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シスコンリーマン、魔王の娘になる  作者: 石田ゆうき
第3章 旧領へ。新たな統治
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テパエ代官ネンズ

 テパエについた時には、すでに夕方になっていた。

 後半は順調だったが、途中の休憩に時間を取られすぎた。


 ちょっと休んだら、腹がへったとかユルテが言い出し、森で食事休憩までとるハメになったのだ。本当は日帰りする予定だったのだが、ちょっと無理そうだ。


「な、なんだありゃ~!」「化物だ、化物が出たぞ!」「待て、誰か乗ってる!」

「ディニッサ様じゃないか!? ディニッサ様がこの街を滅ぼしにきたんだ!」


 見ると、街では軽いパニックが起きていた。


 たぶんテパエの住人にも、ディニッサをないがしろにしているという、後ろめたい気持ちがあるのだろう。だからこそ、ディニッサが怒って襲ってきたと判断したのだ。


 あまり街の人を追い詰めると危なそうだ。

 あくまで交渉でテパエを帰順させるのが目的であって、戦いに来たわけではないのだ。むしろ戦争になったら、それだけで敗北だと言っていい。


 街の入り口あたりでシロを止めた。その場で待つ。

 話に聞いている通りなら、代官が代表として出てくるはずだ。


 ──10分ほど待たされたあとで、人間ほどの大きさのコボルトがあらわれた。

 普通のコボルトの倍近い身長で、話に聞いた特徴と一致する。


 あいつが代官のネンズに違いない。

 ネンズの手に握られた酒瓶を見て、オレは評価を一段下げた。

 酒盛りにはまだ早いだろうに。


「おー、フェンリルだ! まさか本当だったとはなあ。それで姫様、こんな辺境に出向くなんてどんな風の吹き回しだい?」


「わらわがわらわの領地を訪れるのに、なんの不思議もあるまいよ」


 ネンズは豪胆にもシロの鼻先まで歩いてきた。代官としてはすこし軽率に思えるが、みんなから聞いた評判どおりの行動でもある。


「そなた、わらわの領地の税をかすめ取っているようじゃな?」


 オレの追求に、周囲の緊張が高まった。

 その場にいるドワーフやコボルトたちが顔を青くする。

 けれどネンズは、小憎たらしいほど余裕しゃくしゃくだった。


「姫様姫様、俺はトゥーヌル様に命じられてこの街の代官になったんだ。アンタの下についた覚えはないぜ。トゥーヌル様がアンタを助けろと言ったならともかく、現状アンタのためになにかをする気はねえな」


 ネンズの言葉でさらに緊張が高まる。

 侍女たちの敵意に満ちた視線が彼に集まり、シロが威嚇の唸り声をあげた。


(ディニッサ、敵。オレ、食イ殺ス?)

(やめよシロ。そなたは手をだすな)


 自信なのか自暴自棄なのかわからないが、ネンズは堂々たる態度でオレたちを見上げていた。こちらはフェンリル+魔族4人だ。戦えばあっという間に殺されるとネンズもわかっているはずなんだけど。


