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シスコンリーマン、魔王の娘になる  作者: 石田ゆうき
第3章 旧領へ。新たな統治
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説教部屋

「姫様、いったいどういうことですか」


 凱旋パレードの後、オレはユルテに叱られていた。

 オレ一人だけが椅子にすわり、まわりを四人の女に囲まれている。さっきまでまるで英雄のように調子こいていたのに、ひどい落差だ……。


「ごめんなさい……」


「いつあやまってくれと言いました? 私は姫様に行動の御説明をしていただきたい、と申し上げているのです」


 ユルテの声には苛立ちがにじみ出ている。

 以前のように暴力で発散しないだけに、怒りが長く持続しそうだ。


 ……くそ。ファロンに口止めをし忘れていたのが失敗だった。

 ファロンが正直にすべてを話してしまったせいで、このありさまだ。


「わらわも予想外だったんじゃよ? ちょっとノランたちに会いに行こうとしたらフェンリルが出てきちゃったんじゃ」


「そもそも、十分な護衛もなしに街の外へ出るというのがありえません」


 ごもっとも。軽率な行動だったのはたしかだ。

 ユルテの正論に、ぐうの音も出ない。


 ファロンが腕を組んで、偉そうに頷いているのには納得いかないものがあるが。

 おまえは、オレといっしょに叱られる側じゃないのか?


「わらわも反省しているのじゃ。だから、過去ではなく未来を見つめよう」

「未来?」


「うむ。今後は城から出るときには、三人に付き添ってもらうつもりじゃ。そなたたちがやっている城の仕事は、教会の人間に任せる」


「教会の人間、ですか……」


 気に食わないという気色はありありだが、ユルテもすぐに反対はしなかった。

 ディニッサの身の安全を考えれば我慢すべきか、と思っているのだろう。


「私は、賛成。毎日姫様といっしょ」

「ファロンもー。もともと人を使うのを嫌がってたのはディニッサ様だったし」


 同僚二人の同意をみて、ユルテも不承不承うなずいた。

 よし。このまま話題を変えて説教のことはうやむやにしてやろう。


「そなたたちは普段、どんな作業をしておるのじゃ?」

「姫様のお世話以外ですと、庭の手入れと、厩舎のペガサスの世話くらいですね」


 意外と働いてないんだな、というのが正直な感想だった。城の手入れをたった3人でやっているんだから、もっと大変なのかと思っていた。


「姫様っ」


 突然、コレットが大声をあげた。

 彼女の興奮した様子に、オレはびくりと身構えてしまう。


「人を雇うなら、アタシのところにもお願いしますニャ!」


 コレットまでオレを叱るつもりか、と不安になったが、彼女の要求は人手を増やして欲しいというだけの事だった。


 コレットの仕事は、料理だけだ。

 しかしその料理が大仕事なのだ。なにせ魔族はめちゃくちゃ食べる。朝昼晩と満漢全席を食べ続けているようなものだ。


 当然コレットの負担は大きくなる。食材の買い付けや、料理の仕込み、食器洗いなど、休む時間もあまりないだろう。しかも今回オレが、シロたちを連れ帰ってしまった。


 怪獣みたいな大きさのシロと、ライオンほどもある7匹のヘルハウンド。

 こいつらが大食漢であることは想像に難くない。ますますコレットの仕事が増えてしまったわけだ。


「もともとアタシは、姫様の料理だけで手一杯ですニャ。魔獣のエサやりまで増えると、キツいですニャ」


 人手を増やして欲しい、というコレットの気持ちはよくわかる。

 ……とてもよくわかるのだが、今その話はしないでほしかった。


「姫様、無断で街の外へ行った件は反省もしているようですし、今後の対策も考えられているようなのでよしとしましょう。しかし──」


 案の定、ユルテに食いつかれた。

 また説教モードに戻ってしまったようだ。


「あの犬どもはどういうことです。勝手に拾ってきたりして。だれが世話をするのですか」


「わらわがちゃんと世話するから! 飼っていいじゃろ」


 まんま捨て犬を拾った子供だ。

 ……たぶん、約束したわりにいつの間にか世話係がお母さんになる、という流れも踏襲してしまうだろう。オレ、いろいろ忙しいし。


「魔物など危険でしょう」


「あんがい良い子たちなんじゃよ? わらわになついておるし。餌さえちゃんとやれば襲ってきたりしない、はずじゃ」


 ピキッ。ユルテの顔が引きつったように見えた。

 まずい、地雷を踏んだらしい。


 ──昔テレビで、狼の餌代は安いと聞いたことがあった。年間10万円くらいで十分だと。だから安心していたのだ。シロたちの餌代も大したことないだろうと。


 しかし現実は非情である。

 動物と魔物では、消費エネルギーの桁が違ったのだ。


 シロたちから日頃食べている量を聞いて、コレットにいくらくらいになるか試算させてみた。結果、ヘルハウンドが月に金貨120枚、それかける7匹。シロが月に金貨1万1000枚。平均するとこのくらいの食費はかかるようなのだ。


 ちなみに一般兵の食費が月に金貨6枚。オレたちの食費の上限が金貨100枚。

 思うにユルテは、自分の食費がヘルハウンド以下なのにもっとも激高しているのだろう。


「すこし食費が高過ぎるように思われますが。あの犬コロが成長して大人になったらどうなるか、ちゃんとわかっているのですか?」


「大人になったら……? アイツ、子犬、じゃなくて子狼なのか!?」


 オレの疑問に、フィアが手を挙げて答えてくれた。


「成体は、もっと、大きい。伝説では、際限なく巨大化すると言われている」

「際限なく……」


 いまでさえ月の食費が1億円以上なんですけど!

 これ以上食費が増えたら国がヤバイんですけど!


「狼鍋にでもしてしまったほうが良いのでは?」


 冗談か本気かわからない口調でユルテが言う。

 ……半ば以上本気のような気がする。


 たしかに金銭的な面から考えると、シロたちを連れ帰ったのは大失敗だった。

 武官のトップのノランでも月給金貨100枚だ。シロたちに費やす資金で、相当数の魔族を雇えるのだ。


 ノラン110人分とシロを比べれば、どう考えてもノランの方が役に立つ。

 ヘルハウンドも、魔族と1対1で戦ったらほぼ負けるくらいの力しかない。知能なども含めれば、まるで経費に吊り合わない能力だ。


 あれだな、ちょっと強いけどメチャクチャ維持費がかかる秘密兵器だな。

 じっさいのところ、使い勝手は悪そうだ。しかもさらに燃費が悪化するというおまけつきとは。ペットに効率を求めるべきじゃないんだろうけど、厳しいな……。


「もう民衆の前でお披露目しちゃったのじゃ。シロたちはぜったいに飼う!」


 オレは叫びながら椅子から飛び降りて、ダッシュで出口に向かった。

 言い逃げ作戦である。


 オレ自身が納得できていないのに、ユルテたちを説得できるはずがない。

 オレには、敵前逃亡以外の選択肢は見つからなかった……。

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