狐たち
ファロンの魔法で、たくさんの狐があらわれた。
黄色、白、黒。毛色はさまざまだが、みなフワフワでかわいらしい。
同じイヌ科でも、狐は人に懐かないと聞いたことがある。
けど魔法で呼ばれたせいか、この狐たちは人懐っこい。近寄っても逃げないし、体を撫でても嫌がらなかった。
「きゃーん」
「そうなの。あっちに? そっかー。君は? うんうん、森の奥に──」
ファロンは、なにやら狐と話しあってる。
オレにはただの鳴き声にしか聞こえないのだが、ファロンの耳には意味のある言葉として届いているようだった。
ファロンの情報収集を待つ間、オレはひたすらに狐たちを撫でまくっていた。
それぞれ触れた感触が違うし、反応も微妙に違う。撫でられて喜ぶ狐もいれば、今ご主人様に報告中なんですけど、と言いたげな狐もいて面白い。
ふと、やかましい鳴き声の中で、静かにしている狐が目についた。
近づいてみると、後ろ足の先っぽが無い。怪我したばかりなのか、足から赤い血が滴り落ちていた。
「治してやるから、抵抗してはならぬぞ」
そう言って、狐を抱き上げる。
オレの言葉がわかるのかどうか。その黄色い狐は、おとなしくしていた。
後ろ足をにぎって、治療魔法をかける。
すると、すぐに肉が盛り上がり、きれいに足が治っていた。
他人に治療魔法をかけるのは初めてだが、うまくいったようだった。
ケガが治った狐は、きゅーんきゅーんと鳴きながらオレの手を舐めてきた。
オレも、狐のふわふわな毛を撫でてやる。
「カイは狐好きなの?」
「どうじゃろ。実際に見るのは初めてだからの。まあ動物全般好きではあるな」
都会で暮らしていると、野生の狐を目にする機会などない。
でも犬も猫も好きだし、狐もたぶん嫌いではない。じっさい目の前にいる、色とりどりの毛玉はかわいいし。
「そっかー。その子を助けてくれてありがと。カイは優しいね」
「それもどうじゃろ。それほど優しくもないと思うぞ。それと、わらわの名はディニッサじゃ。少なくとも外ではそう呼ぶがよい」
ファロンはうなずくと、笑顔を見せてくれた。
* * * * *
「ノランの居場所わかったよー。近くの村で休んでるみたい。この黒い子が案内してくれるって」
しばらくファロンと狐たちの会話が続いた後で、ようやく情報が手に入った。
案内人もついでにゲットできたし、すぐにノランたちと合流できるだろう。
「おお、やったの!」
浮かれるオレと反対に、ファロンは真剣な顔になっていた。
オレの肩に乗っている狐を撫でながら、口を開く。
「この子、魔物に噛まれてケガしたみたい。黒くて大きい犬って言っているから、たぶんヘルハウンドかなー。ここからそんなに遠くないところだから気をつけて」
「魔物か。急いで討伐隊と合流したほうがよさそうじゃの……」
オレたちは、村へと急ぐことにした。
* * * * *
黒い狐が先導し、足を怪我していた小さい狐はオレの肩に。
その他の狐たちは、すでにそばにはいない。散開して周囲の偵察をしてくれているらしい。
偵察のかいあってか、魔物にも出くわさず、無事村にたどりつけたのだった。
森にぽっかり空いた場所に、村はあった。
周辺に畑などがあるものの、その規模は小さい。どう見ても裕福とは思えない、さびれた村だった。
村は、粗末な木の柵で囲われている。
あれでいったい何が防げるのか、疑問がわいてくる。少なくとも、魔物には効果がないだろう。
柵の外には、20人ほどのエルフが集まっていた。
ほとんどの者が弓を背負っている。腰に剣も帯びているし、農民には見えない。
討伐隊だ。ちょうど出発するところのようだった。
……危なかった。狐の案内がなかったら、行き違いになっていただろう。
オレが近づくと、彼らの視線が集まった。
緊張が漂っていて、一見して歓迎していないことがわかる。
さてどうだろう。話し合いはうまくいくかな……。




