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シスコンリーマン、魔王の娘になる  作者: 石田ゆうき
第2章 お城の外へ。常識を知る
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魔王会議

「愚かですね、ケネフェト。姫様はまだ200歳にもならないのですよ。そんな小難しいことを習っているわけがないでしょう」


 オレの危機をユルテが救ってくれた。

 ありがたいのだが、コレ、本物のディニッサも知らないんじゃないか……。

 ユルテの自信満々な顔つきを見るにつれ、そうに違いないと思えてくる。


「そ、そうですね。すみません」


 ケネフェトが引いていた。

 魔王会議とやらがそれほど有名なのか、それともユルテの教育方針にドン引きしたのか、どっちだろう……?


「魔王会議とは、その名の通り大陸中の魔王様方が、集まって議論をする場です。でも──」


「ただし、定期的に行われているわけではありません。なにか重要な提案がある場合にのみ開催されます。そこで決められた事柄は、各領主が定める法の上に屹立します。わかりましたか、姫様」


 ケネフェトが語り終える前に、ユルテが割り込んできた。

 さっきまで気がない様子だったのに、何かのスイッチが入ったらしい。


 してやったり、と言いたげな誇らしげな顔だった。

 いや、おせーから。150年くらい遅い。ユルテがちゃんと教育していれば、ディニッサももっとまともな人間になっていただろう。


 しかし魔王会議なんてものがあったのか。

 世界的な話し合いの場ある、というのは良いことだ。……魔王同士の戦争が起こっている以上、どのていどの有効性があるか微妙だが。


「通貨以外で、決められたことはあるかの?」

「え~と。一つは言語です──」


 ──魔王会議では、世界共通の法を定めている。

 すべての魔王、及びその友好国が違反者への制裁義務を負うため、かなりの強制力があるらしい。


 通貨だけではなく、言語も統一されている。

 こちらには、エルフ語やドワーフ語など、さまざまな言語があるのだが、公の場では今オレたちが喋っている言葉を使わなくてはならないのだ。


 文明人で共通語を喋れない者は、ほとんどいないという。

 逆に、自分の種族の言語を話せない者が、増えてきているほどだとか。


 さらに度量衡も統一されている。

 長さ、重さなど、世界どこでも同じ単位で通用する。


 奴隷階級が存在しないのも、魔王会議のせいだったようだ。

 人間の売買を禁止する、との布告が出されているらしい。


 ──ここまで揃うと、あきらかにおかしい。

 思考の方向性に、現代人の影を感じる。魔王か、その近くに、オレと同じように異世界の者がいるのではないか……?


 通貨、言語、単位の統一。奴隷制廃止。いろいろな法を制定しているわりに、火器や蒸気機関などの技術は導入していないようだ。民主主義もまたない。彼は(彼女かもしれないが)いったいなにを目指していたのだろう?


 できれば会ってみたいものだが、たぶん無理だろう。

 最後の魔王会議は、2000年以上も昔のことらしいから。



 * * * * *



「組織の状態は把握した。次に財政面について聞きたい。いま国庫にどれだけの金があって、月々の利益はどれほどなのじゃ?」


「ええと、金貨にして60万枚ほどの資金があります。月々の利益は、その……」


 ケネフェトが口ごもった。あまり儲かってないのか?


「月ごとに、金貨7万枚ほどの赤字となっています」

「え、赤字?」


「はい、申し訳ありません」


「いやいや、おかしいじゃろ。文官が一人だけで給料が金貨10枚、兵士がたった100人。街道の整備などもやっておらんのじゃろ? 金を使う余地があるまい」


 そう喋りながらも、一つ思いついてしまった。

 そして、ユルテを見ながら言う。


「もしかして、ユルテたちはかなりの高給とりなのかの?」


 ユルテたちは、領地をもつ貴族だと聞いた。

 高い給料をとっていても不思議ではない。


「いえ、侍女の皆様には給金を払っていません」

「無給?」


「そうですよ。私たちは、姫様が大好きだからそばにいるだけですから!」


 タダってのもどうだろう。問題がある気がする。

 でもまあ、いま重要なのはそこじゃない。赤字なのが、なおさら謎になった。


「もしかして、税金の徴収がうまくいっていないのかの?」

「いえ、月に金貨26万枚ほどの収入は確保できています」


 金貨26万枚……。日本円にすると、26億円か。

 国家予算としては少ないが、支出も少ないのだから足りないはずがないのだが。


「大雑把でいいから、支出をあげていってくれるかの」


「兵士を含めた私たちの給金が、月に金貨1000枚ほど。同じく雑費が金貨2000枚ほど」


 国の運営に金貨3000枚──3000万円か。収入から考えるとたいした金額じゃない。じゃあなんだ? もしかして、借金でもあるのか……?


「それから、その……。ディニッサ様たちの食費が、月に金貨10万枚ほど──」

「それかっ!!」


 金貨10万枚──食費10億円。


 ありえねえ……。


 たしかにこっちの世界は交通が発達していないから、流通過程で高くはなるんだろう。それにしても高すぎるだろうよ。あ、そういえば、今朝も極上の虹色海竜の肉とやらを食ったな。あれ、いくらすんだよ……。


「ユルテ、これからは高い食材の使用は禁止じゃ。コレットに言っておけ」

「そんな……!?」


 ユルテが悲鳴を上げた。城で、一番料理にこだわっているのが彼女だ。

 ファロンは量重視だし、フィアは小食だ(魔族の中では)。


「姫様、美味しい料理は心を豊かにしてくれるのですよ!」

「却下じゃ。まず国庫を豊かにせよ」


「うぅ……」


 抗議するように、ユルテが力を込めて抱きしめてきた。

 こっちも、魔力で体を強化して対抗する。


 初日のオレとは違うんだぜ?

 もうベアハッグで内蔵破裂したりはしない!


「ううぅ……!」

「ちなみに、一般市民はどのていどの食費で暮らしておるのじゃ」


「そうですね。平民兵の食事はこちらで用意しているのですが、月に金貨6枚ほどです。ああ、ただ魔族は必要な栄養量が平民とは違いますので」


「そうですよ姫様、成長期なのですから栄養補給は重要なのです!」


「なら安い物を腹いっぱい食べればよいな。一人金貨100枚、五人で金貨500枚が食材費の上限だとコレットに言っておくのじゃ」


 オレの宣言に、ユルテはショックを受けたように黙りこんだ。

 けど、これでも月に100万円だぜ? オレの月給の何倍になるか……。


「あ、あのディニッサ様、食費のことで謝らなければならないことが。手伝いに来てもらっている教会の者たちに、せめて食事だけでもということで、無断で国庫のお金を使っていました」


 事務の手伝いにきてくれているルオフィキシラル教徒か。

 エルフたちが申し訳なさそうに身をすくめていた。いや、飯くらい出しても──


「ん? せめて食事だけ? もしかして、彼らには給料とか払っておらんのか」


「ディニッサ様のお役にたつのが──」「ディニッサ様のために働くのは──」


 エルフの信者たちが、口々に神のために働けることこそ喜びだと力説する。

 なんとタダ働きらしい。


 この国、一回滅んだほうがいいんじゃねえかな!


「ケネフェト、今月から働きに応じた正当な金を支払うのじゃ。これまでの分もなんとかしたいが、それは余裕ができるまでまってもらう」


 今後ルオフィキシラル教会の力を、どんどん利用していくつもりだ。

 金も払わずにコキ使っている、と思われるのうまくない。

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