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シスコンリーマン、魔王の娘になる  作者: 石田ゆうき
第1章 異世界へ。現状を知る
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魔法訓練

「本当は、妹の陽菜さんと入れ替わる予定だったんでしょうね」


 オレの希望をあっさり打ち砕きながら、ユルテが言った。

 話を聞いて、オレと同じ結論に達したらしい。まあ、陽菜の体が光っていたことを思えば、そう考えるのが自然だろう。


 オレはアクシデントにより、このわけがわからない状況に追いこまれたのだ。

 が、それはどうでもいい。陽菜が異世界に放り込まれることを思えば、身代わりになれて嬉しいくらいだ。


 ……ただ、ユルテの言葉が頭に残る。


『姫様なら、同意を求めたはず』


 となると陽菜は──

 オレのそばにいるより、どこかわからない世界に一人で送り込まれたほうがましだ、と思っていたことにならないか?


 わりと仲良し兄妹だと思ってたんだけどなぁ。

 ちょっと、というかかなりヘコむ……。


「そんな辛そう顔をなさらないでください。私まで悲しくなります」


 ユルテが優しく抱き寄せながら、慰めてくれた。

 ……情けないが、ほんの少しだけ甘えることにした。



 * * * * *



「この事態を解決できる者を、誰か知っておるかの?」

「申し訳ありません。これほどの魔法の使い手となると、そうはいないのです」


 正体がバレてしまったために、気楽に質問できるようになった。

 けれど、期待をこめたオレの質問に、芳しい答えは得られなかった。


「ならば、どうすればいいのじゃ?」


「そうですね。姫様がもう一度魔法をお使いになるのが、もっとも近道のように思います」


「いや無理だろ、じゃろ。魔法の使い方なんてわからないのじゃ」

「使い方がわからない?」


 ユルテが心底不思議そうな顔になった。

 しかし驚かれても、こっちが困る。


「むこうの世界には、魔法使いなどおらんのじゃ」


 ためしに、右手を開いて『水が出る』と念じてみた。出ない。

 風呂でユルテが使っていた魔法を真似してみたのだが、まるでうまくいかない。


「魔法のやり方を教えてほしいのじゃ。ちゃんと教わればイケるかもしれない」

「教えて、と言われましても……」


 オレの言葉に、なぜかユルテは少し困った顔をした。


「魔法は、魔族が自然に使っている能力なのです。どう教えればよいのか……。こう、グッと力を入れて、パッとイメージする。……で、おわかりになりますか?」


 おわかりにならない。オレは力なく首を振った。

 困った。どうやら魔法とは、呼吸のようにごく当たり前にできる現象のようだ。


「わかりませんか……。ならば、私が実演してみましょう。それでなにかつかめるかもしれません」


 そう言ってユルテは手のひらを上に向けた。


「今、魔力を手のひらを上に集めました。わかりますか?」


 ユルテの手をじっと見つめる。なにも見えない。


「すまん。なにも見えないようじゃ」

「姫様、魔力は見るものではなく、感じるものです」


 見るんじゃない、感じろ?

 いや、そんな映画みたいなこと言われましても……。


 ためしに目をつぶって意識を集中してみる──


 ユルテからいい匂いがした。視覚を封じたことで、嗅覚が鋭敏になったらしい。

 うん、ぜんぜんダメだ。


「無理ですか……。じゃあ、今度は姫様が魔力を出してみてください。こう、手のひらにガッと力を集めるカンジです」


「……。」


 ちょっとジト目になったかもしれない。

 この子、人に教える才能がまるでない。


 オレの冷めた視線とうらはらに、ユルテはなぜか興奮したように翼をパタパタさせていた。そして力いっぱい抱きしめてくる。


「もー、なんですか、その可愛い目は! 初めてみました、そんな素敵な顔っ」


 ジト目は大好評だった。

 いいから、ちゃんと教えろよ!


 ユルテを振り払って、魔力作成をためす。

 右掌を上に向け、力を入れる。手をぷるぷると震わせながら、血管が浮き出るほど力を込めた。


「うぅぅぅぅ!」

「ふわぁっ!」


 オレが頑張っていると、へんな声をあげつつ、ユルテがまた抱きついてきた。


 なんなんだこの女は、いい加減にしろっ。

 いくら絶世の美人といえど、真面目な行動を邪魔されるのは腹が立つ。


「もうっ、なんなんですか、可愛い仕草を連発したりして、なにをたくらんでいるんですか!?」


 なにもたくらんでねえよ!


「離れよっ。それより、魔力は出ておったのか」

「いえ、まったく。どうしてなんでしょうね。姫様の体からは魔力を感じるのに」


 ただ力を入れるだけじゃダメらしい。なにか違うアプローチが必要だ。

 その時、ふと閃いた。


「ゆっくり横になれる場所はあるかの? 静かで邪魔が入らないとよいのじゃが」


 今度はユルテがジト目になった。


「なにを勘違いなされたかしりませんが、私と姫様はそのような関係ではありません。静かなベッドルームで愛をはぐくもう、などと言われても困ります。」


「言ってねーよ! 勘違いしてるのはそっちだ。魔法に関してちょっと試したいことがあるだけだよっ」


 魔法の実験している最中に、いきなりエロいこと考えるかよ。


「本当にそうなのですか?」


 ユルテが疑惑の眼差しを向けてくる。

 だけど行動はしてくれた。また抱え上げられる。


 これ、移動は全部お姫様抱っこなのかなあ……。

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