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シスコンリーマン、魔王の娘になる  作者: 石田ゆうき
第4章 国境の外へ。戦いのはじまり
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054 地上の星

 夕方まで待ってから周囲の偵察をはじめた。

 確認すべきは、南側に他の島や陸地があるのか、だ。オレは背中の羽と魔法の力を併用して空を飛べる。距離が近ければ、船無しでも移動可能だ。


 近くに陸地がなかった場合は仕方ない。獅子面の船をかっぱらうか、ヤツをおどして船を出させるなどの強硬手段をとることになる。服と食べ物も貰ったし、出来る限り恩知らずなマネはしたくないけれど……。


 オレは海に向かって全力でダッシュした。その勢いを利用して飛び上がり、低空飛行で島から離れていく。しばらく飛び、島から十分な距離をとったところで垂直上昇に切り替えた。これで島のヤツらには気づかれないだろう。たぶん。


 はるか上空から海を見回した。

 しかし島も陸地も見えなかった。眼下に見えるのは、夕日に染まったキレイな海だけだ。


 ──ガッカリして方向転換しようとした時、海上になにか動くものを見つけた。

 現在の高度と距離から考えて、かなり大きい物だと推定できる。


 魔法でさらに視力を強化し、動く物の正体を確認する。

 強化した目に飛び込んできたのは、マストが破損し、船体が傷んだ船だった。

 ……あれは、オレたちが乗ってきた船だ!


 道に迷ったのか、それとも船が壊れて航行できないのか。

 どちらにせよ、オレたちにとっては都合がいい。オレは急いで島に戻ることにした。デトナを連れて島を出よう。今ならもう一度あの船に乗り込める。


 ──島に戻ろうと真後ろに振り向いた時、また「おかしなもの」が見えた。


 木が生い茂った小さな島がある。オレたちが漂着した島だ。

 島の西側は小高く盛り上がった丘となっている。そしてその丘の上には、土を盛り上げて作った大きな要塞があった。


 城でも砦でもなく要塞と表現するのには理由がある。城塞に付き物の塔や物見ヤグラのようなものが一切なく、高さを抑えた形になっているのだ。なんだったか、陽菜が詳しく説明していたんだけど……。


 土で作られた壁? のようなものは、上から見ると星の形を描いている。歴史の教科書で見た五稜郭とよく似ていた。広さはたぶん五稜郭よりもかなり広い。星の頂点と頂点を結んだ中間点には、それぞれ三角形に盛り上がった陣地があり、キレイな幾何学模様を構成している。


 さて問題は、この五稜郭に似た要塞が、なぜこんなところにあるのか、だ。


 自然物ということはありえない。人工物であることは間違いないが、その形が異様だ。今までに見たこの世界の城郭とは違いすぎる。


 ──たしか、このタイプの要塞は一時期ヨーロッパで流行した、と陽菜が言っていたな。それまでの城から変化した理由と経緯も教えてくれたはずだが、思い出せない。こんなことになるなら、ちゃんと話を聞いておけばよかった。陽菜のドヤ顔がうざくて聞き流してしまった……。


 ともかく、この星形要塞を作ったのはこの世界の人間ではないと考えていいだろう。そもそも魔族は、城の防御力に頼って戦うようなことはしないし。オレたちの世界からきた誰かが作ったと考えるのが妥当か。


 ……そういえば魔王会議とか言って、大昔に通貨や単位の統一をしたヤツがいたな。もしかして、コレもそいつのしわざか?


 ありえるな。獅子面は、その遺物を有効利用するために隠している。要塞の中にはなにか珍しい物も残っているかもしれないから。……いやまて、むしろあの獅子面が、魔王会議で世界のルールを決めた張本人の可能性すらあるのか。


 どうしよう。もう一度会って確かめてみるか? 貴重な情報を得られるかもしれない。ただし獅子面が珍しい遺物を利用しているだけの魔族だった場合は、面倒なことになる。さて──


 その時「なにか」が視界の端に入った。それは猛スピードでこちらに向かってくる。考え事に集中しすぎて、周囲の警戒がおろそかになっていたようだ。


 弾丸のように突っ込んできた「なにか」は、あわてて避けようとしたオレの胴体を切り裂いて通り過ぎた。ものすごい風圧とともに、轟音があたりに響く。

 なにかの攻撃で服が裂け、少し肉をえぐられたが、傷はすぐに治った。


 あの物体が前から来たのがラッキーだった。もしも後ろから来られていたら直撃をくらっていただろう。オレは前方に飛んで距離を取りながらも、体をひねってなにかの正体を確認しようとした。


