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シスコンリーマン、魔王の娘になる  作者: 石田ゆうき
第3章 旧領へ。新たな統治
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鉱山に潜む魔物

「クソ、なんか騙されたような気がするぜ……」


 算数勝負で負けたネンズがぼやいている。

 納得はしていないようだが、逆らう気配はない。方法はともかく、約束してしまったことを反故にはできない、といったところか。


 算数ではなく喧嘩で組み伏せた方が、ネンズの好意を得られたのは間違いない。

 実のところ、殴り合いでも勝てる自信はあったのだ。ヤツの得意魔法は聞いているし、それ用の対策もしてある。


 ただ、戦闘となると侍女たちがどう動くかわからない。

 一騎打ちに割り込んできかねないし、ネンズに敵対意識を持つようになるかもしれない。

 それではダメだ。ネンズおよび鉱山都市を、友好的に手に入れてこそ意味があるのだ。

 戦争を前にして組織の和が乱れるのなら、何もしないほうが良い。


 それに今すぐ信頼が得られなくても問題ない。

 しばらくいっしょに過ごしていれば、すぐに見なおしてもらえるはずだから。


 これはなにも、自分が優れた人材だと自惚れているわけではない。

 比較の対象が、引きこもりで贅沢三昧、なおかつ家来の大量殺戮までしたディニッサなのだ。これを下回ることなど、そうそうできることではない。


「そなたの気持ちもわかるのじゃ。だが、フェンリルを従えたことで、わらわの力はすでに証明されていよう」


「それはそうなんだけどな……」


 やはり釈然としない様子だ。

 自分の目で確認しないと納得できないタイプらしい。


 ……まあ、そうならそうでやりようはある。


「このあたりに魔物などはおらんのか? わらわは無駄な戦いをするより、みなの役にたつことに力を使いのじゃ」


 ネンズを倒したところで、彼の心服が得られるだけでプラスアルファがない。

 民を苦しめる魔物を征伐すれば、力が示せるだけじゃなく、みんなの好意も得られるだろう。


 今回は侍女もフルメンバーだし、シロもいる。

 たいていの魔物なら、問題なく討伐できるはずだ。


「そうか、そういう手があったか! 実はよ、鉱山に魔物が出て困ってんだ」

「ほほう。それは難儀じゃな。話してみよ。わらわが解決してやるのじゃ」


 都合よく魔物がいるという知らせに、頬が緩みそうになる。

 ……最悪、自作自演で事件を作ろうかと考えていたので、非常にありがたい展開だ。


 オレは努力して表情を保ちながら、ネンズの話に聞き入った。



 * * * * *



 数日前、テパエ山で新しい鉱脈が発見された。

 けれどそこから毒ガスが流れ出たせいで、採掘が中断してしまった。


 ネンズは部下の魔族に、毒をなんとかするように命令したらしい。

 ブワーナンという名の部下は、命令通り魔法で毒を中和していった。だが、いっこうに毒は減らなかったのだ。


 山の内部に毒ガスがたまっていることはある。

 しかし次々にガスが噴き出してくるなら、何か発生源があるということになる。

 そうして探ってみたところ、新鉱脈の奥で魔物を見つけたのだった。


 魔物の名は、暗黒竜クルワッハ。

 闇にひそみ鉱石を食らう、鉱夫の天敵らしい。その口から吐き出される息は、すべての生物に死を与えるという。


 クルワッハという名前には、何か聞き覚えがある。けれどはっきりと思い出せない。

 まあ、思い出せないということは、たいした敵ではないのだろう。


 ……暗黒竜クルワッハか。

 ぶっそうなブレス攻撃をするようだし、シロたちのように従えるのは無理そうだ。

 でも倒せれば、街の人達の信頼は勝ち取れる。鉱夫の天敵というのがすばらしい。



 * * * * *



 すでに夕方だったが、そのまま鉱山に向かうことにした。

 最低限の基礎ができるまでは、あまり時間をムダにしたくない。内政、軍事、外交とやるべきことは果てしなく多いのだ。


 出撃メンバーは、オレと侍女3人に、ネンズとブワーナン。あとはシロとヘルハウンドが7匹だ。オレと侍女たちはシロに乗って移動したが、ネンズは徒歩だった。


 シロかヘルハウンドに乗るよう勧めたのだが、断られたのだ。

 ノランたちもそうだったが、どうして魔物に乗りたがらないんだろう?

 かわいいし、素直な連中なのに。出会ったばかりだが、オレはかなり気に入っている。


 ──目的の鉱山は、街から少し行ったところにあった。

 坑道の入り口からはまだ距離があるというのに、あたりには悪臭がただよっている。

 ヘドロのような、吐き気をもよおすひどい臭いだった。


「ひどい臭いじゃの。それにあの狭さでは、シロは入れそうもないのじゃ」


 シロの代わりにヘルハウンドを連れて行こうか。

 しかしヘルハウンドたちは、その場から一歩も前に進もうとしなかった。さすがにこの悪臭には耐え切れないらしい。


 強く命令すれば、言うことを聞くと思う。けれど、そこまでしてヘルハウンドを連れて行くメリットはなさそうだ。この悪臭では、ヘルハウンドの嗅覚も役には立つまい。


「……シロ、ヘルハウンドたちを連れてこのあたりで狩りでもしておれ。ただし、決して人間や家畜は襲わないこと。よいな?」


(ワカッタ!)


 オレの指示を受けたシロは、疾風のように去っていった。

 犬系の魔物は、鼻が良いぶん悪臭に弱いのかもしれない。

 ……そのわりにはアイツら、オレの靴を大興奮で嗅ぎまわっていたのだが。


「……それじゃいくかの」

「姫様、悪いが俺は無理だ。ここに残って吉報を待つぜ」


 ネンズに出鼻をくじかれた。

 オレだって、行きたくないのを無理して頑張ったのに。


 この野郎、自分だけ参加しないつもりか?

 ネンズは、オレの非難の眼差しを物ともせず、淡々と野営の支度をしている。


 元々はオレの力を示すためのイベントだ。ネンズが来なくても問題ない。

 だが、このすさまじい異臭を前にすると、気分も変わってくるのだ。1人だけ苦しまない場所にいるかと思うと、かなりイラついてくる。


「そなた、臆したか?」


「そういうわけじゃねえって。毒ガスが蔓延しているって言ったろ? 風の魔法を使えないと、何もしないうちに死んじまうんだよ」


 言われてようやく理解できた。

 常に魔法で空気を作り出しておかないと、毒でやられてしまうのか。

 ……これは面倒だな。

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