進んだところでそれ以上進めなくなっていた。後ろからものすごい力で肩を掴まれ、それ以上動けなかったのだ。
焦った少年は少しでも前に行こうと必死に足をバタつかせつつ、なんとか許してもらえないかと前を向いたまま思いつく限りの言葉を口から出していく。
「あ、あ~、どうもすみませんでした。別に逃げるつもりはないんです、ただ明日も学校があるし、早く帰らないと両親にも怒られますし……。あ、まさか、どこかお怪我をされたとかですか? 家に来てくれれば応急処置も出来ますし、なんだったらそのまま病院とか行かれます? でもその前に僕の家に寄って両親に事情を説明しないと。ああ~、とにかく離して、離してください。何で? 何で離してくれないんですかぁ!? いいかげん許して、許してくださいよぉぉ! お願い! お願いしますからぁ…………」
口から出る限りの言葉を出しまくった少年だったが、最後の方はほとんど気持ちが折れたのか足も止まり、声も泣き声になっていた。
そして少年の肩を掴んでいたものは、彼の言葉が止まると同時に強引に振り向かせる。
振り向かされた少年が見たものは、190cmくらいの体に帽子から足の先まで黒尽くめで、その顔はぼんやりとしていて目鼻立ちも分からず、男か女かも判らなかった。
そいつはしばらく無言で少年を見つめていたが、やがてニタリと笑い右腕を振り上げてポツリと言った。
「ヌ・カ・ニ・ク・ギ~」
公園の静寂を絶叫が切り裂いた。
同日の夜、いじめっ子のリーダー格の少年は自宅の2階にある自室で、床に座りベッドにもたれかかりながら独りゲラゲラと笑っていた。おそらく、学校での一件を思い出しての事だろう。
「あいつ、なにビビッてんだか。あんなの何の根拠も無いただの噂話じゃないか、そんなもんにビビッて泣きべそまでかくなんて、どれだけ気が小せぇんだよ。"糠に釘"だってか? そんなもんあるわけねぇじゃねぇか。もしあったとしても、こっちの五寸釘をぶっ刺してやらあ。ハハハハハ」
少年はひとしきり笑い、いじめた少年に悪態をつくと傍らに置いてある、学校で脅しに使った金槌と五寸釘を取り上げてさらに笑った。
と、その時、自室のドアがノックされる。
「は~い」
少年はドアに向かって返事をするが、声が返ってくる事は無く、また誰も入ってこなかった。
「は~い、だれ~?」
空耳かな、と思いつつも念のためドアの向こうに声を掛けるが、やはり返事は無い。
そしてまたドアがノックされた。
「だ~れ~? かあさ~ん? あにき~? 用があるなら入ってくりゃいいじゃんよ」
はっきり空耳ではないことが分かり、家族だと思って声を掛ける。
しかし、ドアの外から声が返ってくる事はなく、ノックが繰り返されるのみだった。
「誰だって聞いてんだろ! てめぇは口もきけねぇってのかよ!」
思わずイラついて声を上げ、傍にあった本をドアに投げつける。
本がドアに当たって結構大きい音がしたが家族の誰かが階下から上がってくる様子もなく、ただ一定の間隔でドアをノックする音だけが部屋に響いていた。
「なんなんだよ、一体……」
さすがこの状況に薄ら寒いものを感じた少年は、無視を決め込みベッドに潜り込む。
しかしそうしてもノックが止まることはなく、むしろ部屋が静かになった分余計にノックの音が耳に障り、結局苛立ちを増長させるだけになってしまっていた。
「ああ、もうっ! ホントになんなんだよぉっ!」
苛立ちが最高潮に達した少年は被っていた布団を跳ね上げ、さっきまでいじっていた金槌と釘を持ってスルリとベッドから抜け出した。
そろりそろりと音を立てないように、すり足でドアへと近付いていく。
そしてドアの前にたどり着くと、一旦止まって息を整えてから一気にドアを開けた。
ドアを開けたその先に見えたのは、真っ黒な壁だった。
よく見るとそれは頭が天井に着きそうなくらい大きな、そして上から下まで真っ黒な人の形をした何かだった。
「うわあああああああぁっ!」
それを見た瞬間、少年は怒りよりも恐怖に駆られて五寸釘を振り上げ、目の前の"黒い壁"に突き刺す。
「やった! え?」
しかし少年が釘を刺したと思ったのも束の間、気が付くと部屋の真ん中で倒れていた。