 オレの脇を通り過ぎた物体は、旋回してふたたびこちらに向かってこようとしていた。


 ……なんだか、見たことがある光景だ。


「ぴー!」


 さきほどよりはゆっくりとした速度で、赤い鳥が飛んで来る。

 大きな翼に長い尾っぽ、細身の体。北の大陸で会ったフェニックスとよく似ている。体が小さいことをのぞけば瓜二つと言ってもいいくらいだ。


 フェニックスは、警戒もせずに近づいてきた。

 そして嬉しそうにオレにまとわりついてくる。


 ……まさかとは思ったが、コイツ、アカなのか。

 オレのアカは、もっとでっぷりと太った鳥のはずなんだけど。目の前にいるフェニックスは、ほっそりと優美な姿をしていた。


「……そなた、アカか?」

「ぴ!」


「おお、無事じゃったか。それになんじゃ、ずいぶん美人さんになっておるではないか」

「ぴっぴ~」


 羽がついたタルのようだったアカが、ちゃんとした鳥らしい姿になっていた。

 なんだろう、成鳥になったってことか?


「しかしアカよ。あの体当たりはイカンのじゃ。ケガするじゃろ」

「ぴ~?」


 オレの言葉がよく理解できていない様子だった。

 ……ダメだ。コイツ、自分が頑丈すぎるからか、衝撃に対してむとんちゃくすぎる。超音速で抱きついてこられたら、オレの体がヤバイことをわかってない。


 まあ、空の上でのんびりと躾をしているわけにもいかない。今は島から脱出することを優先しよう。アカが爆音とともに飛んできたせいで、島にいるヤツらも異常に気づいているはずだ。


「アカ、わらわを乗せて飛べるか?」

「ピッ!」


 オレはアカの首にしがみつくと、デトナの待つ海岸に向かった。



 * * * * *



 デトナと合流したオレたちは、急いで島を飛び立った。

 行動が早かったせいか、ありがたいことに島の住人と顔を会わせずにすんだ。親切にしてくれた人と争う事態は避けられたようだ。


 そして、さっき見つけた船に向かって飛んで行く。


 ──しばらくして、おかしなことが起こった。

 だんだんアカの飛行高度が下がっていくのだ。


 二人乗りはキツイのか?

 オレがアカからおりて、デトナだけを運ばせることにした。


「ぴっ、ぴっ、ぴ~」


 しかし、アカはさっきまでの優美さがウソのように、見苦しく羽をバタバタと動かしている。その姿はいかにも苦しそうで、じっさい高度がちょっとずつ落ちていっている。


 アカを助けようとしたオレ自身にも異変が起こっていた。

 体に力が入らない。空を飛ぶのが辛くなってきた。満ち溢れていた魔力がどこかに消えてしまったかのようだ。


 そして、横を見ると驚くべきものが目に入った。


 ぽっこりしている。

 ついさっきまで、シュッと痩せていたアカのお腹が、ぽっこりと膨らんでいたのだ。見ている間にも、ちょっとずつ太ってきているような気すらする。


 ──なるほど。ようやくわかった。


 アカは、オレから魔力を吸い取って、それを脂肪に変えて蓄えているんだ。他の魔族は、魔力と体の大きさに相関関係はないから、これはアカの特殊能力なのだと思われる。まったく、ろくでもない技を持っていやがるな!


 タコの怪物との戦いで魔力を使い果たしたせいで、スリムな体型になっていたんだろう。今また、オレから急激に魔力を絞りとって、メタボボディへと変化しているんだ!