「わらわを父上の後継者と認めぬと言うのか」

「アンタ、トゥーヌル様のあとを継ぐにふさわしいことをなんかしてたか?」


 ……ごもっとも。

 ディニッサの9年間の活動──豪奢な料理を食べ、美麗な服を着る。お城から出ずに、お散歩、お昼寝、お絵かきをする。


 ネンズの言葉を否定できるポイントが、どこにもない。

 むしろ、直接的に襲わなかった分、ネンズたち代官を褒めてやっても良いくらいだ。


「……どうしたら、わらわを認めるのじゃ?」


「そりゃあ、やっぱ勝負だろ。俺は頭わりーからな。アンタが俺に勝ったら、その犬の餌にするなりなんなり好きにすりゃいいさ」


 ネンズの反応は、事前に予想していた範疇だった。

 それも、かなりオレに望ましい流れだ。


「わらわが勝てば言うことを聞くのじゃな?」

「ああ、なんなりと言いな」


「約束じゃぞ?」

「二言はねえ。けどオレに勝てるかな? フェンリルを倒したからといって──」


「──ディニッサちゃんは、10枚のコインを握りしめて市場にパンとリンゴを買いにいきました。パンはひとつ銀貨7枚でリンゴは1個につき銀貨3枚です」


「い、いきなりなに言ってやがるんだ?」


 ネンズが面食らっている。

 ネンズだけでなく、侍女や街の人間ふくめ全員があぜんとしていた。

 だが、オレはかまわず続ける。


「ディニッサちゃんは、パンを9個とリンゴをいくつか買いました。その結果、コインの枚数が元より増えました。しかし元の倍以上にはなっていません。残ったコインは2種類で、偶然にも同じ枚数でそろっていました。また、買ったパンとリンゴの個数の合計は、残ったコインの枚数と同じでした。さて、最初に持っていた10枚のコインのうちわけと、最後に残ったコインの種類、枚数を答えてください」


「待て待て! なんの話だ!? 意味わからねえぞ」

「わらわは、算術勝負を要求するのじゃ!」


 ネンズは殴り合いをしたかったのだろうが、オレにその気はない

 まずは当初の予定通り、知力勝負をゴリ押ししてみた。


「さ、算術勝負……!?」


「そなたが勝負をふっかけてきたのだから、種目を決める権利は当然わらわにあるのじゃ。さ、早く解くがよいぞ」


「オレは、魔族同士の決闘って意味で──」

「恥を知れ! 後から条件を足すなど許されることではないのじゃ」


「う、あ……。し、しかたねえ。わかったよ。問題をもう一回、いや紙に書いてくれ。覚えきれねえ」



//////////////////////////////////////////////////////////////////////////


 ディニッサちゃんは、10枚のコインを握りしめて、市場にパンとリンゴを買いにいきました。パンはひとつ銀貨7枚でリンゴは1個につき銀貨3枚です。

 ディニッサちゃんは、パンを9個とリンゴをいくつか買いました。その結果、コインの枚数が元より増えました。しかし元の倍以上にはなっていません。残ったコインは2種類で、偶然にも同じ枚数でそろっていました。

 また、買ったパンとリンゴの個数の合計は、残ったコインの枚数と同じでした。


 さて、最初に持っていた10枚のコインのうちわけと、最後に残ったコインの種類、枚数を答えてください


 ※ただしパンとリンゴの購入は一回の会計ですませることができます。またお店のひとは、もっともコインの枚数が少なくなるようにお釣りをくれます(金貨1枚の代わりに銀貨10枚を渡したりはしません)。


//////////////////////////////////////////////////////////////////////////



「なあ、一つ気になったんだが、パンとリンゴが高すぎじゃねえか?」

「それはどうでもよかろう。気になるなら酒にでもおきかえよ」


 ネンズは声を出しながら、何度も問題を読みなおしている。

 心配そうに遠巻きにしていた街の人達も、オレたちの様子をみて近づいてきた。


「ヒントをもらうのは禁止じゃぞ」


「わかってるさ。一騎打ちに加勢は呼ばねえ。……しかし姫様よー、ホントにこんな問題とけるのか? コインっていっても何種類もあるじゃねえか」


「大丈夫、頑張ればいけるのじゃ」


 ちなみにコインの種類は、真金貨、真銀貨、真銅貨、白金貨、金貨、銀貨、黄銅貨、青銅貨の8種類もある。ひとつ右にいくごとに、ちょうど10倍の枚数と交換される。



 * * * * *



 30分ほどして、ネンズは降参した。

 まわりを見ても問題を解けたのはフィアくらいのようだった。

 基本の四則計算さえできれば、解けるはずなんだけどな。


「よしわらわの一勝じゃな。次はそなたが問題をだすがよい」


「も、問題か……。ね、ネンズ君は酒場でビールを12杯飲みました。ビールは一杯黄銅貨5枚です。ネンズ君はいくら支払えばいいでしょう?」


「黄銅貨60枚。銀貨6枚のほうが親切かもしれんが」


 ネンズのふだんの生活がしのばれるような問題だった。

 そして、おそろしく簡単だった。


 まあ、問題を作るのにも知識がいる。いきなり作れと言われても難しい。

 あらかじめ問題を用意できるこちらが、圧倒的に有利な勝負だったのだ。


「これでわらわのストレート勝ちじゃな。これからは、わらわを主として崇め奉るがよいぞ!」


「な、納得いかねえ……」

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