背中と胸の痛みで呻きながらも目をドアの方へ向けると、足元にはいつの間にか入ってきたのか"黒い壁"が立っていて、そのまま微動だにせずただ少年を見下ろしていた。
"壁"が自分を倒した以外に何もしないことに、少年は何が何だか分からなくなっていたが、とにかく目の前の"壁"から逃げるため、部屋の出入り口まで気取られぬ程度の速度で這っていこうとする。
しかし頭ではそうでも身体は思うほど動かず、その場で身じろぎしているのとさして変わらなかったが。
そんな状態の少年を前に"壁"は、何をするでなく彼の足元でじっと佇んでいた。
殺されるかもしれないという恐怖と、逃げたくても思うように動けない焦りが交錯する中、少年の視界にあるものが目に入る。
さっき持っていた金槌だった。
それに生への希望を見出した少年は、相手に悟られぬようジリジリと仰向けのまま這っていく。
どれくらいの時間が掛かったか、やっとの思いで金槌を掴んだ瞬間。
「ぎゃああああああっ!」
少年がどれだけジタバタしようが一向に動く気配を見せなかった"壁"が、彼が認識するよりも速く近付いて彼の金槌を持った方の前腕を踏みつけたのだ。
「うわあぁぁぁぁっ!」
腕の激痛と持っていた希望が絶望へ落とされたことで錯乱した少年は、動く方の腕で踏みつけた足を何度も殴りつける。
しかし"壁"は何の痛痒も感じないのか全く微動だにせず、少年が殴るに任せていた。
「なんでだよう。なんで俺がこんな目に遭わなきゃなんないんだよぉ……」
殴っても殴っても全くこたえた様子もなく、いつしか少年は殴るのを止め泣きじゃくっていた。
少年が殴るのを止めると、"壁"は少年を押さえ込みながら仰向けにし両肩を膝で押さえつける。
「いやだぁぁぁぁっ! やめろおっっっっ! やめてくれぇぇぇぇぇ!」
"壁"が右手に持っている物を見た少年の顔は恐怖に染まり、最後の抵抗とばかりに首を振る。
しかし、"壁"はそれを許さず左手であごを掴み、右手を振り上げた。
振り上げられた右手には、五寸釘が鈍い光を放っていた。
そして少年は、"壁"の顔らしき部分が、表情が見えるはずもない程ぼやけたそれが、ニタリと笑った、そんな気がした。
「ヌ・カ・ニ・ク・ギ~」
自分に振り下ろされるモノを見ながら少年の脳裏には、"ああ、たぶん、あいつももう殺されてるかもなぁ……"、それだけが浮かんだ。
「きゃあああああああっ!」
翌朝、少年を起こしにきた母親が部屋に入った瞬間、近所中に聞こえるような大声で悲鳴を上げる。
中には右手に金槌、左手に五寸釘と、あたかも自分の手で額に五寸釘を打ち込み自殺したような彼の亡骸が横たわっていた。
それから数日後、公園で死んだ少年と彼をいじめていた少年の葬儀が行われた。
同じ学校の同級生だから合同で執り行っては、という意見も出たが2人の関係が同級生という以外に"いじめをする側とされる側"という関係もあったため別々の場所で時間をずらしてする事になった。
しかし、どちらの葬儀にもいじめグループの残りの4人は出席しなかった。
彼らはいじめた少年どころかグループのリーダー的少年まで死んだと聞いてから、4人が4人とも次は自分達の番だと震え上がって午前中に病気早退で家に帰ってしまい、それ以降一歩も外に出なかったからである。
それから結局彼らは外へ出ることが出来なくなってしまい、成人といわれる年齢になってもまだ家に引きこもることになってしまったのだが、それはさておき。
公園で死んだ少年の葬儀で、怒りと悔しさの目で遺影を見つめる少年がいた。
彼は死んだ少年とは同じクラスであり、小学校の時からの友人でもあった。
「必ずお前を殺した奴を探し出して、仇を取ってやる」
葬儀が粛々と進む中、少年は心の内でそう呟く。
そんな少年の背中を、薄汚い僧服に身を包んだ男が見つめていた。
その男は参列者の最後列のさらに後に一人で立っていて、何かを探すように会場中を見渡していたが、少年を見つけると一つ頷きそのまま出て行った。
不思議なことに、葬儀場にそんな男がいたことや出て行ったことを誰も気付いていなかった。
2017/5/19 4人目の被害者の殺害シーンを修正。
2017/9/29 本文の一部を修正。