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シスコンリーマン、魔王の娘になる  作者: 石田ゆうき
第3章 旧領へ。新たな統治
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疑問(体と意識)

 ルオフィキシラル城には、立派な中庭がある。

 さまざまな木々が植えられ、ただ歩くだけでもなかなか悪くない。


 説教部屋から脱出したオレは、中庭に来ていた。

 シロたちの状況を確認するためだ。


 じつはユルテと話していて、すこし不安になったのだ。

 しょせんは野生の魔物。しかも知能もそれほど高くない。シロたちが何かやらかす可能性は十分にある。


 万が一シロたちが問題を起こすと大変だ。オレがユルテに叱られる。

 シロたちに、よく言い聞かせておかなかればならない。


「シロ!」

「うぉ~ん」


 一声かけるとシロが走り寄ってきた。

 シロたちは中庭で放し飼いにされているのだ。


 最初は空いている厩舎に入れようとしたのだが、拒否された。

 基本的には言うことを聞くのだが、狭い場所に閉じ込められるのはダメらしい。


「さっきも言ったけどもう一度確認しておくのじゃ。一つ、勝手に城から出ない。一つ、他の生き物を襲わない。一つ、わらわが用意する食べ物以外食べない。よいな?」


(天馬、食ベル、ダメ?)


 シロの無邪気な質問に、息が止まりそうになった。

 ペガサスは、ユルテが実家から連れてきた生き物だ。空飛ぶ馬車の運び手であり極めて貴重な動物らしい。


 そんなものを、オレのペットが食べたらどうなるか。

 考えるのもおそろしい……!


「ダメに決まってるじゃろ!」

(ヘルハウンド、食ベヨウ、シテタ)


「た、食べてないじゃろうな……!?」

(家、ガンジョウ、食ベル、ナカッタ)


 あやうく心臓が止まるかと思った。

 こいつら、言いつけを理解してねえ……!


「わらわの指示は必ず守るのじゃ! 破ったらひき肉にしてやるとヘルハウンドたちに伝えよ。あやつらのボスとして、そなたもお仕置きじゃからな!」


(ワカッタ。約束、破ッタ、シロ、食イ殺ス)


「いや、あくまでひき肉は比喩でじゃな……。そこまでしなくてもよいのじゃが。シロはあやつらの仲間ではないのか? ヘルハウンドを食べたりするのかの」


(山、食ベ物、無イ。森、来タ。ヘルハウンドイッパイ。ゴチソウ。イッパイイッパイ食ベタ。降参シタ、連レテタ)


 もともとヘルハウンドたちは、シロの餌だったらしい……。

 なんだか餌が足りなくなったら、シロに食われそうだ。そうなったら可哀想だから、シロが腹を空かせないようにちゃんと餌を用意しよう……。


「ヘルハウンドたちが勝手なことをしないよう、よく言い聞かせるのじゃぞ」

(ワカッタ)


 シロが鳴き声でヘルハウンドを呼び寄せた。

 そしてなにやら会話がはじまる。


 あいにくオレは、ヘルハウンドとは会話できない。

 精神操作魔法を利用しても、うまく意思疎通ができないのだ。

 理由は不明。ヘルハウンドは、会話できるほどの知能がないのかもしれない。


 ここはシロに任せるしかない。しかし不安だった。

 大丈夫かなあ。こいつらの失態はオレの責任になるんだけどなあ……。



 * * * * *



「姫様」


 フィアに声をかけられた。いつの間にか、そばまで来ていたらしい。

 ……いやだな。また説教部屋に戻されるのか。


「まだユルテは怒っておるのかの?」

「怒って、ない。なごんでる」


 フィアの意外な言葉に驚いた。

 逃げ出してからたいして時間もたってないのに、どうして和んでいるんだ?

 普通なら、よけいに怒るはずだ。


「本当に姫様は、姫様じゃない、の?」

「どういう意味じゃ」


 フィアが小首をかしげる。


「姫様、叱られると、すぐ逃げ出してた。布団に入り込むか、宝物庫に隠れるか、庭に隠れるか。姫様と、あなたの違い、わからない」


「……。」


 ユルテたちは、ディニッサらしい態度に微笑ましく思ったということか。

 きっと叱られていたのが本物のディニッサだったとしても、オレと同じ行動をとっていたのだろう。


 これは、単にオレが子供っぽいだけなのか。

 それとも、本当にディニッサとの一体化が進んでいるのか……。


 自分の行動が、他人の影響でなされただけだと言われたようで、すこし嫌な気分になった。


 いま考えている事は、本当にオレの考えなんだろうか。

 そして──


 もし二ヶ月後帰れるとして、その時のオレは本当にオレなのだろうか……?

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