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シスコンリーマン、魔王の娘になる  作者: 石田ゆうき
第2章 お城の外へ。常識を知る
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情報収集

「そういえば、反対しないんだな。オレが領主をやることに」

「え?」


 陽菜は、意外そうにオレを見た。

 領主になれば、戦争に巻き込まれる危険性が高い。それなのに、まったく心配してくれる気配がないのが、ちょっとさびしい……。


「反対なんてしないよ。だって、お兄ちゃんなら、立派な王様になるに決まってるもん!」


 陽菜の笑顔には、オレに対する無条件の信頼があった。

 さっきまで感じていた寂しさが、あっさり消えた。


 けれど同時に、後ろめたい気持ちも湧いてくる。

 綺麗な女の子に、抱っこされたり、お風呂入れてもらったり、ご飯食べさせてもらったり。オレがむこうでやったのって、そんなんだけなんです……。


「あー、陽菜。良い王様になるためには、おまえの協力が必要だ」

「えっ、私?」


「そう。主人公が異世界に行くような物語を、よく読んでたろ? そういう話から良いアイデアを抜粋して教えてくれ」


「私が読むのって、貴族のお嬢様になって恋愛したりするのが多いから……」


「それでも多少は違うジャンルも呼んでるだろ。そうだな、たとえば戦争に勝つのに、どんな手を使ってる?」


「転生するときに得た、ものすごい能力で無双?」


 ……応用できそうにない例だった。

 ディニッサの魔力は、すごい力ではあるんだろうが、他にも魔法使いは大勢いるだろうし、一方的に蹂躙するのは無理だ。


「……ほかは?」

「え~とね……。そうだ鉄砲! 現代知識で鉄砲隊を作って大暴れ!」


「テッポウってなんじゃ?」


 ディニッサが話に割り込んできた。

 これでむこうの世界に銃器がないと判断──できないよな。単にディニッサが知らないだけかもしれない。ディニッサが無能なのが、本当に残念だ。


「えーと、鉄砲っていうのはね……。鉄の筒から弾を遠くに飛ばして、相手を倒す武器、かなあ?」


「あんまり役にたちそうな気がしないのじゃ」

「そんなことないよ。騎馬隊とか、すぐ倒しちゃうんだよ?」


「キバタイってなんじゃ?」

「知らないの、ディニッサ? 騎馬隊っていうのは──」


 陽菜とディニッサは、噛み合わない会話を続けている。

 鉄砲か。たしかに現代人が活躍するなら、そっち方面の知識を使うんだろうが。

 ……でも気になることがたくさんあるな。


「陽菜、火薬の材料ってわかるか? たしか、硫黄が必要だった記憶はあるんだけど。それに火薬の配合は正確に言えるか? 鉄砲の本体は? なんとなく形はわかるけど、仕組みとかオレにはわからないぜ」