「ぴっ……。ぴっ……!」


 アカはさらに激しく羽を動かしたが、高度は上がらずどんどん海に向かって落ちていく。そりゃそうだろう。どんどん太って、またタマゴみたいな体型になっているんだから。


 ついにアカは海に墜落した。


「掴まれ、デトナ!」


 落下直前に、なんとかデトナだけは助けだしたが、重いアカまで持ち上げるのはとうてい無理だった。


「ぴ~?」


 アカは海にぷかぷかと浮きながら、「どうして~?」と言いたそうにしていた。

 いや、どうしてじゃねえだろ。空を飛びたいなら、そのだらしなく緩みきった体をなんとかしろ。


「ディニッサ様、その鳥、飛べそうもありませんけど、どうします?」


 オレが船まで飛んで助けを呼んでくるのは無理だ。今の魔力では船まで無事にたどり着ける自信がない。となれば──


「デトナ、あっちの方角に船がいるのじゃ。たのむ、泳いでいって助けを……」


 自力はあきらめて、デトナに頼むことにした。オレを抱えて島まで泳いだくらいだ、船まで行くくらい問題ないだろう。


「泳ぐのはかまいませんけど、もう日が暮れますよ。船からうまくディニッサ様を探せないかもしれません。ボクが抱えますから、いっしょに行きましょう」


「アカも運べるかの?」

「……無理に決まっているでしょう」


 ですよね。アカはでかいし重いし。

 ……正直なところ、アカは捨てていったほうが身のためだと思う。コイツのせいで常に魔力が枯渇した状態にされているんだ。


 でもなあ。オレに懐いてるんだよなあ。

 再会した時めちゃくちゃ嬉しそうだったし。


「そうじゃ。デトナ、アカを後ろから押してくれぬか。わらわはアカの上にのっておる」


 丸々太って脂肪でぷくぷくしているだけあって、アカはよく水に浮く。アカをボート、そしてデトナをエンジン代わりにして船まで辿り着こうという作戦だ。


「ディニッサ様だけならともかく、フェニックスまで助けるんですか?」


 名案だと思ったのだが、デトナは不満そうだ。海の上だし、押す分にはそれほど力は使わないはずなのに。まあ、アカは放っておいても、魔力が切れたら痩せるだろうし、痩せれば飛んでオレのところにくるだろうが。


 ……いや、まずいだろ、それ。さっきみたいに高速で突撃されたら、大変なことになるぞ。船の上にいたら、たぶん船に大穴が空いて沈む。ここはデトナを説得するしかない。


「そなただけが頼りなのじゃ。頼むデトナ、お母さんからのお願いじゃ」

「なっ!」


 オレの発言にデトナが息を止めた。デトナの顔が真っ赤に見えるのは、夕日のせいばかりではないはずだ。


「……わかりました。やりますよ、やればいいんでしょう。でもディニッサ様、ソレ他の人がいるところでは、絶対に言わないでくださいよ」


「それはデトナの心がけ次第じゃな」

「……ああ、なんでボクはあんなことペラペラ喋ったんだろう」


 デトナはうっかり口を滑らせたことを心底後悔している模様。

 でも残念だなデトナ。人ってのは、一度弱みを見せると一生しゃぶられるものなんだぜ? 今後も「お母さんからのお願い」はどんどんやっていこう。デトナが本気でキレない範囲で。



 * * * * *



 船がどこに向かっているかわからなかったので、追いつけるか不安だったが、たいした時間もかからずに合流したすることができた。魔族パワーが強力なことはもちろんだが、船の方もこちらに向かって進んでいたのが大きい。


「おお姫様! 無事だったか」


 ロープをよじ登って船に上がると、船員や魔族たちが集まってきて、オレの無事を喜んでくれた。


「はは、心配をかけたようじゃの。船が近くにいてくれて助かったのじゃ。もしかして迷子になっておるのか?」


「迷子になったのはそっちでしょ! よけいな手間をかけさせて」


 船員の後ろからあらわれたシグネに頭をはたかれた。彼女の口ぶりからすると、たまたま近くにいたわけじゃなくて、オレたちを探してくれていたようだ。


「そうか。感謝するぞ。わらわのことなど見捨てるかと思っておったが、意外とシグネも優しいところがあるの」


「べ、べつに私がそうしたかったわけじゃないわ。みんなが助けたいって言うから仕方なくよ」


 一見ツンデレのようだが、シグネの場合、本当にオレを見捨てていた危険性もある。オレがいなくなったほうが、フィアが言うことをききやすいからな。


「ところで、バケモノに襲われた時に誰か犠牲者は出たかの? その、アカの炎で焼け死んだり……」


「いや、大丈夫だぜ姫様。火傷したヤツはいるが、命に別条はねえ。それどころかあの炎のおかげで、触手が剥がれて船が逃げ出せたんだ」

「そうか。それならばよい」


 一番心配していた、アカの暴発による犠牲者はいなかったらしい。あんなデカイ魔物に襲われたにしては、被害が少なくてすんだのではないか。船はボロボロになってしまったが、人的被害がなかったのは僥倖だ。


 しかし、帆が少なくなっている今の船で、どれだけの速度が出せるだろう。ただでさえ時間をロスしているのに、これ以上遅れては……。


「心配すんなよ、姫様。流された方角がよかったんだ。目的地はもうすぐだ」


 オレが不安になっていると、近くの船員が声をかけてくれた。

 彼の話によると、オレたちは海流に乗ってだいぶ南側に移動していたらしい。

 それならまだ、期限内に領地に帰りつける希望はある。


 それから、水系の魔法に長けた魔族が多いため、帆がなくてもあるていどの速度は維持できるとの事だった。


 ……これは、夜のうちに魔族たちと訪問して、がんばってくれるようにお願いしておいたほうがよさそうだ。船がボロボロになっているのに、港への移動ではなくオレたちの捜索を優先してくれたくらいだ。かわいくおねだりすれば、みんな張り切ってくれるはずだ。


「ディニッサ、ちょっと来て。大事な話があるの」


 魔族の士気を高めようとしていたところをシグネに呼び止められた。そのまま彼女の船室に連れて行かれる。

 いったいなんの用だろう……?

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