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シスコンリーマン、魔王の娘になる  作者: 石田ゆうき
第2章 お城の外へ。常識を知る
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ルオフィキシラル領の武官

 広い領地に文官がたった一人。

 それがルオフィキシラル領の現状だった。


 ──古い封建制国家では、国家運営にそれほど大勢の文官を必要としない。

 国王は領主たちの代表のようなもので、各領主は各々の領地を独自に管理運営しているからだ。


 が、だからと言って、文官一人でいいわけがない。至急、人員補充しなければ。

 幸いなことに、オレにはルオフィキシラル教という秘密兵器があった。


「ケネフェト、ルオフィキシラル教会とは話をつけてある。今後は必要な人員を教会より派遣してもらうがよい」


「本当ですか! 助かります」

「……そうじゃな、紙と筆を貸してくれ」


 まずルオフィキシラル教会に、国政への全面協力を依頼する。

 それから、もうひとつ思いついたオレは、用件を羊皮紙に書きこんでいった。


 書き終わったあと、部屋にいたエルフを一人呼びる。


「この2通を総大司教に直接渡すのじゃ。総大司教以外の誰にも見せてはならぬ」

「かしこまりました!」


 ──さて、うまくいくといいが。

 文官の件は、とりあえずこれでいいとしよう。


「わらわに仕える武官は何人おるのじゃ?」


「5名です。うち貴族が1名、騎士が4名となっています。さらに彼らの下で働く平民兵が100名ほど」


「武官の役目は?」


「街や村の警備。街道、水路の安全確保。各地にあらわれる魔物の討伐、が主な役割でしょうか。もちろん戦争になれば戦場で戦います」


 文官よりましとはいえ、こっちも少なすぎるな。

 首都の人口が1万5千人。さらに周辺の町や村がある。


 都市は食料を(ほとんど)生産しない。

 ゆえに都市周辺には、街に食料を送り込む村などが必要だ。


 中世レベルの農業はひどく効率が悪く、一人が作れる余剰作物がごく少ない。

 そのため、都市人口の10倍から20倍ほどの農業従事者が必要になる。


 ルオフィキシラリアの人口の、10倍としても15万人。

 それだけの村々を守るのに、100人ぽっちの人員で足りるだろうか。


 ……まるで足りないだろうな。

 村の巡回だけじゃなくて、街の警備や魔物の討伐まであるんだから。

 おそらく、各村々の自衛でなんとかしてるんだろう。


「魔物の討伐について詳しく教えよ」


「貴族は、自分の領地にあらわれた魔物を退治する義務を負います。平民では対処不可能な魔物を倒すからこそ、貴族は支配者として認められているのです」


 あー、これも農民一揆がおこらない原因の一つなんだな。

 魔族を追い払ったら、村が魔物に襲われた時に困る。

 となれば、かなりの事を我慢するだろう。


「ルオフィキシラル教会の者達は、戦いにむいておるかの?」


「戦えないこともないでしょうが……。基本的には教会と信徒を守るためにしか戦わないはずです」


 兵士の補充は他のルートを探さないといけないか……。


「そういえば、そなたの立場はどうなっておるのじゃ。内務大臣か? 宰相か?」

「え~と、僕は法務府付き判事見習いです」


 ほうむふ……?

 法律関係の役所の、しかも下っ端じゃないか……。


「……なぜ、判事見習いがすべてを取り仕切っておるのじゃ」


「上の方々が次々と辞職されたので、いつの間にかこのような立場になっていました。ディニッサ様のお許しもなく、勝手なことをして申し訳なく思います」


 全員辞めたってのも、またすごいよなあ。

 逆にうまい汁を吸おうと寄ってくる輩がいそうなもんだけど。絞ってもなにも出ないほど出がらしなのかね、この国は……。


「いや、責めてはおらぬ。むしろ慣れない仕事をよくこなしたと褒めよう。しかし地位が変わっていないということは、給料も見習いの時のままか?」


「はい。月ごとに金貨10枚をいただいています」


「金貨の価値がわからん……。あっ、わらわはお姫様じゃろ、だから金の価値がわからぬ。これも詳しく教えるがよい」


「了解しました──」


 要約すると上から──真金貨ファンラルミン真銀貨ミスリル真銅貨オリハルコン、白金貨、金貨、銀貨、黄銅貨、青銅貨の順番で、一つあがるごとに価値が10倍になっていく。


 ふつうの買い物で使われるのは銀貨と銅貨。すこし裕福な者は金貨も使う。

 それ以上の通貨は、一般人が目にする機会はほとんどないらしい。


 単純に日本円と比較するのは無理があるが、話を聞いた印象では、銀貨1枚が千円くらいに相当するのでは、と感じた。つまりケネフェトの月給は10万円だ。

 仕事量からすると、悲惨なくらい安いな……。


「ケネフェト、必要な人材がそろうまで、仮にそなたを内務府長官に任命するのじゃ。以後それにふさわしい給金を得るがよい」


「ぼ、僕にそんな大役が務まるでしょうか」

「今までやってきたじゃろ? やることは変わらん」


「そう、ですか。わかりました。ディニッサ様のために全力をつくします! でも給金は今までどおりで結構です。今までの分もほとんど使っていませんし」


 月間700時間以上労働してたら、たしかにお金使う暇なんてないだろうね!


 この子、なんでここまで頑張れたんだろうな。ドMなのかな。

 ああ、それとも、昔ディニッサの姿を見たことがあったとか。

 それで一目惚れ、と。うん、ありそうだな。見た目だけはカワイイし。


「一つ気になったのじゃが、違う種類の硬貨はないのかの? 交換レートの違う銀貨とか、この辺りでは流通しておらんのかの」


 世界的にみても、通貨が統一されている例は珍しいはずだ。

 各地の領主が勝手に貨幣を鋳造するはずだし、中には金や銀の含有量を減らした悪貨を作る者もいるだろう。


 中世ヨーロッパの商人は、何種類もの硬貨の価値を覚えていないといけなかったらしい。そうしないと商売にならないのだ。


「それはありません。すべての硬貨は、大きさも金属の含有量も年間に作れる数量も、魔王会議で厳密に決められていますので」


「魔王会議ってなんじゃ?」

「……ご存知、ありませんか?」


 ケネフェトに真顔で聞き返された。

 いかん、地雷を踏んだ。常識問題だったらしい……。

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