 オレの質問に陽菜は黙りこんだ。

 現代知識を使う問題点はここだよな。人類全体の知識や技術はすごいが、オレの知識はほんのわずかしかない。


「なあ、物語の主人公たちは、どんなカンジでやってるんだ?」


「私、あんまりそういうの気にして読んでないけど……。たしか、本人がガンマニアだったり、現地の異世界人が天才でなんとなくできちゃったり、かな……?」


 ガンマニアか。大学のときにいたな、そういうヤツ。

 しかし困ったな。あまり参考にならない。いったいどうすれば──。


「そうだ。次までに調べておいてくれよ。ネットの知識でいいから。ただし作り方とか構造とか、細かく説明できるようにたのむぞ」


「わかった。調べてみるよ」


 本来なら、せめて図書館には行ってもらいたい。

 けど、引きこもりに負担をかけ過ぎるのは良くないだろう。困難から逃げ出すからこそ、引きこもりなんだ。自閉モードにおちいる可能性がある。


「……すごい能力と、鉄砲の他になんかあるか?」

「う~ん……。あとは主人公のすごい作戦で勝利とかかなあ」


 作戦はなあ……。それぞれの状況でしか通用しないだろうし、応用は難しいな。

 ──ん、そうか。よく考えれば、物語にこだわる必要はないのか。


「陽菜、兵法書を読みまくって暗記してくれ」

「えー!?」


「そうだな、まずは『孫子』とクラウゼヴィッツの『戦争論』を頼む」

「クラウゼって誰? お兄ちゃんのほうがくわしそうじゃん」


「いや、オレは歴史が好きだろ? だから名前だけは知ってるけど、本は読んだことないんだ。よくわからんが、東西の兵法書の基礎みたいなものっぽい」


「へいほー?」

「戦争で勝つためのマニュアル、なのかなあ……?」


 ふたたびディニッサが割り込む。答える陽菜は自信なさげだった。


「いや、戦争に勝つには、相手より大勢の兵を集めるしかないじゃろ?」


 バカなことを、と言いたげにディニッサが正論を述べた。

 たしかに歴史を見ても、人数が多いほうがたいがい勝っているのだ。


 だけど、ディニッサには言われたくない。

 君のせいで、うちの国、兵士100人しかいないんですけど!


「……あ。そういや、魔法の時間制限があるから、暗記じゃダメなんだ。本の要点をおさえてわかりやすく、簡略化して話せるように練習しておいてくれ」


「えー!? よけい大変だよっ。それって、ちゃんと内容を理解しないといけないってことでしょ」


「オレも頑張ってるから、陽菜も頑張れ。陽菜ならやれるって、お兄ちゃんは信じてるから」


 陽菜は自信なさげだが、きっとやり遂げてくれるだろう。

 ネットで本を注文して読解するだけだ。人と会うわけでもないし、大丈夫なはずだ。陽菜はもともと優等生だったんだし。大丈夫なはず、だ……。


「次は内政だな。なんかすごい技、知ってるか?」

「……千歯こきとか?」


「センバコキってなんじゃ?」

「穀物の脱穀をする道具だよ」


「コクモツをダッコク?」


「待てディニッサ。いいかげん、アホな質問で時間を潰すのはやめろ。疑問は明日陽菜に答えてもらってくれよ」


「……む~」


 ディニッサがまた膨れている。

 だがディニッサにかまっていたら、また時間切れになってしまう。


「千歯こきはいいな。まだ発明されてないなら役に立ちそうだ」


「……ねえお兄ちゃん、そっちの技術がどのくらいかわからないと、話し合っても意味なくない? ほら、なんか魔法の脱穀機とかあるかもしれないし」


「まあ、たしかにそうだな。早めに調査しておくよ。でもアイデアを出すこと自体は有効だろ。なにが足りないかわかるしさ」


「そう? じゃ、あとはアレ、ノーフォーク農法はどう」

「ノーフォーク農法って、四年周期の輪作だよな。なに植えるかわかるか?」


「ああ、なんだっけ。……それも調べておくよ」



 * * * * *



 その後もいくつかの事を話し合ったものの、はっきりこれだ、と言えるものは出てこなかった。なにしろ名前だけしか知らないものが多すぎる。その政策や技術のくわしいやり方や、意義などがサッパリわからないのだ。


「そろそろ時間じゃな」


「そうか。じゃあ陽菜、兵法書と歴史書と、経済、兵器、農業、税制、土木建築、医療──」


 指をおって必要な知識を数え上げていると、陽菜が怖い目で睨んできた。


「お兄ちゃん、それ本気で言ってる?」


 本気かと聞かれれば、わりと本気ではあるのだが。

 どの情報も喉から手が出るほど欲しい。ただ、陽菜が一人でなんとかなる量じゃないのはさすがにわかっている。


「……すまん。さしあたって、火器を中心とした兵器、それと兵書、戦史、そのあたりを重点的に調べてくれ」


「おっけ。次──」


 なにかを言いかけたまま陽菜たちが消えた。

 それにしても、むこうから連絡が来るのは嬉しいな。

 これで少なくとも、ひとりぼっちで悩まなくてすむ……。

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