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シスコンリーマン、魔王の娘になる  作者: 石田ゆうき
第2章 お城の外へ。常識を知る
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魔狼との死闘

 フェンリルに追いかけられながら、森を走る。

 村から離れるにつれ、木々の密度が高くなり走りづらくなった。


 肉体硬化がかかっているため、途中の木などは簡単にぶち破って進めるが、スピードダウンは避けられない。フェンリルはその巨体にもかかわらず、器用に木々の合間を縫って追ってくる。


 村から離れたところまで連れて行って、巻いてしまおうと思っていた。

 だけど、無理だ。全力で走っても、追いつかれないのが精いっぱいで、逃げ切るなどとてもできそうにない。


 オレは、木を蹴って樹上に駆け登った。

 そして太い枝の上に立ち、精神を集中させる。


『アイアンランス2分!』


 ふたたび魔法で槍を創りだした。身長の数倍はある長大な槍だ。

 名前の通りの鉄の槍だが、少し変わった特性を持っている。


 ──純度100%の「鉄の塊」は存在しない。製鉄の段階で、炭素やケイ素など様々な成分が含まれてしまうからだ。一般に「鉄」と呼ばれている物質は、純金属ではなく鉄を基本とした合金なのだ。


 純鉄を作ることは、極めて難しい。純度99,999%を越えるような超高純度鉄は試作されているが、作製に莫大な費用がかかる。


 しかし魔法でならば、簡単に純粋な鉄を創れるのだ。

 というよりむしろ、他の元素を含んだ鉄のほうが、消費魔力が増えて生成効率が悪くなる。


 「純鉄」には幾つかの特徴がある。

 錆びない。硫酸でも塩酸でも溶けない。ふつうの鉄は低温で脆くなるが、純鉄は低温に強い。


 そして今回重要な点が「強い」というところだ。

 「硬い」わけではない。硬度では、鋼より数段落ちる。だが、柔らかいかわりに壊れないのだ。切りづらく、割れにくい。



 オレは、フェンリルめがけて飛び降りた。

 そして、限界まで強化した力で槍を叩きつける。銀色の巨槍は、上からフェンリルの胴体を貫いて、その体を地面に縫い付けた。


 柔らかい鉛の弾でも、ライフルから発射されれば鉄板を貫く。

 十分な運動エネルギーさえ与えてやれば、純鉄でも硬化魔法を突き破れるのだ。


 槍は深々と地面に突き刺さり、フェンリルの動きを阻害している。

 今がチャンスだ。2分以内にケリをつける……!


 フェンリルのそばまで駆け寄った。ただし、手が届く位置までは進まない。

 胴体を串刺しにしただけで、まだ頭も前足も自由に動く。あの鋭い爪と接近戦をおこなうのは避けるべきだ。


『ボロンランス1秒』


 黒い槍が敵を貫く。血が飛び散り、フェンリルが悲鳴を上げた。


『ボロンランス1秒』


 ふたたび槍を出して、振りかぶる。


 ──だが、槍を投げようとした時に異変がおこった。

 急に地面が揺れだしたのだ。オレはバランスを崩し、投げた槍はあさっての方向に飛んでいってしまった。


「ちっ」


 地面が揺れる中、なんとか体勢を立てなおそうとする。

 だが、そんなオレの隙をついて、フェンリルが襲いかかってきた!


 気づくと、巨大な爪が目の前に。避ける間もなく体が切り裂かれる。

 胸から腹までパックリ裂けて、内臓がはみ出しそうになった。


 オレは、あわてて後ろに飛び退った。急いでケガを治す。

 敵の爪は、硬化魔法をたやすく打ち破るおそろしいものだった。ユルテに殺されかかった経験がなかったら、今の攻撃で意識が飛んでいたかもしれない。


 フェンリルは、追撃をかけてはこなかった。

 それもそのはずだ。フェンリルの体も、鉄の刃で切り裂かれていたのだから。


 おそらくフェンリルは、自分にかかっている硬化魔法をあえて解除したのだ。

 そして腹を割いて、鉄の槍から抜けだした。ダメージを負ったが、ヤツは自由になれた。そして、腹の傷もすでにふさがりかけている。


 敵は目前。この距離で逃げるのは危ない。振り向く間に、後ろから襲われる。

 槍を投げる余裕も無い。あれは投擲ファームが大きく、隙ができる。


 となれば、肉弾戦しかない。

 治療を終えたオレは、フェンリルに接近した。


 魔力で強化した手刀を、ヤツの右足に振り下ろす。


「グォォォ!」


 フェンリルが悲鳴をあげた。

 オレの攻撃は、フェンリルの右足を切り飛ばしていたのだ。鉄の壁を叩いたような硬い感触だったが、とにかく攻撃は成功した。


 右足を失ったフェンリルは、バランスを崩しながらも左足を振るってきた。

 ──速い、かわせない。オレはとっさに、右手をヤツの爪に叩きつけるようにして、なんとか頭部への攻撃だけは防いだ。


 他はともかく、頭はマズイ。

 意識を失ったら、再生することもできず死ぬことになる。


 頭部を守った代償として、オレの右手、その肘から先がなくなった。

 血があふれるがすぐに止まり、再生が始まる。おそらく1秒にも満たない時間だったのだろうが、右手が治るまでが果てしなく遅く感じた。


 右手が治るやいなや、またもフェンリルに襲いかかる。

 フェンリルの右足は、まだ治りかけだった。予想通りだ。


 オレは再生途中の右足に、容赦なく手刀を振り下ろした。

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